作品タイトル不明
第24話 お姫様と四階層へ
「あら? 文也様じゃないですか」
「静?」
翌日。
いつものダンジョン協会に着いたとき、入り口付近の椅子に静が座っていた。
「随分お早く……あ、早朝バイトと言ってましたね」
「そうそう。今日は色々あって疲れたよ……ははは」
「?」
今朝のバイト、変な客がいたんだよな。
タバコを番号で言わないし、店員が女性だからか、すぐに威張り散らかして。
穏便に事を収めるのに疲れたけど、静と話せたことでかなり癒された。
正直、今日は休んでもよかったけど、来てよかった。
「あの後、如……紗理奈は?」
「一応帰りましたが……多分、まだ寝てるかと」
「……今日、ダンジョンに潜るって言ってなかったか?」
酒を取り出した時点で休む未来は見えていたが。
紗理奈ってちゃんとしているようで、実は適当だったりするのか?
適度にONとOFFを切り替えるのが探索者として続けるコツかも。知らんけど。
「これからダンジョンに?」
「四階層をちょっと探索したくてな……無理はしないぞ?」
「ふふっ、わかっていますよ」
右腕で力こぶを作るような動きを見せつける。
今日は四階層の探索がメイン。五階層への到達は……ミミックとの経験も踏まえると多分無理。
明らかにモンスターのレベルが上がっているし、モンスターやギミックの攻略法を覚えることに集中しよう。
「今日はどこ行くー?」
「七階層はどうだ? まだ鉱石が余ってるかもしれん」
「いやー、六階層の依頼も熱いぜ? 内容は……面倒だが」
ふと聞こえてきた、三人の男性探索者たちの会話。きっと同じパーティなのだろう。
三人は端末を見ながらうーんとうなっており、慎重に方針を決めているのが伝わってくる。
「うーん……」
「どうされました?」
「いや、そろそろパーティを探すのもアリじゃないかって」
「文也様はずっとソロですよね?」
「そうそう。誰かとダンジョンに潜った時の立ち回りとか学んでおきたくてな」
バイト中にも考えていたことだ。
今まで自分のペースでやりたいからとソロで潜っていたが、いつかは限界がくる。
ソロメインを続けるにしても、パーティでの立ち回りも覚えていた方が探索や依頼の幅が広がるだろう。
何せ不安定な世界だ。手段は多いに越したことはない。
「でしたら公式アプリでのパーティ登録がおすすめですよ」
「パーティ登録?」
スッと差し出された端末には「ダンジョン協会公式アプリ」と書かれた画面とロゴが。
ロゴのヘルメットを被ったウサギはマスコットか?
「ダンジョン協会公式アプリでパーティ募集の通知が飛ばせます。条件なども細かく設定できますし、ここから即席のパーティを組む方も多いですよ」
「へー、それは便利だな」
試しに色んな条件を見てみることに。
ランクはもちろん、使用スキルに使用武器、勤務できる日数や時間。
加えて潜りたいダンジョンまで。ここまで細かく指定できるなら、ミスマッチはかなり減らせそうだ。
ちらほらブロンズ~シルバーの探索者も見かけるし、利用者はかなり多そうだ。
というか、講習の時にアプリのことなんて一切説明されなかったな。
まあ、探索者も年々増えているらしいし、色々端折らざるを得ないのだろう。
「他にメリットは?」
「なんと素材売却と依頼達成のポイントが四倍」
「えっ」
四倍ってやりすぎじゃないか?
素材売却時のポイント還元が十パーセント、依頼達成時で五パーセントだから……
仮に売却で百ポイント付与されたとしたら、四百になる計算か?
(気合の入った事業だな……)
ポイントも無から生まれるわけではないだろうに。
この還元率の高さで運用できる辺り、ダンジョン界隈の凄さを思い知らされる。
「ポイントは電子マネーに変換できるのもお得なんですよねー」
「なるほど……だからパーティが多いのか」
「オススメは二~三人くらいですね。四人以上だと利益と分け前のバランスが難しいので」
「あー……」
複数人だと素材売却時の分け前が減る。
人数が増えればなおさらだ。
効率だけを考えるなら、基本は二人で潜って、どうしようもない時だけ即席で追加メンバーを募集、とか?
ポイントだけで全てを賄えるわけじゃないし、そもそも人数が増えれば倒せるモンスターの数も増やせるわけで。
まあ、選択肢が増えるのはいいことだ。面白い。
「文也様の助けになれば何よりです」
「腕の治療とカレーで十分助けられたけど」
「まだまだ足りませんよっ」
これ以上、何をするつもりなのだろうか。
妙なことをしないか不安になる。
「よろしければ私とパーティを組みませんか?」
「えっ」
思わぬ提案。
「それは助かるが……いいのか?」
「四階層なら私もたまに行きますし、何より文也様の力になりたいんですっ」
確か静は回復スキルが使えるよな。光系統のスキルは目くらましに使えそうだし。
むしろこっちが頭を下げるレベルでは? 安定感も増すだろうし、知り合いなのも大きい。
「それじゃお願いします」
「はーい♪」
お互いに頭を下げることで、パーティ交渉は成立した。
「さて、まずはアプリを……」
「手順などは私がお教えしますね~」
静に言われるがままアプリの操作を行っていく。
登録自体はスムーズに終わった。数十分いじっただけで、あとはダンジョンに潜るだけの状態になった。
というか、依頼管理アプリとはまた違うんだな。
機能もそこまで多くないだろうに、一つにまとめればいいんじゃないか?
そんなことを静に聞くと、「後付けでシステムを増やした結果、連携がうまくいかなかったらしいです」とのこと。
ということは、まだアプリがある? 面倒だな。
大規模組織特有の問題が浮き出てるなぁ。
改修にも時間と予算がかかるから放置されてるのかも。
◇◇◇
「静は何階層まで行ったんだ?」
「七階層までですね。やはり適正ゴールドのモンスターには苦戦します」
「ほうほう」
四階層を散策しながら、雑談を挟む。
やはり適正ランクが一つ変わるだけでも攻略難易度はグッと上がるらしい。
俺もこの調子だとゴールドで詰まるか? 全然あり得るな。
ゲームみたいに、どこかでレベルアップに専念する日を作っていいかも。
「それはドロップの盾ですか?」
「あぁ。なんでもタイミングよく防いだらスタンが発生するらしい」
「中々クセの強い効果ですねー。私の時はハンマーがドロップしました……使わないので売りましたが」
「……まさか宝箱のドロップってランダムなのか?」
「みたいですね。同じ場所でも入手できるものが違うと、他の探索者様が言ってました」
開けるたびに中身が入れ替わるのだろうか。
思い返せば二階層ってかなりの人数が突破したはずなのに、いまだ中身のある宝箱が残ってるのは妙だ。
これもダンジョン特有の不思議現象?
「あ、そっちはダメ。右の方がモンスターは少ない」
「え?」
“気配察知”で危ないところを回避して、と。
今日は静も一緒だし、新しいスキルや防具も試したい。
だからモンスターが少ない場所を探していた。
「えっと、スキルですか?」
「あぁ。“気配察知”でだいたいのモンスターの居場所がわかるんだ」
そういえば俺のスキル構成について説明してなかった。
静のはざっくり聞いていたのに。
と、静が何やら首を傾げてうなっている。
「……積極的にスキルを使われるのですね」
「まあ、使わないと損だし」
「探知系はアタリをつけてから使用するとばかり……MPが多いのでしょうか……」
「あー……」
“クールダウン”について説明した方がいいのかな?
紗理奈や静の反応を見る感じ、なんか変わったスキルみたいだし。
ガサッ……ガササ……
「ギキィ……」
「っ!! 出ましたね……」
「さて、お試しといこうか」
と、モンスターが出現。
まずはこいつを倒してからだな。