作品タイトル不明
第12話 色々素直な飲み会
side:如月紗理奈
(面白い子ね……)
居酒屋でお冷を飲みながら、彼を眺める。
藤崎くんに出会って三日。
最初は可愛らしい初級探索者という印象だったのに、想像を超えた成長ぶりに私ですら驚いている。
たった三日でボスを倒したのよ?
私が当時、パーティーで三日かけてようやく突破したというのに。
あの頃より情報も戦術も洗練されているとはいえ、それでも異常な成長速度だ。
「今日は私の奢りよ。好きなものを食べちゃって」
「えっ? 割り勘じゃなくていいんですか?」
「いいのよ。私の気まぐれと、シルバーランクの昇格祝いよ♪」
最近はパーティーメンバーも結婚して付き合いが減り、寂しい時間が増えてしまった。
藤崎くんは話していて嫌な感じはしないし、彼のことも知りたいと思っていた。
「これでいい?」
「えぇ……楽しみです」
無難なメニューを選び、店員さんを呼んで注文する。
この間に色々聞いちゃおうっと。
「藤崎くんって何人パーティーで潜ってるの?」
「ソロですね」
「えっ」
思わずスマホを落としかける。
「ソ、ソロ? ソロでボスを倒したの?」
「結構危なかったですけどねぇ……盾とか厄介でしたし」
ボスってソロで倒せるの?
出現ボスがランダムで切り替わるとはいえ、二階層のボスは初級探索者にとっては十分強敵だ。本来は複数人で対処する前提なのに、それをソロで……?
わからない。彼は何者?
才能の塊って言葉が霞んでしまう。
(というか一日で二階層の階段までたどり着いたの? ソロならMP管理もかなりシビアにしないといけないのに)
モンスターを倒すにはスキルが必須。だが無駄打ちはできない。
限られたMPを消費し、最低限のリソースで撃破する。
場合によってはスキルなしで倒す技量も必要だ。
元からMPが多いの? それとも素の技量が高い?
一体どうやって突破したのかしら……
「おまたせしましたー」
「ささ、パーッとやりましょう♪」
「はいっ」
他人のスキルについてあまり詮索してはいけないのに。プライバシーに関わる部分を気にしたらダメね。
(けど、可愛らしいわね……)
何も知らない無垢さが刺さる。
私の講習を律儀に守って、真面目に探索者として仕事をしているだけでも好印象。
チャンスがあれば手を出し……じゃなくて、探索者仲間になれたらと思う。
「あ、藤崎くんってお酒大丈夫?」
「全然飲みますよ。普段はコーラばっかですけど」
「ふふ、可愛いわね〜♪」
「……今の可愛い要素ありました?」
今日は探索も大変だったし、いっぱい飲もう。
明日は……休みにすればいいや。
◇◇◇
side:藤崎文也
「シルバーランクの次って何したらいいんですかね?」
おつまみのもつ煮を食べつつ、ダンジョンに関する話を如月さんと交わしていく。
ここの料理、結構美味しい。
お金に余裕があったらまた来てもいいかも。
「んー、ゴールドランクを目指すのもいいけど、依頼を受けてみたら? お金に困ってるんでしょ?」
「依頼?」
「シルバーランクになると依頼窓口で受けられるのよ。まとめて素材が欲しいって企業は結構いるから。普通に売却するよりお得な場合も多いのよ〜」
必要な素材を集めて納品するってことか?
依頼料でよりお金が稼げるなら受けるのもありだな。
今度来た時に覗いてみよう。
(お酒なんて久しぶりだなぁ……)
おつまみと共にレモンサワーを飲んでいく。
アルコールが身体に入る感覚も悪くない。
お酒という少し高めの飲み物に手を伸ばせるなんて、俺は贅沢になったものだ。
「ふふっ」
「?」
「いや、可愛いなぁって」
俺に可愛い要素があるのか?
別にマスコットみたいに愛らしくもないし、その辺にいるくたびれたオッサンと大差ないと思うが。
「あぁ……ビール最高。マジでこのために生きてるわぁ……」
ジョッキのビールをぐいっと飲む姿。
口調が少し荒くなっているあたり、本当にお疲れだったのだろう。
「……大変ですよね」
「ん?」
「協会と探索者の仕事を両立するって大変そうだなって。縛りもあるでしょうし」
そんな姿を見たからか、アルコールに後押しされたのか。
思わず本音をポロッと口に出してしまう。
「そうなのよぉ……」
「えっ」
「圧はあるし、お金は貰えるけどこき使われるし、やりがいはあるけど不満も多くて……もう何もかもぜーんぶ爆発しそう……ふぁああああ……」
想像以上に刺さったのか、泣かれてしまった。
けど、如月さんの弱った一面が見られたのは少し嬉しかった。彼女の知らなかった一面を知れたからだ。
まあまあと如月さんの愚痴を聞きながら、俺はお酒とおつまみを食べ続けた。
◇◇◇
「ねぇ……抱きしめていい?」
「はい?」
食事もお酒も進み、会話が弾んできた頃。
すっかり酔って机に突っ伏している如月さんの一言に、俺は驚いた。
「セクハラだって訴えていいわ。なんなら殴り飛ばしたっていい。とにかく男の子の温もりが欲しいの……」
受け入れていいのか?
酒の勢いで変なテンションになっているだけだろうし、酔いが覚めた後に如月さんが後悔する未来が見える。
本当は大人として丁寧に断るべきだ。
けど――
「ええと、俺でいいんですか?」
「いいの?」
とろんとした瞳。
甘い口調のまま豊満な身体をぐっと近づけてくる。
「じゃあ……」
「わわっ……」
如月さんは俺をゆっくり抱きしめた。
(すご……)
身長は同じ。だけどクッションみたいな柔らかさが全身を包み込む。
おまけに果実みたいな甘い香りが胸の奥をざわつかせた。
個室に入っていてよかった。それに顔見知りだ。
見ず知らずの相手にこんなことをされたら、間違いなく理性が飛んでいた。
頭の中で「落ち着け」と何度も唱え、なんとか踏みとどまる。
「男の子ってね……女の子と違うのよ……」
「はい?」
「固くてね、大きくてね、匂いも違う……異性に触れると凄くドキドキするけど幸せなの……」
酒の勢いって怖い。
無垢なあざとさに心が持っていかれそうになる。
このままホテルに流れそうな空気。
けど、それはさすがに回避したい。
お世話になった如月さんに変な傷を負わせたくない。
ホテルがきっかけで気まずい関係になるのも嫌だし……
「藤崎……くん……」
消え入りそうな声が耳元でささやかれる。
全身が震え、心臓の鼓動がさらに速くなる。
理性の限界が近い……そう覚悟した、その時。
「すぅ……」
「え?」
顔を覗き込むと、寝息を立てて目を閉じていた。
寝ちゃったのか。飲みすぎだろ……
ビール瓶が何本も空いている。
起きるのを待つより、ここでお開きにした方がよさそうだ。
俺は店員さんを呼んで会計を済ませ、店を出た。
そして近くのホテルに立ち寄り、如月さんだけ泊まらせようとしたのだが――
「いかないでぇ……」
「え?」
なぜかこのタイミングで目を覚まし、俺の服をがしっと掴んで離さない。
……このままじゃ離れそうにないな。
(まあ、いいか)
間違いさえ起こさなければ問題ないと判断し、ツインの部屋を取った。
部屋まで運び、如月さんをベッドに寝かせる。
持ち上げた時、意外と軽くて少し驚いた。
「むにゃ……」
普段は綺麗なお姉さんなのに、寝顔はやけに無防備で愛らしい。
俺も今日はもう寝よう。
もちろん、ベッドは別々で。