軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

謎(2)

あれから数日後、魔道具の実験のために時間がつくられた。

わたしとセレストさん、ヴァランティーヌさんにシャルルさん、他にも数名がいた。

「彼らは警備隊の魔道具を管理してる『魔道具部』の人達だよ」

と、ヴァランティーヌさんが教えてくれた。

そういえば、事務室に来る書類の中で名前だけは見かけたことがある。

ただ、担当が違うのか第四事務室では魔道具部の申請書を扱っていない……と思う。

エルフとドワーフが二人ずつ、四人。全員男性だからか近づいてこない。

……セレストさんとわたしのこと、知ってるのかな?

ここは訓練場の隅の植木などがある場所だ。

魔道具の人形が佇んでいるのが少し怖い。

「ユイ、またあの魔道具に触ってもらえるかい? セレストはいざという時のために頼んだよ」

「ええ」

セレストさんがわたしの手を握る。

でも、あの魔道具も壊してしまったら申し訳ない。

「あの、また木になるかも……」

「ああ、構わないよ。魔道具部からも許可は取っているし、ここなら木が生えても問題ないからね」

どうやら、また木が生えてしまってもいいらしい。

魔道具部の人達からジッと視線を感じる。

興味や関心、好奇といった気配の視線はなんとなく居心地が悪い。

「ユイ、嫌ならやめていいんですよ」

セレストさんが心配そうにわたしを見たので、首を横に振った。

「……ううん、やる。理由が分からないとわたしも怖いから……」

セレストさんの手を握り直し、二人で魔道具に近寄る。

そばに立っても魔道具に変化はない。

手を伸ばし、魔道具に触れる前に一瞬躊躇ったけれど、そっと木製の人形に触れる。

一秒、二秒、三秒──……ミシ、と何かの軋む音がした。

「ユイ!」

セレストさんの声を共に腰に腕が回り、後ろに引き離される。

木製の人形の胴体がブクリと膨らみ、爆発するようにミシミシバキバキと音を立てながらその胴体から木の根と枝が上下に広がった。ものすごい成長速度で伸びていく。

気付けばセレストさんの腕の中にいて、大きな手が木に向けられている。

何かあれば即座に対応ができるだろう。

おおっ、と魔道具部から歓声が上がる。

…………何で嬉しそう?

魔道具を壊してしまったというのに何故か楽しそうな、嬉しそうな声だった。

木になってしまった魔道具に、魔道具部の人々が近寄って眺めたり触ったりし始める。

危険がないと分かったからかセレストさんが手を下ろす。

背中に回されていた手も緩んだけれど、わたしはセレストさんに抱き着いた。

魔道具が木になるところはやっぱり少し怖い。

わたしが抱き着くとセレストさんは離しかけていた手を背中に戻し、優しく撫でてくれる。

「知っていても、いきなり木が生えるのは怖いですね」

わたしの気持ちを代弁するようなセレストさんの言葉に頷き返す。

ヴァランティーヌさんとシャルルさんがこっちに近づいてきた。

「やっぱり木になったね」

「つまり、あの魔道具自体に何らかの欠陥があるということだな」

「ああ、胴体が膨らんで弾けるみたいに木が生えたように見えたよ。この間のもそうだとしたら、やっぱり魔道具自体に問題があるんだろうねぇ」

近づいてきた二人にセレストさんが言う。

「手を繋いでいたので感じましたが、触れている間、ユイの魔力が急速に魔道具へ流れていました」

それにヴァランティーヌさんとシャルルさんが驚いた顔をした。

すぐにわたしに視線が向けられる。

「ユイ、具合が悪くなったりしてないかい?」

「大丈夫です。でも、魔道具を壊してしまってごめんなさい……」

「それについては気にしなくていい。見ろ、魔道具部の奴らは楽しそうだ」

シャルルさんが示したほうを見れば、魔道具部の四人が興奮した様子で木になった魔道具を囲んでいる。

聞こえてくる声も「この木は……」「胴体に入れたあれが……」「いや、そもそも魔力が……」と何やら話し合っていて、議論に熱が入っているようだった。

その様子から、魔道具が壊れたことを怒ったり悲しんだりはしていないのが分かる。

さっきの声からしても、今の様子も、明らかに楽しそうだ。

「何で楽しそう……?」

ヴァランティーヌさんとシャルルさんが顔を見合わせ、苦笑する。

「魔道具部は魔道具好きが集まってるからねぇ。自分達が考案した魔道具が、予期しない動き方をしたのが面白いんだろうさ。研究好きというか、変わり者が多いというか……まあ、彼らにとってはむしろ今回は良い刺激ってことだよ」

「ユイは魔道具の欠点を教えてくれただけだ」

「ええ、そうですね。ユイのおかげで魔道具の危険性が判明したので、良いことですよ」

と、ヴァランティーヌさんとシャルルさん、セレストさんが言う。

そうなのかな……と見ていれば、魔道具部の人達が振り返り、目が合った。

「そうだ、君からも是非話を聞かせていただきたい!」

エルフの男性が近づいてきたけれど、腕を伸ばしてもギリギリ届かない辺りで立ち止まる。

セレストさんはいつも通りだけど、エルフの人をジッと見つめていて、その目は真剣だ。

「それ以上は控えていただけますか?」

「ああ、もちろん。竜人の番に安易に近づくつもりはない。……それで、話を聞いても?」

セレストさんに見下ろされたので、頷き返す。

するとエルフの男性が振り返り「皆、こちらで話そう」と声をかけ、残りの三人も来る。

セレストさんにしっかりと抱き寄せられる。

「それで、何か分かったかい?」

ヴァランティーヌさんの問いにエルフの人が頷いた。

「分からないことも多いが、再生したのは魔道具の核に使っていた精霊樹の欠片だった」

「何だって? よく精霊樹なんて手に入れられたね……」

驚いたヴァランティーヌさんにエルフの男性が言う。

「私の知り合いの里……ああ、ヴァランティーヌはバルビエの里出身だったな。そこで精霊樹の枝を剪定した時のものをいくつか譲り受けたんだ。魔石を精霊樹で包み、精霊樹と魔道具の大部分を占める木材とを繋げると全体の魔力の流れが滑らかになり、それにより抵抗が減って魔道具の魔力効率が格段に上がるんだが──……」

「待った待った! 魔道具については今度でいいから、何でユイが触れると木が生えるのか、そっちのほうについて話しておくれ」

「……残念だ」

エルフの男性が心底残念そうな顔をした。

しかし、すぐに気を取り直して説明してくれた。

「その精霊樹の欠片が大量の魔力を吸収して成長したんだ」

「……ああ、そういうことかい」

納得した様子のヴァランティーヌさんに首を傾げていれば、セレストさんが訊く。

「どういうことですか?」

「エルフの里に『精霊樹』があるのは知ってるね? 精霊樹ってのは世界樹の枝から分かれたもので、名前の通り、精霊樹には精霊が宿ると言われているんだよ。魔法や魔道具の媒体に使えるんだけどね、水や光で育つ普通の植物と違って精霊樹は魔力で育つ」

エルフの男性がわたしを見る。

「もしかして君は魔力持ちか?」

「ええ、ユイは魔力があるものの魔法は使えません。先ほど感じましたが、ユイが魔道具に触れた時にかなりの量の魔力が魔道具に吸われました。幸い、魔力量が多いので体調不良にはなりませんでしたが……」

「ふむ……何らかの理由で精霊樹が彼女の魔力を吸ったのかもしれない」

「つまり、魔道具の本体である木材自体の変化ではないということですね? ユイが植物や木材に触れても同じような状況になる可能性はありますか?」

「いや、可能性は低いだろう。ないとは断言できないが、魔道具で再生したのは精霊樹だけだ」

エルフの男性の言葉にホッと胸を撫で下ろした。

少なくとも、わたしが触れたことで木製のものが成長するという危険はないらしい。

その精霊樹というものに気を付ければ大丈夫……だと思いたい。

「とりあえず、彼女は魔道具に触れないほうがいいだろう。精霊樹を使用したものは意外と多い。もしかしたら精霊樹が媒体になっている他の魔道具も同様の反応をするかもしれない」

そういうことで、わたしは魔道具に触るのは禁止になった。

今までも魔道具に触れる機会はなかったので日常生活での不便はないが……。

「魔道具に触れた新人に死なれても困る。この魔道具の運用は考え直すべきだろう」

* * * * *

家に帰り、着替えてから居間に行く。

テーブルの上に置かれた一輪挿しの細身の花瓶を手に取り、浴室に向かう。

そこの洗面所で花瓶の水を替えてチューリップを挿し、居間に戻る。

丁度セレストさんも居間に入るところで、わたしに気付くと扉を開けていてくれた。

「セレストさん、ありがとう」

「どういたしまして」

居間のテーブルに花瓶を置く。

購入してから数日経つけれど、毎日水を替えているからか花は綺麗に咲いている。

「……綺麗だね、可愛いね」

花びらに触れないように気を付けながら、花を手で優しく包む。

「大切なお花だから、がんばって長く咲いてね」

花に声をかけるわたしに、セレストさんが微笑ましげな表情で揺り椅子に座る。

「ユイは毎日、花に声をかけていますね」

「うん、チューリップも生きてるから、良い言葉をあげたら元気になるかなって思って」

「そうだといいですね」

わたしがわたしとして生まれる前の、前の世界では植物に音楽を聴かせたり良い意味の言葉をかけたりしているとよく育つというのを聞いたことがあった。

切り花になった植物にも効くかどうかは分からないけれど、少しでも長持ちしてほしい。

良い意味の言葉をチューリップにかけている間、セレストさんはそんなわたしを微笑んで眺める。

しばらくチューリップに声かけをして、それを終えたらセレストさんの膝の上に座る。

「魔道具については驚きましたが、今回で分かって良かったですね。もし別のどこかで魔道具に触れて、似たようなことが起こっていたら大騒ぎになったでしょう」

「うん……」

「あの魔道具が気になりますか? たまたまユイに反応しただけで、いつか誰かが同じ状況になったと思いますよ。それに魔道具部の方々も喜んでいたのでユイが心配することはありません」

大きな手に頭を撫でられる。

セレストさんに寄りかかり、お腹に回った手に自分の手を重ねる。

「……人形が木に埋まっててちょっと怖かった」

あれが人形だから良かったけれど、本当に他の誰かが巻き込まれていたらと思うとやっぱり怖い。

それに木に埋まった人形は見た目がすごく不気味だ。

わたしの言葉にセレストさんが「ああ」と苦笑する。

「そうですね、あれは見ていてあまり気持ちの良いものではないですね」

「夢に出てきそう……木に埋まった人形が動いたら怖い……」

セレストさんの手が優しくわたしの頭を撫でる。

「怖い夢を見た時は私を呼んでくださいね。火魔法はそれほど得意ではありませんが、あれくらいの木なら燃やせますので。ユイの夢に出てきたら魔道具ごと焼き払います」

セレストさんの本気なのか冗談なのか分からないそれに笑ってしまった。

「呼んだら、夢の中でも来てくれる?」

「ええ、ユイが呼んでくれるならどこにでも行きます」

「セレストさんがいれば安心だね」

きっと、夢に出てくるセレストさんは言葉通りにあの魔道具を燃やしてくれるのだろう。

そう思うと怖い気持ちがスッと消えていった。

でも怖い夢を見たくないから、その日はいつもよりくっついてセレストさんと寝た。

* * * * *

実験から更に一週間後、別の問題が起こった。

セレストさんに買ってもらったチューリップが大きくなったのだ。

こう言うと意味が分からないかもしれないけど、わたしもセレストさんも驚いた。

一、二週間ほど保つと言われたチューリップはいまだ買った初日のように綺麗に咲いていて、そして、買った時より二回りほど大きくなっている。

わたしの拳くらいの大きさだったはずの花がセレストさんの拳くらい膨らんだ。

それに合わせてチューリップの茎の部分も太くなって、花瓶が狭そうだ。

仕事を終えて帰ってきて、居間のチューリップを見たらそうなっていた。

「ユイ、触れてはいけません」

すぐにそれに気付いたセレストさんがわたしから花瓶を離した。

「植物に変化は起きないはずでは……」

と、難しい顔をしたセレストさんが花瓶を移動させた。

精霊樹というものは木に成長したけれど、チューリップはそのまま大きくなって、この違いは何なのだろうか。

別の部屋にチューリップを移し、戻ってきたセレストさんに抱き締められる。

「明日、チューリップを警備隊に持って行き、魔道具部に調べてもらったほうがいいでしょう」

「うん……」

魔道具に触れなければいいと思っていたが、そうではないのかもしれない。

セレストさんは何も言わなかったものの、心配してくれているのが伝わってくる。

一体何が起こっているのか分からなくて不安だった。

……わたし、何かおかしいのかな……。

精霊樹はわたしの魔力を吸って再生したとして、このチューリップはどういうことなのか。

せっかくセレストさんからもらった花なのに。