軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

保護者

* * * * *

……ユイ、ユイ。私の 番(つがい) 。

セレストが名付けた大切な半身。

ユイがセレストの下に引き取られることを了承してくれたため、すぐに上司にそれを報告し、問題なくユイの保護者として任命された。

警備隊での保護期間は一週間なので、残り五日のうちに彼女を引き取れるように準備をしなければならない。

セレストは引き取り相手が番ということもあり、数日の休みを与えられた。

……まずは部屋を用意して、それから日用品もある程度揃えておかなければ。服はどのようなものが好きか分からないので一緒に買いに行くとして……。

つらつらとそんなことを考えていると声をかけられた。

「セレスト」

その声にセレストが振り返れば、そこには初老のエルフがいた。

年老いても鮮やかな金髪に新緑のような明るい緑色の瞳をした、警備隊でセレスト同様に古株の女性だ。

確か、七百歳を過ぎたくらいだと記憶している。

「ヴァランティーヌ、どうかしましたか?」

セレストとヴァランティーヌは付き合いが長い。

ヴァランティーヌは長く警備隊に所属しており、セレストが百年ほど前に第二警備隊に採用された時には既にいた。

聞くところによると元は第一警備隊にいたが、後輩の育成のために第二警備隊に移ったのだとか。

あまり他の種族に興味のないエルフにしては珍しく、ヴァランティーヌはお喋りが好きで、 同族(エルフ) 以外の種族との関わりを楽しんでいるようだ。

「保護した人間の子の一人が里親制度を希望したって聞いたけど、本当かい?」

どこから聞いたのか耳が早い。

「ええ、私の番の友人である女の子が里親を希望しました。それも保護区ではなく、この第二警備隊に所属する者がいいと言っています」

里親制度を希望したのは十七番、セレストがディシーと名付けた人間の少女だった。

保護区の孤児院や里親の下に行く道もある。

だが、ディシーはあえて第二警備隊を指名した。

「セレストさんも第二警備隊だから、同じところの人に引き取られた方が八番……ユイと会えると思うんです!」

と、いうことだった。

彼女の言うように保護区へ預けられてしまえば二人の会う機会はかなり減ってしまうだろう。

ここ、第二警備隊の詰所と保護区は離れている。

それならばセレストと同じ警備隊に属する者に引き取られた方が、いつでも会おうと思えば会える。

街には保護区以外の場所でも人間が暮らしており、子供は保護者が必要なので十六歳で成人するまでは主に保護者と共にいることが原則だが、保護者がいれば保護区の外でも暮らすことが可能である。

セレストは職場にユイを連れて来る許可をもらった。

竜人は番と離れたがらないため、番を見つけた竜人が職場に番を伴って来るのはわりとよくあることで、許可はあっさり下りた。

ヴァランティーヌが自分を指差す。

「アタシ、その子の里親になりたいんだけど、まだ枠は空いてるかねえ」

セレストはちょっと驚いた。

「空いているとは思いますが……」

「そうかい、そりゃあ良かった」

そう言ったヴァランティーヌはどこか嬉しそうだ。

「しかし、人間の子供ですよ? 大丈夫ですか?」

エルフは排他的なところがある。

同族意識が強く、同じエルフには親切だが、他の種族には冷たいという者も少なくない。

むしろヴァランティーヌのように他種族に対して好意的な者の方が珍しい。

「大丈夫さ。アタシは 同族(エルフ) よりも他の種族の方が好きなんだ。最近、一人で過ごすのがつまらないんだよ。百年くらい子供の面倒でも見ながら一緒に過ごすのも悪くないと思ってねえ」

人間の寿命は長くても百年ほど。

ヴァランティーヌが初老と言っても、エルフは千年は生きるので十分世話を焼く余裕はある。

それにヴァランティーヌはエルフの中でも長寿な種なので、もしかしたらまだあと六、七百年は生きるかもしれない。

ヴァランティーヌやセレストからしてみれば、人間を百年面倒見るというのも感覚的にはそれほど長い年月ではない。

むしろ短いくらいだ。

「ヴァランティーヌなら良き里親になれるでしょう」

警備隊員の多くは、配属当初にヴァランティーヌの下で警備隊員の仕事や心得を学んでいく。

かく言うセレストもそうだった。

「それにヴァランティーヌが里親になってくだされば、ユイとディシーもよく顔を合わせられるでしょう」

「ユイとディシー?」

「私の番がユイで、ヴァランティーヌが引き取ろうとしている子供がディシーといいます。……私が名付けを頼まれたのですが、その、あまりセンスがないので奴隷だった頃の番号…… 八番(ユイット) と 十七番(ディセット) からつけました」

ははは、とヴァランティーヌが笑う。

「ああ、そういえば昔っから名付けのセンスはなかったね! でもユイとディシーか。アンタにしては可愛くて良い名前じゃないか!」

ヴァランティーヌに背中を叩かれる。

自分でも安直過ぎたとは思うが、他に思いつかなかったし、それに本人達がその名前を気に入ったので、もう変えようがない。

……しかし喜んでくれて良かった。

番が喜んでくれたことがセレストも嬉しかった。

「けど、そうだね、アタシがそのディシーって子を引き取ることが出来れば出仕の時に連れて来て、アンタも同じようにすれば、その子達は会えるね。アンタも番の子は連れて来るんだろう?」

「ええ、そのつもりです」

さすがに巡回などの仕事には連れて行けないが、それでも、警備隊の詰所ならば他の誰かの目があるから安心出来る。

家にも人の目があるけれど、警備の面でははっきり言って少し心許ないし、離れたくない。

「アンタは養子縁組はしないんだよね?」

問われて頷き返す。

養子縁組だとセレストとユイは親子になってしまい、番として結婚する際に面倒臭いことになる。

それにセレストは三百歳手前なので養子縁組は出来ない。

それぞれの種族には養子縁組を行える最低年齢が決められており、竜人の養子縁組が可能な年齢は三百五十歳以上からだ。

要は子供を育てるのに問題のない年齢と収入を得られるだけの年齢でなければならない。

ちなみにエルフの養子縁組可能年齢は二百歳だ。

ヴァランティーヌは十分その年齢を過ぎている。

「ヴァランティーヌはするのですか?」

「ああ、そのつもりさ。まあ子供の方が先に逝っちまうがねえ。……人間ってのは儚い生き物だよ、本当」

思わず互いに小さく息を吐いた。

寿命を延ばすことは不可能ではない。

だが、今現在それは禁忌とされている。

昔、人間が番になった竜人が、番の寿命を延ばそうと試みたことがある。

寿命を延ばすこと自体は成功したものの、本来それほど長生きをする生き物ではない影響か、寿命を延ばされた人間は気が狂って自ら死んでしまうのだ。

それによって番を失った竜人も狂ってしまう。

竜人は我を失い、暴れ、多大な被害を生んだ。

そのため寿命を延ばすことは禁忌とされている。

「それでも引き取るのですね」

「ああ、引き取る。それにそろそろ歳のせいか外回りがつらくなってきたから、あとは後輩を育てながら里親でもして世間様の役に立っていこうってところさ。金を貯め込んでたってどうしようもないからねえ」

ヴァランティーヌの言葉にセレストは苦笑する。

「まだ、それほど年老いてはいないでしょう?」

ヴァランティーヌにとっては、恐らく、今が丁度、人生の半分か少し過ぎたくらいなのではないだろうか。

「エルフで七百歳なんてもうババアさ」

「じゃあちょっと話して来るよ」とヴァランティーヌはセレストの肩を軽く叩くと、入れ替わりに上司の執務室へ入っていった。

それを見送り、セレストも歩き出す。

夜、家に帰ったら話をしておかないと。

セレストは一人暮らしで、百年ほど前に一軒家を購入してそこに住んでいる。

しかし一人で住むには広く、仕事もあって手が回りきらないので使用人を雇い、通いで来てもらっているのだ。

竜人の使用人は実は人気のある職業だ。

最も寿命の長い種族なので、一度雇われればどの種族も長く働ける。中には代々使用人として働くこともある。

セレストの家に通いで来ている使用人も、セレストがこの街にいる限りは、その子供や孫もずっとセレストの下で働くだろう。

安定して働ける職業でもあった。

しかもセレストの家で働く使用人も人間なので、きっと同族の子供であるユイに良くしてくれると思う。

ユイも同族が近くにいたほうが安心だろう。

* * * * *

わたしとディシーの引き取り先が決まった。

わたしはセレストさんに。

ディシーはヴァランティーヌさんという、やや歳のいったエルフの女性のところに。

挨拶に来てくれたヴァランティーヌさんは悪い人ではなさそうだった。

綺麗な金髪に鮮やかな緑の瞳の女性で、エルフだから耳が横に細長くて、近くで見てもセレストさんに負けないくらいの美人であった。

……この世界の人はみんな見目が良い。

ファンタジーな世界だからだろうか?

それとも、日本人だった前世の記憶の影響で目鼻立ちのくっきりしているこの世界の人々が全員美形に見えてしまっているのか。

「初めまして、ディシー。アタシはヴァランティーヌ=バルビエ。アンタの里親になったのはアタシだよ」

長身のヴァランティーヌさんは屈んで、ディシーに目線を合わせて話してくれた。

ディシーはわたしと違って人見知りがないらしく、初めて会ったヴァランティーヌさんにも笑顔を見せた。

「初めまして、ディシーです。十三歳です。これからよろしくお願いします!」

「礼儀正しい子だねえ。これからよろしく」

それからディシーとヴァランティーヌさんはしばらく話し込んでいたけれど、どうやら二人は気が合うらしく、あっという間に仲良くなっていた。

……ディシーの引き取り先の人が優しそうで良かった。

でもヴァランティーヌさんが七百歳と聞いた時には凄く驚いた。

エルフはかなり長生きする種族だそうだ。

「でもね、竜人はエルフよりもっと長生きだよ」

ヴァランティーヌさんが言うには、竜人の寿命は千五百年から二千年ほどらしい。

強い竜ほど寿命は長くなるのだとか。

そうなのかとセレストさんを見上げれば頷き返された。

「そうですね、竜人は長生きですよ」

「に、んげ、ん、は?」

セレストさんとヴァランティーヌさんが困ったように眉を下げた。

それだけで返事を聞かずとも分かった。

あとからディシーに教えてもらったが、人間は最も寿命が短いのだそうだ。

竜人は千五百年から二千年。

エルフは千年から千五百年。

ドワーフは五百年から八百年。

獣人は二百五十年ほど。

そして人間は長生きしても百年に満たない。

つまり、わたしとセレストさんが一緒に過ごせるのは百年にも満たないということだ。

千五百年から二千年も生きる竜人にとって、百年というのは多分そんなに長い時間ではないのだろう。

十分の一にも満たない。

どう頑張ってもわたしはセレストさんより先に死ぬし、何ならセレストさんはわたしが死ぬまで今の姿のままかもしれない。

番が大事な存在なのに、その番のわたしが先に死ぬと絶対に分かってしまっている。

一緒に老いて死ぬことは出来ない。

……それってセレストさんはつらくないのかな。

夜、ベッドの中で横になりながら考えた。

大切な人が出来ても先に寿命で死んでしまう。

それはきっと、とても寂しく、つらいだろう。

わたしがもし百年生きるとしても、比べたら、十年にも届かない時間しか一緒にいられないということだ。

たったそれだけの時間で死別してしまう。

でも、セレストさんはそれを知っているはずだ。

分かっていてわたしを引き取ることを望んだのだとしたら、一体どんな気持ちでいるのだろう。

…………想像もつかない。

少しだけ胸が痛んだ。

あの苦しげな表情を思い出してしまう。

わたしが寿命で死んだ時、遺されたセレストさんはどうなるのだろうか。

また新しく別の番を見つけるのだろうか?

番というものについてもまだよく分からないことが多くて何とも言えないけれど、わたしが死んだ後、セレストさんがずっと悲しいままなのは良くない。

セレストさんは優しくて、いい人だ。

わたしは、わたしに優しくしてくれる人には苦しんで欲しくない。

……どうしたらいいの?

どうすればセレストさんが苦しまずに済むのか。

考えてみてもわたしに出来ることはないような気がする。

でもセレストさんが一人で苦しむ姿を想像すると胸が痛む。

きっと前世の両親もわたしが先に死んで、それをとても悲しんでくれただろうから。

恩人を苦しめたくない。

考えてみたけど、答えは出てこなかった。