軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

再会

グランツェールへ帰ってきた翌日。

仕事はお休みだけれど、帰ってきたことを報告するために第二警備隊へわたしとセレストさんは行くことにした。

お土産も渡したいし、ディシー達に会いたい。

荷物が多いので今日だけは小さな馬車を呼んで、家から第二警備隊の建物の前まで乗って行った。

馬車の御者の人は優しくて、荷物を下ろすのも手伝ってくれた。

正面玄関から入ったけれど、どうやらタイミングが悪かったようで、受付にディシーはいなかった。

まずはセレストさんの働く第三医務室へ行く。

扉を叩き、開ければ、中にいたのはレミさんと他に二人ほどだった。

「あ、セレストさん、お帰りなさい!」

レミさんが椅子から立ち上がる。

レミ=ランドンさんは獣人の男性で、一番最初の首がちぎれそうになった時に治癒魔法をかけてくれた人だ。

他の人は名前は知らないものの、何度か顔を合わせたことがある。

主に仕事終わりの飲み会でだけれど。

「長旅お疲れさん」

「王都はどうだった?」

その質問にセレストさんが大きな袋を渡しながら答えた。

「なかなか綺麗でした。それに活気もあって、一日だけですが観光も出来て楽しかったですよ。これはお土産です。皆で分けてください」

「お、土産か、いいね」

「どれどれ……」

「ありがとうございます」

それからセレストさんは少しだけ話をして、空いた手をわたしと繋ぐと、揃って第三医務室を後にした。

思っていたよりも時間はかからなかった。

「もっとはなさなくていいの?」

見上げれば、セレストさんが頷いた。

「仕事中に話せますから」

と、いうことらしい。

次にわたしの働く第四事務室へ向かった。

一ヶ月も離れていたからか、第四事務室の扉を見たら、なんだか懐かしい気持ちになる。

扉を叩いて、セレストさんが開けてくれる。

視線が一気に集中した。

「ユイちゃん、お帰りなさい」

すぐにアンナさんが声をかけてくれる。

アンナ=ドゥネーヴさんはウサギの獣人で、ここではわたしの先輩であり上司でもある。

優しくて頼りになる女性だ。

他の人からも「お帰り」「一ヶ月ぶりだね」と声をかけてもらえて、わたしもそれに返事をしつつ、近付いて来たアンナさんにお土産の入った袋を渡した。

「これ、おうとのおみやげです。えっと、ぎょじんぞくとにんぎょぞくのおまもりです。みんなのぶん、あるので、わけてください」

アンナさんが受け取ってくれた。

「あら、ありがとう! 他種族の御守りなんてとっても珍しいのよ。楽しみだわ。休憩時間に見させてもらうわね」

周りからもお礼の言葉が聞こえてきて、大したものではないけれど買ってきて良かったと思う。

仕事中なのであまり長居せずに第四事務室を出る。

それからヴァランティーヌさんやシャルルさんが恐らくいるであろう、訓練場へ移動する。

訓練場への道すがら、色々な人に声をかけられた。

殆どはセレストさんの知り合いである。

訓練場へ行くと、一ヶ月ぶりの後ろ姿があった。

「ヴァランティーヌ、シャルル」

セレストさんが呼ぶと二人が振り返った。

「ああ、セレスト、ユイ、戻ってきたんだね」

「二人とも、お帰り」

ヴァランティーヌさんとシャルルさんが笑う。

セレストさんと一緒に二人へ近付く。

「ただ今戻りました」

「ただいま。これ、おみやげ」

ヴァランティーヌさんにはわたしから、シャルルさんにはセレストさんからお土産を手渡した。

……あの本で読んだけど……。

わたしが異性に贈り物をするのも、きっと、 番(つがい) であり、竜人であるセレストさんにとっては良く感じられないだろう。

竜人はとても嫉妬深く、情が深い。

「ああ、ありがとう、ユイ」

ヴァランティーヌさんがお土産を受け取り、わたしの頭をそっと撫でた。

シャルルさんもセレストさんから渡されたお土産を「ありがとう」と受け取っている。

そうして「ん?」とヴァランティーヌさんがわたしの頭から手を離した。

「おや、ユイ、背が伸びたかい?」

ヴァランティーヌさんの言葉に笑ってしまった。

「ひとつきでそんなにのびないよ」

「そうかねぇ。ユイは今成長期だし、子供の一月なんてあっという間に大きくなってしまうものさ」

ヴァランティーヌさんの手がぽんぽんとわたしの頭を優しく叩くように撫でた。

「ディシーにはもう会ったかい?」

「ううん、まだ。さっきげんかんをとおったけど、うけつけにいなかったから」

「それじゃあ早く会ってやっておくれ。あの子、ユイが出て行ってから火の消えた薪みたいに元気がなくって、みんな気にしてたんだよ」

「わかった」

セレストさんを見上げれば頷き返される。

「ディシーのところへ行きましょうか」

差し出された手を繋いで、建物の中へ戻る。

正面玄関へ戻れば、受付に見慣れた金茶色の頭が見えて、自然と歩みも速くなる。

やや俯きがちなその金茶色の頭の前へ立つ。

気配を感じたのか、ディシーが顔を上げた。

「ただいま、ディシー」

お土産を差し出すと、ディシーのダークブラウンの瞳が見開かれて、手を掴まれた。

ディシーの顔が一瞬で笑顔に変わる。

「お帰り、ユイ!!」

もし受付のカウンターがなければ抱き着かれていたかもしれない。

「旅は大丈夫だった? 怖いこととか危ないこととか、なかった? 風邪とか引いてない? あれ、ちょっと背伸びた? あと王都はどうだった?」

返事をする間もなく次々と訊かれて、わたしとセレストさんは揃って苦笑がもれた。

「だいじょうぶ、いいたびだったよ。……ディシー、ごごはぜったいにうけつけにいてね」

「え? うん、仕事だからいるけど……?」

不思議そうな顔はシリルとよく似ている。

「あのね、おうとからいっしょにきたアルバレストしょうかいっていうしょうかいのひとたちがくるんだけど、もしかしたら、そのなかにディシーのおとうとがいるかもしれないの」

わたしの言葉にディシーの目がまた丸くなる。

「おとうとのなまえ、シリル?」

「う、うん、そうだよ、シリル」

「じゃあきっとディシーのおとうとだね。かみも、めのいろも、そっくりだった」

ディシーの口が「ほんとに……?」と動く。

「もしかしたらちがうかもしれないけど、そのシリルっておとこのこもにんげんで、三ねんまえに村がおそわれて、おねえちゃんをさがしてるって」

ディシーの目が潤む。

「ディシー、なくのはあってみてからだよ」

今泣くには早すぎる。

ディシーは目元を手で擦ると頷いた。

「っ、うん、そうだね、違うかもしれないし」

「でもおとうとだったらいいね」

「……うん」

セレストさんが声をかけてくる。

「話はまたにしましょう。今は勤務中ですから」

「あ、そうだった!」

ディシーが慌てて同じく受付をしていた先輩だろう人に謝った。

挨拶をして受付を離れ、第二警備隊を出る。

帰りは久しぶりに街の辻馬車を使うことにした。

……シリルがディシーの弟でありますように。

* * * * *

大旦那様と同じ使用人と共に、シリルは馬車に乗って第二警備隊へ到着した。

緊張で手に汗を掻いている。

つい先ほど第一警備隊にも挨拶に行ったが、その時はかなり強面の警備隊長と会って別の意味で緊張したが、今回は違う。

……ここに姉ちゃんがいるかもしれない。

ユイから聞いた話だと元気にしているらしい。

会いたい。でも、会いたくない。

どんな顔をして会えばいいのか分からない。

村が襲われたあの日、シリルはただ怯えるばかりで何も出来なかった。

両親が殺されるのを、姉が必死に抵抗するのを、ただ見ていただけだった。

シリルはあの日のことを後悔していた。

もっと、何か自分にも出来ることはあったのではないか。自分も抵抗するべきだったのではないか。

だからシリルはあの時、同じ村出身のウェインツがグレイウルフに襲われた際に思わず飛び出してしまった。

でもそれも間違いだった。

何が正しいのか、シリルには分からない。

だけどあの日、何もしなかったことはきっと間違いだ。

「さあ、行こうか」

若旦那様について、建物の中へ入る。

綺麗に掃除された屋内は広く、人がよく来るからか、玄関ホールにはソファーが並べられていた。

受付と書かれた場所に向かう。

「昨日ご連絡させていただいておりました、エルデン=アルバレストといいます。第二警備隊の隊長様にご挨拶に参りました」

アルバレスト商会は荷物の運送も行っている。

その中には、王都より送られてくる手紙なども含まれており、今回は第一警備隊と第二警備隊両方に手紙を届ける仕事もあり、エルデンはこのグランツェールを訪れたのだった。

「アルバレスト様ですね、少々お待ちください」

受付にいた獣人の女性が確認する。

シリルはハッとした。

その女性の横に、自分とよく似た髪と瞳の色をした歳上の女の子がいた。

女の子もハッとした様子でシリルを見ている。

記憶の中の姉は髪が肩より少し短いくらいだった。

それに、身長も、雰囲気も少し違う。

けれども姉にそっくりだった。

いや、違う、そっくりなんじゃない。

「……姉ちゃん……」

「……シリル……」

同時に漏れた声が重なった。

女の子の、姉の目が潤んでいく。

きっとシリルも同じ目をしているだろう。

姉が受付のテーブルを迂回して出て来る。

そうして、勢いのまま抱き着いてきた。

「良かった、生きてた……!」

何度もシリルと名前を呼ばれる。

抱き締められて気が付いた。

いつの間にか、シリルのほうが少しだけ姉よりも背が伸びていた。

あの日、あの頃は姉のほうが大きかった。

いつも姉が手を引いてくれた。

いつも姉が守ってくれていた。

しかし、姉はこんなにも細かっただろうか?

背中に回された手がギュッとシリルを強く抱き締め、震える声で何度もシリルを呼ぶ。

姉が顔を埋める肩口がじんわりと湿ってくる。

あの明るく活発な姉が泣いている。

それに気付いてしまうともうダメだった。

「姉ちゃん、姉ちゃん……っ!!」

シリルも姉の背中に手を回して抱き締めた。

あの頃大きく見えた姉はこんなにも小さくて。

それでもシリルのために立ち向かってくれた。

引き離される最後の瞬間まで、シリルの手を「大丈夫」と握って宥めてくれた。

たった一人の大切な家族が生きていた。

シリルの頬を涙が伝う。

人目なんてどうでもいい。

ただ、姉が腕の中にいることが嬉しかった。

場所も忘れて二人で大泣きした。

父も母も殺されてしまった。

村の友達も、知り合いも、どうなったか分からない者のほうが多い。

もしかしたら殺されてしまったかもしれない。

その後、売られた先で死んだかもしれない。

いつだってそんな不安があった。

……だけど、そんなことなかった。

「シリル、生きててくれてありがとう……っ」

泣きながら言われてシリルは頷く。

「姉ちゃんも、生きててくれてありがとう……っ」

姉の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。

弟のシリルだって、同じ顔をしてるだろう。

「ユイがね、教えてくれたの。今日の午後にシリルが来るって。……シリルがシリルで良かった……」

姉の言葉にシリルはまた頷いた。

「オレもユイに会った。計算を教えてもらって、グレイウルフから助けてもらった」

「そっか、私もね、ユイがいたからずっと頑張れたの。ユイがいたから、どんなにつらくても、苦しくても、諦めずにいられたの」

姉がふふ、と笑った。

シリルも、ふはっと笑った。

「ユイは私達の恩人だね」

シリルは大きく頷いた。

……ユイ。

思い出すだけで嬉しい気持ちになる。

シリルだけでなく、姉のことも、ユイは支えてくれていたのだと思うと特別な存在に感じた。

シリルよりも小さくて、細くて、可愛い女の子。

でも実は強くて、勇敢で、賢くて。

……会ったばかりなのに。

それでも彼女が好きだと気付いてしまった。

* * * * *