軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

嵐の前触れ

* * * * *

「シル!」

鮮やかな金髪を高い位置で一つにまとめ、竜王国の騎士の格好をした青年が弟の名前を呼ぶ。

剣の鍛錬をしていた影が振り返る。

「どうしたの、イヴ」

振り返った青年は駆け寄ってきた青年とまるで鏡合わせにしたかのようにそっくりだった。

どちらも金髪に新緑のような緑の瞳である。

耳は横に長く、整った顔立ちからエルフだと分かる。

「セス兄からまた手紙が届いたんだ」

イヴォン=ユニヴェールは今年で百七十八歳になるエルフである。

竜王国の東に位置するグランツェールの街、第二警備隊に所属する竜人・セレスト=ユニヴェールの弟だ。

「また? セス兄、 番(つがい) 見つけたからって浮かれてるのかもしれないね」

シルヴァン=ユニヴェールは今年で百七十八歳になるエルフである。

イヴォンの双子の弟であり、ユニヴェール家三兄弟の末っ子だ。

手に持っていた手紙の封を開け、イヴォンが便箋を取り出すと、横からシルヴァンが顔を寄せて覗き込んできた。

最初に兄セレストから手紙が届いたのは五ヶ月ほど前のことだった。

そこには自分の番を見つけたという内容が書かれていて、驚いた。

誰もが必ず生きているうちに番を見つけ、得られるわけではなく、そのまま寿命を迎えてしまう者も少なくない。

だから番を見つけられるというのは、それだけで祝うべきことだ。

兄セレストの番が見つかったのは喜ばしいことだ。

「何々『ユイが最近よく笑うようになりました。元よりあまり表情に変化のない子だったので、少しずつではあるものの、感情が表に出るようになり──……』って、やっぱり番自慢かよ!」

うはは、とイヴォンが手紙を読みながら笑う。

兄の番が見つかったのは喜ばしいことだけれど、こうも毎月のように手紙が届くことには少し呆れてしまう。

竜人もエルフも寿命が長いため、基本的に互いに連絡を取り合うことも少ない。

イヴォンとシルヴァン、そしてセレストの両親は五十年に一度くらいしか手紙を送ってこない。

それを考えると毎月のように手紙を送ってくるセレストの連絡頻度はかなり高い。

番が見つかるまではセレストも十年に一度くらいだったのだが、半年ほど前に番を見つけてからは、毎月送ってくるようになった。

「仕方ないよ。父さんだって、毎日母さん自慢してたじゃないか。セス兄も竜人なんだから似たようなものだと思うよ」

三兄弟の父も竜人で、毎日のように母を褒めていた。

普段は無口な父が母のこととなると饒舌になる。

きっと兄セレストもそうなのだろう。

「おかげで会ったことないのにセス兄の番のこと、俺達すっげー知ってるしなあ」

「でもセス兄が番と結婚したら、僕達の 義姉(あね) になるってことだし、知っておいて損はないけどね」

「けどさ、セス兄の番って人間でまだ十三歳だろ? 姉っていうより妹じゃん」

「まあ、そうかもね」

互いに顔をくっつけて手紙を読み終える。

「あ、来月向こう行くから、それだけ言っとく?」

イヴォンが訊き、シルヴァンが頷いた。

「そうだね、そのほうがいいかも」

来月、イヴォンとシルヴァンはグランツェールの街に仕事で向かう。

それについて詳細は仕事内容に触れるので話せないが、そちらへ行くということだけは伝えられる。

「セス兄の番、会うの楽しみだな」

「うん、セス兄の番、いい子だといいね」

そっくりの顔を見合わせて頷き合った。

イヴォンもシルヴァンも、兄セレストの番にはかなり興味がある。

いずれは家族になる相手なのだから当然だ。

「だけど人間が番って、セス兄はちょっと可哀想だよね。寿命、全然違うのに」

それだけが双子の気がかりだった。

* * * * *

仕事を終え、セレストさんと一緒に家へ帰る。

第二警備隊の事務員として働き始めて一ヶ月半ほどが過ぎたが、毎日楽しく仕事を出来ている。

最近は計算だけでなく、救護室へ不備のある書類を返却しに行ったり、備品の購入時に確認のために立ち会ったり、そういう仕事もやり始めた。

とは言っても、立ち会いなどはまだ他の事務員にくっついて仕事の様子を見ているだけだが。

日々、わたしにあてがわれる書類の量が増えていくのも、それだけ仕事を任されていると思うと楽しい。

「ただ今戻りました」

「ただい、ま」

セレストさんと手を繋いで家へ帰れば、すぐにセリーヌさんが出迎えてくれる。

「おかえりなさいませ」

この穏やかな声を聞くと家に帰って来たと、ホッとした気持ちになる。

「セレスト様、お手紙が届いております」

セリーヌさんからセレストさんに手紙が渡された。

それを受け取ったセレストさんは手紙を見るとすぐに「ああ」と誰からのものか分かったらしい。

二階に上がり、部屋の前でセレストさんと別れる。

部屋に入って鞄と上着を置き、帽子を取って、身軽になってから二階の居間へと向かう。

初夏に入って少し暑いくらいの気温になったからか、暖炉に火は灯っていない。

珍しくセレストさんがいなかった。

それでも何となくいつもの癖で暖炉の前の絨毯に行き、そこにゴロリと寝転んだ。

……あ、絨毯が変わってる。

昨日までは毛足の長い絨毯だったのに、今日はサラリとした肌触りの良い毛足の短い絨毯になっていた。

これはこれで寝心地が良い。

思わず右に左に寝返りを打って感触を確かめていると扉が叩かれる音がした。

セレストさんが扉を開けて入って来る。

絨毯に寝転がっているわたしを見て、セレストさんが目を細めて微笑んだ。

「ユイ、弟達がこの街に来るそうです」

その言葉に起き上がる。

「おとうとさん、ふたごの?」

「ええ、双子の弟達です」

頷きながらセレストさんが揺り椅子に座る。

絨毯の上を這ってセレストさんの膝のところへ行くと、伸びてきた手に頭を撫でられた。

「先ほど届いた手紙を読んできたのですが、どうやら今月の終わり頃にこの街に仕事で来るそうです。その時に久しぶりに遊びに来たいと言っていました」

「弟達が来ても大丈夫ですか?」と問われる。

それに頷き返した。

セレストさんの弟さん達なら、多分悪い人でもないだろう。

「おとうとさん、たち、どんなひと?」

セレストさんが、ふふ、と笑った。

「私が覚えているのは弟達がまだ七十くらいの頃なので小さい時のことしか分かりませんが、そう変わっていないのであれば見た目はそっくりですよ」

「ふたごだから?」

「ええ、弟達が生まれた時は大騒ぎでしたよ」

思い出したのか、またセレストさんが笑った。

「おおさわぎ?」

何をそんなに騒ぐことがあるのだろうか。

「竜人やエルフは長命故に数が少ない、というのは習いましたね?」

「うん」

竜人は長命で、種族的に頑丈だ。

エルフも長命な種族であり、そのせいか、どちらも出生率が低いのだ。

長命な種族だから子孫を多く残す必要がない。

生き物としてはそれでいいのかもしれないが。

「竜人やエルフ族が一生に成す子の数は一人か二人と言われるほど少ないのですが、母は竜人の私を産み、そしてエルフの双子の弟を産みました」

……なるほど。

セレストさんの母親は一人か二人産めれば良いという中で三人も子供を産んだということだ。

「特にエルフの双子は珍しいのです。このグランツェールで双子のエルフと言えば弟達を示すくらいでした。もしかしたら王都でもそうかもしれません」

「ふたご、めずらしい?」

「ええ、竜人やエルフで多産はかなり珍しいです」

ちなみに獣人は逆に多産が多いらしい。

一度で双子や三つ子もそう珍しくないのだとか。

それを考えると、長命で出生率の低い種族で双子というのは確かに珍しかっただろう。

「しかも見た目がそっくりなので、弟達はお互いのふりをして周りを騙して遊んだりしていましたが」

……なんだか捻くれた遊びだなあ。

セレストさんも思うところがあるようで苦笑する。

「セレストさん、おかあさんと、おとうさん、おとうとさん、いれかわったら、わかる?」

「ええ、分かりますよ。毎日見ていれば、違いも分かるようになりますから」

「そうなんだ」

そっくりの双子というのは本当に似た顔立ちなのだろうか。会うのが楽しみだ。

セレストさんがこれだけ美形なので、弟さん達もきっと美形だと思う。

竜人もエルフも見目が良いそうだし。

セレストさんにも似ているのだろうか。

「おとうとさん、かお、セレストさんに、にてる?」

兄弟で似た顔だったりして。

セレストさんが首を傾げた。

「どうでしょう? 子供の頃の顔立ちは似ていなかった気がします。私は母に似ているのですが、弟達は父に似ているとよく周りから言われていました」

……じゃあ、あんまりセレストさんと弟さん達は似ていないのかな?

「ただ、弟達の性格は父にも母にも似ていないですね」

「セレストさんの、おとうさん、おかあさん、どんなひと? やさしい?」

「どちらも物静かな性格です。母はエルフなので他種族にはあまり興味がないようですが、父と私は家族なので愛してくれていましたし、父は母一筋という人で、無口な人でしたが私や弟達の面倒もよく見てくれました」

……物静かな性格かあ。

でも何となく想像がつく。

セレストさんも普段は物静かというか、穏やかというか、わたしが話しかければ喋ってくれるけれど、必要がなければ静かな人なのだ。

きっとセレストさんの両親もそうなのだろう。

「逆に弟達は元気でしたよ。双子の兄がイヴォン、弟がシルヴァンというのですが、イヴォンはとにかくジッとしていられないくらい活発な子でいつも走り回っていましたし、シルヴァンは穏やかでのんびりな性格で、でもイヴォンと一緒になって悪戯をしていたので物静かではありませんでした」

「なかなかに手を焼かされました」とセレストさんが思い出し笑いをこぼしている。

恐らくかなりやんちゃな子達だったのだろう。

子供一人でも手がかかるのに、二人一緒にとなると、それこそ毎日大騒ぎになりそうだ。

「私もかなり悪戯をされましたよ」

「どんな、いたずら?」

「朝起きたら髪が三つ編みにされていたり、仕事で使うインク瓶の中身が調味料と入れ替えられていたり、何度もブーツの中に虫そっくりのオモチャを入れられたこともあります」

一時期は朝起きると必ず髪が三つ編みにされていたそうで、今、セレストさんが髪を三つ編みにしているのもその名残らしい。

弟さん達が何度も三つ編みにするので、それならいっそ、そのまま好きにさせようということだ。

……まあ、気持ちは分からなくもない。

セレストさんの髪はサラサラで触り心地が凄く良いから、弟さん達も触りたかったのかもしれない。

「母の化粧品で父の顔に悪戯書きをしたこともあって、それはさすがに両親に怒られて弟達も泣いていました」

「それは、ダメだとおもう」

「そうですね。……今はもう落ち着いたとは思うのですが、百七十代はまだまだやんちゃな時期ですからね」

セレストさんがもう一度わたしの頭を撫でる。

「もしかしたらユイにも色々と絡んでくるかもしれません。何か困ったことがあったらすぐに私に言ってくださいね」

セレストさんの言葉に頷く。

「セレストさんの、おとうとさんに、あうの、たのしみ」

セレストさんが微笑んだ。

「弟達もユイに会いたいと言っていました。もうすぐ王都を出るでしょうし、会った時には弟達とも仲良くしてもらえたら嬉しいです」

その翌日、第二警備隊は王都から騎士達がやって来るという話で持ちきりになった。

和平を結んでいる隣国と数年に一度、条約の継続に関する話し合いや友好を深めるという名目で互いの国に使者を送り合っているそうだ。

セレストさんが言うには、前回隣国へ行った使者が帰国するため、新しい使者を国境まで送り、前任者を王都まで護衛するために来るのだろうということだった。

互いの国に必要以上の護衛は入国出来ないため、国境まで新任者を護衛し、前任者と共に帰る。

東の端に位置するこのグランツェールの街に立ち寄るため、その時に弟さん達と会うことが出来る。

セレストさんの弟さん達が騎士だと聞いて、ディシーが「いいなあ」と言った。

「王都の騎士様って女の子達の憧れなんだよ」

と、いうことらしい。

「ユイは騎士様、気にならない?」

考えてみて、首を振った。

「きょうみない」

「そっかあ。まあ、王都から来る使者さん達の対応は第一警備隊がするらしいし、私達第二警備隊はいつも通りって話みたいだから関係ないだろうし」

「そうなんだ」

……関係ないならそれこそ興味ないかな。

騎士様よりも、仕事のほうが大事である。