軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22 小舅と私

平木の家があるあたりは住宅街だったから、それに比べてここの町は栄えているようだった。商店街も大きいし、街並みが華やかだ。ローマっぽい太くて白い門柱を構えた銀行とかあるし、レンガ壁のデパートには屋上から大きなバルーンが浮いている。

トミエさんが通っていたというからには、あのスケスケネグリジェの下に履いていたであろうパンツもきっとここで買ったんじゃないだろうかとひらめいてしまった。いやどんなの履いてたかまで見えてないからわかんないんだけど、私の手縫いパンツとは比べ物にならないはずだしトミエさんがパンツ縫うわけない。

そんなようなことと荷物の中でまだ湿っているであろうパンツがぐるぐる頭の中で回っていたせいか、挙動不審だったようだ。予約を入れていたらしい宿に着いた後は自由時間にしてくれた。

つまり私は新たなパンツをゲットした!

デパートの壁側にあるお店という敷居の高いところに入るのは、とても勇気がいった。

寄って来た店員さんからも一度は逃げた。

前世の基準でいえばシンプルだけど、それは遠い昔の話。十五年へたれた木綿や麻にばかり馴染んだ目には、真っ白な絹やレースはまぶしすぎた。

でも私がんばった!

制服はできるだけ土埃なんかもはたいたけど、とてもおしゃれな高級服屋に行けるようなものじゃない。だからちゃんと持ってきていた私服に宿で着替えてから来たんだ。

そこまで場違いでもないはずだってトイレで気合を入れなおして、もう一度お店に突撃して、値札にくらっとしながら、なんとか私のお財布に優しいパンツをゲットできた。なんと! 二枚も!

これでもう乾き具合を気にしなくてもいい。

ほくほくしながらパンツの入った巾着を胸に抱いて宿に帰って来て、大浴場でのびのびお湯に浸かって今ここ!

一度洗ってからとか言っていられない。だってまだ昨日のパンツは乾いていないのだから。

するっとした肌触りをすねに感じて、そのままするっと。

……フィットかーん!

嘘。正直私の求めていた三角なパンツはなくて、あるのは私がうろ覚えで縫ったのと同じズロースだった。

でも、やっぱりいい生地で縫製もしっかりしていて、腰回りや裾もすっきりしてる。ゴムのとこがごろごろしたりしないから履き心地は全然違う。

前世で言うところの勝負パンツなんて私には全然縁がなかったけれど、やっぱり新しいパンツって防御力があがる感じ。

宿の浴衣に半纏を羽織って足取り軽く部屋へ向かっていたのに。

「ずいぶんと満喫してるじゃないか」

げ、と口から出そうになったのを飲み込んだ。

忌々しい気持ちを顔どころか全身から滲み出させた 伊賀(いが) 佐吉(さきち) さんが、廊下で仁王立ちしていたから。やだー……。お風呂セットが入った巾着を抱きしめて、しぼみそうな胸に押し当てた。

「こここんばんは?」

「上司である兄さんを差し置いて先に風呂だと? 少しはわきまえたらどうだ」

ひとつ年上らしいこの人があいさつも返してくれないのは平常運転で、初対面の時からずっとこう。

私が勤めはじめて二週間後くらいに出張から帰って来たのだけど、食堂に現れたかと思ったら怒涛のように年はいくつだ何ができるんだ魔力量はと問い詰められた。答える前に次が来るから何ひとつ答えられなかった。

彼が何者なのかわかったのは、一方的にまくしたててから「兄さんの足ひっぱるなよ!」と吐き捨てて立ち去った後だ。食堂にいたほかの人が苦笑いで教えてくれた。勢い良すぎて止める前に行っちまったな、と詫びてくれたので他の人はいい人ばかりだ。

異常現象対策部隊の一員ではあるけど、特殊班ではなくて調査班の人。

伊賀さんは市井さんを兄さんと呼ぶけれど、兄弟ではない。でも市井家の親族だから、幼い頃からずっと市井さんに憧れて追いかけまわしているとかなんとか。

男性にしては小柄で細身だけれど、その分身軽ですばしっこく目端も利くから調査班でも評価が高いらしいのに、ずっと特殊班の配属を希望しているそうだ。それなのにぽっと出の私がいきなり市井さん直属になっているから気に入らないのだろうと聞いた。

嫌われてるのは私が何かやらかしたせいではなくてよかったとその時は思ったのだけど、顔を合わせるたびに、なんなら追いかけてきて小言を繰り返されればさすがに苦手にもなる。

「戦えもしなきゃ知識もない。せめて小間使いくらいこなす気ないのか」

それでも言ってることはいつも事実だから、言い返す気にもならないのだけど。

「あ、あの、お休みを市井さんがくれて」

「は? 休み? 十年早いんだよ」

ブラックぅ!

だけどこちらの世界は割とこういう感じだったりすることが多い。平木の家もこんな感じだったし。

でも市井さんはちゃんとお休みをくれるのに……。

「兄さんが起きてるうちに寝れると思うな「うっせぇ! 廊下で騒いでんじゃねぇよ!」わあ!」

伊賀さんの後ろで勢いよくドアが開いて、寝ぐせをつけたままの市井さんが顔を出した。

市井さん寝てましたけど? って言いたい……。我慢……。