軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10 プリンと私

プリンだぁ……。

今世になってから初めてお目にかかったプリンは、飾り気のない白くて小さめのお皿で遠慮がちにぷるんと揺れた。

連れて来てもらった食堂はこの異常現象対策部の建物の地下にあった。寮のある棟からよく使うであろう浴場や洗濯場などの施設を案内してもらいながら来たのだけど、もう一人で部屋に戻れる気がしない。ここが地下だというのも窓がないことを訊ねて返ってきた答えでわかった。階段使った回数と合わないのはなんでなのかはわからない。

メニューは毎食二種類あって、厨房の人へカウンター越しに頼むと出てくるスタイルだ。市井さんは生姜焼き定食で、私は塩サバ定食。すごいよ……トレイの上のお皿がご飯茶碗をいれて五つもあって、しかもプリンつきだよ……。

ごはんあったかい。塩サバだって乾いてなくて脂がぷつぷつはじけてて、口にいれるとほろり崩れてしっとりする。お味噌汁の豆腐はきれいな賽の目切りで崩れてないし、煮詰まってないから柔らかい味噌の香りがする。わかめときゅうりの酢の物だって塩サバの脂をリセットしてくれる甘酢がちょうどいい。二切れのたくあんで、ごはんの最後の一口をしめる。

「おいしかったぁ……」

「おう。うちの食堂なかなかいいだろ」

こんなに満足度高くておなかいっぱいになるごはんなんて前世ぶりだと思う。注文するとき、市井さんが厨房の人に量を加減してやってくれって頼んでくれたんだけど、それでもまだ少し苦しいくらい。軍だし男の人ばっかりだから本当ならもっと量が多いのかも。残さずにすんだのもうれしい。

そして! 満を持してプリン!

硬めの蒸しプリンはほんのりまだ温かい。スプーンをいれるととろり滑り落ちるカラメル。

前世で特に好きってわけでもなかったけれど、十六年ぶりの甘味だ。前世も含めて一番美味しいプリンに感じた。

こんないい待遇で働かせてもらえるなんて、あっていいことなんだろうか。

そりゃ前世でだって家事は一通りできた。でもここでは魔力がなくてもできる仕事しか私はできない。

「あのっ」

「んー?」

「ご、ごめんなさい!」

「は?」

いや違った。違わないけど、順番が違った。

「その、昨日転がしちゃって」

「あー、みっともねぇからそれもう言うな」

本当に嫌そうな顔された。そうか。そうだよね。軍人さんが素人の小娘に転がされたなんて駄目だよね。軍人さんなんだし。

「なんかむかつくこと考えてそうだけど、まあ間違っちゃいねぇから忘れろや」

「えっと、それで、ありがとうございます。そのこれ、手、治してくれて!」

「おうおう。そういうのはいいぞ。感謝してひれ伏せ」

「それから! 雇ってくれてありがとうございます! 私、魔力ないんで湯も沸かせないんですけど、マッチさえあれば焚火くらいできるので」

「焚火は頼まねぇな……」

謝れたしお礼も言えたから、次はできることのアピールをと思ったのに残念そうな顔された!

だがしかし私はここで働きたい。できないこととできることをちゃんと説明して意気込みを伝えなきゃ。

綺麗に舐めたスプーンの背を覗き込んでる毛むくじゃらを見つめながら、膝においた手を握りしめたとき市井さんが首をかしげて告げた。

「つうかよ。魔力なくたって湯くらい沸かせるだろ」

「え、でもコンロだって点火できなくて」

「んなもん、炭にマッチで火つけてかまどなり七輪なり使えばいいし、そもそも魔道具だけで設備整えてるなんぞ金持ちの道楽……いや平木は金持ちだったか」

「はあ!? だってどこもそうだって」

だから私みたいなのを雇ってくれるとこなんてどこにもないって。違うの? あの家をとっとと出てもやっていけたの?

嘘でしょう!?

「お、おい? ……あ、あー、うん。まあ、それはそれとしてだな」

「――あっははははい」

脳裏に走馬灯のようなものが流れていたから、少し放心してしまっていたのだと思う。市井さんの声で我に返った。

「なんかいまいちまだわかってねぇっぽいけどよ。お前の話だと妖ってなー、そこら中にいるんだな? この辺にも」

「う、ぇ、あ、……はい」

「双頭のカラスに六本足のイモリに?」

「トカゲかもしれないんですけど」

「うん。俺らは妖を討伐すんのが仕事だけどなぁ」

さっき部屋で見た双頭のカラスは、市井さんが窓を開けるとどっかに飛んで行った。その代わりに羽つき蛇が入り込んできたのだけど。

やっぱり市井さんには見えなかったみたいで、どんなものなのか詳しく説明させられた。……見えないのにどうやって討伐するんだろうと思うけど、市井さんは私の言葉を疑わなかった。

「それ、そいつな、俺には真っ黒な靄の塊に見えんだよ」

そいつってのは毛むくじゃらのことだと思う。でも「こんくらいのな」って示す手つきは私の身長と同じくらいの高さで止まった。

ここに着いてから毛むくじゃらは二回りほど大きくなった気はするけど、さすがにそんなに育っていない。まだ私の手のひらで座れるくらい。……だから昨日も刀を空振りしてたんだろうか。大きな靄を斬っているつもりだった?

「俺の班はそういうのが 見(・) え(・) る(・) 奴を集めてる。見え方は俺と同じだな。黒い靄。だけどお前にはどうやら違うものに見えているらしいし、なんなら俺らに見えないものまで見えてると。多分ある程度強くねぇと俺らには見えねぇのかもな。つまりだ」

「はい」

「お前の仕事は俺について歩いて、俺の目になること。だから魔力は別にいらねぇ」

私が見えるものをわかってくれたのはこれで二人目だ。一人目はじいちゃんだから、今世では市井さんがはじめて。

しかも仕事までくれる!

「がんばります!」

おう、と市井さんは笑って自分の分のプリンを私のほうのトレイにのせてくれた。

「さっき言ったろ? 仕事内容はよく確認してから引き受けろってな」

「え」

「それ食い終わったら初仕事だ。見えるもんをごまかすんじゃねぇぞ? がんばろーなー!」