軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第019話 入学式

本日は入学式である。

昨日と同じ親子三人で馬車に乗る。

だが、なんだか昨日とは違う道を走っている。

「なんか道が昨日と違いませんか」

「……言ってなかったか? 入学式は王城でやるんだぞ」

聞いてなかった。

「王城ということは女王陛下もいらっしゃるんですか」

「当然だ。学院の入学生は将来のシヤルタを背負って立つんだからな」

ふーん。

まあ日本でも防衛大の入学式には総理大臣がきたりするしな。

そういうものなのかもしれん。

今日は入学式があるだけではなく、午後からは入寮式がある。

家が近い生徒は家から通ってもいいが、寮にはちゃんと人数分ベッドが用意されているので、生徒は全員寮に入ることになっている。

寮を使うかどうかは自由らしい。

「はぁ……」

もうなんか鬱すぎて入学する前から登校拒否になりそうだった。

「またため息か?」

ルークが呆れた調子で言った。

聞かれてしまったか。

「すいません」

「いや……しかし、意外だな。ユーリがそんなに嫌がるなんて。俺はてっきり、王都に出られると大はしゃぎするもんだと思っていたが」

「家族と離れるのは寂しいですよ」

俺はルークやスズヤが純粋に好きなので、本当にそう思う。

日本にいた両親はアレだったので、こっちにきて初めて親の温かみというやつを知った気がするのだ。

「それに、友達ができるとは限りませんし」

同年代のガキとマブダチになれるとはとても思えん。

本当に同年代だったときも友達は多い方じゃなかったし、卒業したら全員と縁が切れるような仲だった。

「ユーリなら友達の一人や二人くらい簡単にできるさ。シャムちゃんとも友達になれただろう」

ありゃ、シャムが天才だからだ。

あそこまで頭が良ければこちらも教える喜びもあろうってもんだし、向こうもこちらを尊敬してくれるのだから、仲良くもできる。

だが、あんな子どもは二人といないだろう。

「そうですかね……」

俺がなおも渋っていると、

「ユーリ、寂しいのは解るけど、これはやらなくちゃいけないことよ」

と、スズヤが声をかけてきた。

「はい、お母さん」

色よく返事をしておく。

「頑張ってね。うっ、がんば、って……」

スズヤは突然に涙を流し始めた。

えっ、お、お母さん?

「がんば、がんばるのよっ……ひっく」

「す、スズヤ? 別に今生の別れってわけじゃないんだから」

ルークが慌ててフォローをいれる。

「でっでも……すごじじか会えなくなるんでしょ……」

泣くほどショックなのか。

息子と会えなくなるのが。

「まあ、たしかにそうだけど、別に監禁されるってわけじゃないんだから、会いたくなったらいつだって会えるさ……いつだって王都には連れて来てやるし」

「ほ、ほんと……?」

「本当に決まってるだろ? な、ユーリ」

ルークがちらちらと俺を見てくる。

お、おう。

「本当ですよ、お母さん。僕だってお母さんに会えないのは寂しいです。もう少ししたら一人で王鷲にだって乗れるようになるはずですから、そしたらこっちから会いに行きますよ?」

「よ、よがった……ゆーり、辛かったらいつでも帰ってきていいんだからね。我慢なんてしないでね……」

くっ。

なんて優しいんだ。

こっちまで涙がでてきそうになる。

「はい。辛くなったらすぐにお母さんに甘えに戻ります」

「よかった……ごめんね、駄目なお母さんで」

駄目なお母さんなんて、そんなことがあるわけがない。

「そんなことありませんよ。僕はお母さんのこと大好きですから」

***

王城の島に入ると、大通りを抜け、城の前で馬車が止まった。

島自体が城塞なので、その上に城の周りに壁があるということはない。

ふつうに、住宅街を抜けたら城があった。という感じだった。

日本の城のように、本丸に辿り着くまでの間に、曲輪のような軽く粘れる防御地形が設置されているということも、全然ない。

城も、よく見れば、大人だったら手で割って入れるような位置に窓があったりする。

低い位置に彫刻が据え付けてあったりして、それを手がかり足がかりにすれば簡単に外壁を登れてしまいそうだ。

今は開け放たれている正門も、見た目は綺麗だが、鉄板と鋲で補強されているわけではなかった。

これでは敵軍に寄せられたらひとたまりもないだろう。

どこからでも入ってきてくださいという感じになりそうだ。

これでは、城というよりまるで宮殿だ。

宮殿ならこんなに背を高くしたら居住性が悪化して不便だ。

ふつう、宮殿というのは防衛より住みやすさを優先しているから、四角く平べったい形をしている。

ランドマークとしての機能を求めてこんな設計にしたのだろうか。

確かに美しいし、首都の象徴にもなっている建物だから、その目論見は成功している。

城の中に入っていく。

まるで江戸城に出勤する幕臣みたいな気分だな。

大きな門をくぐったところで、略式の礼服を着た美人のお姉さんに呼び止められた。

「失礼いたします。ホウ家の皆様でいらっしゃいますか?」

「そうだが」

とルークが返事した。

「少しお子様をお借りしたいのですが」

????

なに?

人攫い? この人。

「なぜだ?」

ルークにとっても聞いてない話だったようで、眉を寄せて訝しんでいる。

「お耳を貸していただいてよろしいでしょうか」

美人のお姉さんはルークの耳元に口を寄せると、何事かを囁いた。

浮気に関しては一家言あるスズヤの目がちょっと険しくなる。

「えっ、ホントか?」

「はい。つきましては……」

「わかっている。ユーリ、この人に付いていきなさい」

????

キッドナッピングされろと?

「なんで……」

「大丈夫だから、ともかく急ぎなさい。どっちみち、父兄と生徒とじゃ別の席なんだ。この人が案内してくれる」

「ふーん、分かりましたけど」

そう言われちゃ、ついていく他はない。

***

人混みから切り離されて誰もいない廊下を歩く。

何も話してくれないのでこっちは不安だ。

そして、なんだかよく分からん部屋に通された。

とんでもない名家の客間のような部屋だ。

ウチの最高の客間と同じくらい立派である。

ソファや絨毯、掛けてある絵、どれをとっても一級品という感じだった。

「それでは、失礼させて頂きます」

俺を案内し終わると、お姉さんは帰ってしまった。

中には女性二人と男性一人がいた。

夫婦かなにかなのか、男女の一組はお爺ちゃんお婆ちゃんだ。

もう一人の女性は……昨日、本試験会場で見たパツキンの女の子だった。

「ユーリ・ホウですね」

「はい」

「座りなさい」

婆さんが言った。

なんだこの人、俺を呼び捨てにするとはよっぽど偉い人なのかな。

ああ、学院の教師なのかもしれない。

俺は機嫌を損ねないように、言うとおり歩いてソファに座った。

「私は教養院院長のイザボー・マルマセットです」

「儂は騎士院院長のラベロ・ルベじゃ」

なぁるほど。

マルマセットは 七大魔女家(セブンウィッチズ) 現在筆頭の家の名前で、ルベは 五大将家(フィフスブレイブス) の中でも大きい家の名前だ。

ルベのほうは、いわばホウ家と同格の家柄なわけだが、領地が直接キルヒナにくっついているので、俺の中では今話題のホットな土地といった印象だった。

キルヒナが崩れたら次に蹂躙されるのはルベの土地であろう。

俺は受験勉強で十二の家の当主の名前を暗記したのでわかるが、イザボーもラベロも当主ではない。

当主の弟妹か、もしくは叔父叔母などの近縁者なのだろう。

教養院の院長がマルマセットの家の者というのは、いかにもな感じだ。

「ユーリ・ホウです」

一応名乗っておいた。

「キャロル・フル・シャルトルだ」

隣の女の子も名乗った。

……えっ。

シャルトルというのはシャンティラ大皇国の皇族の姓だ。

もちろん、勝手に名乗ったりしたら、それは罪として罰せられる。

そして、フルというミドルネームがつけば、この国の王族の姓になる。

えっ、こいつってこの国の姫様?

フルというのは古代シャン語で四という意味である。

シャンティラ大皇国の最後の女皇には十二人の女児がおり(ほんとかよ)、そのうち三人は戦乱で死んでしまったが、残り九人は生き残り、それぞれ国を作って、それが崩壊後の九国になった。

その九人はミドルネームに生まれた順番を付けて、それを各々の国の王族の姓にした。

つまり、シヤルタの王族は、四番目の王女の血族ということになる。

隣のキルヒナはトゥニ・シャルトルを名乗っており、こっちは十二番目の末女の血族だ。

フル・シャルトルを名乗るということは、傍系は姓を変える決まりなので、この子は女王直系の子どもだ。

マジかよ。

***

「ユーリ、キャロル、あなたたちは首席入学者ということで、入学式で特別な役目をやってもらいます」

ババアがわけのわからんことを言い出した。

気が遠くなった。

なぜそんな面倒なことをやらねばならんのだ。

入学式だけでも面倒くさいってのに。

「まだ式の開始まで一時間ほどあるので、その間に軽い予行練習をします。 口上(こうじょう) を覚えたり、失礼でない振る舞いを覚えたりと、いろいろとやることがあるのでね」

「ちょっと待ってください。殿下はともかく、なぜ僕が首席なんですか?」

血筋かなんかか?

「成績じゃ」

爺さんが教えてくれた。

俺は諦めた。

成績じゃしょうがない。

そりゃあんな問題で満点近い点数をとったら首席にされてもおかしくはない。

今更後悔しても遅いが、適度に手を抜くべきだったのだ。

今更後悔しても遅いので、諦めるしかない。

「でも、それなら、殿下が首席ならば僕は次席のはずでは」

この王女様は試験会場にきていたのだ。

騎士院の。

だとしたら、首席が二人というのはおかしい。

もしかして二人共同じ点数だったとか。

「キャロル君は教養院の首席である」

へ?

でも騎士院のテスト受けてたじゃん。

両方うけたってこと?

大学のすべり止めじゃあるまいし。

「ユーリ君は騎士院の首席であり、キャロル君は教養院の首席である。以上じゃ。それと、君の学院生活のために言っておくが、質問は質問してよろしいと言われたときのみしなさい。騎士院では怒られるぞい」

しかも説教された。

これ以上質問できる雰囲気ではない。

ぐぬぬ……。

***

それから別の部屋に通されると、女の先生があらわれ、台本を渡された。

「覚えなさい」

ちょっと高圧的に言われる。

くっそー。

入りたくもない学校に入る前にこんな苦行を課せられるとは。

罰ゲームかよ。

なんも悪いことしてねーのに。

「覚えました」

ものの五分もしないうちにキャロルは台本を返した。

すげぇ。

どんだけ記憶力いいんだよ。

そんで俺のほうをちらりとみて、

「ふふん」

と小さな声で得意げに言った。

なんだ、可愛いなおい。

得意げになっちゃって。

俺はじっくり読むぞ。

物覚えの良い方ではないからな。

えーっと、

「私たちは新たにこの学院に入る……として誇りを持って……を誓いつつも……騎士としての魂のありかたを学び、決心を……女王陛下に槍を捧げる日がくることを待ち望みつつ、精進することを誓います」

小声で音読してゆく。

長いよな、どう考えても。

俺はたっぷり十分ほどかけて覚えた。

こんな長い文章、当日本番の一時間前に覚えさせるとか馬鹿かよ。

ほんとどうなってんだこの国の教育機関はよ。常識ねえのかよ。

「大丈夫だと思います」

俺は台本を返した。

「はい。では、はじめましょう。では手順を説明します」

ふーやっと始まった。

もう時間ないんじゃないのか。

「代表生宣誓と言われたら、あなたがた二人は椅子を立って壇上へ向かいます。ユーリ君は壇に向かって左、キャロルさんは壇に向かって右に座りますから、同時に出てきてください。まず立ち上がって女王陛下に向かって立礼し、壇上へ登る階段の前で止まります。そこで振り返って参来者に向かって立礼します。そして壇上へ登り、女王陛下の前まできましたら、ユーリ君は屋内の最敬礼です。キャロルさんはお分かりでしょうけれども、家族に対する最敬礼をしてください。そうして、同時に立ち上がってユーリ君から先に宣誓文を読みます。二人共読み終わりましたら、女王陛下がユーリ君に向かって片手を出しますので、ユーリ君は片膝で跪いて、女王陛下の手を取り甲に軽く口づけをしてください。終わりましたら、立ち上がって席に戻ります。壇を降りるときには来場者に一礼するように」

なっが。

気が遠くなりそうだ。

「さあ、始めますよ。僭越ながら私が女王陛下の役をやるので、そことそこに座りなさい」

俺は罰ゲームの想像を絶する難易度に戦慄を禁じ得なかった。

なっが……。

***

「ふんっ、大したことないな、お前」

リハーサルがつつがなく終わると、王女様はさっそく毒をはきはじめた。

なにこのこ……こわい……。

今はリハーサルが終わって会場に帰ろうというところである。

帰れといわれ客間を放り出され、廊下で二人だけになった途端にこれだ。

わけがわからない。毒を吐かれる心当たりもない。

なんか悪いことしたっけか。

「そうですね。僕はたかが知れてますから」

たかが知れてる知れてる。

俺なんかただの屑ですから。

まあ、こう言っときゃ満足するだろ。

キャロルは立ち止まった。

「なんだ!? その言い方は。私を馬鹿にしてるのかっ!?」

えっ。

なぜそうなる。

「??? ……!!??」

俺は反応の返しようがなかった。

ちょ、ごめ、どのへんで馬鹿にしたって???

もしかして人違い????

「私よりいい成績をとったからって、図に乗るなよっ」

へっ?

あ、そういえば騎士院の試験のところにいたんだよな。

あれか。

いったいなんなんだよ、もう。

「そういえば、なんで騎士院の試験を受けてたんですか?」

「ふんっ」

キャロルは唐突に得意げな顔をした。

よくぞ聞いてくれましたって顔に出てるよ。

「私は騎士院と教養院、両方を卒業するのだ。ほんとなら両方の首席になってやるつもりだったのだがな」

えっ、そんなんできるの?

騎士院も教養院も年少組だけではなくて、だいたい二十過ぎまで通うんだぞ。

文系大学と理系大学に同時に通うようなもんだ。

「そりゃ……すごいですね。まあ、ぜひ、頑張ってください」

呆れたもんだ。

「言われなくたって頑張る!!!」

頑張るらしい。

まあそのくらいの勢いがなくちゃ、卒業は覚束ないだろう。

是非勝手に頑張ってくれ。

「そうですか」

「お前は志が低いな。もっと胸を張れ!」

胸ぇ張れって言われても。

「僕はあんまりやる気もないので」

「はあ!?」

そんな絵に描いたような唖然とした顔をしなくても。

「できれば入学したくなかったもので。首席などという制度があったと知っていれば、お譲りしたのですが。申し訳ありませんでした」

ペコリと頭を下げ、顔を上げると、パンッと音がして、顔が衝撃ではじかれた。

一瞬間を置いて頬が熱くなる。

えっ、ビンタされた?

「このっ……不埒者がっ!!!」

真っ赤な顔で俺を怒鳴りつけるキャロル殿下のお姿があった。

キャロル殿下は、一言だけでは飽きたらなかったようで、言葉を継いだ。

「このっ……ばかっ、まぬけっ、あほっ……えっと……ばかやろうっ!」

たぶん知り得る限りの罵声を俺に浴びせると、キャロル殿下は走っていってしまった。

***

頬にもみじができているので冷やそうと思ったが、その時間もないので、そのまま式場に入った。

もう知ったこっちゃあるか。

会場は、いわゆる大広間と呼ばれる大きな部屋だった。

ものの本に名が載っているくらいだから、華美な装飾が凝らされて非常に美しい。

天井などには幾何学模様の彫り物がしてあって、どうも金箔が貼ってあるらしい。

だが長い年月の間に色褪せ、落ち着いた色になっていた。

化粧石の床にはずらりと椅子が並んでおり、真ん中には細長い絨毯が敷かれている。

その絨毯がまた特殊なもので、左側が蒼色で右側が紅色になっており、ハーフアンドハーフで染め抜かれていた。

あしゅら男爵を彷彿とさせる。

男爵と違って左側が男なので、俺は左側の席へ向かった。

ごちゃごちゃとしている会場をかき分けるように進み、指定された席に着席する。

一番前の一番左の席だ。

座って一息つく。

いったいなんだったんだあのメスガキは。

噛み付かれるほうはたまったもんじゃないってのにさ。

「はじめまして、ユーリくん」

いきなり右の席のやつが話しかけてきた。

そちらに目を向けると、俺より幾分小柄な美少年がいた。

ボブカットにしたふわふわの栗毛が印象的で、ハンサムというよりコロコロとしたかわいい顔つきをしている。

なんつーかショタコンのお姉さんに好かれそうな子どもだな。

何者だろう。

「はじめまして」

挨拶を返した。

こいつはなんで俺の名を知っているんだろう。

「ボクはミャロ・ギュダンヴィエルと申します」

ギュダンヴィエルか。

七大魔女家(セブンウィッチズ) の家の名だ。

御曹司である。

だが、魔女家においては男児は雄のホルスタインのような扱いで、上手くいけば多少の役に立つかも程度の扱いだと聞くから、身分的にはどうなんだろうな。

というか、高位魔女家の男子は、近衛を目指すことは殆どないから、騎士院には来ないと聞かされていたのだが。

「……ユーリ・ホウです」

とにもかくにも挨拶は返さんとな。

ミャロはくすりと笑って、

「その頬はどうしたんですか?」

と可笑しそうにきいてきた。

嘲るような響きは少しもなく、不愉快にも感じなかった。

こういうものの聞き方ができるというのは才能かもな。

思わず頬を擦る。ヒリヒリと痛かった。

さて、どう話したものか。

「転んだ拍子に淑女のお尻を触ってしまって、はたかれた」

適当に嘘をついておいた。

さすがに、こんなガキにケツ触られたからってビンタかます女は少ないと思うけどな。

五本指のあとがついているのに、階段から落ちたじゃおかしいし。

「そうですか。災難でしたね」

「よくあることだよ」

言ってしまってから、何言ってんだ俺と思った。

そんなことがよくあってたまるか。

頬がいくつあっても足りない。

「なるほど。興味深い人生を歩んでいるのですね」

ミャロはにっこりと微笑んでいる。

俺の嘘に納得しているわけではないが、それを含めて会話を楽しんでいるという感じだ。

まあ、こういうぽっかりと空いてやることがないような時間には、こういう会話も悪くない。

「興味深くはないよ。俺は平凡な人間だ」

あまり変な興味を持たれてもつまらないので、そう答えておく。

「平凡な人間は首席になどなれませんよ」

ミャロは少し真面目な声で言った。

そうかな。

そりゃそうだよな。

閃きに似た感覚を覚え、ああ、そうか。とやけに腑に落ちた。

だからキャロルは怒ってたのか。

自分を抜いて首席を取るような人間が、自分の誇りを傷つけるような謙遜をしたから。

考えてみれば、十歳であんな問題を解くのに、キャロルはどれほどの研鑽を積んだのだろうか。

入学して恥をかかないレベルなら、前段階試験の水準で十分だというのに、あんな非常識に難しいレベルの試験をまともにこなせるほどに勉強を重ね、自分が抜かれた相手を見てみれば、やる気はないけど仕方なく受験したという。

こっちからしてみりゃお門違いな怒りとも思えるが、怒る理由としては十分だ。

ましてや相手はまだ十歳なのだから。

「頭がいいだけの人間は、非凡とはいわないさ。早熟な人間を大器とは言わないように」

俺は少し永く生きているだけで平凡な人間なのだ。

ちょっとズルして生きていたら、気づかないうちに立派に生きている人間の邪魔をしてしまった。というだけの話だ。

俺が非凡なわけではない。

「確かにそうですね。ですが、分かりませんよ。僕たちはまだ幼いのですから」

残念ながら俺は幼くはないし、底が知れてしまっているんだよ。

だがそれを言うわけにもいかない。

「そうだな」

おざなりにそう返したとき、

「静粛に!」

という声が響き、入学式が始まった。