軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第167話 ミャロと報告

キャロルにプロポーズしてから二日後、ミャロに呼ばれて会うことになった。

ホウ社の会議室に入ると、書類の広げられたテーブルにミャロが座っている。

「ああ、ユーリくん」

椅子を立とうとしたミャロを手で制した。

「いいよ。今日はどうした?」

「新大陸からの報告です。カフさんが出張中なので」

「ああ、そうか」

ハロルが出している新大陸からの報告は、社内でも誰でも見れるわけではない。

単に入港報告とだけ銘打った封筒が、役員以外開封禁止と書かれた上、蝋封して送られてくるだけだ。

換字式暗号で一応新大陸などという単語は伏せられているが、大したものではない。

本当は高度な鍵暗号を使えば確実なのだろうが、技術者がいないし後々になってしまっている。

「見せてくれ」

と、椅子に座りながら言う。

「どうぞ」

受け取った書類をぱらぱらとめくる。

先程までやっていたのか、入れ替えられた単語が正しいものに直されている。

内容は特に疑問はない。

「家が二百戸……その程度か。うーん……」

「やっぱりお膳立てしても難しいものですね」

やっぱり一年やそこらでは進まないようだ。

なにせ無からの建設だからなぁ。

これでも、家一軒分の建材を全部こっちで生産して向こうに送るとか、そういうバックアップは絶えずしていたんだが。

「今の所、人数は千人だったよな。一軒あたり五人か」

「そうですね。ただ、家の大きさは大小様々ですから。夫婦には一戸建て、独り身は大きな雑居住宅という感じで」

「うーん……」

難しい……。

「やっぱり、規模は大きくなりませんね」

「まあ……時間は足りないな。地図もまだ届かないし」

地図作成は急ぎの任務なので、専門の技師を口説いて送ったのだが、まだ地図は来ていない。

向こうはこちらと違ってインフラも発展していないし、一年程度ではほんの少ししかできないものなのだろう。

「まあ、今攻められたら厳しいですね」

「そうだな。やっぱり、妙なこだわりは捨てて、ホウ家の事業にして大規模にしたほうがよかったかなぁ」

ホウ家のバックアップを全面的に受ければ、様々な部分のスケールが一回り大きくなったはずだ。

家を作る木材にしろ、船の量にしろ。

「何を言ってるんですか。そしたら今頃は諸侯たちが海を渡って領土を切り分けてますよ。戦争って気分じゃなくなるでしょうし」

ミャロはかばうようなことを言った。

領土を切り分けているかどうかはともかく、ミャロの言う通り、戦争する気にはなってないだろうな。

騎士というのは、「我が領民が一人でも残っているなら 殿(しんがり) を務めて散るのが騎士たるものの誇り!」なんて連中ばかりではない。

そういうのも一部居ないではないが、基本的には自らの家の保身を気にしている。

そんなんで戦場で散れるのか、という話になるが、結局戦場で死ぬかどうかは結果論なのだ。

突撃できるのも、それに従わなかったら将家の頭領から役目を降ろされるわけで、もちろん彼らは勇猛に突撃するわけだが、根っこのところには損得がある。

「そうかなぁ」

「絶対、そうです。下手をしたらホウ家とそれ以外で戦争をしてるかもですね。それも面白いかもしれませんが」

冗談じゃない。

しかしなあ……どうしたものか。

頭が痛い。

「それで、新大陸の存在は漏れてないのか?」

「水漏れはしています。でも、今のところは大丈夫そうです」

「なんでだ?」

「ボクの欺瞞工作が功を奏してるのもあると思いますけど……やっぱり、魔女というのは古い家柄ですからね」

古い家柄?

「古いとなんか関係あるのか」

「ありますよ。ある意味で農家の方々と一緒で、土地に深く根を張って生きているってことですから。王都に深々と根を張っているお陰で良い暮らしができているわけで、さあ根を切って身一つで新天地に旅立とう、ってわけには行きません。だから、興味も向きにくいんですね」

「ふーん……」

「もちろん王家が率先して移住計画を進めるなら話は別ですよ。でも独力で海を渡る力はないわけですから」

確かに、どれだけ頑張っても、魔女の連中が天測航法を身につけるなどということは考えられそうにない。

「それで、王家のほうは?」

「まだ悟られてはいないと思います。ただ、さすがに噂は広まってますので……。庶民レベルですけど」

「やっぱり、船員か……」

新大陸担当の船員のほうは、特別に契約書にサインをさせ、守秘義務を課してある。

その中には王家天領への立入禁止という条項が入っているのだが、やっぱり小金が入ったのに気を良くして船を抜け出し、王都で遊ぼうって輩はほんの少しだが居た。

今までに二人逮捕され、多額の賠償金を課された上で新大陸で暮らしている。

漁師でもやってるんじゃないかな。

「船員からの漏れもそうですけど、やっぱり移住者の徴募の時点で噂は流れますよね」

「でも、行った当人たちは帰って来てないんだぞ」

言ってみれば究極の口封じである。

「だから、色々な要素が絡み合って、色んな噂が醸成されてます。新大陸があるっていうのは飛びすぎな範疇ですけど、ずうっと南の国に移り住むだとか、海を延々と渡って、大陸の反対側の土地にたどり着くだとか」

「新大陸は飛びすぎなのか」

まあ、突飛な話ではあるわな。

「もっと凄いのもありますよ。地表の裏側に地底の世界があって、そこにいく穴を掘っただとか。水の中で呼吸が出来る薬を売ってるだとか」

「……あー、頭痛がするな。そういうのは」

でも馬鹿にはできない。

そもそも教育と呼べるものを何一つ受けていないのだから、想像力の赴くままそういう噂が流れるのは当然のことだ。

「まあ、そういうことですので、王家の方々がどれほど掴んでいるかは分かりません。向こうからのアプローチがないことには」

「そのことなんだがな、ちょっと状況が変わった」

「状況が? どんなですか?」

ミャロはニコニコと微笑んでいる。

いいづらい。

「あのな、俺が王家に入ることになったんだ」

「……はい?」

「キャロルと結婚することになった」

ミャロの微笑みは消えた。

「えっ……そうなんですか」

「ああ」

「結婚……はぁ、そうなんですか……」

呆気にとられたようになっている。

「ちなみに、どういった心境の変化が……?」

「子どもができたから……」

我ながら理由が情けないな……。

「あぁ……なるほど」

ミャロは少し眉を顰めて考える構えをみせた。

「……反対か?」

「いえ、新大陸のほうは時間的余裕に対して進捗が遅れてますし、国内を改革するのは楽しみではあるんですが……」

よかった。思ったよりショックではないようだ。

「あの、ボクはもう割り切ってるからいいですけど、リリーさんとかシャムさんとかはどうするつもりなんですか?」

「えっ……うーん、どうしようかな」

考えてなかった。

「最悪、社を去りますよ」

え……そこまでか?

「そこまでなるか?」

「なると思います」

「……ちなみに、どうしたらいいと思う?」

ミャロに聞くことなのかな。

我ながら最低な気がする。

だけど、ミャロくらいしか聞く相手が居ない。

「もう浮気したらいいんじゃないですか」

「バカをいうな」

「冗談を言っているわけじゃないんですけどね……一番即効性のある手段だと思いますし」

真顔で言ってるのが怖い。

だが、人間、できることとできないことがある。

昨日結婚してくれといった翌日に浮気とか。

やべーレベルのクズじゃん。

せめて三ヶ月後とか三年後とかさ……いやしないけど。

「うーん……まあ、話してみるか」

「話してみるって、お二人にですか? 直接?」

「そうだよ」

黙っているわけにもいかないし……。

「正気ですか?」

「えっ」

「それ、考えうる限り最悪の選択肢ですから」

最悪か。

いや、最悪か……?

直接話すのが最悪って。

……それってどういうこと?

「まずはボクが話してみます。少し時間をください」