軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第146話 新大陸

「本当か?」

胸が高鳴っていた。

「本当だ。言っとくが、ちょっとやそっとの島じゃないぞ。四日かけても回り込めもしなかった。ずーっと陸地だ」

となると、イースター島のようなちょっとした島を発見したのを勘違いしているわけではないだろう。

すごい。

やった。

金を出した甲斐があった。

「それで? 人は居たのか?」

「人?」

ハロルは、きょとんとした様子で言った。

まるで想像の範囲外だったらしい。

「なんというか、先住民みたいな連中だよ。原始的な暮らしの」

「見てねえな。上陸もしてみたが……まあ、いなかったな。でも、ヒトがいて国があるって事はないだろ」

「どうしてだ?」

ハロルが見ていないところで国はあるのかもしれない。

俺としては、できれば先住民の人々を殺して土地を奪い取る、ということはしたくなかった。

向こうから戦闘をしかけてくるのならまだしも。

「だって、四日かけて岸をまわったのに、まるで漁村がなかったんだぜ? そんなこと、ヒトがいたらあり得るか?」

あぁ、そういうことか。

至極まっとうな理屈だ。

「漁村を作るのが難しかったってことはないか?」

「いや、それはない。釣りをしたら釣れまくりだったぜ。それに、 海辺(うみべ) も別に山の背みたいに切り立ってるってわけじゃなかった。ヒトが大勢いて国があるんなら、そんなことはありえないだろ?」

ハロルのような船乗りたちは、ハロルが死にかかった時がそうだったように、食料と水がなくなったら干からびて死ぬしかない。

なので、食料は現地で調達できるなら保存食は食わないし、猟の道具や網までは持って行かないにしても、釣り竿くらいの道具は船に常備している。

釣りをしたというのは事実だろう。

よっぽど釣りをしまくって、釣果も上々だったのかもしれない。

それほどの海産資源があって、それを活用しないというのは、ありえない。

弓や鉄を知らない文明はあっても、海があるのに釣りや漁を知らない文明というのは、ちょっと聞いたことがない。

「なら良かった。とりあえず、先住民はいないってことでいいな」

いわゆる処女地という奴になるのか。

なぜ人が居ないのかは疑問だが、今考えても仕方がない。

「そうだな」

ハロルが言った。

「あとの問題は、いかに秘匿するかだ。どうなってる」

俺がそう言うと、カフが軽く手を上げ、話し始めた。

「とりあえず、俺の判断で船員は全員スオミで閉じ込めた」

「監禁してるのか?」

判断としては助かるのだが、長い航海から戻った船乗りを速攻で監禁するというのは、若干むごい気がした。

「いや、酒場には行かせている。喋るなと命令はしたから、団体行動をしているうちは喋ったりはしないだろう」

「信用できる副艦長が監督してる。酒に酔って喋ったりも、今のところはないだろ」

とハロルが付け加えた。

情報というのは、漏れるようにできている。

情報管理体制というのは、結局は人の自制心や責任感に寄るものだし、ハロルの雇っている船員はそこらのモラルが他人より特別高い人々ではない。

新大陸を発見した興奮、航海の間であったイベント、仕事の内容。

そういったものを、家族や酒場、そして恋人に話すだろう。

それを自制して、秘密を秘密として一線を引き、ストイックに生きられる人間は、そう多くはない。

また、場合によっては金を積まれて話したりするかもしれない。

だが、口を滑らすのが怖いからといって、彼らを延々と閉じ込めておくわけにもいかない。

「とはいえ、もう戻ってから十日以上経つ。その間、女は抱かせてないんだ。そろそろ限界だぞ」

これは、娼婦と二人きりになるからだろう。

寝物語に冒険譚を聞かせるというのは、馬鹿でも想像できる。

口止めをしても十人中一人くらいはそういう馬鹿が出そうだ。

まさか複数人で乱交させるわけにもいかない。

船乗りが陸に上がったら、真っ先にすることといえば娼館に行くことだ。

それを禁止して十日も閉じ込めるというのは、なかなか厳しいものがある。

不安にもなるし、怒り出す男もいるだろう。

「ふー……む」

悩ましい。

情報管理でいえば、全員殺してしまうのが最も安心できる。

死人に口はない。

だが、まさかそんな事はできないし、これから新大陸に関わる人間を全員殺していたら仕事が成り立たなくなってしまう。

関わる人間はどんどん増えざるを得ないのだから、喋る口もその分だけ増えるだろう。

「正規の報酬に一人あたり五千ルガほど上乗せして渡すか。多少は口が締まるだろう」

と俺は言った。

「口止め料か?」

カフが言った。

財布を管理する人間としては、気が進まないらしい。

「同時に、漏らした場合どうなるかというのを、良く言い含めておくことにしよう。恐怖は感じるが、従っていれば甘い飴をくれる、ってのが一番いい」

マフィア方式だ。

どのみち漏れるんだろうけどな。

自分が死んだら三年死を隠せと言ったところで、隠せるわけもない。

それが一週間後か、一年後かは分からないが、そのうちには公然と知れてしまうだろう。

どう漏れないようにするか、ではなく、周知されるのを遅らせるか、というのが問題だ。

そうなると、大事なのは漏れた情報を眉唾話にする情報工作のほうかもしれない。

漏れはじめに偽情報を広めるのもいいかもな。

実は小島だったとか、遭難して方角もわからなくなって、北極海の氷を見て陸地と勘違いした。とか……。

「こいつには難しいかもな」

カフが言った。

「舐めんじゃねえ。船長の仕事っつーのは恐れられなきゃ勤まんねえんだ」

「やれるのか?」

俺が聞いた。

「ああ、やれる」

まあ、ハロルが言うならそうなのだろう。

そもそも永遠に漏れないとは思っていないし。

「船員の管理だけはしっかりしろ。やめられた、来なくなったって奴がいたら、報告するんだ」

「わーってるよ」

ヤクザが足抜けを許さないって気持ちも分かるな。

別に俺は犯罪行為をしているわけではないのだが、秘密にすべきことを知っている人間が組織を抜けるというのは恐ろしいことだ。

「とりあえず、それとなく人を集めて、船で送って小さな町を作ろう」

幸運なことに、今は人は余ってるしな。

と、そこでカフが手を上げた。

「どうした?」

「それはいいんだが、新しく見つけた土地だの、町だのってのは、一体どういう扱いになるんだ? ホウ家の土地……ってことになるのか?」

「あぁ……」

思ってもみなかった。

基本的に、土地というのは個人の持ち物というより、国家が個人に貸しているような扱いになっている。

土地を持つ、土地を所有する、などと便宜上は言うが、例えばこの別邸はホウ家領土の飛び地ではないし、この土地を教皇領に売ったら、ここが教皇領の領土になるわけではない。

所有権というのは国に保障されるものだが、支配権というのは実力で維持するものである。

それならば、新大陸に見つけた新しい土地は、ホウ社という法人が支配権を持つ、いわば企業国家の領土……ということになるのだろうか?

ずいぶんと未来的な話だ。

「そのへんは、ちょっと聞いてみるが……まあ、どっちにしろ王家の干渉は許すつもりはない。法律がどうこうってのは、今は考えなくていい」

王家に報告して公になりでもしたら、メチャクチャだ。

どいつもこいつも、欲しがるに決まっている。

特に魔女家なんぞは、血相を変えて影響力を作りに行くだろう。

早速この半島を捨てて移り住むことすら検討するかもしれない。

「俺が言いたいのは、金になるのかって話だ。町を作ったって、金にはならんだろう。俺たちで徴税でもするのか?」

えらく現実的な話だ。

「うーん……まあ、色々考えてる仕事はあるし、いざとなれば渡航料を取ったっていいわけだしな」

「いいだろう。だが、将来的にホウ家の領土になるなら、ホウ家が金を出すのが筋だと思う。単純に言って、俺たちの儲けから金を出して探検までして、全部お膳立てしておいて土地はタダで献上、ってのはおかしな話だろ」

それは確かに。

カフのほうが正論だ。

だけど、ホウ家のもんにするのは違うんだよな。

ホウ家が金を出すにしても、その金は徴税から集めてきたわけで、その金で 贖(あがな) うのであれば、利益はホウ家領の領民に還元されるべきだ。

つまらない意地かもしれないが、そこのところは変えたくない。

それに、ホウ家といっても情報管理がしっかりしているわけではない。

例えば、親父のルークにこれを話すだろう。素直に重役どもの評議にかけでもしたら、一発でオジャンだ。

確実に魔女家には漏れるし、場合によってはクラ人陣営側にガバ漏れになるかもしれない。

「そのへんは、良く考えておくが……まあ、社の領地ってのもいいんじゃないか」

「なに?」

カフがいぶかしげな顔をした。

「考えても見ろ、この国はーー」

と、そこで俺は口をつぐんだ。

廊下から人の足音のようなものを感じたからだ。

「どうした?」

ハロルが口を挟むと、それと同時にノックの音が響いた。