軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

教皇とバトルします。前編

「結界ですか。……しかしこんなもの……ふんっ!」

ギタンが力を込めると、結界にヒビが入り始める。

がしゃああああん! とけたたましい音と共に結界が割れ、魔力片が辺りに散らばり霧散していく。

「……ふぅ、かなり硬い結界でしたが、神魔生物であるこの私には結界を破るなど造作もありません」

肩を鳴らしながらこちらを向くギタン。

なるほど、あれだけの魔術が使えるなら、結界に対する知識もかなりあるだろう。

結界は基本、魔物など魔術の使えない相手に対して使うもの。

術式を理解している魔術師相手には、防御目的ならともかく捕縛目的に使うのは効果が薄い。

極論、時間さえかかれば誰でも解けるからな。

「だったら普通に戦闘不能に追い込むだけだ」

「くくっ、逃げようともせず逆に向かってくるとは……いいでしょう。折角ですし、この身体の運用試験に使ってあげます」

ギタンはそう言ってパチン、と指を弾いた。

すると部屋の空間が一瞬にして広がる。

ふむ、空間系統魔術か。かなり難易度の高い『領域拡大』を使うとは、やはり魔術に関してはかなり造詣が深いようだ。

「これなら思いっきりやれるでしょう。さぁて、あまり早く死なないで下さい……よっ!」

一足にて、俺の眼前まで迫るギタン。

――疾い。振り上げた拳を高速で叩きつけてきた。

だが自動展開した魔力障壁それを防ぐ。

ぎしり、と空気の壁が軋み、大きくたわむ。

「ほう、魔力障壁ですか。ですが無駄無駄無駄ぁっ!」

ギタンは構わず拳を叩きつけてくる。

四本の腕での連打、自動展開した魔力障壁が一瞬にして砕け散った。

即座に次の魔力障壁が自動展開されるも、やはり即座に叩き壊される。

次も、そのまた次も。展開されるたびにだ。

「おいおいなんだこいつは、これだけ強固な魔力障壁を一秒もかけず破るとは信じられねぇ! 俺様ですら数秒はかかるってのによ!」

「四つの結界解除術式を同時に行使し、魔力障壁を弱体化しているのです。おかしい……確かにギタンは優秀な魔術師ですが、ここまでの使い手ではなかったはず……」

グリモとジリエルが呟いている間にも高速で魔力障壁を展開しているが、向こうが破る方が早い。

「くくっ、中々高密度の魔力障壁ですが、我が身体には脳と心臓が五つ搭載されている! 並列思考による術式を同時展開など、お手の物なのですよ! もちろん――攻撃もね!」

足元に生じる魔力反応。

次の瞬間、地面が競り上がり岩石が伸びてくる。

土系統魔術『岩牙』だ。

俺はそれをひょいっと跳んで躱した。

「かかりましたね! 空中では動きが取れないでしょうっ!」

無防備に宙を舞う俺目掛け、ギタンの蹴りが放たれる。

だが魔力障壁・強を発動。

がきん! と鈍い音がして、蹴りは俺の眼前で止まった。

至近距離で発動させるという制約により、本来の十倍の硬度を誇る魔力障壁・強。

あっさりこれを使わされるとは。中々やるな。

衝撃で吹き飛ばされながらも、俺は反撃するべく術式を練り上げる。

「やるな。今度はこっちから行くぞ」

繰り出したのは火系統最上位魔術『焦熱炎牙』。

それを魔力集中にて一点に集め、高密度の炎の塊にして放つ。

青白く光る炎の牙がギタンへと真っ直ぐに飛んでいき――命中。そしてギタンの上半身が吹き飛んだ。

「ざまぁ! 一撃だぜぇ!」

歓喜の声を上げるグリモ。やべ、やりすぎたか。

まさか一撃で死ぬとは思わなかった。

だがおかしい。奴ほどの魔術師なら今の一撃、魔力障壁でガードくらい出来たはずだが、全く防御した様子がなかった。

「ロイド様の攻撃に耐えられる魔術師はそうはおりますまい。哀れなギタンよ、安らかに眠るがいい」

ジリエルがそう呟く中、もうもうと上がる煙を眺めていると、ギタンの身体がびくんと動く。

「な、なんだぁ? 死体が痙攣してやがるのか」

「いや、待て……様子が変だぞ」

グリモとジリエルが見守る中、痙攣は二度、三度と続き、そして――ギタンの下半身から上半身が、ずるりと生えた。

その姿は完全に吹き飛ぶ前と寸分たがわぬ様相である。

ギタンは確認するように手足を動かすと、こちらを向いてにやりと笑う。

「――くっくっ、神魔生物はあらゆる生命を超越する存在。当然スライム種の高い再生力も取り入れています」

粘体生物が故の圧倒的再生力、確かに今のを見せられたら信じるほかない。

魔物の構造を術式化して一つの身体に収めているとしか考えられないな。

遠目から見ただけだがギタンを構成する術式はスパゲッティのようにぐちゃぐちゃで、複雑に絡まり合っている。

恐らくもう二度と元には戻れないだろう。

俺は目を細め、ぽつりと呟く。

「……早まったな、ギタン」

「哀れみですか? ……つまらぬ人間の尺度で考える必要などありませんよ。私は後悔など何一つしていません。何物をも圧倒する力! 死すら超えた生命力! 私は神に等しい存在となったのですよ! はぁーっはっはっは!」

勝ち誇ったように大笑いするギタンに、俺はため息を返す。

「いや、そうじゃなくてさ。それだけ雑な術式だと必要な術式を新たに加えたり、逆に不要となった術式を外せなくなるじゃん。魔術の世界は進歩が速い。時代遅れになった術式を使い続けなきゃいけないのはつらいと思うぞ……」

同じ魔術でも、長い年月をかけて何度も術式の一部を削除したり組み直したりして進化してきた。

十年もすれば今まで使っていた術式は総入れ替えになってしまうのが魔術というものだ。

まぁ古い術式に新たな使い道が見つかって復活することもあるが、それはそれ。

同じ術式を使い続けないといけないなんて、進化を捨てたも同然だ。

俺が早まったといった意味を悟り、ギタンはぎりりと歯噛みをした。

「ぐ……だ、だまれ! だまれだまれだまれ! 私は最強の存在なのだぁぁぁぁぁっ!」

向かってくるギタンに向け、指先から魔力光を放つ。

毒系統魔術『毒牙』。

飛びかかる蛇に噛み付かれたが如く、ギタンの身体に鋭い穴が空いた。

傷跡を押さえながら、ギタンは驚愕に目を丸くする。

「ば、馬鹿な!? 何故再生しない!?」

塞がらない穴を見て、声を荒らげるギタン。

「毒を埋め込んだ。再生を上回る毒をね」

術式を何重にも加え、数十倍の濃度を持つ『毒牙』。

本来ならばそれでもスライムの再生力には及ばないはずだが、これらの毒は腐食、風化、分解など、全てスライムに特効のある毒ばかりだ。

しかもこれだけ体内を術式で固めていると、治癒の術式などは効果が薄くなる。

だからギタンには自身の毒の治癒が出来ないのだ。

再生力があれば問題ないと思ったのだろうが、浅慮だったな。

それを知っていれば新たな術式を組み上げることも出来ただろうに。

……とまぁこのように術式を固定するというのは、柔軟性を捨てるということなのである。

「最強の存在、か。思ったほどではないんじゃないか?」

「ぐ、ぐぐぐぐぐ……!」

俺の言葉に、ギタンは拳を握り締めそこから血を滴らせていた。