軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖餐式を見学します

晴れて出入りを許可してもらった俺は、イーシャに続き教会の中を進んでいた。

赤い絨毯の敷き詰められた廊下には、ステンドグラスからの光が射して様々な色を映し出していた。

「口添えしてくれてありがとう。イーシャ」

「いえいえ、構いませんよこのくらい。ロイド君は私にとっても弟のような存在ですから。それにお礼を言うならそっちの子たちにも、ですよ」

「うん、ありがとうレン、それにシロも」

「ぼ、ボクはその、別に……」

「オンッ!」

勢いよく抱きつくシロの頭を思いっきり撫でてやる。

よーしよし、よくやったぞ。

レンはその様子を羨ましそうに見ていた。

「ふふふ、とても仲が良いのですね。結構な事です」

柔らかな微笑を浮かべるイーシャ。

なんだか照れ臭いな。俺は話題を変える事にする。

「ところでどこへ向かっているんですか?」

「それはもちろん聖餐会の準備ですよ。手伝ってくれるのでしょう?」

「も、もちろん!」

やべ、完全に忘れていたぜ。

嘘っぱちでも信徒になったんだからやることやらなきゃだよな。

「良い返事です。では礼拝堂のお掃除を一緒にやりましょうか」

「わかったよ……」

というわけで、俺は皆に交じって礼拝堂を掃除した。

その間、老若男女、結構な人数の者たちがお祈りなどで礼拝堂を訪れていた。

もう数十人は通っただろうか。

いやはやすごいな、これだけの人間が神を信じているなんて。にわかには信じがたい事である。

「ロイドは神サマとか信じているの?」

「いや、全く信じてないな」

「だよね! 神サマなんて嘘っぱちだよ! 神サマに祈ったって助けてなんかくれないのに、何でここまで熱心に祈りに来るわけ? 信じられない!」

憤慨するレン。

能力のせいで恵まれない幼少時代を過ごしたからだろう、神には思う所があるようだ。

「まぁ落ち着けレン。こんな所で大きな声出すもんじゃない。それにここにいる人たちも皆、本気で神を信じてるわけじゃないさ」

「どういうこと?」

「人間ってのは生きて行く上で何かしら心の拠り所が必要なんだ。だがそれを持つ人間は存外少ない。そんな人たちにとって神ってのは、いつでもどこでも祈りを捧げることが出来る便利な偶像なのさ」

つまりは皆、何かにすがりたいのだ。

そうすることで心は鎮まり、また生きていけるのである。

「……? ふーん」

だがレンには俺の言ってる意味がよくわからないのか、首を傾げていた。

「あらあら、聞き捨てならないですね。ロイド君。そういった発言は神への冒涜ですよ」

「い、イーシャっ!?」

やべ、聞かれてた。

慌てて口を噤む俺に、イーシャは優しく語りかける。

「確かに神はそう易々と姿を現しはしません。ですがちゃんと存在します。一年前、私の前に現れて神聖魔術を授けて下さいました。その際に見た神々しいお姿……今でも脳裏にハッキリと映っています」

「おおっ! イーシャは神聖魔術が使えるの!? 神様も見たの!? 俺も見たい!」

「ふふ、ロイド君もいい子にしてたら、いつか会えるかもしれませんね」

むぅ、はぐらかされてしまった。

それよりも今の発言だ。

確か神聖魔術を習得するには信徒として神に仕え、天の御使いとやらに認めてもらわなきゃいけないんだったよな。

イーシャの口ぶりからすると、そいつは比喩表現ではないのだろうか。

いや、子供相手だからと適当に言っている可能性もあるか。

「うーん、なんにせよ神聖魔術を直に見ないと始まらないなぁ。グリモを解放して暴れさせたら、神官たちが神聖魔術で追い払ったりしないかね?」

「ちょ、勘弁して下さいよロイド様っ!?」

「冗談だよ。冗談」

ていうかそれはもうすでに昔試したからな。

見た目が悪魔っぽい自立型魔術を使用して教会で軽く暴れさせた事があるが、教会の人たちは逃げ惑うばかりで戦おうとはしなかったのである。

思うに熱心な信徒ってのは精神的にはいい人なのだ。

故に襲われたからと言って即、戦うという選択肢に至らないのであろう。

ったく、折角の神聖魔術が宝の持ち腐れだぜ。

「……ロイド様、そりゃ出禁にされますぜ」

「え? 俺、何か言ってたか?」

「何やら物騒な事をブツブツと」

おっと、考えていたことが口に出てしまったようだ。

たまにあるんだよな。反省反省。

「イーシャ」

ふと、礼拝堂に凛とした声が響く。

声の方を見ると、サリアがいた。

「そろそろ合わせの時間だよ」

「あら、もうそんな時間でしたか。それじゃあね、ロイド君、レンちゃん。また後で……それとロイド君、今日は神聖魔術なら見れるかもしれませんよ」

ぱちんとウインクをして、イーシャは小走りに駆けて行った。

そして夕方、掃除が終わり俺たちは礼拝堂に座して待つ。

これから演奏会が開かれるという事で、周りにはそれを待つ人たちが増えてきていた。

「しかしさっきのイーシャの言葉はどういう意味だったんだろう。今から神聖魔術を見られるかもしれない……ってやつ。聞き忘れたけどグリモは神聖魔術を見たことがあるんだっけ?」

「数回だけですがね。思い返せば神聖魔術ってのは歌が発動のカギになっているようでしたな」

「へぇ、儀式で発動させるタイプの魔術なのかな」

魔術を起動させる方法は術式と儀式に大別される。

術式は魔力に様々な式を書き込み、現象として顕現させるもの。

対して儀式は高い魔力を持つ者による歌や踊りによるものである。

古来から存在し、雨乞いの踊りなどが元となっていると言われている。

今では術式と併用する場合が多いが、魔術にも組み込まれているものが多いのだ。

「ってことは演奏会で神聖魔術が見られるかもしれないのか。グリモ、お前大丈夫か?」

「あのシスター、魔力はそこまででもないんで、もしやられても自分にゃ効きません。攻撃系の神聖魔術を使うとも考えられませんしね。……まぁ仮に使われても、ロイド様の身体にいるんで全く問題はないでさ」

神聖魔術は魔人によく効くらしいし、浄化されたりしないか気になったが、……そう言うなら大丈夫か。

「まぁ楽しみに待つとしよう……ん?」

ふと、入口の方で声が聞こえた。

見れば道中、俺に絡んできた冒険者の男たちが立っている。

「やっぱりだ。あのガキここにいやがった!」

「ヘラヘラしやがって、ムカつくガキだ。聖餐式だかなんだか知らねーが、めちゃくちゃにぶち壊してやるぜ!」

まてまて、聖餐式をぶち壊すだと?

折角神聖魔術が見られそうだってのに、何をやらかすつもりなんだ。

……仕方ない。外野には退場願うとするか。

俺は全身の魔力を絶ち、ゆっくりと立ち上がる。

魔力遮断にて気配を絶った俺は、男たちの方へと歩いていく。

「ロイド……?」

しっ、と人差し指を唇に当て、レンを黙らせる。

周りの人間は誰一人として俺が移動しているのに気づいてないようだ。

そのまま入り口へと向かうが、男たちも俺の方を見ていない。

視界に入った石ころに誰も注意を払わないように、相当意識してなければ俺には気づかないのだろう。

男たちの真横を通り、背後に立つ。

そして、両掌の魔力を解放。

瞬間、男二人の姿が消えた。

気配を消したまま席に戻ると、レンが小声で話しかけてくる。

「……今のって、もしかして空間転移?」

「あぁ、ジェイドに術式まで見せて貰ったからな。解析してみた」

暗殺者ギルドのボス、ジェイドは空間転移の能力を持っており、それを術式でコントロールしていた。

あらゆる魔力を吸収、保存、解析するこの吸魔の剣で吸収した事で、俺にも空間転移が使えるようになったのだ。

とはいえ完全制御には程遠く、彼らがどこに飛んで行ったかもよくわからんが……手応えからして街の外辺りだと思う。

「すごいねロイド! ……はぁ、ボクも早く能力を術式化出来ないかなぁ」

ため息を吐くレン。

毒を生成するレンの能力は上手くコントロール出来れば薬にもなる。

そう焚きつけて色々勉強させているのだが、随分苦戦しているようだ。

レンはまともな教育を受けておらず、とりあえず簡単な魔術書を読み聞かせているが、どこまで理解しているかは疑問である。

俺の知識を一部コピーして、対象の脳に直接貼り付ける術式を組み上げた方が早いかもしれないな。

ただそれを行った場合、被術者にどんな影響があるかわからない。

まぁ最終手段として考えておくか。

「……ロイド、なんか今怖いこと考えてなかった?」

そんな事を考えていると、レンが怯えた目で俺を見る。

失礼な。俺はいつも通りである。