軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔族とバトルします、後編

ちらりと視線を後方へ向ける。

レンたちは……うん、もう城の外まで逃げているな。

これで心置きなくやれそうだ。

「さて、と――」

「ぐ……!」

一歩後ずさるギザルム。

何かをやろうと手を掲げ、魔力を集めようとするが不発。

当然だ。さっきの攻撃で周囲の魔力は随分と少なくなっているからな。

通常、魔術師は周囲の魔力ではなく自身の魔力を使って魔術を行使する。

その方が魔力を制御しやすいし、術式で増幅させれば出力は十分足りるからだ。

対してギザルムのそれはあまりに力任せな方法である。

確かに周囲の魔力を大量に集めて放てば、自身の魔力を使わずに済む。

だが考えなしにそれをやれば辺りの魔力がなくなり、しばらくの間は攻撃が出来なくなる。

……そういえばグリモが使っていた古代魔術も大量の魔力を集めて撃ち出すだけ、みたいな単純なものだったな。

魔界ではそれで十分だったから工夫が生まれなかったのかもしれない。

「よぉし! 奴の攻撃は恐るるに足りねぇ! 反撃開始だぜロイド様! 今なら奴は無抵抗、魔族といえどさっきの魔術を当てれば当てれば倒せるぜ! さっさとぶっ殺しちまってくだせぇ!」

はしゃぐグリモ、だがそう上手くはいかないだろうな。

難しい顔をする俺を見て、ギザルムは何かに気づいたように口元を歪めた。

「! ……そうか。なるほど。く、くく……そういう事か。確かに僕の攻撃でキミに決定打は与えられないかもしれない。だがそれはキミも同じなのだろう?」

「……ご明察」

先刻撃ち込んだ魔術ではギザルムに全くダメージを与えられなかった。

グリモの言う通り、魔力すらも亜空間へ飛ばせる『虚空』なら倒せるだろうが、あれは射程が短すぎるのだ。

空間系統魔術は制御が非常に難しいので手元から離すと暴走する恐れがあり、発動にも結構時間がかかるので動き回る相手に当てるのは至難の技なのである。

「そ、そんな……」

「まぁそういうことだ。加えて言えばキミの他の攻撃が当たっても僕にはダメージを与えられないが、僕の攻撃が当たりさえすればキミを殺すことは可能。つまりこちらはキミが息切れをするまで攻撃を続ければいいのだよ。キミが魔力切れを起こし防御不可能となった時、僕の勝ちが確定するというわけさ!」

ずずず、と手元に魔力球を浮かべるギザルム。

む、思ったより魔力が満ちるのが早いな。

ここら一帯の魔力を使い果たしたとは言っても、水が低きに流れるように他所から魔力はどんどん流れてくる。

そこそこの威力の攻撃ならば、辺りの魔力を枯渇させずに連続して攻撃を行う事は可能だろう。

「てことは……やっぱりヤバいじゃねぇっすかぁーっ!」

グリモが悲鳴を上げる中、ギザルムが魔力の刃を放ってくる。

「アハハハハ! その通り! 大人しく死ぬといいよ!」

「く……!」

攻撃を全て魔力障壁で弾きながら、こちらからも反撃を試みる。

右手に生み出した口と共に呪文の詠唱を開始する。

「■■■、■■■」

火系統最上位魔術『炎烈焦牙』と風系統最上位魔術『空烈嵐牙』の二重詠唱。

巻き起こる炎と風が渦巻き、鋭い牙を形作る。

――合成魔術『炎嵐渦牙』

どかあああん! と爆音を響かせ、炎と風の混じり合った牙がギザルムに命中した。

「くくく……無駄無駄」

だが実体を持たぬギザルムには効果はないようだ。

燃やそうが切り裂こうが、すぐに元に戻ってしまう。

「この身体はあくまで仮初の身、如何なる攻撃も無駄無駄無駄ァ! 人間如きが僕たち魔族を倒す事なんて不可能なのだよ。そして更にもう一つ、絶望的な事を教えてあげよう……!」

ギザルムが手をかざすと、魔法陣が身体を包んだ。

術式!? 何故今頃になって……疑問に思っているとグリモが俺の手ごと動いた。

「ロイド様、後ろですぜっ!」

引っ張られた俺のすぐ横を、ギザルムの魔力球が掠める。

見ればギザルムの腕だけが俺の真後ろに浮いていた。

「くく、惜しい……」

そう呟くギザルムの腕は、途中で消えている。

どうやら腕だけを空間転移させたようだ。

「……なるほど、ジェイドの能力か」

暗殺者ギルドにて、手紙を直接届けた能力。

予想はしていたが、やはりジェイドの能力は空間転移だったか。

しかも自分の能力を空間系統魔術や補助術式と組み合わせ、自在にコントロールしているのだろう。

むぅ、なんて便利なんだ。羨ましい。

「ほらほらほらほら! 死角からの攻撃に全て対応出来るかい!?」

ギザルムは両手を俺の頭上、背後に空間転移させ、魔力球を撃ってくる。

上下左右から放たれる魔力球。

魔力の流れが読みにくく、しかも魔力障壁で防ぎ切れない程の威力だ。

「ロイド様、右……じゃなくて上……いやっ、下、右後ろ……あぁぁぁぁっ! もうわけがわからねぇ!?」

「魔力障壁だけで対応しきれないか……ならば、こいつを使う!」

腰に差していた吸魔の剣を抜き放つ。

魔術を吸い取り蓄える事が出来るこの剣に加え、制御系統魔術にて全力のシルファの動きをコピーする。

「ふっ!」

短く息を吐いて剣を振るう。その刃で迫りくる攻撃を全て受け止め、吸収した。

更に宙に浮いたギザルムの手に追撃をかけるが、そちらは術式に掠っただけで終わる。

「おおっと、魔術師と侮っていたが思った以上に動けるじゃあないか。……だがその速度、今ので憶えた」

どおん! と下顎が突き上げられる。

下方から撃ち込まれた魔力球により、自動展開した魔力障壁が砕け散った。

すぐに剣を振るうが距離がありすぎて届かない。

俺の空振りの隙を突き、またも放たれる魔力球。

どん! がん! ぎん! がつん! 完全に間合いを見切られ、俺の死角、または射程外から撃ち込まれる魔力球にてこちらの魔力障壁は破壊されていく。

そして、全てを突破した魔力球が俺の頭を捉え、揺らした。

「ロイド様ぁっ!」

衝撃で少しだけよろめいたが平気だ。

至近距離に展開した魔力障壁・強でガードしている。

だが矢継ぎ早に放たれる魔力球が、その上から俺を打つ。打つ。打つ。

ガツンガツンとうるさい音と共に衝撃が響き、俺はついに膝を突いた。

その間も攻撃は止む事はない。

「アハハハハ! 無様だな! まるで亀のようじゃあないか! そのまま蹲っているがいい! 亀の甲羅を毟るがごとく、その魔力障壁を全て剥ぎ取ってくれる!」

高笑いしながらも頭上から降り注ぐ魔力球の雨あられ。

俺はただうずくまって耐えるのみである。

「終わりだ! 死ね! 死ね死ね死ね死ね! 死ねっ! この僕に逆らった事を後悔して、死――」

言いかけたギザルムの攻撃が止まる。

そりゃ止めざるを得ない。

何せ攻撃を仕掛けようとした奴の腕は、既に消滅しているのだから。

「な……っ!? な、何故僕の腕が……!?」

「ふむ、やはり異空間に飲み込まれた箇所は魔族だからって復活は出来ないようだな」

俺の言葉にギザルムは自分の腕を空間転移させた箇所を見る。

そこには黒い渦が浮かんでいた。

異空間へと通じる扉を開く魔術『虚空』により生まれた渦が。

「ば……馬鹿なぁぁぁっ!?」

ギザルムの腕はモヤがかかったようになり、そこから霧散しているように見える。

魔人が消える時と似ていた。

「い、一体何をした……? 僕は攻撃のたびに移動していたし、死角も突いていた。動きを先読みはされてないはずだ。故にそんなすっとろい攻撃に当たるはずがない……!」

「そうですぜロイド様! その魔術は発生も遅いし射程も短いからとてもじゃないが当てられないと言ってたじゃないですかい!?」

ギザルムとグリモ、二人の問いに頷いて答える。

「あぁ、だから術式を組んだのさ。今さっき、蹲っている間にね」

――先刻、俺は相手の空間転移術式に吸魔の剣で触れた。

触れた事によりその術式を吸収、調べ上げた。

吸魔の剣には『鑑定』の術式を刻んでおり、吸い上げた術式の構成を調べることも出来る。

そして調べ上げた術式の出始めを感知する術式を今しがた組み上げたのだ。

あとはそれに『虚空』の術式を連動させるだけ。

ギザルムの腕が空間転移してくると同時に術式を読み取り、その場所目掛けて『虚空』が発動。

腕が出現したのと同じ場所に、亜空間への穴が開くという寸法である。

「術式を組み上げた!? さっき丸まっていた間にか!? 術式は簡単なものでも数日がかりで組み上げるようなもの。たった数十秒で出来るような事ではない! ありえない! ありえないありえないありえないっ!」

「信じられねぇ! 半端ないですぜロイド様! これも日々術式をいじくり倒して魔術を魔改造しているおかげだ! 染みついているんだ、術式の解析能力が! 組立能力が! ありえねぇレベルで!」

二人が何やらブツブツ言っている。

まだ余裕あるな。トドメを刺しておくとするか。

俺は狼狽えるギザルム目掛け、『虚空』を発動させる。

「しまっ――!?」

独り言に気を取られていたギザルムのどてっぱらに空く、黒い穴。

そこへギザルムの身体は吸い込まれていく。

胴体が、手足が、頭が――

「ぐ……く、く……くそぉおおおおおおおおおおお!」

ギザルムの断末魔の声が城に響く。

だがそれもすぐに聞こえなくなった。

黒い渦が消滅し、ただ静寂だけが訪れた。