軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ボスの屋敷に着きました、が……

食事を終え、片付けをしているレンをぼんやりと眺めていた。

「それにしてもレンの奴、本当に森に詳しいんだな」

これだけの野草やキノコを採って来れるなんて、普通ではないぞ。

どれだけ森に篭っていたのやら。

「詳しいなんてもんじゃないぜ。なにせレンは幼い頃はずっと森で生活していたらしいからな」

「森で? 何故だ?」

俺の質問にガリレアは少し考えた後、答える。

「……まぁロイド様になら話してもいいだろう。俺たち『ノロワレ』は街では嫌われ者、ここにいる連中は皆、色々とひでぇ扱いを受けたもんさ。だがレンへの迫害は俺たちとは比べものにならなかった。なんでも生まれて数年で自身の巻き散らす毒で両親が死に、その後も親戚を点々としていたらしい。行く先々で嫌われ続けたレンは結局居場所を失い家を出た。逃げ込むように森へ入り、以来ずっとそこで生活をしていたそうだ」

ガリレアの言葉にグリモが頷く。

「確かに周囲に毒を撒き散らすような人間は街では厄介者でしょうなぁ。街の連中の気持ちもわかるぜ」

人は自分と違うものを嫌うものだ。

前世でも俺が魔術の研究をしてた時は、よく白い目で見られたものである。

「そこへ現れたのがジェイドだ。ジェイドはレンに色々な事を教えた。『ノロワレ』としての処世術、能力の制御方法、それでも漏れる毒の対策に魔力遮断の術式を編み込んだ服だって作ってやった。その甲斐あってレンは今のように明るさを取り戻したのさ。だからレンはジェイドを実の兄のように慕っているんだよ」

重々しい口調で語るガリレア。

……なるほど、そんなことがあったのか。

レンはやたらジェイドに対する信頼を口にしていたが、そういう事なら無理もないな。

「ジェイド自身も『ノロワレ』だ。貴族の生まれだろうがきっとそれなりにひどい扱いも受けたんだろう。常々言っていたよ。どんな手を使っても自分たちが差別されない住みよい街を作って見せるってな。なんやかんや言ったが、俺たちはそんなジェイドについてきたんだ。あいつが俺たちを裏切ったなんて思いたくはねぇ」

まっすぐ前を見据えるガリレア。

なるほど、罠の可能性がありつつもこうしてここまで来たのはジェイドを信じているからこそか。

レンも、他の者たちもそうなのだろう。

俺も協力してやりたいところだな。……彼らのような能力者が住みやすい街が出来れば、色んな研究対象が増えるし。

「ロイド様、なんでニヤニヤしてるんですかい?」

「え? そんな顔してたか?」

おかしい。キリっとしてたはずなんだけどな。

キリっと口元を結ぶ俺を見て、グリモは怪訝そうに沈黙していた。

■■■

そして一夜を明かし、翌日。

俺以外への負担のデカい『飛翔』は使わず、歩いてロードスト領主邸へと向かった。

おかげで時間はかかったが到着したのは夕方前。丁度いい時間である。

ロードスト領主邸は街から離れた丘の上にあり、城壁と川に囲まれたその姿はまさしく堅牢な要塞。

戦好きな領主が建てただけはあるな。

何度か他国との小競り合いをしたが一度たりとも落ちた事がないらしい。

「それにしても……何やら騒がしいな」

身を隠しながら近づいていくと、邸には明かりが煌々と輝いており、遠くからでもわかる程大勢の人の気配を感じられる。

「きっとボクたちを歓迎する準備をしているんだよ!」

「だといいが……まぁこうしていても仕方ないな」

ガリレアはそう言うと身を乗り出し、入り口に向かって歩き始める。

「とりあえず俺一人で行ってみるぜ。何かあったらすぐに逃げるからよ」

そう言うとガリレアの気配が、すっと薄くなった。

おおっ、レンが城に侵入した時と同じ感じだ。

じっくり見ている今ならわかる。普段、身体からわずかに漏れている魔力を完全にシャットアウトしているのだ。

へぇ、こんな技は初めて知ったな。普段から魔力をどれだけ捻出するかを考えている魔術師にはなかった考えだ。

普通の人間も無意識に魔力を出しており、達人はその僅かな気配を辿るという。

逆に言えば漏れ出る魔力を断てば達人にも気配は知られないのは道理。今度試してみるか。

そんな事を考えているうちに、ガリレアは手から蜘蛛糸を伸ばし城壁に張りつけ、それを手繰ってよじ登っていく。

天井をひらりひらりと飛び渡りながら進んでいく。まるで蜘蛛だな。

あっという間に邸へ辿り着いたガリレアは窓を覗き込んだ。

そしてしばらく観察した後、戻ってくる。

「普通に宴の準備をしていたな。兵士もいるが武装は最小限だ。マジで歓迎されてるみたいだぜ」

「ふむ……行くしかないか」

どちらにせよここまで来て行かないって選択肢はない。

俺たちはまっすぐに門へと向かう。

そこにいた兵士はにこやかな顔で俺たちを迎えた。

「ようこそ。ジェイド様の同胞様ですね。どうぞ中へお進み下さい。宴の準備が整っておりますので」

「……どうも」

心配をよそに、あっさり通される。

中では沢山の兵士たちが和やかに談笑していた。

テーブルには沢山の豪華な料理と酒が並んでいた。

「こちらでご自由に食事をしながら待っていて欲しい、と我が主人は仰られています」

「おほーっ! こりゃすげぇ! とんでもねぇご馳走だぜ!」

「見た事がないような酒もあるよ!」

「どれを食べてもなんでもいいのかい? クク、大盤振る舞いじゃないか。すごいねぇ」

「……美味ソウ」

兵士に勧められ、食事を始めるガリレアたち。

よほど腹が減っていたのだろうか。凄い勢いだ。

「ロイド様、なーんか嫌な感じがしやすね……」

「あぁ、面白そうな雰囲気がプンプンするな」

この周囲一帯に漂う魔力濃度の高さ。

兵士たちも普通の人間とは思えない魔力を感じる。

そして何より、最上階からでも届く異様な気配。

何が起こっても不思議ではない。

「ていうか毒があるかもしれねぇのに、あいつらバクバク食べてますが大丈夫ですかい?」

「一応『鑑定』で見たが毒などはなさそうだな。兵士たちも食べているし、その点は問題ないと思う」

分析系統魔術『鑑定』はあらゆる物体に対しての情報を得る。

毒などが入っていれば一発でわかるのだ。

とはいえ食べる気は起こらないが。

辺りを観察していると、兵士の一人が声をかけてきた。

「おや、飲まれていないのですか?」

「あいにくと喉が渇いていなくてね」

「おや! なんと勿体無い! ここらで手に入る一番の食事なのですぞ! あぁ美味い美味い!」

兵士は楽しそうにワインをガブガブと飲み干す。

口の端からは真っ赤な液体が零れている。

兵士の目の焦点は合っておらず、笑いながらワインを呷るその光景は何とも不気味だ。

それはこの兵士一人だけでなく、他の者たちも似たようなものである。

「ロイド、なんだか怖いよ……」

レンが俺に身を寄せてくる。

どうやらこの異様さを感じ取っているようだ。

「どう考えても危険だよ。何かが起きている。皆、何で気づかないの?」

「辺りを漂う妙な魔力に酔っているんだろうな」

何者かの発する強力な魔力。

耐性を持たない者はまともな意識は保てないだろう。

レンが平気なのはあらゆる体調不良を防ぐという特異体質によるものだろう。

異様な光景、異様な事態、そんな中、階上の気配が動き始める。

ゆっくり下へ、階段を降りてきた。

かつん、と渇いた音が響き人影が姿を見せると、騒がしかった会場が一斉に静まり返る。

「やぁやぁ、よく来てくれたね。同胞たち」

黒く長い髪、そして漆黒の瞳を持つ青年だった。

「ジェイド……?」

レンがぽつりと呟く。

その顔はかつて信頼した仲間に向けるものではなく、戸惑いと恐怖に染まって見えた。

飲み食いするガリレアたちを見て、ジェイドは微笑を浮かべた。