軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔人が狼狽えています

「チィ……子供だから呼吸量が少なく、それで効いていないのか? ……ならば直接喰らうがいいっ!」

パズズは大きく息を吸い込むと、真っ黒な煙を勢いよく吐き出してきた。

もくもくと黒煙が俺を包み込む。

「わっ! けむっ!」

目を閉じ、パタパタと手を振るって払う。

ったく変なもん吹きかけやがって。びっくりするじゃないか。

しかもなんか変な匂いがするし。

歯を磨いてないんじゃないか?

俺がせき込みながら煙を抜けると、その先ではパズズが驚愕の表情を浮かべていた。

「なん、だと……?」

「なんだとじゃないよ。いきなり何するんだお前」

ため息を吐く俺を見て、パズズは息を呑んでいる。

「き、貴様……我が魔力を食らってなんともないのか?」

「ん? 別にどうもないけど……」

さっきから何を驚いているのだろう。もしかしてなにか攻撃でもしてたのだろうか。

そういえば何か甘い香りがするような……?

首を傾げていると、グリモがぐぱっと口を開けた。

「はっはー! テメェのクセェ息なんて効かないとよ!」

俺の掌――グリモを見たパズズは驚いたのか目を丸くした。

「ぬ……お前は魔人か。何故人間の掌にいる」

「う、うるせぇな! テメェにゃ関係ねーだろ! こっちにゃこっちの都合があるんだよ!」

「……ふむ、そうかなるほど。お前はその人間の使い魔となっているのか。大方復活の際に隙でも突かれて、強制的に従魔契約を強いられたのであろうが……人間如きに使い魔にされるなど魔人の風上にも置けん。全く以って嘆かわしい。同じ魔人として恥ずかしいぞ」

へー、そうなのか。

確かに本に閉じ込められていたのだから、グリモも本調子じゃなかったんだろうな。

「だが我はそのような油断はせぬ! 万全を期して復活し、盤石の備えで動いているのだ! 見たであろう我が軍勢を!」

おお、そうだ。群れないはずの魔獣をどうやって集めたのだろう。

すごく気になった俺は思わず尋ねる。

「一体どうやってこんな数のベアウルフを集めたんだ?」

「くふふ、知れたこと。本来は決して群れぬ魔獣どもをこの森に集める為、餌となる鳥獣たちを我が魔力を餌に大量に集めたのだよ! そうすれば魔力と餌に溢れたこの地に魔獣が集まってくる……その中で生まれた番の親を殺し、子だけを集め育て上げたのだ! 本来は群れぬはずの魔獣だが、幼獣の頃から集団で育てればそれが普通となるのだよ。まぁおかげでかなり苦労させられたが、その甲斐あって見よ、この軍勢を! これだけの魔獣を相手に勝てる者など存在すまい! くはははははははは!」

親を殺し、子供を攫って小さい頃から調教するとは……何という悪い奴だ。

俺でもそんな事はやらないぞ。

大笑いするパズズを見て、グリモが声を上げる。

「あー、その、ちょっといいか?」

「なんだ? 間抜けな魔人」

「お前さん、それいつからやっているんだ?」

「ざっと百年だな。我ながら苦心苦闘させられたぞ」

「そりゃ、そうだろうなぁ……」

グリモは呆れた顔でため息を吐いている。

100年、気の遠くなるような話である。

魔人であるグリモから見ても凄い事なんだろう。

「準備を終えた我は念には念を入れ、手始めに村を襲わせた。そうすればこの国の軍が出てくるだろうからな。それに勝利すれば我が軍勢の力は証明される……そして完膚なきまでに勝利した! 倒れぬ魔獣相手に貴様らはなす術がなかったであろう! 今こそ侵攻の準備は整ったのだ! ふはははははは!」

高笑いするパズズを、グリモは鼻で笑った。

「おいおい、完膚なきまでに叩きのめした、だと? どう見てもここに一人残っているじゃねぇか」

「む? ……あぁそうだな。ひ弱な子供と、その使い魔がな。問題ない。すぐにすり潰してやる」

パズズが手を上げると、ベアウルフたちが俺たちを取り囲む。

目を血走らせ、唸り声を上げていた。

「さぁ行け! そやつらを喰い殺すのだ!」

「ガオオオオオッ!」

飛びかかってきたベアウルフたちが、鋭い爪と牙を俺へと突き立てようとしたその瞬間である。

ベアウルフたちは俺への攻撃を止めると、そのまま着地し俺の足元へ伏せた。

「きゅーん」「きゅきゅーん」

そして鼻を鳴らしながら、擦り寄ってくる。

尻尾をぶんぶん振りながら、あおむけになり腹を見せている者もいた。

十数匹いたベアウルフたちは皆、俺の周りでじゃれついてきていた。

「な、何……? おい貴様ら何をしている!? 早くそやつを殺すのだ!」

「ウウウ……!」

パズズが命令するが、ベアウルフたちは俺のそばから離れようとはしない。

それどころか敵意に満ちた目でパズズを睨んでいた。

「――ふむ、こんな感じかな?」

俺は手のひらから魔力を生み出しながら、呟く。

俺の周囲を白い煙のような魔力が包んでいた。

「……ロイド様、一体何をしたんですかい?」

「さっきからやっていた魔力の性質変化だよ。昼に食べた肉の味や匂いを強くイメージして、発動させたんだ」

さっきのシルファの料理、美味かったもんなぁ。

思い出しただけでヨダレが出てくる。

ベアウルフたちも気に入ったようで、心地好さそうな顔で浴びていた。

「グォォォォァァァァァ……!?」

パズズが入っていたベアウルフも、悶え始めた。

どうやら俺の放つ魔力を吸い込んだようである。

「お、おい! 貴様までふざけるなよ!? やめろ! 吐き出すな! くっ、ぐおおおおおおおっ!?」

ベアウルフはヨダレをぼたぼた垂らしながら、口から黒いモヤを吐き出していく。

モヤは人型に固まり、パズズとなった。

おお、あれが本体か。

パズズを吐き出し終えたベアウルフは、俺の元へ駆け寄ってきた。

「くーん、くーん」

そして尻尾を振りながら俺の周りをくるくると回っている。可愛い。

「はぁ、はぁ……ぐっ、馬鹿な……こ、こんなはずでは……!」

残されたパズズは苦悶の表情を浮かべ、息を荒らげている。

「許さん! 許さんぞぉぉぉ! このクソガキが! 我が魔獣帝国の邪魔をしおって! ズタズタにしてくれる!」

辺りを漂っていた黒いモヤが、パズズへと集まりその身体を包み込む。

空気が震え、俺にくっついていたベアウルフたちが警戒心を剥き出しにした。

モヤを取り込んだパズズの魔力がぐんぐん上がり、魔力もどんどん増していく。

パズズは、銀の毛と漆黒の翼を持つを持つ巨大な猿へと変貌した。

決まった実態を持たないが故の変貌、全ての力を出し尽くした真の姿とでもいうべきか。

最初とは内包する魔力量が段違いだ。

「――殺す」

巨大化したパズズは短くそう呟いて、俺に飛びかかってきた。