作品タイトル不明
女王との謁見です
「お待たせいたしました。女王様がお会いになられるそうです。どうぞこちらへ」
「じゃ、案内頼むよ」
「ははっ、お任せくださいませ」
すっかり従順になった警備兵たちに連れられて森を進むと、巨大な根が折り重なっているのを見つける。
絡み合った根がうず高く積み上がり、枝葉と重なって上が見えない。まるで壁だ。
「こんなところに隠れてたんですな。エルフの国が見つからねぇわけだぜ」
「うむ、一見すれば森の一部にしか見えない。侵入者対策は万全というわけだ」
迷彩兼防壁といったところか。霧も濃く、知らなければここを通り抜けようなんて誰も思わないだろう。
ちなみに前は空を飛んでいったから関係なかったけどな。
警備兵が壁に手をかざして何やら唱えると入り口が開き、俺たちは招かれるまま中に入る。
壁を抜けると、そこには街が広がっていた。
「うわぁ……ここがエルフの国! 異国情緒に溢れてて、とっても素敵!」
レンがキョロキョロしながら走り出すが、あまりよそ見してたらぶつかるぞ。
それにしても規模は小さいが、サルームにも負けない活気だな。
以前訪れた時にはもっと暗い雰囲気だったが……
「ロイド様が焼いちまった割には意外と綺麗な街並みが残ってるじゃねぇですか」
「人々の顔も明るく、とてもロイド様に破壊の限りを尽くされた街とは思えませんね」
おいおい、火を付けたのは俺じゃないぞ。
何もかも全ての元凶扱いされるのは心外である。
「見て見てロイド、すごく大きな木があるよ!」
レンの指差す先、街の中心部にとてつもなく大きな木が生えていた。
家を数十個並べたくらい太い幹に、樹上が見えない程の高さを持つ圧倒的巨木。
「あれは世界樹だな」
――世界樹とは、太古よりこの地に存在し、多くの生命を育んできた神樹。
特に大陸中央にあるこの木は、世界が存在した時から生えていたと伝えられている。
「あれが伝説の……私もこんな近くで見るのは初めてです」
感嘆の声を上げながら世界樹を見上げるシルファたち。そういえば前に訪れた時は森が焼けてじっくり見る暇がなかったっけ。
こうして見ると中々どうして、大した魔力を放っているな。こいつは恐らく……
「ええぇと……城に向かっても構いませんか?」
「ごめんごめん。よろしく頼むよ」
おっといかん。それより今はこっちが優先か。
警備兵たちに連れられ、向かった先は世界樹の根元。
そこには木々の隙間に間取りするような形で城が建てられている。
「あれが城か。変わったところに建ってるな」
「それより周りの視線がうっとおしいですね」
シルファが周囲を見渡しながらため息を吐く。
さっきから道行くエルフたちから妙に視線が注がれていた。
「ねぇねぇ見てよ。本物の人間だわ」
「へえー、あれが噂の……」
「なんとまぁ。本当に耳が短いのねぇ」
エルフたちが俺たちに好奇の眼差しを向けながら、何やらコソコソ言っている。
ただそこまで嫌悪感を向けられてる気はしない。前に来た時はもっと警戒心されていたんだがな。
同族に案内されていることを抜きにしても緊張感すら感じられるのは少々変だ。
「エルフは人間を嫌っているものだと思っていましたが、意外と受け入れられているようですね」
「少なくとも強い警戒心を持ってるはずだよね。だから今まで人との接触を避けてきたんでしょ?」
シルファたちも疑問を感じているようだ。
そんな中、レンが近くの公園を指差す。
「ねぇ……あの像、ロイドに似てない?」
見れば噴水の上には謎の少年像が建てられていた。
俺と同じくらいの背丈で、似たような恰好をしている……ような気がしないでもない。
「像の下に何か書いてるあるよ。なになに? ……救国の英雄、その誇り高き姿をここに刻む。もしかしてロイド、以前ここに来たことあったりする?」
「な、何言ってんだ! そんなはずないだろ~あははは……」
俺をまじまじと見つめてくるレン。
……マズい。何だかわからないが妙な疑いをかけられている気がするぞ。
白い目を向けられどうしたものかと戸惑っていると、シルファは下らないとばかりに首を横に振る。
「何を馬鹿な。よく見なさい。ロイド様はもっと尊い姿をしておられるでしょう。ほら、目もこんなに吊り上がってはないし、顔つきもぼんやりとはしていません。どう見ても別人ではありませんか」
「えぇ……よく似てると思うけどなぁ……」
まじまじと俺と像を見比べるレン。やめてくれ恥ずかしい。
「……でもよぉ、だとしたらおかしくねぇですかい? 話によるとエルフの連中はロイド様を恨んでるはずでしょう。なのにこんな風に像が建てられるもんですかねぇ?」
「あれだけのことをして英雄扱いはおかしいでしょう。道行く者たちの視線もロイド様に集まっていましたし、警備兵も途中から態度が違ったような……」
そうだっけ。言われてみれば突然の来訪者を女王に会わせると言うのも変な話か。
むぅ……俺そっくりの少年、一体何者なんだ……
「いや、ロイド様以外ありえねぇですからっ!」
「数年前に訪れたと言ったではありませんか!」
うーん、やっぱそうなのかなぁ。
グリモとジリエルのツッコミを受けながら俺たちは城の中へと入っていく。
世界樹のうろに建てられた城もまた木で造られており、木の香りがなんとも心を落ち着かせるな。
城内もあまり広くはなく、あっという間に玉座の間へと辿り着いた。
「これはこれは人間の方々、ようこそいらっしゃいました。私はエルフ族の王女、ビビアン=リーリア=エルフリードです。よろしくお願いしますね」
出迎えたのは兵士たちに囲まれたエルフの女王だ。
美しく整った容姿……と言っていいのだろうが、正直言うとエルフって似たような顔ばかりでいまいち覚えにくいんだよな。
長寿の種族だからか年齢も大差なく感じるし、服装で判別するしかないのが困りものである。
「サルーム王国第七王子、ロイド=ディ=サルームです。こちらこそどうぞよろしく」
「おお、貴方が例の……噂はかねがね。サルームが誇る天才魔術師で、若干十歳ながらも王位継承候補者に名を挙げているとか。噂はこの国にも轟いておりますよ」
にこやかに言うが……マジか。
エルフが姿を隠して城下町に出入りしているのは知っていたが、そんなところにまで情報が回っているとは思わなかったぞ。
「持ち上げすぎです。根も葉もない噂ですよ。俺に王位継承権はないし、自由に生きろと言われているだけのただのお気楽な第七王子ですから。大方他の優秀な兄姉たちと勘違いしたのでしょう」
「ふふ、そういうことにしておきましょう」
含み笑いを浮かべるビビアン。シルファたちまでうんうん頷いている。
何かとてつもない勘違いが広がっている気がするが、あまり気にしても仕方ないか。
「……ところでロイド、あなたをどこかで見た気がするのですが……以前ここを訪れませんでしたか?」
どきっ、やっぱりあの少年像は俺なのか? じぃーっと俺を見つめてくるビビアン。マズい、どうにか誤魔化さねば。
「い、いやいや! そんなはずがないでしょう! 気のせい! 気のせいですよ!」
「ふむぅ……そうですよね。すみません。我々から見ると人族たちの顔は似たように見えまして。どうやら以前訪れた方とは別人のようですね。失礼しました」
「えぇ、あまり気にしないで下さい。はは、ははは……」
やれやれ、顔が判りづらいのがお互い様で助かった。
しかしあの少年像が俺だとしたら一つの疑問が生じる。
どういうわけかエルフたちは以前の俺の行いに悪い対して感情を持ってる風ではない。めちゃくちゃ射かけられたのに、一体どういうことなのだろう。……ちょっと聞いてみるか。
「えーと、ちなみに以前訪れた者とは街のそこかしこに飾られている像の少年ですか?」
「はい。かの少年こそ我が国を救ってくれた英雄なのです。三年前、我々エルフはかつてない飢饉に見舞われました。森では果物や穀物が採れない日が続き、餌がないので獣も寄り付かず、国中で食料が不足したのです。森を捨てるべきか、共に死を待つか……日々議論を交わしていましたが答えは出ず、肉体的にも精神的にも限界だった我々の前に現れたのが、かの少年でした。古くから人間を忌避していた我々は突然現れた少年に戸惑いながらも攻撃を浴びせました。しかし少年はそれを意にも介さず、ただじっと攻撃を受け続けていたのです」
うーむ、やっぱり俺のことだな。
しかしそんな事情があったのか。ということはいきなり攻撃してきたのは気が立っていたからかもしれない。
「戦闘の最中、突如森に火が付き燃え広がったのです。我々は森への被害を出さぬ為、決して火矢や魔術は使いませんでした。恐らくあの少年がなんらかの方法で使ったのでしょうが……結局今の今まで何をしたのかはわからないままです」
――あ、思い出した。
そういえば突然矢を射かけられた時に驚いて、つい火球で迎撃しちゃったんだっけ。
当時の俺はまだ常時魔力障壁を展開できる程じゃなかったからな。すぐに消したつもりだったけど完全には消えず、それが燃え広がってしまったのか。いやー失敗失敗。
「ってやっぱりロイド様がやってたんじゃねぇですかぁぁぁっ!」
「想像通りでございましたね。流石はロイド様、期待を裏切らないお方です」
グリモとジリエルが呆れ驚いているが、多少は仕方ない部分もあるだろう。
俺だってなんでも出来るってわけじゃない。特に昔は結構未熟な部分も多かったのだ。
いやー、若気の至りってやつだな。これもまた苦い青春の一ページと言ったところか。俺も成長したもんだ。
「我々が右往左往している間に気づけば火は消えており、少年はいなくなっていました。……廃墟となった街を前に、我々は呆然するしかなかったのです」
おっ、その辺りはちゃんと憶えてるぞ。
森に飛び火したのを魔術で消して回ったのである。……まぁそれでもかなり燃えたけどな。
「ですがその時から森に命が帰ってきたのです。穀物は生い茂り、果実はたわわに実り、獣は数を増やし、国は瞬く間に元の姿になりました。……不思議に思って原因を調べていた我々は人間の国にてある病を知りました。――死樹病、主に樹木が罹る病で、実を付けられなくなり死の樹と化してしまうものです。その蔓延する速度は非常に早く、対処が遅れれば森そのものの命が失われるという恐ろしいもので対処法は森を焼くしかないという。燃えた木には病に罹った形跡が見られていました。恐らくこの少年は全てを知っていて、森に火を放ったのでしょう。自分一人を悪者にして……! おかげで我々はまたこの地で暮らすことが出来るようになり、国を救ってくれた少年を英雄として祭り上げることにしたのです」
「へ、へぇー……そうなんですねぇ……」
なんてこった。何の気なしに訪れたエルフの国でそんな事態が起こっていたとは思いもよらなかったぞ。
「死樹病といえば古い森では古木に栄養を吸われ、新芽が生まれなくなることで罹る病だね。定期的に古木を一掃しないと、森全体が死んじゃう怖い病気だよ」
「木を燃やすとそれが堆肥となって新しい命の源となると聞いたことがあります。それを計算して森を焼いたのだとしたら、大した者ですね。ロイド様に似ているだけはあります」
シルファたちがうんうんと頷いている。
完全に偶然だが……どうやらあの時の行為を咎められることはなさそうだな。よかったよかった。
「少年のおかげで人間たちの中にも良き者がいるのだと分かりました。そして世界を閉ざしてしまう危険さも……そういうわけで近年我々の中では人との隔絶をやめようという動きが広まりつつあるのです。あなた方も歓迎致します」
微笑を浮かべるビビアンに俺は頷いて答える。
なるほど。この歓迎ムードはそういうことか。
何にせよおかげでおかげで俺たちへの評価が勝手に上がったことで動きやすくなったようだし、ここは結果オーライと考えようじゃないか。
さて、必要なことも聞いたしこれ以上変なことをツッコまれる前に話を進めるとしよう。
「こほん、早速ですが本題に入らせて下さい。俺たちは長寿種族であるエルフ族に健康の秘訣を学ぶべくここを訪れました。色々と勉強させて貰っても構いませんか?」
「えぇ、もちろんですとも。我々エルフも人族には様々なことを学ばせて頂いております。ゆっくり見ていって下さいな」
「ありがとうございます。こちらは謝礼の品です。是非お納めください」
持ってきた土産の品をどさっと広げる。
昔作った魔剣にあり合わせで作った小型ゴーレム、コニーがもう使わないからとくれた魔道具などなどだ。
「おお……どれもため息が出るような素晴らしい品ばかりです。本当にありがとうございます」
驚き目を丸くするビビアンをはじめとするエルフたち。
どうやら喜んでくれているようだな。
「ってか完全にただの在庫処分じゃねぇですか……」
「それでも驚いているようですね。ロイド様の手掛けた品々ですので当然ですが」
在庫処分とは人聞きが悪いな。
ちょっと倉庫の整理で大量に出たゴミ……じゃなくて遊休品をまとめて持ってきただけである。
「あなた方のお気持ち、大いに感謝いたします。滞在中は最高のガイドと宿を用意することを約束しましょう」
「喜んで貰えて光栄です。……ところで、一つ聞きたいのですがこの少女を知っていますか?」
ずいっとフィオナを突き出すが、ビビアンは首を横に振る。
「申し訳ありませんが……」
首を横に振るビビアン。むぅ、女王も知らないか。
フィオナの能力はエルフとしてもかなりのものだ。王家の血筋などは強い魔力を持つことが多いからもしかしてと思ったんだが、ハズレのようだ。
ま、流石にここにいればそのうち誰か知ってる人に会うだろう。あまり考えても仕方ないよな。