作品タイトル不明
里からは警戒されてるみたいです。
そうして走ることしばし、見渡す限りの深い森が見えてくる。
「お、見えてきたぞ。あの森だ」
以前焼けた時は中心部が丸裸になっていたが、今は復活しているようで鬱蒼とした森が広がっている。
いやぁ、自然の回復力って素晴らしいなぁ。
「ご苦労だったなシロ」
「くぅーん」
シロの頭を撫でながら森の方を見やる。
前回は面倒なので正面突破したが今回は案内役のフィオナがいることだし正規のルートで行くとするか。
森の魔術的仕組みってやつを直に見てみたいしな。
「さて、それじゃあ案内を頼むぞ。フィオナ」
「お任せ下さいロイド様。――」
フィオナが目を閉じ、何やら呟いた。
すると足元に生えていた草が倒れ、枝が折れ曲がり、森の中に道が生まれていく。
「おお、どんどん道が出来ていくあるよ!」
「これって魔術だよね? なんか変な感じ」
「樹系統魔術……じゃないな。血統魔術に近いように見える。特異な性質を持つ魔力で森そのものに干渉しているようだな。何とも変わった術式だ。興味深い」
この迷宮の森は大地の魔力が淀んだことで生まれたもの。
そこへエルフたちが長年をかけて術式を刻んだことで、侵入者を惑わし拒む迷いの森が完成したのだろう。
恐らく高位の術者数十人係で作り上げた自然の迷宮……ある種の祭壇のようなものかもな。
案内人がいなければとてもじゃないが森の中は歩けまい。
「……まぁロイドがあっさり突破してるんだけどね。ていうかふと思ったんだけど、リオン様についてるバビロンはどうするつもりだったの? そんな魔術使えないでしょ」
「コニーに作らせた魔道具を渡してある。それを使えば迷い森の放つ魔力波長の影響を受けないはずだ」
先日迷いの森を事前調査したが、人間の魔力波長を感知して妨害が発動するようだった。
バビロンに渡した魔道具にはそれを遮断する効果がある。迷わずエルフの国へ辿り着けるはずだ。
「えぇ……そんなのあるなら最初から案内なんて必要なかったんじゃ……?」
「いやいや、そんなことはないぞ。俺一人で行ったらまた前回と同じく戦闘になる恐れがあるが、同族ならそんなに警戒心を抱かないかもだしな」
想定ではエルフに化けたバビロンにどうにかさせるつもりだったが、今回は本物のエルフであるフィオナがいるしきっと上手くいくだろう。……いかなかったらまぁ、その時考えるさ。
◇
森の中を進んでいく。
といってもフィオナのおかげで草や枝に足を取られることもなく、とても快適だ。
でも歩いてばかりで退屈なんだよな。出てくる魔物も弱すぎて、現れる側からシルファたちが瞬殺していくし。
「そこの人間たち、止まれ!」
突如、頭上から声が響く。
鬱蒼と茂る木々に身を隠しているが、『透視』で見破る。
……エルフだ。十人ほどのエルフが俺たちを取り囲むように樹上で弓を構えている。
「どうやってここまで入ってきたのかわからんが、これ以上先には行かせんぞ!」
「待て待て、落ち着いてくれ。俺たちは別に戦いをしに来たわけじゃあ――」
「問答無用ッ!」
俺の言葉を遮るように、矢が射掛けられる。
だがそれは俺に触れる前に真っ二つに斬り裂かれた。
全員がその事実に気づくその前に、再度シルファの斬撃が剣を振るう。
キィン、と鋭い音が鳴り響いた直後、周囲の木々が切り倒されていく。
「どわぁぁぁー--っ!?」
「ぎゃあっ!? な、何が起きたんだ!?」
土煙の中、戸惑いながら起き上がるエルフたち。
おいおい、まずは穏便にって言ったよな。
「……申し訳ありません。ロイド様に矢を向ける者たちを放置するわけにはいきませんでしたので……」
めちゃくちゃビビっているが、とりあえず怪我はなさそうで一安心である。
「リーダーは誰だ? 話し合いをしたいんだけど」
「……わ、私だ」
腰砕けになりながらも手を上げた一人の青年の前に俺はしゃがみ込む。
ひっ、と短く悲鳴を上げるがそんなに怯えなくてもいいと思うのだが。
「さっきも言ったが俺は戦いではなく、対話を望んでいる。大人しくしてくれるなら手間が省けて助かるんだけど」
「じ、邪悪な人間どもめ! 我々は貴様らなぞに屈しないぞ!」
威勢だけはいいが、その声は上擦り、震えている。
うーん、ダメだこりゃ。とてもまともな話し合いにはなりそうにない。
「そりゃそうですぜ。銀髪メイドでさえこいつらの遥か上。それを従えるロイド様相手にビビらねぇはずがねぇでさ」
「特にエルフは魔力を感受する能力が非常に高い。深層心理にてロイド様の力を感じ取っているのでしょうね」
とはいえこれで話し合いになりそうにな。そうだ、こういう時こそ『浄化』の出番だよな。
邪念を消し去り『いい子』にする魔術、それを発動させる。
「うぎゃあああああああ!」
「た、隊長ォォォォっ!」
断末魔に似た咆哮を上げ、がくりと頭を垂らす。
「何なりとお聞きください!」
よし、これでオーケー。すっかり従順になった男に問う。
「お前たちはエルフの国の者ってことでいいんだよな?」
「ハッ、我々はエルフリーデン国の森林警備隊でございます。人が近づいた場合は速やかに退去させるよう命じられています」
「それは悪かった。では改めて、上の連中に俺たちを中に入れて貰えるよう、話してきて貰えるかい?」
「お安い御用です!」
敬礼をして、訝しむ部下たちを率いて去っていく隊長。
よしよし、これで無事にエルフの国に入れそうだぞ。
「あ、ちょっと待て。お前たち、この子のことを知ってるか?」
「その少女、ですか? さぁ……見たことがありませんね」
フィオナについて警備兵たちに尋ねるが、誰も彼も首を傾げるのみだ。
知り合いでもいれば記憶が戻るかと思ったが、いないんじゃ仕方ないか。
「おかしいですね。エルフは同族との繋がりをとても大事にする種族、同郷の者であればほぼ全員が知り合いなはずですが」
「同郷じゃないのかもな。エルフは色々な場所にいるんだろう?」
とはいえこの近くに他にエルフの集落はなかったはずだが……
まぁこいつらは警備隊だし、知らなくても不思議はないか。
「では少々お待ちくださいませ!」
警備隊の面々を見送りながら、俺たちはその場で待つことにする。