作品タイトル不明
神とバトルします。後々々編
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「ふぅん、少しは面白くなってきたじゃないか」
変貌したグラトニーの魔力量と密度は先刻よりも遥かに上昇している。
また感情の昂ぶりによる強化という単純な手かと一瞬げんなりしたが、その感情は俺が思うより遥かに深かったようだ。
言動から察するに、グラトニーのかつての主と同じ姿のようだが……
「なぁベアル、何か知ってるか?」
「うむ。――グラトニーは元々小さな獣だったが、当時の魔王に拾われたおかげであそこまで成った。拾い主は始祖の魔王ベルゼヴィート、古代魔術の創始者と言われている」
「ほほぉ……それは興味深い」
古代魔術は威力と効率を重視することで攻撃に特化した脳筋魔術だが、その原点である今の攻撃は無駄も多いが現代の魔術に近い多様性を感じたのだ。
「ただ、中身がお前なのは残念だけどな。主の攻撃とやら、ちゃんと再現できるのか?」
「……ふん、今の一撃を耐えられたからと言って調子に乗るなよ……! 我が主こそが最強なり!」
グラトニーが両手を天高く掲げると、一瞬にして空が黒く染まる。
そこから生まれた無数の光が、俺目掛けて降り注ぐ。
「 ■■■(流星雨) 」
言葉としては聞き取れなかったが、術式から察するにどうやら星堕としの類のようだな。
こいつも頂くとするか。高速術式にて展開するのは対魔術師用魔術――『吸魔』。
指先に生まれた黒い魔力球が降り注ぐ星を全て吸い込んでいく。
これは以前俺の持つ魔剣に刻んだ術式で、触れた魔術を吸い込み、保存できるのだ。
「相変わらずデタラメ過ぎる術式展開速度ですな。本来はクソ遅ぇ『吸魔』の術式を瞬時に発動させちまうとはよ」
「魔力体となったロイド様は体内に無数の術式を仕込んでおり、いつでも最大限の魔術を発動可能ですからね。先刻の魔術も全部吸い込んでいましたし」
グリモとジリエルの言う通り、今の俺は魔力体内に大量の術式を刻んでいる為、非常に発動の遅い『吸魔』などの魔術も即座に撃てるのだ。
まぁ基本的には分析用なので使い勝手は悪く、完全に吸い切れない部分は魔力障壁で防がないといけないがな。
「ありえん……! 我が主の最大魔術だぞ……! それをあっさり無効化しただと……?」
何やらブツブツ言ってるが、俺は術式の解析に忙しい。
「……ほうほう、中々特異な術式だ。試行錯誤の跡が伺える。お前の主はすごい魔術師だったんだな」
「がぁぁぁっ! ■■■(溶岩流) ッ!」
大地が割れ、そこから噴き出した真っ赤な溶岩が俺を襲う。
おおっと、こんな広範囲に散らばったら『吸魔』で吸い込むのが大変じゃないか。
ならばと俺は『吸魔』の効果範囲を拡大、更に空間転移を連続発動させ、溶岩流を全て吸い込んでいく。やはりサンプルは多い方がいいからな。
ふむふむ、大地に直接干渉し、吸い上げた溶岩をぶつけているのか。
どうやら魔力で環境を刺激することで天変地異を引き起こしているようだな。
「 ■■■(大竜巻) 」
巻き起こる竜巻に身を任せながらも吸収する。
術式ごと吸い込んでしまえば、吹き荒れる風もただの微風と化す。
「 ■■■(猛吹雪) 」
降り注ぐ豪雪も構わず吸い込む。
全ては吸い切れないので、魔力障壁を広範囲に展開し誘導しつつ吸収する。
「 ■■■(灼熱波) 」
地面が歪むような灼熱だろうと関係ない。
俺の『吸魔』はあらゆる魔術現象を吸収し、無効化する。
「それにしてもこれほどの攻広範囲撃を『吸魔』で捌くだけでも凄まじいのに、細かい制御の難しい空間転移すら同時に自在に使いこなすとは……全身術式とはかくも恐ろしいものか」
「とはいえ楽じゃないけどな」
空間転移や『吸魔』などの使いづらい魔術は体内の術式をかなり起動する必要があり、流石に幾つも同時には使えない。
最大でも十個くらいが限度かな。多分。
……なんだかグリモたちが白い目を向けてくるが、気のせいだろう。
「それより折角解析したんだ。俺も使ってみるとするかな」
手をかざすと一冊の本が現れた。
中には五線譜の上にびっしり音符が刻まれている。
これは楽譜だ。俺の魔力体の延長として作り出した本の形をした魔力の塊である。
本来の『吸魔』による魔術吸収には高度かつ長文の術式が必要だったが、先日演奏会で得た魔曲――魔術の無限連鎖を応用したことで本来の吸魔の何倍もの容量を実現したのだ。
おかげで今までは何重にも術式を刻んでようやく上位魔術を吸い込めるくらいだったが、さっきのようなトンデモ魔術もこれに全て収めることができるようになったのである。
「うおおおおおおお!」
その間も降り注ぐ攻撃を魔力障壁で防ぎながら、俺は頁をパラパラとめくっていく。
以前は楽譜とか興味なかったが、作曲したおかげでこういうことも出来るようになった。やはり全ては魔術に繋がっているな。うんうん。
そして……ふむ。これが始祖の魔王が作ったという古代魔術の術式か。
超広範囲に効果が及ぶ辺り大規模魔術に似ているが、こっちはより雑で強い感じである。
例えば同じ星堕としでも、『天星衝』は狙った星を落とすが、先刻のは大量の魔力で上空の星々を無理やり落としまくっていたしな。
故に細かく狙えず、サイズもバラバラ。しかし威力と効果範囲は比較にならない。
これは通常の魔術が魔力により物理現象を作り出すのに対し、こちらは世界そのものに作用する術式だからだ。
何とも豪快で魔王らしい術式である。
どれどれ俺もやってみるか。えーと……こんな感じかな?
くい、と指先を持ち上げると同時に、周囲の景色がぐるりと回る。
その直後、どががががん! と激しい音が連続して鳴り響き、グラトニーの身体が消える。
先刻まで彼がいた場所には大きく聳える山が出現しており、その中腹辺りからはもうもうと土煙が上がっていた。
「こいつは世界で最も高い、モリランマ山ですぜ」
「しかしここはサルームからは遥か離れた大陸だったはず。何故いきなりこのような場所に……?」
「先刻、とてつもない耳鳴りがしたが……一体何をしたのだロイドよ?」
グリモたちが疑問の声を上げる中、穴からグラトニーがヨロヨロと這い出てくる。
「き、貴様……今のは、まさか……!」
「ふふふ、どうせ動かすなら大きなものの方がいいだろう? ほら、次々行くぞ」
くるりと指を回すと、またも景色が一気に変わる。
今度は海の中だ。予め魔力障壁を展開していた俺は問題ないが、突然海中にぶち込まれたグラトニーは目を白黒させていた。
「~~~ッッ!?」
「次」
くるりと指を回すと、次に現れたのは噴火中の火山。
煮えたぎる溶岩の中にグラトニーが突っ込むと、衝撃で派手な大爆発が巻き起こる。
「次」
くるりと指を回すと、次は何の変哲もない密林。
そこへ投げ出されたグラトニーが息を荒らげていると、地響きが鳴り始める。
現れたのは巨獣の群れ。どすどすと土煙を上げながらグラトニーを踏み潰していく。
「次、次、次、次――」
指を回すたび、景色は次々と変わり続ける。
「わ、わかったぞ! ロイド貴様、何ということをしているのだ! とんでもない……とんでもなさすぎる!」
信じられないと言った顔のベアルだが、グリモとジリエルは首を傾げている。
「……おい、何してるかわかったかクソ天使?」
「……わかるわけなかろう。教えて頂けますかロイド様」
ふむ、まぁこの魔術は普通のものより『少々』スケールが大きいからな。ここにいては気づきにくいだろう。
分かりやすいように少し上まで登ってみるか。指をすぅっと上に持ち上げると、視界が一気に暗く染まる。
眼下には青く光る巨大な球体が浮かんでいた。
「こいつはまさか……この大地、ですかい……?」
「そ、そうか! ロイド様は大地そのものを……!」
「あぁ、動かしていたのさ」
そう、魔王の術式による環境操作でこの大地を直接動かしていたのである。
回転させることで様々な場所へ物理的に移動させ、少し離せばこうして見下ろすことも可能。
名付けるなら『星移動』というところか。
「おいおいおいおい、そりゃ星系統魔術ってのもあるくれぇだし、星そのものに作用することは出来るだろうが……この大地がどんだけデケェと思ってんだよ!?」
「グラトニー、その飼い主だった始祖の魔王ですらこの大地に作用させるのはせいぜい竜巻や噴火くらいですのに、星ごと自在に動かしてしまうとは……もはや流石という言葉すら生ぬるいですね」
「それもまぁ今更というか、ここまでいくと我ですら引いてしまうわ。頼むからこの星まで壊してくれるなよ。まぁロイドならたとえ壊れてもすぐさま直してしまいそうだがな……」
グリモたちがブツブツ言ってるが、それよりちょっと苦しくなってきた。
以前もこの高さまで移動したことがあったが、あまり大地から離れると息が苦しいんだよな。
魔術の祖たるウィリアム=ボルドーも、著書で人は大地から離れては生きていけないと書いていたし、あまり粗末に扱うのは良くないかもしれない。……元に戻しておくか。
俺は指をくるりと回しすと、星を元の位置へと戻すのだった。