軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

再び、天界へ

「さて、どうしたものか」

城を抜け出した俺はベアルとの融合を解除するべく色々なことを試した。

――瞑想。

意識を集中させることで自身の魔力を隅々まで掌握することで何か出来るかと思ったが……ダメだった。

結びつきというよりはもはや同化しており、この身体から俺の意識を抜き出すのは出来上がったプリンから生卵を取り出すようなものだ。やはりベアルの言う通り、融合分離は難しそうである。

――破壊。

ならばと自身の身体を極限まで痛めつけるべく、自身の身体を痛めつけることにする。

武術家などが肉体を限界まで追い込む荒行だ。当然魔術師にも効果はあるが、これもダメ。

何せこの身体はベアルを始めとした高位魔族が融合してできた魔力体であり、全力で岩に突っ込んでも、深海に沈んでも、寒い所でも熱い所でも全く何の負荷もかからないのだ。

――封印。

ならばと封印魔術を自身に撃ち込むも、あまりにも俺の魔力が強すぎて封印術式がまともに起動しない。

魔術というのは様々な制限が設けられており、それを超えた魔力を込めると術式が破壊されてしまうのだ。

制限の緩い簡単な魔術ならともかく、高度なものはオリジナルで術式を作るくらいの手間をかけねばならない。それはそれで楽しそうだが時間が無限にかかる。というわけでこれもダメ。

「いやぁ参った。戻る方法が検討も付かないぞ」

凄まじい破壊の跡を見ながらぽつりと呟く。

「だから二度と分離できないと言ったではないか……ってなんで楽しそうなのだお主はっ!」

「そう言われると逆に燃えてくるんだよ」

この手の試行錯誤は楽しいんだから仕方ない。とはいえ手詰まりだな。

思いつくあらゆる魔術的アプローチは全て試したが、ダメだった。

サルームから小一時間ほど飛んだ場所にあった無人の超巨大氷塊、ここで様々な実験を行ったわけだが周囲はバッキバキに割れている。

いやはや、派手にやらかしたな我ながら。

「ロイド様、巻き添え喰らった海獣どもがぷかぷか浮いてやきてすぜ」

「氷から落ちてしまったようですね。こちらを責めるように見ております」

「おっと、悪いことをしたな……少し待ってろ」

指先を軽く動かし、氷の大陸を宙に浮かす。

それを魔術で元通りにくっつけた後、海に戻した。

ざばぁん、と大波が海獣たちを飲み込み、津波は近くにあった島を水浸しにする。

「……大陸割っちまうくれぇだから今更驚きはしませんが、あれだけの氷塊を粘土みてぇにくっつけたり切り離したりしちまうとは……以前でもここまでは出来なかったんじゃねぇですかい?」

「爆発的なまで魔力の奔流、しかもまだまだ余裕がありそうですね。まぁロイド様があの魔王と融合したのですから、これくらいは当然なのかもしれませんが」

ドン引きしているグリモとジリエル。

二人の言う通りこの身体は俺から見ても異常だ。

特に魔術も使わず、ただの魔力の放出だけで大陸丸ごと浮かせられる上に殆ど魔力を使ってないときたもんだ。

元々の俺でもここまでの芸当は大規模魔術クラスを使わなければ無理である。

とはいえ先述の通り今の俺では魔力が多すぎるせいで高度な魔術はそのまま使えず、手に余る。あらゆる魔術を極めたい俺としてはあまり喜んでばかりもいられない。

レンたちもそう長く誤魔化し続けられるとは思えないし、あまりのんびりしている暇はないんだよなぁ。

「ふむ……融合を解除する方法はない。……が、そういえば何代か前の魔王が天界に赴いたという話があったな」

不意にベアルが何かを思い出したように語りだす。

「――暴食の魔王グラトニー、融合によりあらゆる生命を取り込んだ奴は、歴代でも最強と謡われている魔王だ。元は小さな魔物だったが、様々な魔物、魔人、そして魔族を喰らい続け、最大最強たる暴食の魔王と呼ばれるようになったらしい」

「お、俺も聞いたことありやすぜ! 戦うと決めた場合には入念な下調べを行い、相手が自分より強いと見るやすかさず逃げ出す……決して負ける戦いはしなかったとか」

絶対に負けない方法はとどのつまり、戦わないことだからなぁ。

それを徹底することで魔王になったと。なるほど理に適っている。

「しかしそんな奴が何故リスクを冒してまで天界に攻め入ったんだ? 理屈に合わないぞ」

話に聞く限りではそいつは臆病と言ってもいい性格だ。

己から危険な場所に赴くとは思えないのだが。

「魔界最強となったグラトニーはその強さから神に目を付けられたのだ。魔界には連日のように天使の軍勢が押し寄せ、ついに命の危険を感じた彼は天界へ攻め入ったのだよ」

「やられる前に、というわけか。それでどうなったんだ?」

「うむ。奴が天界へ赴いた後の三日三晩、天から無数の魔物や魔人、魔族が降り注いだらしい。その中にはかつてグラトニーが取り込んだ者たちもいたそうだ。激しい戦いの後、天界は静寂を取り戻しグラトニーは帰って来なかったと言われている」

「最強の魔王も神には敵わなかったと」

ベアルも聖王相手に負けてたからなぁ。

やはり神聖魔術の元となる力だけあって、神の力というのは魔族へ対して効果が高いようである。

「ん……てことは天界には融合を解除する手段があるってことか!」

「恐らく、としか言えんがな」

頷くベアル。先刻色々試したが、この融合とやらは恐らく死んでも解除されないだろう。

にも拘らず暴食の魔王の融合が解かれたということは、天界には俺が元に戻るカギがある、ということだ。

「そういえば聞いたことがあります。天界64神より更に上に立つ唯一神の前ではあらゆる存在はその姿を偽ること叶わず――融合によって変じた者もその限りではないということでしょうか」

「てことはその神っつーのに会えば、ロイド様も元の姿に戻れるっつーことですかい?」

「……決まりだな」

天界に行って神に会い融合を解除してもらう。

ついでにそのやり方を見て融合を更に分析、自在に行えるようにすると。

うん、ワクワクしてきたぞ。

「ってことで行くとするか。ジリエル、先に天界へ行ってパスを通してくれ」

「ははぁっ」

天界へ行くには次元の壁を越えねばならない。

だがそこは真っ暗な闇のようなもので、向かう先に目印がなければ移動することは出来ないのだ。

というわけで天界の住民であるジリエルを先に向かわせようとしたのだが――

「お、お待ちくださいロイド様!」

慌てた様子で声を上げるジリエル。一体どうしたのだろうか。

「たたた、大変です! 次元の扉が閉ざされています! このままでは天界へ行くことが出来ません!」

「おいおい、ついに天界から追放されちまったのかよクソ天使?」

「そんなわけがないだろう馬鹿魔人! ……多分、そんなことはない、はず……!」

言い返しながらも弱気なジリエル。

ふむ、異常事態か何かだろうか。それともずっとこっちに居続けた弊害か。

「よくわからんが……まぁ別に問題はないと思うぞ」

「……え?」

きょとんと目を丸くするグリモとジリエル。

俺は構わず空間転移術式を起動させる。

「無理やり破ればいいだけの話だ」

「や、やべぇですってロイド様! パスもなしに次元の壁を超えるなんてあまりに無茶だ! 深海に落ちた砂粒を見つけ出すようなものですぜ!」

「その通りです! 次元の狭間に迷い込んだら何もかもわからなくなって二度と抜け出せなくなってしまいますよ!? 如何にロイド様と言えど無謀すぎます!」

「まぁ何とかなるだろ」

俺は構わず空間転移を発動させ、次元の壁へと飛び込んだ。

視界が黒く染まり、音も消え、何もわからなくなってしまう。

「ぎゃー--! 暗い! 怖い! 重い! 死ぬ死ぬ死ぬ! 死ぬぅぅぅー--!」

「あぁ、もう二度とサリアたんやイーシャたんの声を聞けないのか……いやだー--! 死にたくなー--い!」

「うるさいぞ二人共」

絶望の悲鳴を上げるグリモとジリエル。

そこまでビビることないんだが。だってもう着くし。

「ぎゃー--! いやぁー--!」

「ひぃー--! お助けー--!」

闇が開け、雲海の上に辿り着くが、グリモとジリエルはまだジタバタ暴れている。

「着いたぞ」

「う、嘘でございましょう……?」

「ま、マジに天界ですぜ……!」

信じられないと言った顔で二人はキョロキョロと辺りを見渡している。

だから言ったじゃないか。問題ないって。

「ふむ、単純な速度のみで次元の壁を抜けたか。力業にも程があるが……今のお主ならこの程度、そう難しくはないか」

ベアルの言う通り、俺は超高速で次元の壁に突入すると、そのまま一直線に転移したのだ。

今までは一度に移動できる距離はせいぜい数十キロ、それもパスが通っていなければ長距離での転移は無理だったが、今は世界の端から端まで移動しても全体の一割以下程度しか消費しない程魔力量が上がっている。

要は止まるから迷うのだ。一直線に突き進めば次元の壁すら突破出来るのは道理である。

森の中を歩いて抜けようとすれば迷うが、短時間で一直線に突っ切っていけば迷わないのと一緒だな。

……とはいえ今ので全魔力量の二割くらいは使ったか。まぁまぁ分厚い壁だったな。