軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

演奏開始、前編

様々な音が入り乱れる空間を俺たちは歩いていく。

「うわぁ、すごい人混みだね。心配してたみたいだけど、大成功じゃない」

「あぁ、流石はビルギット姉さんだ」

とんでもない大盛況で、前回の聖王歓迎際より盛り上がっているくらいだ。

人混みがうっとおしいので風系統魔術『微風結界』を展開しておく。

周囲に空気の壁を作って人が近づけないようにし、更に新鮮な空気を循環させているので快適だ。

「押さないで下さい。ゆっくり歩いて下さい。そこ、走ってはいけませーん!」

お立ち台の上で一生懸命声を荒らげているのはレンだ。

というか至る所にメイドたちが立ってるな。どうやら交通整理で駆り出されていたようだ。

なるほど、城を出る時に一人のメイドともすれ違わなかったのはこういうわけか。

「ロイド様っ!」

そんな時、遠くからシルファの声が響く。お立ち台から飛び降りると人混みの中を跳躍混じりに駆け抜けてくる。

「おはようございますロイド様。あぁ、こんなに寝癖が……手櫛で失礼いたしますね」

そう言ってどこからともなく霧吹きを取り出し、さっさと俺の髪を手入れしてくる。

一体どこにそんなものを持っていたのかと思わなくもないが、シルファだし気にしてはいけない。

「襟を直して、靴も磨き直して……えぇ、これで大丈夫ですよ」

「あーうん、ありがとう」

強制的にピッとさせられる。やっぱりシルファに整えられるとピッとなるな。

俺の姿が気に入ったのか、シルファは満足げな顔でにっこり笑う。

「それにしてもよく分かったな。この人混みで」

「何をおっしゃいます。このシルファ、ロイド様のお姿でしたら一キロ先からでも見分けて御覧に入れますとも。お髪が乱れておりましたから、急いで馳せ参じました」

「そ、そうか……」

どういう視力しているんだ一体。しかも冗談じゃないから困るんだよな。

「あぁしかし、やはり私が残るべきでしたか。他の者にメイドたちの指揮を任せるわけにもいかず……申し訳ありませんでした。ビルギット様に言われては私とて言い返せず……」

申し訳なさそうなシルファ。

しかしメイドたちによる交通整理は効果抜群のようで、客たちは鼻の下を伸ばしながら彼女たちの誘導に従っている。

「気にしなくていいよ」

「お優しいお言葉、ありがとうございます。それより皆様の元へ行くのですよね? 私がご案内致しましょう」

「ありがたいけど……いいのか? 交通整理を放ったらかして。ビルギットに怒られるんじゃあ……」

「何をおっしゃいます。迷子の案内もまた、私の仕事でございます」

そう言って微笑を浮かべるシルファ。そういうことなら仕事場を離れても問題はないか。

シルファに案内され、俺たちは参加者たちの待つステージ裏へと赴くのだった。

「ロイド様をお連れ致しました」

「お、メイド。ご苦労ある」

テントを開くと中にいたのはタオだった。

「ロイドー、よく来たあるなー。うりうり」

「タオ……なんでここに?」

「予選を勝ち抜いてきたある! ついさっきね。見てくれたあるか?」

見ればタオの全身は汗で濡れ、息も上がっている。

本当に丁度終わったばかりのようだ。……残念ながら見てないが。

事前に聞いてた話では、予選を勝ち抜いたグループはこの大舞台で演奏させて貰えるらしい。

それを前座に十分盛り上がったところで、イーシャたちが演奏するんだとか。まさに隙のない構成である。

「やめなさい汗にまみれた汚い身体でロイド様に触るとは。無礼、そして臭いですよ」

タオに抱きすくめられていた俺を、今度はシルファがひったくる。

「ぬなっ!? く、臭くないある! とてもフローラルな香りね!」

どうやらまたいつものが始まったようなので、放っておいて聖王たちの元へ行く。

「やぁロイド君。昨日ぶり。てか寝てた?」

「うん、ついさっきまでね」

「あはは、だと思った。寝癖を直した跡があるからねー」

シルファが直した部分を指差しながら、聖王は可笑しそうに笑う。

少し離れた場所にいたイーシャも俺に気づき駆け寄ってきた。

「来て下さったのですね。ロイド君」

「やぁイーシャ。喉の具合はどう?」

「そちらは問題ありません。……ですがサリアと一緒でないのは少し残念ですね」

寂しそうに目を伏せるイーシャだが、すぐに笑みを浮かべる。

「でも大丈夫ですよ! 聖王様と共に演奏するのもまた、光栄ですから」

「うん、頑張ってくれ。……ところでサリア姉さんは来てないの?」

「えぇ……まだ調子が悪いようで……」

どうやらサリアはまだ寝込んでいるようだ。

心配ではあるが、それよりもフェスの成功が重要だよな。

「ロイド様、そう言いつつワクワクが隠せてねぇですぜ」

「サリアたんなどどうでもいいという顔をしております」

……そんなことはないぞ。まぁ優先順位は低めかもしれないが。

「ところで二人とも、これを見て欲しいんだけど」

「これは……新しい譜面、ですか?」

「先日貰ったやつの改稿版ってとこかい? ここにきて変更とは随分また思い切った……むむ!」

聖王が、そしてイーシャが目を見張る。

そう、夜遅くまでやっていたことの一つだ。

以前二人に渡した譜面より、更に良くしたものを持ってきたのである。

「これは……! 基本的には前回のものに多少のアレンジを加えたものですが、その完成度はまさに雲泥! 素晴らしすぎますロイド君!」

「しかも僕たちへの負担はほぼゼロか。まぁ仮にあっても、これだけのものを持ってこられちゃあねぇ。採用せざるを得ないよね。でもこれ、三人必要じゃないかい?」

「勿論、俺が参加する」

むしろその為に編曲したと言っていい。

最初は二人に任せようかと思ったが、聖王が代わりに参加するならその旋律を間近で感じてみたいと思ったのだ。

魔曲を解き明かす鍵になるかもしれないしな。

「つまり一緒に参加するのが一番、というわけですな」

「その為だけに曲調を変えてしまうとは……流石の執念でございます」

なお、俺の楽器はカスタネットなので演奏の手間は殆どいらない。

これならゆっくり観察できるというワケである。うーん、完璧。

「おや、ロイドも来たのかい?」

ステージ裏から降りてきたのはアルベルトだ。

燕尾服にマイクを持っている。そういえば声がしていたな。どうやら司会をしていたようだ。

「はいアルベルト兄さん。俺も参加させて貰います」

「へぇ、いいじゃないか! 頑張るんだぞ」

頭を撫でてくるアルベルト。そうしていると演奏を終えたグループが戻ってきた。

「お疲れ様。向こうで休んでいてくれ」

アルベルトに労われ、休憩場所へ向かっていく一団。

どうやら次は俺たちのようだな。

「少し休憩を入れられるが、どうする?」

「俺は大丈夫、今すぐいけます。な、二人共」

俺の問いに二人は頷く。

「はい!」

「なんであとから来た君が仕切ってるのやら……ま、いいけどさ」

イーシャと聖王、二人を従えるようにステージへ出る。