軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔王とバトルします。後編

「はぁぁぁぁぁっ!」

咆哮を上げるベアル。その魔力が一気に膨れ上がる。

……なるほど、これがベアルの本気か。

その威圧感に大地は震え、岩山は崩れ落ち、雲も散り散りに霧散していく。

俺でも冷や汗が出る程の魔力量だな。総出力量は俺の十倍はあるだろうか。

「ゆくぞ――」

そう呟いた次の瞬間、ベアルは姿を消える。そして気づけば俺の眼前にて攻撃態勢を取っていた。

「はやっ!」

めきめきめき、と軋むような音が響いて、俺の腹部に衝撃が走る。

ベアルの一撃は俺の展開した魔力障壁・極の五枚重ねをも突き破り、俺のどてっぱら深くめり込んでいた。

そのまま俺は地平線真っ直ぐに吹っ飛ばされる。

直線状にある岩々を触れるたびに粉々にしながら、俺は空中で体勢を立て直す。

「あの分厚い魔力障壁を軽々ぶっ壊しやがっただとぉ!?」

「大丈夫でございますかロイド様っ!?」

「……まぁな」

俺は普段、気と魔力を練り上げて周囲を薄く覆ってガードしている。

魔力障壁だけで防ぎ切れないと悟った俺はそれを一点に集中させ、防御したのだ。

心眼+武神術の反応速度でも回避が間に合わず、ガードするのが精一杯だったぞ。とんでもない速度、そして威力である。

「――おい、まだ終わってはいないぞ?」

すぐ横から聞こえる声、ベアルが追いついてきたのだ。どうやら息つく暇すら与えるつもりはないらしい。

振りかぶったその手は凝縮された魔力により黒く輝いている。

ががががががが! と激しい音が鳴り響く。

俺もまた両拳に練り上げた気と魔力を集中させ、相殺させるが、その疾さと重さに耐え切れず、あっという間に捌き切れなくなった。

「う、腕が痺れてきた……」

「勝機!」

声を上げながらベアルが両腕を後方に構える。

そこへ自身の魔力を全て集めているのだ。

凄まじい密度の光が収束し、周囲の景色を塗り潰していく。黒く、黒く、黒く――

「とくと見よロイド! これが余の全力! そして全開だ! 喰らうがいい! 魔王黒極波ぁ!」

どおっ、と黒い閃光が迫り来る。

凄まじいまでの魔力圧が迫り来る。これがベアルの正真正銘の全力か。

「ややや、ヤベェですってロイド様! こんなもんどうしようもねぇっすよ!」

「逃げましょう! ここで逃げても恥ではありません! それほどの相手だったということです!」

悲鳴を上げ逃げるよう声を出すグリモとジリエル。

しかし俺が回避すれば、辺りが更地になりかねん。……いや、下手をしたら大陸全て消し飛ぶ魔力量だ。

その上とてつもない魔力嵐の影響で、俺が展開している魔力障壁が自壊を始めている。

あれだけの魔力、そこにあるだけも術式を乱す力の奔流を生み出しているのだ。

こんな状況では複雑な術式の構築は不可能だな。

仮に『虚空』で別次元に飲み込もうにも、発動した瞬間に術式を解かれて消滅してしまうだろう。

当然、ただ魔力を集中させた程度で防げるような威力ではない。――ふむ。

「なるほど、これは俺も本気を出す必要があるな」

「えええええええっ!?」

「まだ本気じゃなかったんすかぁぁぁぁっ!?」

二人が驚愕に声を上げる。

今の発言は正確じゃないな。俺は常に色々模索しながら戦っているから『本気が更新され続けている』というべきだったかもしれない。

術装魔力腕を纏ったこの状態は、俺自身まだ全然把握しきれていないしな。

だがそろそろ慣れてきたところだし、アレを試してみるか。

「■」

ベアルの放った黒い閃光に向け手をかざす。

と、そこに小さな光が生まれた。

周囲の景色を揺らがせながらも、光は一気に巨大化。ベアルへと放たれる。

「何の魔術か知らんが我の魔王黒極波には――」

ベアルが言いかけた瞬間、光は黒い閃光に触れ、それを消し去った。

光はそのままベアルへ迫る。

「何ぃぃぃぃぃっ!?」

咆哮を上げながら、俺の放った光に飲み込まれていくベアル。

それは空に一筋の揺らぎを残し、そのうち見えなくなってしまった。

そしてようやく静寂が生まれる。俺の放った光で空には巨大な穴が空いていた。

「あのとてつもねぇ攻撃を、あっさり消滅させちまうとは凄まじすぎる光でしたぜ。……しかし気のせいっすかね。あの光、なーんか見覚えがあるような……」

「えぇ、私でも知っているような、ありふれた魔術だったように思えます。いえ、そんなはずはないはないと思うのですが……」

俺はその通り、と頷く。

「あぁ、察しの通りあれは『火球』だよ」

ありったけの魔力を注いだ、という但し書きが付くが。

魔術を構成する術式の中には 制限(リミッター) というものが存在する。

これは魔力を多く注ぎ過ぎて術者が廃人になったり、威力を上げ過ぎて環境を破壊したりするのを防ぐ為に設けられているものだ。

俺はそれを取っ払い、全力で魔力を込めて『火球』を放ったのである。

「いやいやいやいや! 制限なんてモンがあったんすか!? つーか今までのアレでまだ制限内だったと!? そもそも現状でも十分地形を破壊してやしたけどっ!」

「しかも下位魔術である『火球』ですらあの威力なら、より上位の魔術を使ったら世界が滅ぶのでは!? ……くれぐれもお気をつけ下さいませロイド様」

んー、そう単純な話でもないんだよなぁ。

下位の魔術は術式の構造も単純だから完全に解析出来たが、上位の魔術は複雑すぎて俺でも完全解析は難しい。

以前はそれすらも分からなかったが、学園で得た知識や今までの経験などで、それが分かるようになったのである。

やはり魔術というのは奥が深いな。まだまだ学ぶことはたくさんあるぞ。

またいつか、上位魔術の術式解析にも挑戦してみたいものだな。うんうん。

「……くれぐれもお気を付け下さいませ。ロイド様」

「そうですぜ。マジにお願いしやすぜロイド様よぉ」

「わ、わかってるって」

何故か白い目を向けてくるグリモとジリエル。

いやいや、いくら俺でも上位魔術を制限解除してぶっ放すなんて、そんなことをするはずがないだろう。

全く、二人とも心配性である。……ま、仮にやるとしても、細心の注意を払ってやるから安心して欲しいものだ。

「ぅ……」

ふと、上空からベアルのうめき声が聞こえた。

俺の『火球』で生まれた空の穴から、ボロボロのベアルがゆっくりと降りてくる。

「うおっ!? あのとんでもねぇ『火球』を受けて生きてやがるとは……」

「しかし魔力体を維持出来なくなっています。コニーが半分見えていますよ」

魔力体の部分は大きく欠け、残った部分も薄くなっており、中からコニーが覗いていた。

おっ、よかった。コニーは無事のようだ。

あの『火球』、コニーがダメージを負わないよう人体への被害を抑えられるよう術式を弄ったのだ。

神聖魔術の応用だな。とはいえ多少傷つくのもやむなしと思っていたが……ベアルが本体を守ってくれてよかったな。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

息を荒らげながらゆっくりと地面に降り立つベアル。流石に戦う力は失っているようで、そのまま崩れ落ちる。

どうやらここまでのようだな。

俺もまた地面に降り立つ。ベアルは弱々しく、しかし未だ不敵な笑みを浮かべている。

「……ふっ、強いな貴様。余に勝てる人間が存在するとは夢にも思わなかったぞ」

「お前も強かったよ。いい勝負だった」

「あぁ……いや、違うな。余の完敗だ。まだまだ貴様は余力を残しているだろう」

そこまでわかるのか。やはりこいつは強いな。

「最後に教えろ。貴様は何故、そこまでデタラメな強さを得られた? その魂の器を見れば、貴様が生まれた時より圧倒的な力を持っていたのは明白。にも関わらず、そう或れるほど弛まぬ努力を積み重ねられた理由は何だ?」

問いかけてくるベアルに俺は少し考えて答える。

「と言われても……俺は今まで努力したことなんてないけどなぁ」

「う、嘘をつけ! 単純魔力量はともかく、その鍛え上げられた魔力線、魔術知識は努力なしでは到底成し得るはずがないだろう! 人を超えたその力、並大抵の努力ではなかったはずだ!」

人を化け物扱いはやめて欲しいんだが。そう思いつつも俺は答える。

「本当だ。俺はただ好きなことを好きなようにやっていただけだよ」

実際、俺は今まで好奇心の赴くまま好きなようにやってきた。

「大好きな魔術を極める為に使えそうなものは片っ端から取り組んだ。それこそ魔術関連なら何でもかんでも――それが結果的に強さに結びついただけさ。別に強くなりたくて努力したことなど、一度もないぞ」

俺の答えにベアルは呆気に取られたような顔をした。

そしてすぐ、可笑しそうにくぐもった笑いを漏らす。

「くくっ、なるほど。ただの魔術好きか。力を、好敵手を追い求めた余と違い、ただ好きで研鑽を積み重ねてきたのだな。……勝てぬ訳だ」

何やらブツブツ言いながら、ベアルはより薄くなっていく。最後に聞きたいことも聞いて力尽きたという所だろうか。

「……ふん、もう魔力が尽きてきた。我は消える。最後は……貴様の手で、殺せ……」

急速に失われていくベアルの魔力。

もはや身体を維持する力も残されておらず、その魔力体は崩壊を始めているのだ。

魔族と何度か戦った俺にはわかる。このまま放っておけば消滅するだろう。

俺はゆっくりとベアルに手を伸ばし――

「待って!」

声を上げたのはコニーだ。ベアルが弱まったからか、身体の主導権を取り戻したようだ。

「この子を……ベアルを消さないであげて」

真剣な眼差しで俺を見るコニー。

グリモとジリエルがひょいっと出てくる。

「おいおいおいおい、お前さん今まで身体乗っ取られてたんだろ? なーにノンキなこと言ってんだよ!」

「その通り。かの魔王は世界を滅ぼすことすら厭わぬ危険な存在 生かしておくのは危険すぎる。何でもかんでも殺すなというのは、優しさとは言わないのだ!」

「……うん、わかってる。でも――ベアルの知識はすごいんだよ!」

二人の言葉に、コニーは目を輝かせて言った。

「身体を乗っ取られてた私はベアルの中で色々な知識に触れたの。例えば――海のどこかに存在する国『ザンダルシア』、世界に一体しか存在しない超獣『ジェイコブ』、創世から存在する神魔の子『ラダラフィア』、最初の魔術『原初原生』――ここでベアルを消したらそんな情報も手に入らなくなっちゃうよ。……それに」

コニーは少し考えたた後、言葉を続ける。

「ほんの少しだけど一緒になってわかったけど、ベアルは寂しい子なのよ。圧倒的な力を持つが故に張り合う相手も同等に話せる相手もおらず、何千年も独りぼっちだった。ロイドと戦っている間ずっと、ベアルは嬉しそうだったよ。最後の一撃を喰らっている間さえ、ずっと……私には想像もつかない孤独だったんだと思う。だから、ねぇロイド、ベアルと友達になってあげられないかな?」

「ともだちぃぃぃっ!?」

グリモとジリエル、そしてベアルまでも大きな声を上げた。

「いやいやいやいや! 友達ってアンタ、ベアルは魔王なんだぜ!? 人間と仲良くなんて出来るわけねーだろがよ!」

「ロイド様の下僕となった魔人が何か言っておりますが……いえ、私も同意見です。我々と魔王はあまりに存在が違いすぎる!」

「余を友に。だとぉ……!? ふ、ふざけるのも大概にしろ! ありえん! 天地がひっくり返ってもありえん話だ!」

大反対するグリモとジリエル。ベアルはそれに加えて動揺を見せている。

死にかけてたんじゃなかったのか。意外と余裕あるな。

コニーはそんな三人の言葉に、首を横に振る。

「ふざけてないよ。私たちはきっと友達になれる。だって――」

「――うん」

頷く俺に三人は驚愕に目を見開いた。

「奇遇だなコニー、実は俺もそのつもりだったんだよ。ベアルは魔王、間違いなく危険な存在だ。しかし強者を求めるその好奇心は俺にも理解できる。さっき手を伸ばしたのも殺そうとしたわけじゃなく、お前を助けようとしたのさ」

そう言って、ベアルに魔力を注ぐ。

……うん、これで少しは回復したかな。

しかしベアルは驚きのあまり、動揺しているように見える。

「余の気持ちがわかる、だと……? し、知ったような口を……!」

「わかるさ。俺自身戦いにそこまでの興味はないが、その為に世界を飛び回り、時代をも超え待ち続け、何千年もの孤独に耐える……それは余程好きでなければ不可能だろう。その熱意は俺の魔術好きと通じるものがある」

俺だって魔術に使えそうなことがあれば西へ東へ、どこへでも行くからな。気持ちはわかるぞベアル。うんうん。

「言われてみりゃあ確かにだ。興味対象が『強者』と『魔術』っつーくれぇで、ロイド様と似たようなもんかもしれねぇぜ」

「えぇ、迷惑度はともかくとして、ですが。そう考えたら二人は友にもなり得るやもしれませんね」

「うんうん、ベアルとロイドはそっくりだよ」

グリモとジリエルも納得し、コニーはどこか嬉しそうだ。

コニーも自分の身体を乗っ取られておきながら、知識欲の為にベアルを生かそうとする辺り、人のことは言えないと思うのだが……ともかくである。

「だからベアル、俺と友達にならないか?」

「余を……友に、だと……? 余は……余は魔界の王、世界すらも滅ぼす力を持っているのだぞ!? 今回は貴様に負けたが、力を磨き上げれば次は余が勝つ! その時は今度こそ世界が滅ぶかもしれんのだぞ!? それでも余と友になろうというのか!?」

「本当に滅ぼそうとしている奴はそんなこと言わないよ。それにもしそうなっても、また俺が勝てばいいだけの話だ」

「……っ!」

言葉を飲み込むベアルの手を、俺は半ば無理矢理に握った。

「な、いいだろ?」

「~~~~~~~ッッか……勝手にするがいいっ!」

そう言って、ベアルはコニーの中に引っ込んでしまった。

突然どうしたのだろうか。よく分からないが、勝手にしろと言うことは承諾したと取っていいんだろうな。

「やれやれロイド様、マジに魔王が友達になっちまいやしたね」

「しかしいきなり逃げ出すとは無礼極まりますな。何を考えているのでしょうか」

「呼んでるけど私の中から出てこようとしないわ。ふふっ、なんだか照れてるみたい」

くすくすと笑うコニーの胸元には、黒いアザのようなものが出来ている。

どうやらコニーの身体にくっついたようだな。俺とグリモ、ジリエルみたいなもんか。

「ありがとうロイド君。その、ベアルを消さないでくれて」

「気にするなコニー。俺にも利があることだからな」

コニーの言う通り、ベアルの知識はとても使える。

更に言えば、ベアルは俺が思いっきり撃った魔術を耐えるような強さだ。

魔術の実験相手として、これ以上の適任はいないと言っていいだろう。

そんなベアルを多少危険だからと言って、消すはずがないじゃないか。

ともあれ、これからも仲良くしていきたいものである。うんうん。