軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

覚醒

「ぅ……あ、あれ?」

「俺は一体、何を……?」

寝転んでいた者たちがうめき声を上げながら、身体を起こし始めている。

おっと、本格的に目を覚まし始めたな。

早く後片付けをしないとな。

というわけで発動させるのは禁書庫で見つけた魔術書で覚えた空間系統魔術『次元保庫』。

これは次元の狭間を切り取って空間を生成、何でも入る収納スペースとする魔術だ。

こいつに気を失ったゼンとシェラハを放り込めば、とりあえず隠せはするだろう。

「ロイド様、この二人とも殺っちまわねーんですかい?」

「あぁ、その必要はないだろう」

「いや、あると思いますが……相手は魔軍四天王ですよ?」

ジリエルが呆れ顔で忠告してくるが、俺はそうは思わない。

確かにこいつらは相当強く、人間を傷つけるのも何とも思ってない。そもそも魔族という時点で危険極まりない奴らだ。

しかし意外と話も通じるし、すぐに殺してしまうべき、とまでは思えないんだよな。

……まぁそれは建前だけど。だって折角こんな面白い奴らを生きたまま捕まえたのに、殺すなんてもったいないじゃないか。

魔界とやらの知識や技術、そこにいる生物や魔術的なモノとか、知りたいことはいくらでもある。

いやぁどうなることかと思ったけど、ダンスパーティに出てよかったなぁ。

貴重な魔軍四天王を二人も捕獲できたんだから。よーし、後で色々聞きまくるぞー。

そんなことを考えながら、二人を『次元保庫』に放り込もうとした、その時である。

「……?」

二人の気配が急に薄くなったような気がした。

見ればゼンとシェラハは自らの腕で自身の胸を貫いていた。

「な、何してやがるんだこいつら!? 自分で自分を攻撃しただとぉ……!?」

「自死……? 二人の魔力がどんどん崩壊している……止まりませんよ!」

グリモとジリエルの言う通り、二人の魔力体は崩壊を始めている。

一体何を考えてこんなことを……茫然と立ち尽くす俺の目の前で、霧散していく魔力粒子が特定の方向へと流れているのに気づく。

その向かう先は――

「これ、で……私たちの役目は終わり、ね……」

「あぁ……我が主もようやく目覚められるだろう……」

二人はどこか満足げな顔で消滅していく。

おいこら、安らかな顔で消えるんじゃない。お前らにはまだ聞きたいことが山程あるんだぞ。

別に取って食おうってわけでもないのに一体どうして……くそっ。

落胆の息を吐いたその瞬間、俺の全身がぶるると震えた。

「ロロロ、ロイド様、ああ、あれを……」

グリモが声を震わせながら声を上げる。

指差す先にいるのは、ゆっくりと身体を起こすコニーだ。

……いや、アレは本当にコニーなのか? その雰囲気は異様の一言でしか言い表せない空気を纏っていた。

しかも今のコニーには、彼女が本来持たないはずの魔力が――ある。

感じられるのは魔族特有のドス黒い魔力。

魔軍四天王が纏っていたのも異質だったが、コニーのそれはまさに漆黒。別物と言っていいほどの純度だ。

「ややや、ヤバすぎです! あんな魔力は見たことがない! ロイド様、今すぐ逃げましょう!」

「そうですぜ! 魔軍四天王を束にしても比較にすらならねぇ凄まじすぎる魔力! あれは、まさか、よもや、伝説の――」

「――ふむ」

コニーが、そうだったものが呟く。

低く濁った声が、普段の声と重なって聞こえていた。

「これが今世の我が肉体か。女の身体など――とは思っていたが、存外悪くないものだ」

くるりとこちらを向き直り、メガネを外しす。

その顔つきはコニーとは全く違っていた。

いつも好奇心に輝いていた目は鋭く、怪しい光を帯びており、口元には歪な笑みを浮かべている。

それに妙だ。さっきから奴の周りを、魔力の霧とでもいうべきものが漂っていた。

霧から感じられる気配は……ゼンとシェラハ、だろうか。奴は霧を指先で弄ぶようにしている。

「おっと、貴様らも労ってやらねばならんな。――うむ、よく働いてくれた。大義であったぞ。褒めて遣わす」

褒められた魔力の霧が嬉しそうにするのをひとしきり眺めていたかと思うと、不意に冷たい空気が張り詰めた。

「おいそこの貴様、何を見ている。我をこの世界を統べる王、ベアルと知っての狼藉か?」

――ベアル、そう名乗ると共に凄まじい魔力の波動がビリビリと響く。

その圧力に目を覚ましかけていた者たちは再度気を失ってバタバタ倒れる。グリモとジリエルもまた白目になりながら口から泡を吹いていた。

魔王ベアルといえば、かつての魔軍進撃にて魔族を率いた王である。

ひとしきり大陸を荒らしまわった後、どこぞに消えてしまったと言われていたが……何故コニーの身体を乗っ取っているのだろうか。

疑問に首を傾げる俺を見て、ベアルはほうと頷く。

「貴様、余の圧を受けて立っているとは中々やりおる。……ふむ、もしやこの娘の好人か? 愛の力で何とか立っている、といったところか。ふふ、泣かせてくれる。よかろう。余もこうして身を得たことで今、とても気分がいい。故に貴様の冥土の土産に教えてやる。今何が起きているのかを――な」

ベアルは機嫌良さそうに言葉を続ける。

「かつて余はこの地にて眠りについた。我が魔力は大地に染み渡り、やがて百数十年が経過した頃、いつの間にか人間どもは余の魔力に満ちた地で暮らすようになったのだ。余の魔力に怯えた魔物どもが近づいてこれなかったから人間どもにも都合が良かったのであろう。だが余の魔力の影響で人間どもは皆、どこかに病を抱えて生まれてきていた」

なるほど、そこがコニーの住んでいた村というわけか。

あの土地には魔物も近づかず、人々も魔力障害を持って生まれてくる。

こんなとんでもない奴の魔力が大地に満ちていたら、それも当然だな。

「しかしそんなある日、この娘が生まれた。こやつはあらゆる魔力を自らの内に封じ込めるという体質でな。それを知った余はこの肉体に自らの核となる部分をこの娘の身体に宿すことにしたのだ」

魔宿体質であるコニーは魔力を持たないが、あくまで魔力を発現できないだけであり、その体内には魔力が渦巻いている。

つまり魔力を封じる効果がある、ということだ。その力によって、コニーは魔力体であるベアルをそのまま身体に宿していたのか。

「そうして我が核を宿したこの娘は成長し、この学園に辿り着いた。そこには我が魔力の大部分が封印されているからな。封印は長い年月により綻んでおり、余の一部である魔軍四天王が身を捧げることで共鳴を起こす。こうして復活を遂げたのだよ。くくっ、理解したか?」

魔術的に言えば、封印を解除する方法は大きく分けて二つ。すなわち、内から壊すか、外から壊すかだ。

ベアルには魔軍四天王と似通った魔力を感じる。

恐らく身を分けた分体というやつだろう。グリモも以前、似たようなことをしていた。

分体である魔軍四天王の呼びかけに本体が応じれば共鳴により封印は綻びる。

そして呼びかけの最たるものが死だ。思えば四天王はコニーに近づこうとしていたな。これを狙っていたのか。

こんなトンデモ魔力が溢れたら、人間の中身が耐えられるはずがない。

コニーの意識は失われ、ベアルに乗っ取られたというわけだ。

「――さて、話は終わった。残念だが貴様の愛する者が帰ってくることはもうない。しかし絶望することはないぞ? すぐに貴様ら――いや、人間全てを同じ場所へ送ってやる」

空へ真っすぐ手を掲げたベアル。その人差し指に魔力が集まっていく。

生まれた巨大な黒の塊は急速に大きくなり、空を覆わんばかりとなった。

学園と同等近い広さはあるだろうか。大気は哭き、大地も震えている。

「さらばだ。人の世よ」

そう呟いてベアルは指先一本で支えていたそれを――放った。

もうもうと立ち昇る黒煙を一瞥し、ベアルは夜空へと舞い上がる。

そして上空より見える景色を見てつまらなそうに息を吐く。

「……やれやれ、何百年経ってもこの世界は代わり映えせぬな」

かつてベアルはより強き者を求めて魔界よりこの大陸を訪れた。

しかし彼を満足させる者はついぞ現れず、そこで長い眠りについたのである。

そして年月は経ち、目を覚ましたベアルはまず期待した。久々の現世、新たな強者の気配くらいは感じ取れるのではないかと。しかし周りにいたのは凡百としか言えないような魔力ばかり。

――否、先刻話した少年だけは多少見どころがあると言えたが、それでもベアルが心躍る程ではなかった。

「魔軍四天王《我が分身》どもが相手なら、そこそこは戦えそうだったがな」

惜しいな、とベアルは落胆する。

「恐らくは人類史上でも一、二を争うような天才が極限の努力の末に辿り着いた姿。しかしあれでもまだ足りぬ。余が欲するのは血湧き肉躍るような戦いよ。我に匹敵する力――それは才と努力だけで得られるものでは決してない。無限の欲求、無限の時間、無限の探究心……寿命の短い人間では決して辿り着けない境地だ。ふっ、だが期待など最初からしていない。圧倒的な強者故の孤独はとうに受け入れて――」

言いかけてベアルは目を見開く。

爆発の黒煙が晴れたその向こうでは、破壊したはずの学園塔が健在だった。

少年――ロイドの展開した魔力障壁展開で防がれたのだ。

「何だと……?」

思わず言葉が溢れる。先刻の魔力の塊、ろくに練り上げもせずぶん投げたものだったが、それでも人間に、魔軍四天王レベルでは耐えられるものでは無い。

「しかも自身だけでなく、学園や周りの者たちまで守り切る、か。――おい、貴様名を申してみよ。余の頭隅を汚す栄誉をくれてやる」

ベアルの問いにロイドは少し考えて答える。

「ロイド=ディ=サルーム。ただちょっと魔術が好きな第七王子だよ」