軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ダンスパーティーが始まります。前編

「さてさて皆さま、お待たせしました。ウィリアム学園祭も最後の催し、ダンスパーティを開催しまっせー。最後までしっかり楽しんでってなー」

おおおおおおお、と歓声が上がる。

――結局、シェラハはあれからずっと人に囲まれており、声をかけることは出来なかった。

どうやらダンスパーティーに出るつもりのようで、ちゃっかりノアをパートナーにしている。

「つーかあの野郎、一体何を考えてやがるんだぁ? やるならさっさと襲って来ればいいのによ、何とも不気味だぜ」

「ですがあの魔族女、よく見れば中々の見目麗しさですね。いえ、もちろんシルファたんには敵いませんが、かなりイイ線いっていますよ?」

「何言ってんだお前……」

唸るジリエルにグリモは冷たい視線を向けている。

確かにシェラハが何を企んでいるのかは気になるが、それよりも俺としてはもっと困ったことが起きている。

「ダンスパーティ、頑張ろうねロイド君」

これから始まるダンスパーティ、俺の傍らにいるのはドレス姿に着飾ったコニーである。

短い髪も丁寧にまとめ上げ、フリルの沢山付いたミニのドレス。

衣服の所々には花があしらわれており、ヒール靴は歩きにくそうだ。

「へぇ、見違えたじゃないか」

いつもはツナギとか作業しやすい服を着ているコニーのドレス姿は新鮮だ。

「シルファさんに着付けられたんだけど……こういう服、私には似合わないよね」

ひらひらしたスカートを抓んで首を捻るコニー。だが俺はそうは思わない。

「いいや。よく似合ってるぞ」

「そ、そう……?」

コニーも慣れないのか、若干照れ臭そうにしている。

「ほほう……イイじゃねーか。しかしメガネは外さねーんだな。ドレスと絶望的に似合ってねぇぜ」

「愚か者め。それがいいのだ。メガネ美少女からメガネを外すことはアイデンティティの喪失を意味する! そこら辺分かっているシルファたんは流石としか言いようがない! そしてあの貴重な照れ顔……ふっ、そろそろコニーたんと呼んでも良いかもしれんな……」

グリモとジリエルがブツブツ言ってるのはいつものこととして――

本来ならシルファたちがパートナーだったはずだが、「自分とこのメイドと踊るとか、男として恥ずかしくないんかい!」とビルギットからのダメ出しを喰らってしまったのだ。

そんなわけでコニーと組むことになったのである。

まぁこちらは大した問題ではない。元々目立ちたくなかったからな。むしろ大歓迎だ。

本当にマズいのはこちらである。

俺が視線を向ける先では、生徒たちがダンスの練習を行っている。

「右、左、右、左……よし、ここでターンだな」

「あぁ、緊張してきた……もう一度最初かららワンツーワンツー」

たどたどしいステップ、未熟なターン、引きつった顔……これはひどい。完全に不思議な踊りである。

そう、困りごとというのは周りの者たちのレベルが低すぎるということだ。

俺自身はもちろんダンスなんかに微塵も興味ないのだが、前にサルームで開かれたダンスパーティで覚えるのが面倒だからとアルベルトの技術を制御魔術でコピーしたことがあったのだ。

それでこの歳にしてダンスの天才だとか何とか言われ、誤魔化すのがすごく大変だったという苦い思い出がある。

まぁもう二度とダンスなんかするつもりはないし、そのうち皆忘れるだろうとタカを括っていたのだが……

「ロイド、出るからには優勝せな許さんで。あの時の技、忘れ取らんやろな」

「問題ありませんビルギット様。ロイド様には剣術の稽古を通してしっかりと手解きをしております。負けることなど万に一つもございませんとも」

「その通りだとも。ロイドの腕前は僕と並べても遜色ないレベルだ。多少のブランクはハンデのうちに入らないよ。楽しんで優勝してくるんだよ、ロイド」

……残念ながら皆バッチリと覚えており、これでもかというくらい期待されている。

参ったな。ここで優勝なんかしたらやはり目立つし、しなけりゃしないでアルベルトたちから手抜きだと思われるだろう。

ちなみにアルベルトとビルギットは審査員、手抜きはすぐにバレてしまう。

「そうだ、シルファとレンは出ないのか?」

見目麗しく、ダンスの腕も確かなこの二人が出れば俺が目立たずに済むかもしれない。

「ロイド様が出ないのに私が出る意味はありません」

「ボクも、他の人とは踊りたくないなぁ……」

しかし二人共、深いため息を吐いて首を横に振る。

とてもそんな気分ではない程落ち込んでいるようだ。

何をそんなにガッカリしているのか全く分からないが、俺だってそんな気分じゃないんだけどなぁ。

せめてダンスの上手いアルベルトたちがいれば、俺だけが目立つ事も避けられるのだが……そうだ。いいこと考えたぞ。

これなら目立たずにこのダンスパーティーを終えられそうだ。ふふふふふ。

「……どうしたのロイド君、不気味な笑みなんか浮かべて……」

「いや、なんでもないよ。それよりダンスが始まるぞ」

既に曲は始まっており、俺たちより前のペアは次々と階段を登っている。

「さぁ行こう」

「う、うん」

俺はコニーの手を取ると、幻想の城を駆け上るのだった。

階段を登るとそこは大きなホール、十数組のペアが一定感覚を保って佇んでいた。

最後の俺たちが位置につくと、曲調が変わる。始まりの合図だ。

頷くコニーの手を引き、踊り始める。

最初は大人しい曲調で、皆は穏やかに踊り始める。

しかしそんな技術差は出にくいはずのダンスでも俺たちに比べると周りの皆はダメダメだ。

大陸最高峰の学園で学業に励んでいるくらいだし、ダンスにそこまで打ち込んでいる者はいないのだろう。

ダンスは王侯貴族の嗜みだが、実力主義のこの学園にはそんなもの知ったことではないという者や、そもそも平民も多い。

これでは経験者である俺たちが優勝確実とか期待されても仕方ないだろうが……そうもいかないんだなこれが。

俺は指先に魔力を練り込み、発動させる。

するとフロアで踊っている者、全ての動きが格段に変わった。

「な、何が起きたんだ!? まるで自分の身体じゃねーみたいに動きが止まらねぇ!」

「いつもとステップの切れが違いすぎる! まさか俺の隠された力が発動したとか!?」

皆、驚いてはいるものの、ダンスに夢中でそれどころではなさそうだ。

ふふふ、上手くいったな。

今使ったのは制御系統魔術、踊っている者全ての動きをアルベルトと同レベルでトレースさせたのだ。

俺の企みというのはこれ、フロア全体のレベルを上げてしまえばい俺だけが目立つこともない、というわけである。

我ながら見事な作戦だ。これで俺が優勝出来なくても、アルベルトたちに怪しまれることはないだろう。

「なんと……生徒たちのダンスの腕はそこまで高くないと思っていたが、どうやら違ったようだな。これは流石にロイドの優勝も危ういか」

「えぇ、ですがロイド様ならどうにかするはず。期待して見守りましょう。……しかし妙ですね。彼らの踊り、どこかアルベルト様に似ているような……」

審査席にいるアルベルトたちの声がマイク越しに聞こえてくるようが、誤魔化せていると思う。多分。

そうこうしているうちに曲のテンポが上がっていく。

皆の踊りも切れを増していき、ホール全体も徐々に熱を帯びている。

今のところいい感じだ。皆の動きが良い為、俺だけが目立つのは避けられている。

それに、嬉しい誤算もある。

俺の視線の端で、シェラハが長いスカートを振り回し見事なターンを決めた。

おおおおお! と客席から声が聞こえる。

このホールで最も目立っているのは魔軍四天王、シェラハとノアのペアであった。

「うおー! いいぞねーちゃん!」

「ヒューヒュー! こっち向いてくれー!」

飛び交う歓声は殆どがシェラハに向けられたものだ。

実際素晴らしい。時に激しく、時に嫋やかに、まるで流れる水のようなダンスは見るもの全てを魅了している。

横目で見ていても目を奪われるようだ。

「ほう、この私が魔族の舞踏に見惚れるとは……ふっ、大したものです」

「なんで偉そうなんだよクソ天使、しかし何考えてんだあの女、マジに踊りに来たってだけじゃねぇだろうが……」

ともあれ、俺への注目が薄れているのはありがたい。

何の意図でダンスパーティーに乗り込んできたのかはわからないが、このまま目立ちまくってくれよな。

――そしてまた曲調が変わる。

今度は打ち寄せる波のようなリズム、シェラハのダンスに合わせたような曲である。

こんな予定はなかったはず。どうやら演奏者をも味方につけたようだ。こりゃ優勝は決まったかもな。

俺は隅っこで地味に踊っていればいいだろう。

「……しかし見れば見るほど見事な踊りだ。素晴らしい」

「あぁ、俺でも見惚れるぜ。これだけの観衆を釘付けにするのもわかるってもんだ」

ジリエルだけでなく、グリモまでシェラハの踊りに感化されているようだ。

まぁ俺としてはどうでもいいが、少し離れていればさらに目立たないかもな。

俺がそう思い、移動しようとした時である。

ひゅお、と風切り音と共に俺の首元に何かが迫る。

水だ。圧縮された魔力の込められた水の刃を自動展開した魔力障壁が弾き飛ばした。

水の刃の出所はシェラハだ。激しく舞いを続けながらも俺の方を見て、蠱惑的な笑みを浮かべてくる。

「あらすごい。私の流水演舞を間近で受けて、まだそんなに動けるとはね」

シェラハが舞うたびにがくん、がくんとノアが揺れる。

その目は虚ろになっており、意思のない人形のようだ。

ノアだけではない。周りで踊っている生徒や客席の者からも、まともな意思は感じられない。

何かが起きているようだ。

「魔軍四天王が一人、蒼のシェラハ。我が舞は周囲全てを魅了する! さぁ座してその目に焼き付けなさい。流水演舞・極!」

シェラハの動きが更に激しさを増す。

周囲には水の玉が浮かび、音楽に合わせて形を変えている。

ふむ、この踊りは魔力を乗せたものだな。

踊りに合わせて魔力の波長を変化、見る者に精神作用を及ぼすというわけか。

例えば精神感応系統魔術や神聖魔術などがこれに当たる。自白を促したり、性格そのものを変えたりと、変わった魔術が多いんだよな。

だが術式を用いず、魔力の波長の変化のみでやるというのは中々面白い試みだ。

踊りという原始的行為だからこそ、精神に直接働きかける効果が得られるのかもしれない。なるほど、勉強になるな。

感心する俺の目の前で、シェラハの舞は最高潮に達していた。

飛んだり跳ねたり、くるくる回ったり、とにかくすごいことになっている。

俺に踊りの素養があればもっと詳しく語れるのだが、ないのが残念だ。我ながら語録が死んでいる。

「馬鹿な……私の流水演舞は如何なる魔力障壁をも超えて催眠効果を与える技、それをこの至近距離でまともに受けて、何故全く効いてないの!?」

「そんなこと言われても、俺はダンスに興味ないからなぁ」

周りに上手い人が沢山いたから良し悪しくらいはわかるが、俺にとってはそれ以上でも以下でもない。

踊りそれ自体に興味は全く、微塵もないのだ。

あ、魔力を乗せた踊りというアイデアは面白いと思うけど、基本的には単純な技なので魔術的にはあまり興味をそそられない。

時々飛んでくる水の刃も特筆すべき程じゃないし、正直俺が興味をそそられる程ではないかな。

「くっ、魔王様をも唸らせた私の舞が通用しないなんて……!」

シェラハは信じられないといった顔だ。

なんかその、ちょっと悪いことをしたかもしているのかもしれない。