軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

学園祭、後編

そして数日が経ち、あっという間に学園祭最終日になった。

朝光を浴びながら、俺はふむと頷く。

「で、まだコニーの作業は終わってないのか」

「はい、もう少し、と」

朝食を運んでくれたシルファが答える。

先刻、シルファはコニーに朝食を届けがてら状況を聞いたらしい。

「全く、もう少しもう少しといつまで言うつもりなのやら。困ったものです」

「でも本当にもう少しみたいだよ。最終確認が終わり次第、すぐにいけるって」

シルファのぼやきを遮ってレンがフォローする。

中々焦らしてくれるな。だが俺に出来るのは待つことくらい。焦れずに待つとしよう。

そんなわけで今日も今日とて、学園祭を見て回る。

もう十周目だがまだ飽きない。見るたびに新しい発見ってあるものだ。

おっ、ここにきて新しい出し物とはチャレンジャーだな。

あっちは客からの要望を聞いて改善を行なったようだ。

まだまだ祭りは終わらないってところかな。

「……しかし最終日ともなると、人もかなり減っているな」

先日に比べると人の流れは見るからに減少している。

俺は歩きやすくていいけど、生徒たちはどこか気が抜けているようだ。

ま、五日もやってれば仕方ないだろう。ただ気が抜けているというより、ソワソワしている感じにも見受けられる。

「パートナーを探しているんでしょ。ほら、あそこ」

俺の横にいたレンが指差す先、男子生徒が女子生徒に何やら懸命に頼み込んでいるようだ。

しかし断られたようで、がっくりと項垂れている。

その様子を見てシルファは呆れたように首を振る。

「愚かなものです。この手のイベントは日頃の行いと根回しがものを言うもの。今更慌ててももう遅いのが理解出来ないのでしょうか。全く、見苦しい事この上ありません」

なんだなんだ? 二人共、一体何の話をしているんだ?

「マジで知らないんですかいロイド様。二人が言ってるのは学園祭最終日に行われるダンスパーティーのことですぜ」

「先日からあちらこちらで男子生徒が女子生徒を誘っていましたよ。シルファたんやレンたんもそれは沢山の男どもに誘われておりました。……無論、どいつもこいつもあっさりフラれたわけですが。ふっ、汚らわしいゴミムシどもに相応しき報いです」

グリモとジリエルが親切に解説してくれる。興味なさすぎて全然気づかなかったな。

ま、俺が出るわけでもないし憶える必要もないか。

「……こほん。ところでロイド様、今宵のお相手はお決まりですか?」

「へ?」

突然のシルファの問いに思わず素っ頓狂な声が出てしまう。

え、俺も出なきゃダメなの?

俺がそう目で問うと、シルファは当然とばかりに頷く。

「ビルギット様の主催です。ロイド様も当然出る必要があるでしょう」

「アルベルト様も強制参加だったしね。まぁ満更でもなさそうだったけど」

そういえばビルギットが何か言ってた気がする。本を読んでたから流してしまったが今思えばこのことだったのか。全く聞いてなかった。

うーんめんどいな。どうしよう。唸っているとシルファがコホンと咳払いをする。

「どうやらロイド様もまだお相手は考えておられない御様子。宜しければ私めとご一緒して頂けないでしょうか?」

すっと手を差し出してくるシルファを見て、レンが慌てる。

「シルファさんっ!? ダンスパートナーは男の子から誘うものだって言ってなかった!?」

「ふっ、何の強制力もない愚かなルールです。わざわざ従う理由もありません」

「だ、だったらボクだってロイドと……」

「好きにすれば良いでしょう。決めるのはロイド様なのですから」

「ぅ……そ、そうか。そうだよね……」

すました顔のシルファにレンはしばし考え込むと意を決したように俺を見上げる。

「あのっ! ロイド、よかったらボクと……その、踊ってくれませんかっ!?」

上目遣いで頬を紅潮させながら言うレンに、俺は答える。

「えぇー……」

「反応ひどっ!」

俺の返事にショックを受けたのか、レンは声を上げた。

別にダンスが出来ないわけではない。シルファからこの手の作法は嫌と言うほど叩き込まれたからな。

だが生徒たちが多数参加するダンスパーティーにシルファやレンと一緒にいると俺まで目立ってしまうじゃないか。

シルファは言うまでもなく、最近はレンも相当人目を引く美少女ぶりだからな。俺は目立ちたくないのである。

せめてもう少し地味な子なら踊ってもいいんだけれども……ま、今から他の子を誘うのも面倒だし、ここは諦めるしかないか。

そして夕方、ダンスパーティー直前に俺は皆にもみくちゃにされながら衣装に着替えさせられた。

髪の毛はワックスで固められ、パリッとして動きにくい子供用スーツを着て皆の前に進み出ると、おおー、と感嘆の声が上がった。

「へぇ! 中々似合うやんかロイド!」

「うん、いいね。これならどこに出しても恥ずかしくはないよ。いや、元々恥ずかしいどころか自慢の弟なんだけれどもね」

正装したビルギットとアルベルトが俺を見て満足そうに頷く。

そうは言うが我ながら似合っているとは思えないぞ。鏡で見たが着られてる感満載だ。

逆に二人はとても着慣れいる。やはり王子、王女だな。俺には到底無理な芸当だ。

「とてもお似合いです。流石はロイド様でございます」

「うんうん、すごくカッコいいよロイドっ!」

シルファとレンが持て囃してくるが、どう見ても二人の方が似合いのドレスを着ている。

薄い布地に背中なんかぱっくり開いちゃってまぁ、風邪でも引きそうな格好だ。

「うんうん、皆ええやないの。あとは会場がもう少しまともならなぁ……」

ビルギットは窓の外を見下ろすと、落胆の息を吐く。

ダンスパーティ会場である学園中庭には手作りの飾り付けがされているだけで、俺たちが普段催し事をしている王城などとは比べるべくもない。

「仕方ありませんよビルギット姉上、これだけ広いスペースが確保出来ただけでよしとせねば」

「せやけどなぁ……ん、そういやコニーはどしたんや? 最近見とらんかったけど」

「コニーちゃんは――」

アルベルトがビルギットに事の経緯を説明する。

それにしても結局コニーの魔道具作りは間に合わなかったようだ。

もうすぐって言ってたのにな。残念である。

「まぁ後で見せて貰えば問題ないが……む?」

そんなことを考えていると、ツナギ服の女生徒がパーティ会場に駆け足で入ってくるのが見えた。

コニーだ。俺たちを探しているのか辺りを見渡している。

「おーい、コニー!」

「あ! ロイド君。おまたせ、出来たよー!」

ぶんぶんと手を振るコニーの懐にはボール大の魔道具が抱えられてた。

おおっ、あれが噂の魔道具か。ようやく完成したのか。待ちわびたぞ。

俺は窓から飛び降り『浮遊』にて着地する。

「お疲れ様だったな、コニー」

「うん、何とか間に合ってよかった。早速試すから見てみてよ」

「そうだな。さぁやろう。すぐやろう」

言わずもがな、俺は魔道具に釘付けであった。

一体どんなものだろう。ワクワクするな。

「どうやって使うんだ? というかそもそもどういうものなんだ?」

「慌てないで。ちょっと人を集めるから……おーい! みんなー!」

コニーが周りの生徒たちに声をかける。

ふむ、よくわからないが俺も協力するか。

「ちょっと手を貸して欲しいんだけど」

「あの、少し手伝って貰えませんか?」

俺たち二人で皆に声をかけていくと、あっという間に十数人が集まった。

「やれやれ、一体どうしたんだい?」

「ってか久しぶりだなメガネちゃんよ」

その中にはノアとガゼルもいる。

コニーは咳払いを一つすると、ぐるりと皆を見渡した。

「皆さん集まってくれてありがとうございます。この魔道具は大量の魔力を燃料に発動するもの、それはもう、ものすごく沢山の魔力が必要となります。なので皆さんの力を貸して下さい」

ぺこりと頭を下げるコニー、彼女は入学してずっと、村の魔力障害をなくすべく魔力を吸い取る研究を続けてきたからな。

これがその集大成といったところか。

「構わないぜ。中々面白そうだ」

「どうすればいいのかな?」

ノアたちが頷くと、周りの者たちも我も我もと手を挙げ始める。

あっという間に列ができてしまった。どれどれ、ここは俺も参加させて貰うとしよう。

「ではここに手を載せて下さい」

「ふむ、こうかい?」

先頭のノアが魔道具に手をかざすと、正面に付いていたメーターがくくっと動く。

約一割といったところだろうか、コニーはそれを見て唸る。

「おー、すごいですよノアさん! 一度にこんな魔力を注げるなんて! 流石は魔術科主席。ぱちぱちぱち」

拍手するコニーに釣られ、他の者たちも手を叩く。

「へっ、やるじゃねぇか兄貴。いよーし、俺がもっと魔力注いでやるぜ!」

ガゼルもまた俺の前で燃えている。何だかんだでまだ兄をライバル視しているらしい。

ポキポキと指を鳴らしながら魔道具の前に立つと、気合と共に魔力を注ぐ。

「おっらああああああっ!」

咆哮を上げ、こめかみに血管を浮かせ、脂汗を滲ませながら魔力を注ぎ込むガゼルだが、メーターはノアと同程度しか動かなかった。

「ハァ、ハァ……見ろ兄貴! 俺の方が上だぜコノヤロー!」

「いや、大差ないだろう……」

呆れるノアだが、その後続いた何人かの生徒は一割どころかその一割くらいだった。

二人とはとてもではないが、比較にならない。流石はウィリアムの子孫だな。

そんなことを考えていると、俺に順番が回ってきた。

「次はロイド君か。お手並み拝見といこう」

「へへっ、頑張れよロイド!」

二人は俺の背を叩いてくるが……しまったな。こんな人が沢山いる場所で魔力を注げば、俺の魔力量がバレてしまう。

「おーおー、何や盛り上がっとるやん?」

「皆、楽しそうだねぇ」

いつの間にかアルベルトたちも降りて来てるし、ここは魔力を極限まで落として切り抜けるしかない……だがそうすると、この魔道具のゲージが溜まらないんだよなぁ。

現状は四分の一くらいで、マックスには程遠い。

ここで俺が加減すると魔力が足らず、魔道具が起動できないだろう。

それはマズい。折角魔道具が完成したんだから、すぐに動く所を見たいもんな。ただでさえお預けくらっているのだ。そこは是非ともである。

くっ、どうするべきか……悩む俺の傍に人影が立っているのに気づく。

「やらないのなら私がお先しても構わないかしら?」

鼻をくすぐるような声と共に進み出てきた女性は紫色の髪を長く伸ばした美女だった。

その美貌にその場にいた男たちはおおー、と感嘆の声を漏らす。

「ここに手をかざせばいいの?」

「えぇ、そうしたら自動的に魔力が注がれて……わわっ!? な、何この魔力量っ!?」

女性が魔力を注ぐと、ゲージはぐぐぐっと増えて7割近くにまで達していた。

ノアたちを超える魔力に再度歓声が上がる。

「半端ねぇ魔力だなアンタ。俺らの三割くれーは増えたんじゃねーか?」

「ふむ、それにしても貴女は生徒や関係者ではありませんね。そのような美貌は一度見たら忘れないはずです」

「ふふっ、お上手ですわ」

皆に囲まれ微笑を返す女性、何者かはわからんが誤魔化すチャンスだ。

こそこそこそこそ……ふぅ、これでよしっと。

一仕事終えた俺はコニーの肩に手を載せる。

「しかしよかったなコニー、これでゲージがマックスになったから魔道具も動かせるだろう」

「へ? でもまだ七割くらいで……あ!」

目をこすりながら確認するコニー。目の前のゲージは満タンになっていた。

「あ、あれ? おかしいな……さっきまで確かに……」

「見てたけど、少しずつ動いてたぞ。いやはや、すごいもんだなーあのお姉さんの魔力は。あはは」

――言うまでもなく俺がこっそり魔力を注ぎ込んだのである。

ふぅ、ヒヤヒヤしたけどこれで誤魔化せつつも魔道具を起動できそうだ。あの女性には感謝だな。

そんなことを考えていると、グリモとジリエルがカタカタ震えているのに気づく。

「かなり魔力を押さえていますがあの魔力の波長……間違いなく人間ではありません」

「あの女、魔軍四天王最後の一人、蒼のシェラハですぜ。しかしあの格好、ダンスパーティにでも出るつもりなのかぁ。一体何を企んでいやがるってんだ?」

ほう、魔軍四天王か。

道理で妙な感じだと思った。恐らく魔力を押さえて人に擬態しているのだな。

しかし前に襲ってきた奴らといい、何か企んでいるとのだろうか。

ま、考えても仕方ないか。

聞いてみたいところだがシェラハは生徒たちに囲まれ、ダンスの誘いを受けまくっている。

落ち着いて人が掃けたところで声をかけてみるとしよう。

それよりも俺としては、もっと優先すべきことがあるのだ。

「なぁコニー、これで魔道具を動かせるようになったんだろ? 早く起動させよう」

言わずもがな、コニーがギリギリまで調整していた魔道具である。

相当量の魔力を込められているはず。一体何が起こるのだろうか。ワクワクするぞ。

「あぁ、そうだね。――それじゃあ皆さま、協力ありがとうございました。おかげさまで魔力が溜まりました。それでは魔道具『幻想投影器』起動――」

ぽちっ、とコニーがスイッチを押すと、『幻想投影器』なる魔道具が光りを放ち始めた。

光は縦横無尽な軌道で空中を走る。宙に何かを描いているようだ。

描かれているのは何かの建物だろうか。

「あれは……城、でしょうか?」

シルファが呟く。確かにあれは城だ。

まるで御伽噺に出てくるような絢爛豪華な城が出来上がっているように見える。

「『幻想投影器』は溜め込んだ魔力を放出、物質化する魔道具なの。元は魔力だから一日で消えちゃうけど、こんな大きなお城だって作れるのよ」

「へぇ、すごいなこれは」

完成した城に触ってみると、ちゃんとそこに存在している。

魔力というのは基本、物質化が難しいものだ。

火や水などの現象ならそこまででもないが、実際の武具や建築物など、細やかな設計が必要なものとなると、その難易度は跳ね上がる。

コニーの『幻想投影器』で作り出された城は実際のものと比べても問題ないほど頑丈、かつ精密に作られているようだ。

生徒たちも城に触れたり乗ったりしてはしゃいでいる。

「すげぇなコレ! マジに城だぞ!」

「これだけの人数が乗ってもビクともしないとは、何という魔力密度……いや、構造自体を変えているのか?」

ノアたちも感心しているようだ。

恐らくだが圧縮した魔力を束ねて繊維を作り、それを編み込んで作り上げたのだろう。

もちろん、口で言うほど簡単ではない。

魔力の繊維化自体はともかく、ここまでの質量を生み出すのは高度な制御能力が必要不可欠だ。

この城だけでも術式の長さは半端ではないはず、それをたったの数日でやってしまうとは、見事という他ない。

「やるなぁコニー、こんな技術は初めて見た。ここまでひた隠すのもわかるよ」

「うん、驚いた?」

「あぁ、とてもな」

俺の答えにコニーは少し考えて言う。

「実を言うと城を作ったのはロイド君たちがダンスパーティに出るって聞いたからなの。ほら、この学園ってロイド君たちみたいな王族が踊るにはちょっと物足りないでしょう?」

そういえばビルギットとアルベルトがこんな庭で踊るなんて、と残念がっていたっけ。

王侯貴族というのは面子を大事にするから、踊るにも場所を気にするものなのである。

「だからその、ロイド君たちに相応しい舞台を、と思って城を作ることにしたの。複雑な術式だったから組み上げるのに時間かかったけど、間に合ってよかった。ロイド君にはこのくらいじゃ返せないような恩があるけど、少しは喜んでくれたなら嬉しい」

コニーはどこか照れ臭そうに微笑を浮かべる。

まぁ俺は全く気にしないが。それでもこんな魔力で作られたような城を見れたのは本当に感激である。

「おやおや、女性相手にあんな眩しい顔をするロイドは初めて見たよ。これはもしや青春というやつかな? ふふ、可愛い弟の成長というのはいいものだねぇ」

「やれやれ、あのロイドが女の子に興味を持つとはなぁ。コニーも満更でもなさそうやし、ちーと応援したくなるやないの。にへへ」

「ああっロイド様、シルファは喜しく思います。女性への関心を持たれたということは、私にも少なからずチャンスはある。そしてであればこのシルファ=ラングリス、そこらの女性に負けるような鍛え方はしておりません。ふふ、ふふふふふ……!」

「シルファさん血涙が……怖いよ……」

アルベルトたちが何やらブツブツ言っているが、俺は魔力城の構造を観察しているのでそれどころではない。

ほうほう、魔力の繊維化ってこんなに低コストで出来るんだ。束ねることで細い糸でも丈夫になるのか。それに地系統魔術な術式を使って、隙間を埋めているのだな。

小さな工夫の積み重ねでここまでの巨大建造物を生成するとは、大したものである。うんうん。