軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まずは材料を集めます

「油、ですか?」

翌朝、俺はシーツを干しにきたシルファに声をかける。

魔髄液の原料である油、まずはこれが大量に欲しい。

「うん、水瓶に一杯欲しいんだ。魔術の実験で使いたくて……」

「それは構いませんが……ふむ、そうですね。条件があります」

シルファはそう言ってニヤリと笑う。

「私から剣術ごっこで一本取る事が出来たら、差し上げますよ」

やっぱりそう来るだろうと思ったよ。

シルファは俺がお願い事をするときは、大体そう言って躱すのだ。

いつもはそのまま引き下がっていたが、今回はそういうわけにはいかない。

「わかったよ。やろう、シルファ」

俺が頷くと、シルファは驚き目を丸くした。

「ほ、本当でございますか? 聞き違いではなく?」

「うん、必要だから。じゃ、俺は準備して中庭に行くから、シルファも早く来てよ」

「はぁ……」

呆けた返事をするシルファに背を向け、俺は中庭へと向かう。

しばらくすると、ハンカチで目元をぬぐいながらシルファが現れた。

「うっ、ぐすっ……ロイド様がこんなにもやる気を見せて下さるなんて……うっうっ、シルファは嬉しゅう御座います……!」

何故か涙を流して感激しているシルファ。

はっきり言ってそこまで感激されても困るんだが。

「言っておくけどシルファ、魔術は使わせて貰うからね」

「えぇ、もちろんです。いくらロイド様でも剣術のみで私から一本取るのは難しいでしょうし」

まぁそんな許可を得ずとも既に使ってはいるのだが……要は言い訳作りである。

攻撃魔術を併用して戦えば、シルファ相手に勝ってしまっても言い訳がきくだろう。

「さぁ、いつでもいらしてください」

「――うん」

木刀を片手で持ち、もう片方の手で『火球』を生み出す。

制限は下位魔術のみ、威力は下限いっぱい。

このくらいなら魔術好きの子供が使って不自然でないレベルだろう。

当然シルファの剣技は既にコピー済みである。

「いくよっ!」

先手必勝とばかりに『火球』を放ち、そのすぐ後ろを駆ける

出来るだけ、弾速を遅くだ。

どうせ早く撃っても躱されるし、それならこうして盾として使った方がいい。

「無駄ですっ!」

シルファが木刀を振るうと、あっさり『火球』は消し飛ばされてしまった。

もちろん想定内、『火球』はただの目くらましだ。

俺は走りながら既に『土球』を発動させている。

かき消した炎の後には、土の壁が出来ていた。

「っ!? つ、土――!?」

シルファの木刀は土の壁に埋まり、抜けなくなる。

無理やり抜こうとしている間に、俺はその背後へと回り込む。

――取った。

木刀をシルファへと走らせ、首元で止める――はずだった。

しかし目の前にいたはずのシルファは、木刀を残したまま姿を消していた。

うっそ! 左右に目を動かすがシルファの姿はない。となれば後ろ!?

振り向くがいない。という事は……上!

即座に『火球』を念じ、上空へ向けて放つ。

「残念、下ですよ」

股下から聞こえる声に見下ろすと、シルファが笑顔で俺の真下にいた。

驚く間もなく両足を掴まれ、転ばされてしまう。

そのまま跨られ、マウントを取られてしまった。

にっこりと微笑むシルファを見上げ、俺は目を瞑る。

「――負けました」

「はい、私の勝ちです」

■■■

「よいしょっと。これでいいんですか? ロイド様」

シルファは油のたっぷり注がれた水瓶を、俺の部屋の隅に置く。

たぷん、と水面が波打った。

「ありがとう。でもいいの? 一本取れなかったのに」

「一瞬とはいえ思わず本気を出してしまいました。一本取られたようなものですよ。……それにしても本気を出したロイド様は、これほどまでにお強くなられていたのですね。シルファは嬉しゅうございます……ぐすっ」

またも涙ぐむシルファ。やめてくれ恥ずかしいから。

俺が本気を出して戦った事が余程嬉しいらしい。

かなり限定した状態での本気だったのだが……まぁ喜んでくれてるんだから良しとしよう。

「先日のあまりに腑抜けた戦いぶり、どうにかなってしまったのかと思いましたが……調子を取り戻していただけたようで幸いですわ。ふふっ」

微笑を浮かべるシルファを見て、俺の右手がぶるぶると震えている。

グリモの奴、よほどビビっているのか今日はずっと引っ込んだままだ。

先日の剣術ごっこで痛めつけられたのが、相当トラウマらしい。

「あはは……あの時はちょっと体調が悪くてね……」

「えぇ、えぇ、スランプというやつですね。そういう時は誰にでもあるものです。それを抜け出すのには一にも二にも鍛錬あるのみ! 実際スランプを抜けたロイド様の動きはとても素晴らしいものでした。魔術と剣術の融合……このシルファ、至極感服いたしました」

シルファはそう言って、恭しく礼をする。

「剣術も魔術もまだまだ拙い。でもロイド様は発展途上。そして凄まじい速度で腕を上げていらっしゃる……! 魔術が使える剣士自体とても数が少ないのに、剣術レベルはわずか十歳とは思えません。それに魔術に関する造形はアルベルト様も一目置かれる程です。あぁなんと素晴らしいのでしょう。成長したロイド様には騎士団長や剣聖の称号すら不釣り合いかもしれません……そんな方の指導役をやらせていただけるなんて、このシルファ、光栄至極で御座います」

……なにをブツブツ言っているのだろう。

さっきから俺を見る目がなんか怖いんだが。

そういえばシルファは以前チャールズに、俺の剣術の腕をすごく評価しているとか言ってたっけか。

いや、今回は魔術を使っただけだし、そこまで評価は変わらないだろう。そう思いたい。うん。