軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

学園祭、前編

「――ってなワケで、コイツが先日捕らえた賊や」

朝、ビルギットに呼び出され食堂に集まった俺たちの前にいたのは結界で捉えた魔族の男だった。

観念したように目を閉じ、俯いたまま動かない。

「名前はゼン、なんや魔軍四天王とかいうらしいで」

「魔軍四天王……!」

ざわっ、とその場がざわめく。

「というと、あの村で我々が相対したガンジートと同等の存在ですか」

「えらく強かったよね。……あの、まさかビルギット様が倒しちゃったんですか? しかもお一人で……」

「まーな」

ビルギットの言葉に皆が更にざわめく。

驚くのも無理はない。ここ最近は色々ありすぎて感覚がおかしくなっていたが、本来は魔族ですら滅茶苦茶に強いのだ。

魔軍四天王はそれよりもっと、もっと上の存在。

俺ですら結構苦戦した程なのだから、どうみても一般人であるビルギットが捕獲するなんて、そりゃ驚くに決まってる。

そんな中、アルベルトだけは平然としている。

「まぁビルギット姉上は古今東西から集めてきたトンデモ魔道具をたくさん所持しているからね。一対一とか、限定的な条件なら相手が何者でもそうそう遅れは取らないだろうさ」

「コラコラ、いたいけな美少女捕まえて何ゆーとんねん」

「美少女……?」

「あン?」

「いい、いえいえ! なんでもありませんとも。美しい姉上様」

ビルギットに睨みつけられ、アルベルトは言いかけた言葉を慌てて訂正する。

どうでもいいけど俺としてはこの魔道具の方が気になるな。近づき触ってみると、触れた箇所にパチパチと火花が散っている。

「おお、すごいな。相当硬い結界だぞ」

結構な魔力を込めているのに弾かれてしまうな。

しかもあらゆる魔力反応を拒絶するようで、どう性質変化させても突破出来ない。

これなら魔族相手でも捉えることは可能だろう。

「こいつはどこぞの古代文明が使ってた魔道具ですぜ。対魔族用に作られたモンが大半で、当時は俺らも随分と苦しめられたんでさ」

「古代文明サンドロ……神をも恐れぬ禁忌の研究を続けたという非常にけしからん都市ですな。それでもロイド様のお力には及ばないでしょうが」

もちろん少し力を入れれば突破は出来るだろうが、この結界は魔道具と連結しているようで無理に破れば本体ごと壊れそうだ。

……やってみたい。と結構悩みはするものの、やめとこう。

俺はあくまで普通の魔術好き、自重はできるし魔軍四天王を捕らえるような結界も破れはしないのだ。うん。

「……殺せ」

ゼンが俺を見てぽつりと呟く。

「もとより決死の覚悟で挑んだ戦い、生き恥を晒すつもりもない。さっさと殺すがいい」

「はっはっはー、なにゆーとんのやアンタ」

それをビルギットが即座に笑い飛ばし、睨み付けた。

「敗北者であるアンタにそない自由があると思うん? 言っとくけど簡単に殺すつもりはあらへんで。アンタには大損させられ取るからな。値段分は有効利用させて貰う境に。色々と、な」

「姉上の言う通りだ。我々も魔族について知らないことが沢山ある。生け捕りに出来る機会などそうそうあるまいし、君の身体に色々と聞かせてもらおうじゃないか」

「……くっ」

二人の言葉に顔を歪めるゼン。

おおっ、なんだか分からないが二人とも、とても楽しそうなことをするつもりのようだ。

ここは是非俺も参加させて貰うとしよう。

「アルベルト兄さん、俺も――」

言い掛けたところで、アルベルトが俺の頭に手を載せる。

「ロイドにはまだ早い。ここは僕たちに任せてくれ」

優しい笑みだが、アルベルトがこんな顔をする時は自分が全てを背負う覚悟をしている時だ。

つまりゼンに拷問、実験、及び脅迫などで情報収集を行うつもりなのだろう。

そんなものを子供である俺に見せられるはずがないだろう。

くっ、普通の魔術好きを装っていたのがこんな形で裏目に出るとは。何か良い手は……そうだ。

「ビルギット姉さん、その結界って出力部分を絞れますか? 例えば首だけに展開して、ある程度の自由は与えつつも行動は制限したりとか」

「ん? そらまー出来るけどな」

やはりな。そうでなけれ結界に閉じ込めたまま拷問など出来るはずがない。

結界の形は変えられると思っていたのだ。

俺はニヤリと笑うと言葉を続ける。

「どうでしょう? ここは一つ、彼に学園祭を手伝って貰うというのは?」

「……どういう意味や?」

「そのままの意味ですよ。もう間もなく学園祭が始まりますが、今朝のドタバタで色々遅れが出ていると報告を受けています。客を入れても出店が開いてなければ、それはもうガッカリするのでは?」

ビルギットたちとの戦いが原因でテントなどが吹っ飛ばされ、開園には時間がかかりそうだノアから念話が届いたのだ。

「これらの出店は今回の学園祭の顔のようなもの。それがなくては折角来てくれた皆さんとても残念がると思います。そこで彼に何か芸をやってもらい、オープニングセレモニーにするというのは如何でしょうか!」

俺の言葉にその場の全員が固まる。

「何言ってんすかロイド様ぁ!」

グリモが小声で叫ぶ。

「そうです! いくら枷をつけているとはいえ魔軍四天王を解き放とうなど! 何が起きるかわかりませんよ!?」

ジリエルも同様にだ。

しかし俺とて何も考えず言ってるわけではない。

「二人ともよく考えてみろ。アルベルトたちが魔族相手にどんな拷問ができるって言うんだよ」

幾ら動きを封じようと、基本魔族に攻撃は効かない。

どの程度の攻撃でどの程度ダメージが与えられるかもわからないのでは、拷問も難しいだろう。

それよりは一度自由を与えて、監視下で動かしていた方が多くの情報を得られるはずだ。

「何よりあのゼンとかいう魔族、意外と話は通じそうだしな。会話から引き出せる情報もあるだろう」

仮に暴れても俺がいればどうとでもなるしな。

俺としても魔軍四天王の魔術を間近で見られそうだし、一石二鳥だ。

我ながらナイスアイデアである。うんうん。

アルベルトとビルギットも俺の意図にすぐ気づいたようで、すぐに考えて込む。

「ふむ、悪くないんやないか? ソレ」

そして頷くビルギット。

よしよし、食いついたぞ。

「魔族の力でオープニングセレモニー、今頃客がよーさん集まってきとるやろ。中々開かんで苛立っとるモンもおるやろし、そこででっかい花火でもパーン上げたら、客のテンションも爆上がりやんか。ふむ、ふむふむ……うん、悪くないで。その後テンションが上がった客が準備万端の売店に流れ込めば金もジャブジャブ使ってくれるやろしな。にへへ、エエやんエエやん」

不気味な笑みを浮かべるビルギットだが、アルベルトは難しい顔のままだ。

「……僕は反対ですね。確かにメリットはありますが、万が一の場合には大惨事になりかねません。僕たちだけならまだ揉み消せもしますが、大勢の前ではそれも不可能、あまりに危険ですよ」

反論するアルベルトだが、ビルギットは笑みを浮かべたままその肩を抱く。

「ふっ、青いなーアルベルトは。ロイドの言いたいことがわからんのか?」

「ど、どういうことです姉上?」

「ロイドはウチらに汚れ仕事をさせたくなくて、あぁ言っとるんや。考えてもみぃ、王位継承権第一候補であるアンタや超富豪のウチみたいな有名人が、魔族とはいえ拷問なんかカマしてたなんて民衆に知られたら上へ下への大騒ぎになるやろ?」

「それは僕にもわかります。しかし……」

「大体アルベルト、アンタかてそーいうの慣れとらんやろ。手が震えとったやないか。バレバレやで」

「……気づいて、ましたか……」

「当たり前や。ウチを誰の姉と思うてんねん。それよりも奴を上手く使えれば学園祭は成功間違いなし。仮にバレても魔軍四天王を従えたとなれば箔もつく。なーに、なんかあってもウチの結界で即パチンすればエエねん。そこまで見越して言うとるんよロイドは」

「確かに……ロイドは聡い子だ。それくらい理解していても不思議ではない。そんなことも気づかずに僕は……なんて愚かなんだ。もう少しでロイドの気持ち踏み躙るところだった……!」

「うんうん、アンタはちょっと頭硬いところあるからな。でも間違いを認められるんは良いところやで」

二人は何やらブツブツ言っている。一体どうしたのだろうかと考えていると、こちらを向き直る。

「……わかったよ。しかし僕たちはともかく、この男が素直に言うことを聞いてくれるとは――」

「よかろう」

アルベルトの声を遮り、ゼンが言う。

「元より敗者である俺に拒否する権限はあるまいし、指名を果たす為とはいえ無関係な若者の祭りを邪魔した償いたいという気持ちはある。そのくらいなら協力しよう。……だが勘違いするなよ。確かに俺は敗北したが、心まで屈したつもりは毛頭ない。仲間を売るような行為だけは決してないと思って貰おうか!」

鋭い目つきで睨みつけてくるゼンを見て、皆は顔を見合わせる。

「……何だかそんなに悪い人じゃないっぽい?」

「所謂武人タイプというやつでしょう。曲がったことを嫌い、信念を貫く性格……そこまで見切った上での先刻の発言だったのですね。流石はロイド様です」

レンとシルファが何やらブツブツ言っているが、逆に言うとそれ以外はやってくれるのだろうか。

それはそれで実験が捗りそうな気がするぞ。

あとで個人的に色々お願いしてみようかなぁ。

「――ふむ、やるじゃない。ゼン」

その様子を水晶を通して見ていた魔軍四天王シェラハが頷く。

「あっさり捕まった時はどうするつもりかと思ったけど、なるほど従うフリをして器の少女へ接触する機会を伺うつもりだってわけね。愚直なだけと思っていたけど中々どうして……ふふっ」

微笑を浮かべるシェラハだが、そのまま固まってしまう。

愚直なフリをして裏をかこうとしている……というよりむしろ見たまま言うことを聞いているように見えたからだ。

「……そうよね? ゼン。信じてるからね? 頼むわよ?」

どこか不安げに念を押すように水晶を見つめるシェラハ。ともあれ学園祭は始まろうとしていた。