軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

怪我人を治します

「っ……!」

「だ、大丈夫!? シルファさん!

シルファが苦悶の表情を浮かべ、それを見たレンが心配そうに声をかける。

「……あまり、平気とは言えませんね。多少無理をしました」

「もう、何とかいったからよかったものの……無茶はしないでよ」

「そうせねば勝てない相手でしたからね」

言うまでもなく、魔軍四天王ガンジートは強力な相手だった。

以前俺一人で戦った時も結構苦戦したし、相手に色々制限があったとはいえシルファたちが倒せたのは本当にすごいことだ。

「それにしてもシルファ、よくレンが毒を構えているのがわかったな」

「えぇ、ずっと何かを狙っている気配がしました。件の薬のことは私も聞き及んでいましたので、きっとそれだろうと」

「えへへ、ボクの方を見た時に、シルファさんはきっと分かってくれてると思ったよ」

照れ臭そうにはにかむレン。

だとしても、あの場面でトドメを任せるとは相当相手を信頼してないと無理なことだ。

二人とも、随分と仲良くなったものである。

「おお……シルファたんとレンたん、何と素晴らしい信頼関係か。私も間に挟まりたい……!」

感極まり過ぎたのか、ジリエルは涙を流している。

「そのまま潰れっちまえよ煩悩天使」

「ふっ、それはそれで本望――」

「アホか」

グリモに突っ込まれながらも遠い目で二人を見つめるジリエル。

と、ともあれどうにかなってよかったな。

ダンカンも気絶しているだけのようだし、めでたしめでたしってところだろうか。

「コニー!」

そんな中、突然村長が声を上げる。

見ればコニーが蹲り、息を荒らげていた。

「どうしたんじゃ!? おい、しっかりせい! コニー!」

コニーを抱き起こす村長の周りに人が集まってくる。

なんだなんだ。一体何が起こったんだ?

「……ふむ、特に問題ありませんな」

倒れたコニーを家に運び込んですぐ、駆けつけた医者の第一声はそれだった。

それを聞いた皆は安堵の息を漏らす。

「恐らく過労か何かでしょう。しっかり休めばすぐに良くなりますよ」

「……どうやら大丈夫なようですね」

包帯でぐるぐる巻きにされながらシルファが言う。

あの後すぐに倒れ伏し、一緒に運ばれたのである。

「……というかむしろそちらのお嬢さんの方が重傷なくらいです。動けるのが不思議ですよ」

「そうだよシルファさん、寝てなきゃダメ!」

呆れる医者と起き上がるのを止めようとするレン。

武身術を三倍で使っていたからな。流石に限界を超え過ぎたようである。

「この程度、どうということはありません。それよりもロイド様に無様な姿を見せる方が問題で……痛ぅっ」

「ほら! だから起きちゃダメなんだって!」

身体をぐらつかせるシルファをレンが無理やりに寝かせる。

やはりダメージは相当大きそうだな。

「そ、それではお大事に……」

医者は乾いた笑いを漏らしながら、その場を後にする。

とりあえず、命に別状はなさそうだし良かったと言ったところか。

「とにかく二人共、しばらくはよく休まないと。ボクは薬を作るよ」

「ふーん、じゃあ俺は料理を作るか」

ざわっ、と皆の視線が俺を向く。なんだなんだ、一体どうした。

「ロイドが……料理……? 出来るの?」

「失礼な。俺を何だと思ってるんだ」

シルファにはいつも世話になっているし、たまには俺が作ってあげてもいいだろう。

「い、いい、いけませんっ! ロイド様のような尊いお方が料理など……それでしたら私めが……ッ!?」

「いいからいいから、シルファは大人しく寝ていろ。コニー、台所を借りるぞ」

「う、うん……別にいいけど」

起き上がろうとするシルファにそう言って、俺は台所へと向かう。

「なんだか不安そうな目を向けられてやすぜ、ロイド様。まぁ気持ちはわからねぇでもねぇですが」

「そういえば我々も長くお仕えしていますが、ロイド様が料理をなさるのを見るは初めてかもしれません」

「実際そうだからな」

俺は庶民だった前世ですら碌に料理なんかしたことはなかった。

腹を満たせれば何でもよかったしな。シルファを満足させられる料理を作るなど不可能である。

だが、だからこそ意味がある。

こうして台所に立った理由はもう一つ、言わずもがな実験だ。

「さて、ともあれやってみるか」

早速制御系統魔術を使い、シルファの動きをトレースする。

「なるほど、シルファたんの動きを模倣すれば如何に初めての料理とて、問題なくこなせましょう!」

「ま、付き合いの長ぇ俺はそうすると分かってたがよ。さーてすげぇ料理を作って、皆を驚かせちまいやしょうぜ」

「何言ってるんだ。まだ終わってないぞ」

トレースするのは動きだけではない。もう一つ、さっきシルファが使っていた武身術もだ。

おおっ、すごいぞこれは。全身に力が漲ってくる。

裏ラングリス流指南書はチラ見したが、体内の気や呼吸、その他諸々の修行を要するらしいが、トレースしてしまえば一発だ。

「げぇっ、凄まじい速度ですぜ!? ロイド様が何人にも見えるようだ!」

「先刻のシルファたんに勝るとも劣らぬ速度、それをただ魔術で再現するとは、流石という他ありません!」

それにしてもとんでもない速さである。

これが武身術というものか。あっという間に大量の料理が完成してしまったぞ。

「おおっ! 美味そうですぜ!」

「見事でございますロイド様。早速シルファたんたちに……」

「待て待て、まだ完成してないぞ」

料理は出来たが、試したいことはまだある。

再度トレースを使用し、レンの能力をコピーする。

魔力を性質変化は俺でも使えるが、長きに渡る鍛錬で様々な薬毒を生成できるようになったレンには流石に敵わないからな。特に今は封魔器が効いてるし。

ともあれ料理が冷める前にやってしまうか。ほいっとな。

魔力の性質変化により生成した魔力が色を変え、匂いを変え、連続で変質していく。……ふむ、こんな感じかな。

生成した魔力を料理にに包み込むように練り込めば完成だ。

完成、なのだが……

「……なんか変なニオイがしねーですかい?」

「それにこの料理、何やらどす黒いような……」

グリモとジリエルの言う通り、さっき作った料理の様子がおかしい。

妙だな。俺はただ料理に薬を混ぜただけなのだが。

「って何やってるのロイド!?」

隣の部屋で薬草を煎じていたレンが声を荒らげる。

俺の作っていた料理を見て顔をしかめた。

「うわぁ……毒々しいよコレ」

「前にシルファが作っていた薬膳料理ってのを作ろうと思ってな」

なのだが、思ったよりヤバいモノが出来てしまった。

シルファとレンの技術の融合のはずが、おかしいな。まぁ混ぜるな危険ということばもあるんだけれども。

「いや、でも味は案外普通かも……ぶはっ!?」

「あー、確かにあんまりだなぁ」

恐る恐る食べたレンが噴き出している。正直言って味は微妙だ。

「うっ、これは……」

「独創的というか……」

グリモとジリエルも味見をしたものの、すぐに顔を歪ませる。

あちゃあ、これじゃあシルファたちには食べられないかな。

そんなことを考えていると、匂いに釣られてかシルファたちが起き上がってくる。

「これを……ロイド様が……?」

「あぁ、でも失敗したみたいだし、無理して食べなくても……」

俺が言い終わる前にシルファは失礼しますと言って料理を口にする。

ありゃ、食べちゃった。大丈夫だろうか。

俺の心配を他所に、シルファの食べる手は止まらない。

「美味です! あぁなんと美味なのでしょう! ロイド様の手料理、美味以外の何物でもありません!」

涙さえ流しながらシルファは食べ続けている。

……大丈夫なのだろうか。我ながら結構ヤバい味だったと思うが。

「うん。とっても美味しいよロイド君」

コニーもまたパクパクと食べている。

俺はレンと顔を見合わせ、もう一度一口食べてみるが、やはりマズい。

「ねぇロイド、なんかシルファさんたちが回復してない?」

レンの言う通りだ。それだけでなくコニーも母親も元気が出てきたのか食べる速度が上がっている気がする。

「そういえば聞いたことがあります。極まった薬膳料理というのは健康な者にとっては不味く感じられるとか。代わりに悪い所がある者には非常に美味に感じられるそうです」

「身体が必要とするものはより美味く感じられるってヤツだな。それ程の薬膳ってことかよ」

グリモとジリエルがブツブツ言っている最中も料理はどんどんなくなっていき、終わる頃には三人ともすっかり回復していた。

コニーは動き回れるように、コニー母は肌艶も出てきており、シルファに至っては片づけを終えた後、外へ出て素振りを行える程になっている。

「ロイド様の料理を頂けるとはこのシルファ、本当に幸せ者です。にも拘らず先刻の戦いのような体たらく……決して許されません。二度とあのようなことなきよう、修練を積まねば……!」

あまりに鋭すぎる素振りだ。剣圧で遠くの大木がバサバサ揺れてるぞ。

「すごいねシルファさん。もうあんなに動けるなんて」

「シルファはある意味特別だからなぁ。というかコニーはまだしんどいのか?」

俺の料理である程度回復したようだが、それでもまだ辛そうだ。

「うん、少しだけ調子が悪いかも。でも別に平気だから」

「そうか。ならいいが」

実際大したことはなさそうだしな。ただ少し気になることがないわけでもない。

どうもコニーの魔力がここへ来る時よりも増えているような気がするのだ。

封魔器の結界内ではむしろ減りそうなものだが……そしてそうなり始めたタイミングは、ガンジートがあの祠に激突した直後――だった気がする。

あの妙な感じ、学園の地下にあった封印と似ていたような……ふむ、少し注意した方がいいかもな。

「どうやらガンジートは最低限の仕事はこなしたみたいね」

闇の中、二つの人影が蠢く。

「かの地には我らが主の一部が眠っていた。大立ち回りをすることで周囲の注意を引き、その隙を狙って封印を破壊したのだろう。……見事な最後であった」

「あの少年も気づいてないようだったしね。あれで少しは魔王様も覚醒に近づくはず。さて、次は私が……」

「いや、俺が行こう」

影が一歩、前へと踏み出す。

筋骨隆々の大男、手には身程もある槍を携えていた。

「俺はガンジートのような知略もなければ、お前のようなしたたかさも持ち合わせていない。戦いの激情に任せ、突っ込むことしか出来ない戦馬鹿だ。敵の方が圧倒的に強いこの状況、一人残されても何も出来やしないだろう。警戒されてないうちに俺単独で行った方がいい」

「ゼノ……アンタまさか死ぬ気?」

「そのくらいの覚悟は必要だと思っているが……ふっ、それに俺の疾さがあれば任務をこなした後に離脱も不可能ではあるまい」

「確かに魔軍四天王最速を誇る貴方なら、その可能性はあるでしょうけど……」

「無理をするつもりはない。ではな――シェラハ」

ゼノと呼ばれた男は一陣の風を残してその場から消えた。

シェラハと呼ばれた女はそれを見送りながら目を細める。

「……不安だわ」

シェラハはそう呟くと、大きなため息を吐くのだった。