軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

銀の剣姫vs魔軍四天王

ぎりぎり、と二人の剣がきしむ音が聞こえてくる。

「ほっ、こちらはただの鉄剣とはいえワシが魔力を込めた斬撃を防ぐとは、大した娘じゃのう」

ガンジートの殺意が膨れ上がる。瞬間、シルファは目を見開いて二刀を閃かせた。

同時に二人を中心に無数の火花が散り踊る。

まさに剣戟の嵐、とても目では追えない速さだ。

「レン! シロ! ロイド様たちを連れて下がりなさい! 今すぐに!」

「ははは、はいいっ!」

「オンッ!」

シルファが檄を飛ばすと、レンとシロが慌てて俺たちを連れて離れる。

そして近くの岩陰に身を隠した。

あまり離れ過ぎるとシルファがカバー出来ないからな。いい判断である。

「ね、ねぇロイド! 魔軍四天王ってすごく強いんでしょう!? 助けに入った方がいいんじゃない!?」

「無理だな。あんな嵐みたいな中に入るのは自殺行為だよ。それに俺は今、魔力を殆ど失っている」

封魔器による魔力消失が俺に効いていることで、現状は大した魔術は使えないのだ。

ガンジートはそれを狙って攻撃を仕掛けてきたのだろう。

「とかいいつつロイド様、何か手はあるんでしょ? 余裕があり過ぎやすぜ」

「そういえば道中の実験で、魔力が消えた状態で何やらやっておられましたよね」

魔力が消えた状態なんて中々ないから、その状態で魔術を使えばどうなるか、どうすれば使えるか、その際体内でどんなことが起こっているか……色々と試していたのだ。

その結果、魔力の周波数を無理やり変えることで、ある程度であれば魔力を使えるようには出来るようにしたのである。

流石に完全に使えなくなるのは不便だからな。

しかしあくまでも何とか使える、というレベルあり、出力も制御も大分落ちてしまう。

そんな状態で魔術を使えば、どうしてもシルファを巻き込んでしまうだろう。

「ってことで、ここはシルファに任せた方が賢明だ」

「そ、そうなんだ……大丈夫かなシルファさん……」

心配そうに見守るレンだが、俺の見立てではそう悪くない戦いだ。

ガンジートは今、人の身体を乗っ取っている。

鍛えた身体や特殊能力を持っていればまだしも、ただの一般人では身体能力に大きく制限がかかっているはずだ。

加えて武器の差、鉄剣に魔力を帯びさせて使ってはいるが、シルファの魔剣二刀流には遠く及ばないだろう。

事実、次第にシルファの方が押し始めている。

「ぬ……くく……っ! て、天魔一刀流――斬々 蟲(ざざむし) !」

「ラングリス流―― 鏡猿(かがみましら) 」

ガンジートが繰り出す高速の突き。シルファはそれを同様の突きで打ち落としていく。

それだけで終わらず、弾幕をすり抜けた突きがガンジートの皮膚を切り裂き、血が舞い散る。

あの技――鏡猿は驚異的な観察眼により相手と同じ技を、僅かに素早く繰り出すのだ。

そうして自分の方が技量が上だという無言の圧力を与え相手の心を折る。そんな技である。

「……ふぅ、これ以上は無駄です。その男の身体から出て行きなさい」

シルファがそうした理由は一つ、ダンカンの身体からガンジートを追い出す為だ。

先刻の攻撃にてダンカンからは血が流れていた。

即ち、その身体はまだ死んではいないということである。今なら間に合う。

「シルファさん……!」

胸元に手を当て、声を震わせるレン。

レンが昔所属していた暗殺者ギルドのリーダー、ジェイドもまた同様に魔族に身体を奪われ帰らぬ人となった。

そんなレンの手前、同じ悲劇を繰り返させるわけにはいかない、か。

「くはっ、お優しいことだわい。確かにこの身体から出て本来の姿で戦えば、もう少しはいい動きが出来るかのう」

「でしたら――」

「ま、やるわけがないがの。こうしておれば男が人質代わりになってお主の剣筋も鈍るじゃろ。……というかそもそもじゃ。言い訳に思われるかもしれんが――」

言葉と共にガンジートが剣で地を突いた。

するとぐにゃり、と地面が揺れる。

「 天魔一刀流(ワシ) はまだ、その本意気を見せてはおらんぞ?」

うねる土に紛れるようにガンジートは姿を消した。

敵を見失い周囲を見渡すシルファ、その隙間を縫うように鋭い突きを繰り出してきた。

「っ!?」

防ごうとしたシルファの足元もまた、ぐにゃりと揺れる。バランスを崩したシルファの心臓を狙い、迫る刃。

ギリギリで身体を捻って躱したものの、シルファの胸元は浅く裂け、僅かに血が滲んでいた。

「うおおおおおおっ! シルファたんのお肌が! しかも胸元がぁぁぁぁっ! 何ということだぁぁぁぁっ!」

「大地を自在に操る程の魔力! 翠のガンジートの本領発揮ですぜ!」

波のようにうねる大地に身を隠しながらも迫るガンジート。

死角から繰り出される攻撃にシルファはなす術もないようだ。

「く……ラングリス流――飛燕」

「ほほっ、飛ぶ斬撃か。しかしそれも無意味だのう」

地面が隆起し、シルファの放った斬撃を防ぐ。

まともに反撃も出来ないな。大地を操る力、近接戦ではあまりにも厄介である。それに……

「ね、ねぇロイド……気のせいかもしれないけど、シルファさんの動きが何だか鈍くなってない……?」

レンの言う通り、シルファの動きは鈍っている。

正確には底上げの効果が切れてきているのだ。

――裏ラングリス流、武身術。

呼吸を用い、体内の気の流れを制御することで限界を超える力を引き出す技である。

シルファはこれを使い、ガンジートを圧倒していたのだ。

しかしこの技は長時間使用し過ぎると身体の機能を蝕むという欠点がある。わざわざ鏡猿を使い、降伏を勧告した理由の一つがそれだ。

「はぁ、はぁ……」

息を荒らげるシルファ。それを見てガンジートが嗤う。

「カカカッ! やはりお主、自身の限界を超える技を使っておったか! そんな身体でこの一撃、受け止められるかのう?」

ガンジートの足元が大きく、高く隆起する。

逆にシルファの周囲はすり鉢状に低く、沈んでいく。

「天魔一刀流――剣魔一文字」

剣を上段に構えるガンジート、そのまま高所から飛び降りた。

勢いを増しながら振りかぶった剣を、シルファに叩きつける。

どぉん! と爆音が響き渡り砂塵が舞う。

「シルファさんっ!」

悲痛な声を上げるレン。砂埃が収まり、二人の姿が露わになっていく。

剣を振り下ろしたガンジート、それを受け止めるシルファの姿が。

「裏ラングリス流武身術――二倍」

シルファの皮膚には血管が浮き出ており、目は赤く充血している。

「ぬ……さ、更に力を解放したじゃとッ!?」

「ふ――ッ!」

呼吸と共に両腕に力を込めるシルファ。ガンジートの全身が、受け止められていた剣ごと跳ね上がる。

「ラングリス流――ニ虎・双牙」

ざん! と目に見えぬ速度で繰り出される斬撃がガンジートを捉える。

何とか反応し受け止めるガンジートだが、その衝撃で遥か後方まで吹き飛ばされた。

「ぬんっ!」

空中でくるりと回転するガンジート、地面を隆起させ壁を作り、そこへ垂直に着地する。

即座に反撃を試みようとするガンジートだが、シルファは既にその真横に滑り込んでいた。

「ラングリス流――獅子咆哮」

大きく振りかぶった二刀による強撃を放つ。

「ぐぐぐ……!」

吹き飛ぶガンジートを更なる連撃が襲う。

地面を隆起させ防ごうとするが、それよりもシルファの方が速い。

「――飛燕双刃」

飛ぶ斬撃が、

「――狼牙」

高速の上下段同時斬撃が、

「――八千鳥」

軌道の異なる無数に繰り出される突きの連打が、

ガンジートの身体を刻んでいく。

「う、おおおっ!?」

ががががががががが! と剣戟乱舞を纏いシルファが往く。

その勢いに押され、ガンジートは一歩、また一歩と後ずさる。

あれが武身術二倍……普段のシルファとは比較にならない動きである。

このまま押し切れるか――そう思われたその時、シルファが足を止めた。

「……けほっ」

咳き込むシルファ、その口元からは血が滲んでいる。

身体能力を極限まで解放する武身術、それを二倍の出力で使っていたのだ。

当然負担も倍増である。

シルファの指先は震え、全身から汗が噴き出している。

「ふぅむ、そろそろ限界のようだの」

対してガンジートの傷は既に癒え、折れかけていた剣までもが修復されていた。

魔族の回復力は凄まじい。多少ダメージを与えた程度ではすぐに回復してしまう。

人の身体を乗っ取っていてもそれは同じだ。

「お主の剣技の冴え、まこと素晴らしいものであった。しかしやはりというか、人間の身体というのは脆弱極まる。魔力あれば無限に再生出来る我ら魔族とは比べ物にならんのう。……ここは一つ提案じゃが、お主がその小僧を殺し、ワシを新たな主と崇めるのであればお主の命だけは生かしておいてやっても良いぞ?」

弱々しい動きで振るわれる剣を、ガンジートは余裕で躱しながら話を続ける。

「のう、悪い話ではあるまい? ワシの弟子となればお主の剣術もより高みを目指せるのだぞ? それ程の使い手となるには稀なる才と弛まぬ努力が欠かせなかったであろう。それをこんな所で命を断ってしまうのは一人の剣士として心苦しいのだ。ほら、ワシの手を取れ。共に剣術の極みを目指そうぞ」

そう言って差し出した手をシルファは一瞥し、言った。

「……もしや、私に話しかけていたのですか?」

あまりに意外そうな声にガンジートはずっこける。

「他に誰もおるまいが!?」

「えぇ、おりませんとも。主を裏切るような者は何処にも」

静かに、しかし怒りに満ちた声だった。

「にも関わらず何故、そのようなことを口走ったのでしょう。……あぁ、きっと私が至らぬせいなのですね。主を裏切る愚かな従者と、そう思わせた私が」

空気が凍るような迫力。

ガンジートも息を呑み、隣にいたレンがぶるると震える。

「――腹が立つ。そんな言葉を吐いた貴方に。何よりそんな台詞を言わせる程に腑抜けた戦いをした自分に。それも自らの身を案じた戦いなどをしてしまった為。貴方は強い。ここから先は私も全力を出し切らせて頂きます。生涯忠誠を誓った我が主に捧げるべく」

シルファが一瞬、こちらを見た気がした。

ボロボロなはずのその身体には気迫が満ち満ちて感じられる。

「くはっ! そういうことなら非常に惜しいが、死ぬしかないのう!」

ガンジートの放つ万全の一撃がシルファに迫る。

が、シルファは微動だにせず、深く――深く息を吸った。

「武身術――三倍」

短く息を吐いた直後、辺り一帯が爆発した。

そう思えるほどの衝撃波。僅かに捉えられた動きから察するに今のはラングリス流双剣術――昇り双竜か。

土煙を突き抜け、空高く打ち上げられたガンジートが姿を現す。

「そうか! 空中なら地面を操ることは出来ねぇ! ガンジートの力を封じられるぜ」

グリモの言う通り、ガンジートは地面に触れている時に魔力を流して地形を操っていた。

浮かせてしまえば地形変動による邪魔は入らない。

「くかっ! だがそれでどうする!? お主とて地を這う剣士! そこから何が出来るというわけでも――」

眼下を見下ろすガンジートの目が驚愕に見開かれる。

そのすぐ眼前、空を駆けるシルファが迫っていたからだ。

「ラングリス流走行術――空歩」

ラングリス流には幾つかの走行術があり、その最高峰とされるのがあの空歩である。

左足が落ちる前に右足を前に、右足が落ちる前に左足を前に、高速で空を蹴ることで理論上は可能となる走り方。

俺はその数段下の水歩ですら、十メートルも走れないからな。

シルファが規格外なだけである。

「いや、人間が身体能力だけで水上を走るだけでも十分化け物じみてやすがね。その上空を駆けるとか意味がわからねぇですぜ」

「うおおおおおおお! 空駆けるシルファたんハァハァ! まさに天女と見まごう美しさ! 素晴らしい! 本当に素晴らしい!」

ドン引きするグリモと真逆にジリエルは興奮している。

しかし武身術を三倍にした上に空歩なんて負担の大きい技を……幾らシルファでも長くは持たないぞ。

「しゃらくさい! 空駆ける技は天魔一刀流にもあるわ!」

剣を鞘に仕舞うガンジート、構えのままにシルファを待つ。

一定距離内に近づいた、その瞬間である。

「天魔一刀流―― 牙真斬(カマキリ) 」

くわっと目を見開き、閃光の如く剣が瞬いた。

超高速の斬撃は、しかしシルファの身体を透り抜ける。

――否、刃の速度に合わせて身体を回転させたのだ。

剛――からの柔。

武身術を三倍まで引き上げたからシルファはあんな動きまで出来るのか。

そして回転の勢いのまま、攻撃を繰り出す。

「ラングリス流双剣術――飛竜天舞」

斬撃により風が巻き起こる。

風は旋風、そして竜巻へと成長しガンジートを更に上空へと巻き上げていく。

目を凝らし空を見上げると、斬撃の嵐によりガンジートはボロボロに刻まれていた。

「す、すげぇ……斬りまくりながらもまだ上昇してやがる……!」

「かなりのダメージを与えているようです。しかしまた回復されてしまうのでは!?」

ジリエルの言う通り、結局中にいるガンジート本体を倒さねば幾らダメージを与えてもすぐ回復してしまうだろう。しかしあのシルファが無策であるはずがない。一体何をするつもりなのだろうか。

そんなことを考えている間にも、シルファは最後の一撃を繰り出すべくガンジートの頭上にて剣を振りかぶる。

「ラングリス流双剣術――下り飛鳥・ 番(つがい) 」

二羽の飛鳥を思わせるような鋭い斬撃の束がガンジートを刻みながら落ちてくる。

落下先は――俺たちのすぐ正面。

どぉぉぉん! と目の前で土煙が立ち昇り、叩きつけられたガンジートが宙を舞った。

「ぐぬぬ……た、大した一撃だが……この程度で死にはせん!」

だがガンジートは防御、そして回復に専念しているようだ。傷は深いが、このままではすぐにまた全回復してしまうだろう。

それでも回復に集中するガンジートが初めて見せた無防備な瞬間、その一瞬を狙い跳んだのは――レンだ。

「やああああああっ!」

練毒刀による一刺しがガンジートを浅く、だが確実に捉えた。

「拙い剣技に妙な形状の剣……ふむ、毒でも仕込んでおったか? なるほど、そちらの小娘が本命だったわけか。しかし愚かよの。魔軍四天王であるこのワシにそんなものが効くわけ――」

着地するガンジートの片足がフラつく。

「ぬ……!? む……んっ!」

何とかバランスを取ろうとするが、やはりダメ。ガンジートは膝から崩れ落ちてしまった。

「ば、馬鹿な……魔軍四天王であるワシにはどんな毒も効かぬはず! にも関わらず何故身体が動かぬ!? 手足が痺れる!? 吐き気と動悸が止まらぬのだ!? こ、こんな毒なんぞにぃぃぃっ!」

「――薬だよ。それ」

土煙が晴れていく中、ボロボロのシルファを肩に担いだレンが呟く。

「人に取り憑いた魔人だけを殺す薬。あの時、使えなかった薬だよ」

あの時――言うまでもなくかつてのレンの仲間でありリーダー、ジェイドが魔族に身体を乗っ取られた時のことである。

当時何も出来なかったその悔しさを糧に、レンは同じような状況下でも魔人のみを殺す薬の研究を続けていた。

人には無害、取り憑いている魔力体のみを殺す――それが練毒刀により効果が向上したことで、ようやく魔軍四天王をも殺す薬として完成したのだ。

「薬だとぉぉぉ!? どう考えても毒であろう! こんなに苦しいのだぞぉぉぉ!?」

「人に害なすものを殺す。紛うことなく薬だね」

「薬ですね」

「薬だなぁ」

シルファと俺がうんうんと頷く。

毒と薬は紙一重、そして人に益するものが毒であるはずがないだろう。

「バカな……バカなぁぁぁ……」

弱々しい断末魔を上げながら、ガンジートがダンカンの中から消滅していく。

ふむ、それにしても身体能力を何倍にも引き出す武身術に、魔族をも殺す薬か。

素晴らしい。今度俺もやってみるとしようかな。