軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

村へ到着しました

「ってなわけでこれからコニーの村に行くわけだけど……」

俺の言葉にシルファとレン、そしてシロが頷く。

「もちろん我々も同行いたします。ロイド様」

「早く村の人たちを助けなくちゃね! コニー」

「オンッ!」

普段は正直言って邪魔だが、封魔器が起動すると俺は魔術が使えなくなるし、シルファたちがいてくれるのはありがたいか。

村はここから百キロ以上離れているらしいが、シロに乗れば一日程で辿り着くだろう。

「では頼みますよ。シロ」

「オンッ!」

皆を乗せ、元気よく走り出すシロ。

だが心なしか、その速度はいつもより遅い気がする。

「……くぅーん」

シロが弱々しく鳴き声を上げる。

一体どうしたのだろうか。調子が悪いのかな。

「あ、ごめん。私が重いんだと思う」

そう言ってコニーがシロから飛び降りる。

着地と同時に、ずん! と地面に足がめり込んだ。

それを見たレンが目を丸くする。

「お、重そうだねそのリュック……やたら大きいし、一体何が入ってるの?」

「魔道具とか工具とか計器とか。色々」

そういえば出立の前にリュックの中に色々詰め込んでいたっけ。

軽々背負ってはいるが、多分百キロ以上あるだろう。

魔宿体質のコニーだから持てているが、それを乗せるシロはたまったものではないな。

「だがどうやってついてくるんだ? シロは意外と早いぞ」

「大丈夫。これがあるから」

コニーがリュックから取り出したのは一枚のボード。宙に放るとそれはふわりと浮かんだ。

「私が作った魔道具、エア・ジェッター。これに乗ってここまで来たの。そこそこ速度も出るし、その子にもついていけると思う」

「へぇ、浮遊の術式を刻んだ魔道具か」

そういえば初めて会った時、俺たちより早く街へ着いていたな。

コニーがそれに乗ると、多少沈みつつも何とか浮力を保っている。

そのまま地面を何度か蹴ると、エア・ジェッターどんどん加速し始めた。

ほう、あれだけの重さのコニーを乗せつつも高速で飛ぶとは、やはりコニーの魔道具作り技術は大したものである。

「オンッ! オンッ!」

それを見て、シロも負けじとコニーを追走するのだった。

そうして走り続けた翌々日、岩山の向こうに村が見え始めた。

「あそこが私の村だよ」

「おー、ようやくか」

本来なら半日ほどで着くとはいえ、道中は魔物やら何やらで止まることもあるので二日かかってしまった。

「何言ってるの。ロイドが道中実験しまくってたからじゃない……」

「そうだったかな……?」

ジト目で俺を見てくるレンから目を逸らす。

確かに移動休憩のたびに封魔器の起動実験をしていたのは事実だが、これは仕方あるまい。

制限を外した時の挙動とか、魔力を持たない人間への効果とか、魔物への効き具合とか、どこまで魔力を消せるのかとか、大地の魔力以外に原動力になるものはないのか……等々、試そうと思えば幾らでも試すことがあったのだから。

本来ならもう数日くらいやりたかったけど、皆が白い目で見るから渋々最低限で切り上げたんだぞ。

「ま、まぁおかげで人に使っても安全だって分かったし」

「始祖の魔道具とはいえしっかりと検証を取怠らないとは、流石はロイド様でございます」

コニーがフォローし、シルファはしたり顔で頷いている。

いや、まぁ多少の趣味が入っているのは否定しないけどな。

それに検証は幾らしても検証に過ぎない。結局は出たとこ勝負だ。さて、どうなることやら……楽しみだな。

「おおっ、コニーちゃんじゃないか。学園から戻ってきたのかい?」

村に近づくと門番らしき男が声をかけてくる。

「ダンカンさん、ただいま」

「おかえり。その子たちは学園で出来た友人かい?」

「うん。……その、お母さんの容体は?」

「あぁ、今は安定しているみたいだよ。すぐ会いに行ってあげな」

「ありがと」

コニーはペコリと頭を下げると、真っ直ぐに駆け出す。

相当心配なんだろうな。

「はっはー、どうだね君たち。コニーちゃんはいい子だろう?」

見送っていると、ダンカンと呼ばれていた男が話しかけてきた。

「あの子は小さい頃から優秀でね。長年病に苦しめられてきた俺たちの村を救うべく、ずっと勉強をしてきたのさ。お陰であのウィリアム学園にも通えるようになったんだ。勉強だって忙しいだろうし、都会の生活は楽しいだろう……なのに病気の母の為に急いで帰ってくる……くうっ、なんて優しい子なんだコニーちゃん……っ!」

得意げにブツブツ言い始めたかと思うと、突然泣き始めるダンカン。

忙しい人だな。……放置して行こうかな。

コニーについて行こうとすると、がっしと肩を掴まれた。

「待ちなって。久々の親子水入らずなんだし、もう少しゆっくりさせてあげようじゃないか。代わりと言っちゃ何だが、村を案内してやるよ。コニーちゃんの友人に暇をさせるわけにはいかんからな」

「……ん、それも悪くないか」

それにこの村のことも気になるしな。

大地の魔力で満ちた土地、何とも言えない強力な圧を感じる。

村人たちの症状も気になるし、コニーについて行くよりダンカンに村を案内して貰った方が面白そうだ。

「それじゃあよろしく。ダンカンさん」

「おうっ! 任せときな! ……と言いたいところだが、よく考えたら外の人間にはこの村を歩き回るのはキツいかもしれないな。大人しく待っておいた方がいいんじゃないかい?」

ダンカンは俺たちを見て言う。

この村は岩山の上に建てられている。

恐らく岩壁を天然の魔物除けに使っているのだろう。そこら中に段差があり、安全面はともかく、生活するのは大変そうだ。

ついでに言うとこっちは女子供に犬だからな。気遣うのも分からなくはない。とはいえ――

「いや、問題ないよ」

「オン!」

元気よく返事するシロ。疲れたら自分の背に乗れ、とでも言っているのだろう。

「そうかい? ならいいがよ」

俺の言葉に訝しみながらも、ダンカンは歩き出すのだった。

歩き始めて小一時間程経っただろうか。

村は狭いが縦に長く、岩山に掘ったような荒作りの階段を登り降りする必要があり確かに移動は大変だ。

ダンカンがしつこく言うのも無理はないな。

「……驚いたぜ。余裕でついて来られるとは思わなかった」

シルファは全然平気だが、シロはダウンしたレンを乗せている。

俺は『浮遊』でちょっと浮いていたから全く疲労はないが。

「それにしても意外と元気な村人が多いですな。もっと病で苦しんでいるもんかと思いやしたが」

言われてみればグリモの言う通り、村を歩いている人をちょいちょい見る。

もっと少ないかと思ったが、意外だな。

「大地の魔力が強い場所は幾つかあるが、この手の魔力障害は若い頃は比較的元気でいられるのだ。しかし身体に見合わぬ魔力を浴び続けることで寿命が縮まる」

「そういえば若者が多いな。詳しいじゃないか。ジリエル」

「えぇ、このような地では昔から信仰が厚いものですから、我々の目にもよく留まっておりました」

大地の魔力が満ちる条件は地脈の流れが強かったり、生前強力な魔力を持っていた偉人の遺体、伝説的秘宝が埋まっているなど、曰くつきの場所が多い。

そういった地に暮らす人々は、やはり信仰が厚くなるのだろう。

天使であるジリエルはそんな人間と密接に関わっていたようだ。

「……しかし、ここは天界でもあまり知られていない地ですね。この辺りは私の担当なのですが、記憶にありません」

「どこもかしこも信仰厚い人間がいるってことはねぇだろ。つーかこの村、どっちかって言うと俺たち魔人に近い気配を感じるな。ほら、アレとかよ」

グリモが視線を向ける先、渓谷深くには石碑のようなものがある。

そこから感じる妙な気配は確かにグリモたち魔の者に近いような気もする。

「ねぇダンカンさん、あれって何?」

「あぁ、ありゃこの村が出来る前からずっとある石碑だよ。どうもあの周囲には魔物が寄り付かなくなるみたいでな。……何? 行くのはダメだ。村人でも入るのは硬く禁じられてるんだからよ。そんな残念そうな顔をしてもダメっ!」

むぅ、断られてしまったな。残念だ。

ま、皆が寝静まった夜にでもこっそり見に行けばいいか。

「どうやら終わったようですよ」

シルファの指差す方からはコニーが手を振り歩いてくる。

横にいるのはヨボヨボの老人だ。

「村長! 起きてて大丈夫なんですか?」

「ほっほっ、コニーが帰って来とるんじゃ。のんびり寝てなどおれんわい」

どんと胸を叩く村長の足元がフラつく。

全然大丈夫ではなさそうである。

「コニー、母親の具合はどうだった?」

「そこまで悪くはなかった……けど、そんなに猶予もない、かも。だから村長に頼んで封魔器を使う許可を貰ってきたの」

なるほど、だから一緒なのか。

しかし怪しげなことをしようとしているのに、村の人たちは何も言わないのかな。

「ほっほっ、正直説明されてもよくわからんかったが、コニーがワシらの為にやってくれとるんじゃ。当然信じとる!」

もう一度どんと胸を叩き、またもよろける村長。

やらなきゃいいのに。

「それにしてもあの小娘、随分と信頼されてますなぁ。余程可愛がられてるんでしょうぜ」

「何の、ロイド様とて負けてはおられん。毎度毎度あれだけやらかしておきながら、目に入れても痛くない程可愛がられておるのだ。中々出来ることではないぞ」

グリモとジリエルが感心したようにうんうん頷いている。

やれやれ、あまり褒められても何も出ないぞ。……なんで二人共、白い目を向けてくるんだよ。

「ともあれ、その魔道具を起動させるには村の中心がいいじゃろう。ほれ、あの石碑まで行こうかのう」

「はい、村長」

よろよろと山道を歩く村長の後を俺たちはついていく。

「――ロイド様」

俺のすぐ後ろを歩くシルファが、耳元で囁く。

「何処からか幽かな殺気が感じられます。当然私どもが指一本触れさせ箸ませんが――心の準備だけして頂ければと」

シルファは真剣な口調だ。へぇ、俺は何も感じないけど、武術の達人であるシルファにしか感じられない何かがあるのかもしれない。

だがそこまで気配を隠すのが上手く、シルファが警戒するような相手……一体何者だろうか。

折角の実験を邪魔されると困るんだけどなぁ。

「――それじゃあ、いくよ」

石碑のすぐそば、村の中心地にてコニーは封魔器を起動させる。

駆動音と共に封魔器が大地の魔力を吸収していく。と同時に反転術式による魔力消失が発言した。

周囲の魔力が薄れていく――

「お、おおお……これはすごい!」

「ワシらを苦しめていた魔力が消えていく……」

村長を始め集まっていた人たちの魔力が薄れていくのが見える。

効果範囲も目論見通り、丁度村を覆うように展開出来ており、大地の魔力も極端に減少してはいない。

つまり封魔器はいい感じで起動している。これなら時々調整するだけで村には平和が訪れるだろう。

ふむ、そして俺の魔力もかなり弱まってきたな。

中々面白い感覚だ。周囲に纏った魔力が空気に溶けるように霧散していく。

「へぇ、この魔道具は俺らにゃ効果ないんですな。ロイド様の魔力が削られちまって、今は俺らの方が多いくらいですぜ」

「うむむ……今ならロイド様の身体を乗っ取って……いやいや! そんなことは……だがしかし……」

グリモとジリエルが何やらブツブツ言っているな、そう思った直後である。

ぎぃん! と鋭い音が辺りに響いた。

見れば俺の背後には槍が突き付けられており、それをシルファが剣で防いでいる。

槍を手にしているのは――ダンカンだ。

「だ、ダンカン! 貴様何をしとるんじゃ!」

「血迷ったか! その槍を下ろせ!」

それを見た村人たちがざわつく。

ダンカンは濁った眼で俺を睨みながら、怪しい笑みを浮かべていた。

「くはは。まさかこの一撃を防がれるとはのう。人間にしてはやりおるやりおる」

その口調は先刻と全く異なっている。

シルファは槍を弾き飛ばすと、剣を構え直し目を細めていく。

「……やはりあなたでしたか。いえ、正確にはあなたの中にいる者、というべきでしょうか」

「そこまで見破られとったか。全く、警戒すべきはその小僧だけと思ったったがのう」

ダンカンは口角を歪めながらも腰の剣を抜き放つ。

「ロ、ロイド……あれって……!」

「あぁ、身体を乗っ取られているな」

魔力体である魔族は人の身体を乗っ取り、操ることが可能である。

以前、暗殺者ギルドのリーダーだったジェイドは魔族に身体を奪われていた。ダンカンも同様に奪われていたというわけだ。

「しかしここで俺を狙う魔族か……それってやはりアレだろうか。魔軍ナントカ……」

「魔軍四天王! 忘れますか普通!?」

そうそうそれだった。仕方ないだろう。他にやることもあったし、あまり興味なかったんだからさ。

ジリエルの言葉に俺はうんうん頷く。

「つーかあの構えは魔界最強流派、天魔一刀流ですぜ! そして魔軍四天王で剣の使い手と言えば――天魔一刀流創始者にして最強と謳われたあの剣魔ガンジートじゃねーっすか!」

へぇ、詳しいじゃないかグリモ。

そういえば昔は連中の手下だったっけ。確かにガンジートがゆるりと剣を動かすその仕草はまさに達人と言うべきものである。

「ほほっ、ワシを知っとるとは光栄だわい。如何にもワシの名は魔軍四天王が一人、剣魔ガンジート。義も勇もなき不意の襲撃にて恐縮だが、それでも為さねばならぬが故、主らの都合構わず参らせて貰おうか――のッ」

口上が終わるのと同時、ガンジートの腕が消えた。そう思わせる程の速度で剣が振るわれたのだ。

横薙ぎ一閃、周囲の岩々が真っ二つに切り飛ばされる。

だがその線上にいた村人や俺たちには何の影響もない。シルファが剣で防ぎ止めたからだ。

「ラングリス流双剣術――竜絡み」

シルファの持つ魔人殺し、そして白一文字を交差した防御。それでも受けた衝撃でシルファの足元は地面深くめり込んでいた。