軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

遺産を品定めします

ダンジョンから出てきた俺たちは、手に入れたお宝を持ってノアの部屋へ向かう。

部屋は整然とされており、皆が入ってもまだスペースがあるほど広い。お宝を物色するのにうってつけだ。

「さて、それではお楽しみの時間といきますか」

ノアが仕舞っていた禁術書や禁具が整然と床上に並べられていく。

「しかし……今更だがいいのかい? それらはボルドー家の秘宝とも言えるものだろう。我々に見せるのはマズいのでは?」

「ふっ、気にしないでくださいアルベルト様。あなた方には本当に世話になったのです。それに魔族が襲ってきた時には力をお借りすることもあるでしょうし、これらの遺産は好きにお使い下さいませ」

アルベルトの問いにノアが答える。

いいって言ってるんだし、遠慮なんかしなくていいのになぁ。

「ふむ、それにしても素晴らしいですね。様々な魔術書、そのどれも見たことがないものばかりだ」

「ほうほう、こいつは魔力増幅の術式書だな。書かれた術式を読むだけで体内の魔力線を新たに構築、更に増幅するものだぜ。つーか他のも全部そういった効果のモンだな。ま、何をするにも基礎能力が大事ってことかよ」

ノアとガゼルが興奮した様子で本をめくっている。

俺はまぁ、さっきチラ見したから既に粗方の内容は把握している。

「ふーむ、これがかの魔術の祖が残した遺産か。どれもこれも素晴らしい物ばかりだ。だがこうも簡単に魔術師としてのレベルを上げられるとなると、邪な者に渡った際が怖いな。まさしく禁断の書といったところか」

アルベルトは禁書と呼ばれるが故の危険性を案じているようだ。

まぁ俺としてはお手軽強化により魔術師全体の平均レベルが上がるのは歓迎なんだけどな。なんだけれども……

「なんかロイド様、あれらの書物にあまり興味なさそうですな」

「ざっと目は通しておられましたね。しかしロイド様の魔力は全く変わっていないようですが……」

「そりゃ既に上限までいってるからだろ」

そう、あれらの禁書には体内の魔力線を増幅させる術式を込められている。

何の変化もない理由は、俺自身が既に殆どの体内魔力線を構築、増幅し尽くしているからだ。

魔術というものは術者の魔力、そして行使する魔術の術式理解により効果が大きく変わる。

前者は魔力を体内に巡らせるなどの修行、後者は様々な魔術書を読み理解を深めることでより向上する。

勿論最終的にどこまで極められるかは本人の才により、あれらの禁書はいわば体内の魔力線を自動構築するというもの。

日々の実験と修行により自身の魔力線を極限まで増やしている俺には、これらの書を読んでも効果はない。

「昔からこの手のお手軽強化道具では極めた魔術師には殆ど効果がないのが通説だが、それにしても全くの効果なしとは……どんだけ鍛えてるんだって話だよ」

「更に言えばこれらの強化は無理、無駄、ムラが出やすいもの。歴史に名を残すような魔術師は結局地道な修行をし続けた者ばかりです。そこまで理解しているからこそ、ロイド様はひたすらに基礎能力を鍛え上げたのでしょう。流石という他ありません」

グリモとジリエルが何やらブツブツ言っているが……うーん俺としては書によって魔力線が増える感覚を是非体感してみたかったなぁ。とても残念である。

「で、そっちはどうだい? シルファ」

一方、禁具の品定めをしていたシルファらに声をかける。

「はい、とても良いものばかりです」

シルファがそう言って手にしていた剣を抜くと、向こう側が見える程に透き通った刀身が姿を現した。

「なんだそりゃ? 透明な剣……ガラス細工か?」

「いや、術式を編んで刀身を形作っているようです。しかもかなり強力な封印魔術の術式のようだ。まさに神業的芸当ですね」

ノアとガゼルが唸る。シルファは目を細めてそれをじっと見たのち、静かに鞘を鳴らした。

「――白一文字と銘打っているようですね。ロイド様から頂いた魔人殺し程ではありませんが、かなりの業物のようです」

術式と鋼を重ね、頑丈さに重点を置いた魔剣『魔人殺し』……そりゃまぁ自信作だけど、術式だけで編み作られた変態みたいな剣とは比較にもならないだろう。評価高すぎである。

しかしこの剣、術式のみで作られているのだとしたらその薄さはないも同然で、それだけに脆い。

シルファでも使うのは難しそうだな。下手に使えば一撃で術式ごとオシャカになりそうだ。

「ね、ねぇロイド。これってヤバくない……?」

今度はレンが一本の小刀を手にして言う。

根本にはフラスコが鎮座しており、そこから三つに枝分かれした刃が生え、更にその一本からは鋭い棘が何本も飛び出している。

何とも禍々しい形状のナイフを見て俺は頷く。

「へぇ、面白いな。言うならば毒の増幅器と言ったところか」

レンが魔力を性質変化させ生み出し、武器とする毒だが、これには様々な防御手段意外が存在する。

距離を取ってもいいし、防護幕で防いでもいい。ワクチンや解毒、回復魔術などを使ってもいいだろう。

しかしあくまでそれは毒の量が低い場合の話。

大量、かつ高濃度の毒はまさに兵器、当然治癒は困難だ。

このナイフには投入した毒をその内部で増幅、濃縮させるような術式が刻まれているのである。

小刀に刻まれた銘は『練毒刀』、まさに毒を練る刀というところか。

「あまりに危険すぎる……少しでも扱いを間違ったら、大惨事になってしまうよ!」

不安に声を荒らげるレン。俺はその頭にそっと手を載せる。

「ロ、ロイド……?」」

「それが分かるレンなら上手く扱えるさ。毒と薬は表裏一体。結局は使いようだと以前にも言ったろう?」

「それは……うん。そうだけど……」

自らの毒を忌み恐れるレンに、俺はかつてそう言った。

そしてあれから修行を続けたレンはあの時とは違い、様々な薬毒を使いこなせるようになっている。

「だから大丈夫だ。それに何かあっても俺が何とかしてやる」

「ロイド……うん!」

くしゃっと顔を綻ばせ、レンは練毒刀を鞘に仕舞い、その小さな胸に抱える。

この練毒刀、今のレンの知識、技術なら様々な生成の幅が広がるはず。

そうしてレンが成果を出せば俺へ色々と還元されるし、とても有益だ。うんうん。

「完全に自分のことしか考えてねぇ顔ですな。このちびっ子も不憫なモンだぜ」

「ふっ、レンたんはそれを理解したうえで喜んでいるようですよ。何とも尊いではありませんか」

グリモとジリエルが何やら好き勝手言っているが――それよりもコニーだ。

手にした小箱を何かに取り憑かれたようにじっと見つめている。

俺もまたその小箱からは妙な感覚をひしひしと感じていた。

「その魔道具、変な気配がするな」

「うん、どうやら魔力を封じる力があるみたい。しかもとても強い……」

魔力を封じる魔道具か。コニーからそれを受け取ると、確かに箱を中心に魔力が消失するのがわかる。

「おお、これは反転術式というやつか」

本来、術式と言うのは魔力を増幅し具現化させるものだ。それを反転、魔力そのものを消滅させるものが反転術式。

この手の術式は術者本人にも作用する為、発動と同時に術式への魔力供給が立たれることで不発に終わる。

つまりは魔力を消す魔術で、それ自体の効果も不発するという、パラドックス的な理屈である。

魔道具を使えば理論上は発動可能では? と研究されていた時期もあるらしいが、結局のところまともな効果が得られなかったという話を何かで読んだ気がする。

「しかし反転術式なんて初めて見たよ。効果範囲は小さいが効果は本物だな」

「うん、私も初めて見るよ。……それにしてもこの魔道具に刻まれている術式はオリジナルの魔術言語かな」

術式は読めないので恐らくとしか言えないが、魔力ではなく別の何かを動力源にしているのだろうと推察される。――多分その何かってのは、大地の魔力だな。

大地の魔力とはダンジョンや魔物の生育などに使われているらしく、人が持つ魔力とは波長が異なる。

なるほど、それを使えば人が放つ魔力のみを消し去れるのは道理だ。

しかしあまり研究が進んでいない大地の魔力に関してもここまでの理解があるとは流石は魔術の祖、すごいものである。

「封魔器――とでもいうのかしら。これがあればもしかしたら……」

口元に手を当て考え込むコニー。

なるほど、この魔道具はまさしくコニーが求めていたものだ。

コニーが魔道具作りを始めた理由は自分たちの村を救う為。

村の周囲には強力な大地の魔力が満ちており、そこに住む村人たちが魔力障害となり生活に不自由するほど病んでしまった。

そこで彼らから余分な魔力を吸い取る魔道具を作り出そうとしていた。しかしこの魔道具があれば――

「あぁ、上手くいけばコニーの村が救えるかもな」

頷くコニー。大地の魔力がそこまで濃くないこの辺りでも俺の魔力を消せるのだ。

人々が魔力障害を冒す程大地の魔力に満ちている場所なら、それを動力に村周囲の魔力を消滅させることも可能だろう。

そうなれば村人たちがまともな生活が送れるようになるかもしれない。

「あの、ノアさんガゼルさん。よろしければこの魔力消失器をお借りしてもよろしいでしょうか?」

頼み込むコニーに二人は顔を見合わせる。

俺もまたそれに続いた。

「俺からも頼むよ。人助けだと思ってさ」

「……道具は人の役に立ってこそ。人々を助ける為というならば当然お貸しいたしましょう」

「つーか、元々貸すつもりだったんだろ? 兄貴よぅ」

ガゼルの言葉に微笑を返すノア。

晴れて許可を貰ったコニーは嬉しそうに俺は頭を下げた。

いやいや、嬉しいのは俺の方だよ。

魔力を消失させる現象、その実際使用する様子を間近で見られるのだからな。うんうん。

「やれやれ、優しいなロイドは。だが変に思わせぶりな態度を取ると後が大変だぞ? まぁそれも人生経験か。ふふ、ふふふふふ」

アルベルトがブツブツ言いながら生暖かい視線を向けてくるが、それより早く実際に試してみたいところである。

いやぁ最初は外れかと思ったけど、中々面白いものがあって良かったな。

早く使ってみたいものである。