軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔軍四天王とバトルします。後半

「グリモ……お前、気がついてたのか」

「あんだけドンパチしてたらイヤでも起きちまいやすぜ」

炎に立ちはだかりながらグリモは言う。

巨大化し、魔力の性質変化により耐熱能力を上げているのか。

それによる防御効果は結界よりも遥かに大きく、俺には熱気は届いていない。

「お、おい魔人! 何故お前がそんなとてつもない熱波に耐えられているのだ!?」

「ロイド様が魔力を注いでくれたからだよ。じゃなきゃ一瞬で消し炭だ。……にしても異常過ぎる魔力量を注がれた時は破裂するかと思ったぜ」

何やらブツブツ言い始めるグリモ。

そういえばグリモを復活させる際、一気に魔力を注いでしまったような気がしないでもない。

慌ててたとはいえ、あれで魔力をだいぶ持っていかれてたからな。実は今、ヴィルフレイに苦戦している理由の一つはそれだ。

「おう、起きていたかよクソグリ。どうでもいいが……なんでンなとこ突っ立ってんだぁ?」

威圧感たっぷりに睨みつけるヴィルフレイ。

後ろから見えるグリモの尻尾がぶるると震えた。

「まさかとは思うが、俺様の攻撃からそいつを庇ってるんじゃねぇよなオイ」

「……っ! い、いやその……」

グリモの背中には脂汗が浮かび上がり、ガタガタと震え始める。

ヴィルフレイは目を細め、その燃え盛る手でグリモの頭を掴んだ。

「――そこを退け。ぶち殺されたくなかったらな」

炎がより一層大きくなり、グリモは口を噤む。

そしてゆっくり、俺の方を振り向いた。

「お、おい魔人。お前もしかしてまた私たちを裏切る気じゃ……」

俯くグリモにジリエルは問う。

恐怖に染まった顔だ。グリモとヴィルフレイの魔力の質は近い為に攻撃をある程度中和、軽減していたが、代わりに上位の存在から強い影響を受けてしまうのだ。

グリモは一本、また一歩と俺の方は歩み寄る。

その横を抜けてきた熱気がぶわっと頬を撫でた。

「……俺はよ、ずっとアンタを理解できなかった。あれだけの魔力を持ちながら力を隠し、権力にも興味がなく、好奇心のままに動いては無茶をやって周りを巻き込み、誤魔化す。……なんて勿体無いことを、俺ならもっと上手くやるのに、ってよ」

「グ、グリモ……?」

グリモの告白にジリエルは息を呑む。

「こうして今までついてきたのだって、いつかその身体を奪おうと思っていたからさ。その為に根回しのつもりで世話を焼いてきた。なのにこんな状況で自分の魔力を大幅に減らして俺を助けるなんて、間抜けにも程があるぜ。くくっ、ふははははっ!」

「おぉ、丁度いいじゃねぇかクソグリ。それだけ魔力があればそいつの身体も奪えるだろ? さっさとそうしてきやがれよ」

大笑いするグリモを見て、ヴィルフレイはニヤニヤしている。

「貴様ーーーっ! ロイド様を侮辱するのは許さんぞーーーっ!!」

「雑魚っちぃ人間なんか見限って、俺の元へ帰ってこい! 俺は器がデケェからよ、さっきの裏切りも数十発ボコ殴るだけで許してやるぜ!」

ヴィルフレイが差し出す手、グリモはそれを握ろうとして――払った。

「な……?」

驚愕の表情を浮かべるヴィルフレイを真っ直ぐ見据え、グリモは言う。

「――だがなぁ、そんなこの人が、魔術にしか興味ねぇこの人が! こんな俺を助けにきてくれたんだ! ここで日和ってちゃあ男じゃねぇよなぁぁぁっ!」

グリモはそう大見えを切ると、俺の方を向き頭を下げる。

「……っつーわけですロイド様。またお世話になりてぇんですが、構いませんかい?」

「もちろんだ。戻ってこい。グリモ」

「へいっ!」

元気よく返事すると、グリモは俺の掌に戻ってきた。

「おお……私は信じていたぞグリモ! 絶対に戻ってくるとな!」

「……嘘こけクソ天使」

ため息を吐きながらグリモは言葉を続ける。

二人のこんなやりとりもなんだか久しぶりな気がするな。

「……そうか。この俺をマジに裏切るってか」

そんな中、ヴィルフレイがポツリと呟いた。

妙だ。言葉と共に周囲の熱が引いているように感じられる。

引いた熱が集まっている先はヴィルフレイだ。先刻までの真っ赤に燃えていた身体は白く、輝くように発光している。

「な……凄まじいまでの高熱が奴の中心に集まっています!」

「 白炎体(びゃくえんたい) ! 爆炎体を超えるヴィルフレイの最強形態だ! 先刻までとは比べ物にならねぇ火力ですぜ!」

白く燃えるヴィルフレイが一歩踏み出すと、その高熱で空間が歪む。

先刻まで放出していた熱を身体に留めているのか。

「この俺を呼び捨てとは偉くなったもんだなぁ! クソグリよぉ!」

「ひっ! すすす、凄まれたって、こここ、怖くねーぞ!」

なんて言いつつ引っ込むグリモ。怯え過ぎである。さっきの威勢はどこいった。

「消し飛べオラぁ!」

ヴィルフレイが眩く光る拳を振り上げる。

やたらと大振り、にも関わらずなんだかヤバい気がする。

予感に従い大きく飛んで躱す俺の鼻先に、空気の焦げた匂いが掠める。その直後。

――空間が焼けた。そうとしか表現しようがない程の一撃。

地面は焼け焦げ、遠くの草は枯れ、結界は融解しかけている。

「超高熱の拳はその直線上のあらゆる物を焼き尽くす! 絶対に当たっちゃダメですぜロイド様!」

「あぁ、結界も余裕で貫通しそうだな」

先刻までの炎を一点に集めたような攻撃だ。

今展開している『滝天蓋』ではまさに焼け石に水というところだろう。

「とはいえ対処に困っていたのは先刻までの話だぞ」

グリモが戻った今、魔力不足は解消され、その上三重詠唱も使用可能。防御する手段は山ほどある。

「■■■」

詠唱束により発動させるのは水系統大規模魔術『水龍幕』、それを収束させ俺の周囲に展開する。

とぷん、と水底奥深くに沈んだような感覚の後、ヴィルフレイから放たれていた熱気が完全に断たれた。

「深海に住まう水龍はあらゆる衝撃、特に火気の類を断絶する。それを模した結界なら確かにあの炎にも効果がある、かもしれませんが……」

「それでもあれだけの魔力を形状変化させた炎だ。いくら大規模結界でも防ぎ切れやせんぜ!?」

「まぁ任せておけ」

二人にそう言い聞かせ、ヴィルフレイと対峙する。

「ハッ! 水龍如き何度もぶち殺してきたってんだよ! ンなもんで俺の攻撃を防げるなら、やってみろや!」

咆哮と共に繰り出される拳を、俺は普通に受け止めた。

じゅっ、と音がして僅かな熱気が掌に伝わるが、それもすぐ消えた。

目の前ではヴィルフレイが信じられないといった顔をしている。

「ば、馬鹿な……俺の拳があんな結界如きを破れねぇだと……?」

「破られたさ。十七枚ほどな。大した火力だよ」

種を明かせば単純明快。破られた先から新たに『水龍幕』を張り直しているのだ。

詠唱の長い大規模魔術はどうしても連発出来ないのが欠点だが、グリモが帰ってきたことで『口』が増え、三つの詠唱を同時に行えるようになった。

よって少しタイミングをずらして『水龍幕』の詠唱すれば、破られた瞬間に新たな『水龍幕』を展開可能。それを連続して行っているのである。

――連環詠唱、タイミングよく詠唱を終わらせることで継ぎ目なく魔術を発動させるという多重詠唱とはまた違った詠唱法だ。

「ぐっ……だが魔力量では俺の方が圧倒的に多いはず。なのにテメェ、どうしてこんな大規模な魔術を連続して撃てやがるんだ!?」

「敢えて言うなら人の知恵だな」

軍事魔術による効率化、自前の血統魔術による高出力、 祭壇(ディガーディア) による大規模魔術……今まで得てきた歴代の魔術師が蓄えてきた知恵。そしてグリモ、ジリエルの力が加わりようやく成立しているのだ。

俺一人ではとても為し得なかっただろう。

「いや、普通は知識と環境があっても実践する力がある人間はいないでしょうが」

「果てなき探求心、先人への敬意。そして圧倒的個の力。これぞロイド様って感じですぜ」

呆れているのやら、それとも褒められているのやら………ともあれ次はそれを攻撃に使わせて貰おう。

ヴィルフレイの拳が緩んだのを見計らい、今度は俺が動く。

炎と化したヴィルフレイにダメージを与えるには、神聖魔術、封印魔術、そして……恐らくアレの効果が高いだろうか。よし試してみよう。

「■■■■、■■■■、■■■■」

三重詠唱の呪文束にて、それを発動させる。

光の弓が生成され、そこに黒白入り混じった矢が番われ……放つ。

ぱぁん! と破裂音がして、矢が当たった箇所が消滅した。

「な……?」

驚愕するヴィルフレイ、さもあらん。

そもそも魔族には魔術が利かないし、その上炎の魔力体は封印魔術と神聖魔術の効果も薄めるというまさに鉄壁ぶり。

だが最後に混ぜた古代魔術――これは以前グリモが見せてくれたものだが、自身の魔力そのものを増幅、ぶつけるという単純な構造の魔術である。

当時の俺はこの術式を見ていまいち洗練されてないと思ったが、だからこそ古代魔術は純粋な魔力そのもの――すなわち魔人、魔族の放つ攻撃に近い。

これを神聖魔術、封印魔術に混ぜることにより対魔族効果が高くなるよう質を変化させた、というわけである。

「神聖、古代、封印……これらの三種の魔術はどれも個性が強く、使い手も少なすぎてサンプルも碌に存在しない。なのに一発で三重詠唱を成功させちまうとはよ」

「むぅ、詠唱にアレンジを加え、微調整を行っているのですね。即ちそれらの魔術を完璧に自分のモノにしているということ。流石はロイド様です」

確かにこれらの魔術は希少でサンプルも少なかったから半分以上俺のオリジナルになっちゃったんだよなぁ。

だからこうして詠唱を合わせられたわけだが……機会があればこれらの魔術書も読みたいものである。

「如何でしょうロイド様、もはやこの魔術はロイド様独自のモノと言っていい。名前を付けてみては?」

「それなら黒白神牙とかどうですかい?」

「な……白が先に決まっているだろバカ魔人! せめて白黒神牙にしておけ!」

「あぁん? 響きが最悪だろが! 黒が先だ!」

「白だ! 譲るつもりはないぞ。」

睨み合うグリモとジリエル。

……どっちでもいいよ。それなら間を取って灰魔神牙ってことにしておこう。

「むむ……ロイド様がそう仰るなら」

「悪くねぇセンスだと思いやすぜ」

二人は納得したようだ。それにしても俺のオリジナル魔術か。名前とかはどうでもいいが……この魔術を初めて見たのが俺というのは結構嬉しいかもしれないな。

「ぐっ、ワケがわからねぇがこのくらいなら幾らでも再生出来るぜ!」

半分ほどになったヴィルフレイは、自身をもう一度形作ろうとしている。

炎は無形、それ故に再生も余裕というわけか。本当にすごい能力だ。――ただ、残念ながら俺はそこまで想定済みである。

弓には既に、新たな矢が番えられていた。

「な……っ! あんなデタラメな威力の魔術を連発出来るわけが……っ!?」

驚愕するヴィルフレイの目に映るのは、次々と生成されている無数の弓矢。

それは各々宙に浮き、ヴィルフレイを狙っていた。

「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁぁぁっ! 知恵だと? 人間如きがンなもん幾ら蓄えようが、この俺に敵うわけがねぇっ!」

「おおっ、まだ打つ手が何かあるのか。流石は魔軍四天王、次は何を見せてくれるんだ?」

俺は連環詠唱により無数に増え続ける弓矢を構え、期待に胸膨らませながら放つ。

「――灰魔神牙、連環射ち」

「ぐおおおおおおおっ!?」

絶叫を上げるヴィルフレイの全てを矢が穿ち、消し飛ばしていく。

分散し逃げようとするが無数の矢がそれを許さない。そして数秒後――

「……あれ、終わり?」

辺りを見渡すが周囲にはヴィルフレイの欠片、火粉の一片すら残っていない。

ふむ、どうやらヴィルフレイは完全に消滅したようだ。残念、他に手はなかったようである。