軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔軍四天王とバトルします。前編

「やれやれ、何とか間に合ったようだな」

見様見真似で組み上げた封印魔術を使い、ケロベルスを倒すついでに空間に大穴を開けたのだ。

ひょいっと顔を出すと、穴の向こうでは赤髪の男が俺を見上げている。

「あ、あの男です! グリモと話をしていたのは……! 凄まじいまでの魔力の奔流、間違いありません!」

「グリモに毒を盛らせた張本人か」

ジリエルが大仰に言うだけあって、なるほど大した魔力量だ。

「ロイド君! どうやってここに!?」

「つーか何で封印魔術を使えてるんだよ! あれは俺らにしか使えねぇはずだろが!」

男と対峙していたのか、ボロボロのノアとガゼルも俺を見て声を上げる。

うっ、そういえば封印魔術はかなり堅固な防壁で守られてたっけ。使うのを見せたらマズかったか。とはいえ今更取り繕うのも面倒だな。

「静まるがよい! そこの人間たち!」

どうしたものかと考えていると、ジリエルが後光を背負いつつ俺の手から出てくる。

「私は天の御使い。我が主たるこの御方ロイド様と共に魔族と戦いに来た。封印魔術を使えるのはその為だ!」

ジリエルの言葉に二人は顔を見合わせる。

「そういや伝承で聞いたことがあるぜ。魔族が力を振るう時、天の御使いが降りてくるとか……」

「うむ、そういうことなら封印魔術を使えても納得か」

納得している二人にジリエルは続ける。

「お前らがここにいては主の邪魔だ。ここから出ていって貰うぞ」

言葉と同時に二人の足元に穴が開く。

「うわぁぁっ! ほ、放り出されるっ!?」

「ぐおおおっ! よくわからんが頑張れよロイドぉぉぉぉっ!」

二人を吸い込んだ後、空間の穴は消えてしまった。

「……ふぅ、これで戦いやすくなったでしょうか」

「気が利くな。ジリエル」

おかげで言い訳をする手間が省けたぞ。

こういう時に天使という肩書きは便利である。

「それより如何ですかロイド様、実際に奴を見ての感想は?」

「うん、すごい魔力量だ。ジリエルの言う通り、俺の総魔力量よりずっと多いな」

魔力量は本人のコンディションでかなり増減するし、放出量を抑えたり、圧縮したり、偽装するなりと少なく見せる手段はある。

とはいえ奴の立ち振る舞いから察するに、少なくとも俺の倍以上はありそうだ。

「やはり……しかしだとするとマズいですよ。魔術師にとって魔力量の差は純粋な戦力差となる。しかも相手は魔族! ……逃げた方がいいのでは?」

「誰が逃がすかよ。バァカ」

コソコソ話を遮る男の言葉、それが背後で聞こえた。

振りかぶった拳が迫る。――む、かなり強いな。俺の常時展開している魔力障壁では防ぎ切れないか。

即座の判断で魔力障壁を圧縮、集中して一点で受ける。

ぎし! と軋む音が鳴り響く中、俺の眼前数ミリの所でどうにか止めることが出来た。

「……へぇ、俺の打撃を止めるとは驚いた。グリモワールを使役するだけはあるじゃねぇかよ」

「お前がグリモを唆したのか?」

「ぶはっ!」

男は思い切り噴き出すと、口元を歪めた。

「唆すも何も俺はあのクソグリの本来の主人だよ。奴は元々こっち側なのさ。……それと、お前ってのはねぇだろ?」

「名前を知らないからな」

「……くくっ、どこまでも面白いガキだ。ならば冥土の土産に教えてやる。俺は魔軍四天王が一人、緋のヴィルフレイ様だ。死ぬ前に覚えとけや!」

言葉と共に蹴りを繰り出すヴィルフレイ。

めきめきめきめき、と音を立てながら魔力障壁が割れていき、蹴り抜く勢いのまま吹き飛ばされた。

地面に叩きつけられ、どおん! と土煙が立ち昇る。

「ロイド様ぁぁぁっ!」

悲痛な声を上げるジリエルだが、ギリギリで魔力障壁を貼り直したので問題はない。

それでもガードした腕がじんじんするな。魔力障壁の上からでもここまで響くとは。

「ただの蹴りでこの威力……これが魔軍四天王の力ですか……!」

「知っているのかジリエル?」

「えぇ、数百年前の魔軍進撃をご存知ですか?」

「もちろんだ」

――魔軍進撃、かつて魔界の軍勢が大陸を襲ったという大事件だ。

人は恐るべき戦闘力を誇る魔人、魔族相手になすすべなく、一方的に蹂躙されるのみだった。

そこで立ち上がったのが魔術の始祖ウィリアム=ボルドー。

彼は以前より研究していた魔術を以て魔人を、魔族を倒し続け、更に彼は他の才ある者たちにも魔術を授け、人類はようやく戦う術を得た。これがウィリアム学園の前身なのである。

人と魔、更には天界をも巻き込んでの戦いは十五年続き、多数の魔族が封印されたところでようやく魔軍の進撃は止まったと言われている。

「魔軍四天王とは魔軍でも最強の戦力、ウィリアムすらも苦戦させたその力は一騎当千、奴らを倒す為に多くの犠牲が出たと言われております……!」

「天使だけあって随分詳しいじゃねぇか。もしかしてその場にでもいたのかぁ?」

晴れた土煙の向こう、ヴィルフレイが俺たちを見下ろしている。

「いやーしかし驚いたぜ。今ので傷一つないとはな。その上俺との戦闘中に雑談する余裕まであるとは大したガキだ。クソグリがヘコヘコするのも無理はねぇ」

「……さっきからグリモに対して酷い言いようだな。お前それでも主人なのか?」

楽しげにグリモを揶揄するヴィルフレイに、俺は思わず語気を強める。

「何だお前、ムッとした顔をしやがらじゃねぇかよ。……もしかしてあいつが心配なのか?」

「だとしたら?」

「いやぁ……その割にはあまり周りに目がいってないと思ってな。くくっ」

ヴィルフレイは笑いながら視線を横に滑らせる。

釣られるように向けた場所には、黒い何かが転がっていた。

大黒山羊――グリモがボロボロで倒れていた。

「グリモ!」

駆け寄り抱き起こす。余程痛めつけられているのか、至る所に酷い傷を負っていた。

「ぅ……」

「おい、しっかりしろグリモ!」

息はある。どうやら死んでいるわけではなさそうだが、意識は混濁しているようだ。

「何というむごいことを……幾ら裏切ったとはいえここまでの仕打ちをするとは……!」

「くははっ! そりゃあ正確じゃねーな天使よ。罰は当然既に与えているさ。何度も細切れにして、復活させて、また細切れにして……何度も何度も、心の底から反省するまでなぁ」

「ならば何故こんなことになっている!?」

「ただの暇潰しだよ。俺の攻撃をどれだけ躱せるかゲェーム! ってやつだな。にしても一発目、しかもちょっと掠っただけでこの有様とはな。あまりに雑魚過ぎてゲームにもなりゃしねぇってんだ」

グリモの身体は刻まれ、焼かれ、裂かれ、焦げ、酷い有様だった。

一度掠っただけでこうなるはずがない。つまり倒れたグリモを何度も攻撃したのだ。

「何ならお前にも遊ばせてやろうかぁ? 同じ使い魔を持ったよしみだ。少しくらいなら貸してやっても……」

気づけば俺は、振り向きざまに光の弓を放っていた。

飛んでいく光の矢はしかし、ヴィルフレイに片手で受け止められてしまう。

「くくっ、怒り心頭ってか? そんなにクソグリが大事だってんなら一つ、選ばせてやる。お前がそこの天使、どちらかが俺の使い魔になりやがれ。そうすりゃそいつは解放してやってもいいぜ?」

「ロ、ロイド様……?」

不安そうに俺を見るジリエル。

それを見て下卑た笑みを浮かべていたヴィルフレイだったが、すぐに顔色が変わった。

「ぬ……?」

受け止めていた光の矢は大きく、強くなっている。俺が魔力を注ぎ続けているからだ。

その威力にヴィルフレイは腕を折り畳み、上半身を退け反らせている。

「う……ぐおお……っ!?」

両手で防ごうとするも時既に遅し、限界まで魔力を注いだ矢は膨張限界を迎え、そして破裂する。

どぉぉぉぉぉぉん! と大爆発が巻き起こり、光の渦がヴィルフレイを飲み込んだ。

「おおおっ! 巨大な光の矢が爆発して無数の矢に……! あれなら奴も避けられません!」

封印魔術の欠点、攻撃範囲の狭さをカバーすべく術式を弄り広範囲を攻撃出来るようにした。

空間を融解させる先端部分を爆破することで矢が周囲に飛散、周囲の空間を溶かすことで対象の動きを封じるガード困難な一撃だ。

破裂した周囲の空間はヴィルフレイを巻き込んでぐちゃぐちゃに歪み、溶けた絵の具のようになっている。

「もう一つ、選択肢があるだろ。――お前を倒し、グリモを連れ戻すという選択肢がな」

俺はそう呟いて、グリモへと魔力を注ぐ。

淡い光が傷ついた身体を癒し、苦しそうにしていたグリモの呼吸が静かになった。

これでよし。あとは少し休めば気が付くだろう。

「おおっ! 見事な封印ですロイド様! あれなら奴も動けますまい!」

歓喜の声を上げるジリエル。

グリモを回収しようとしたところで、はたと動きを止める。

「……くくっ、面白れぇ使い方を見せてくれるじゃねぇか。あの兄弟より余程使えそうだな?」

溶けた空間から聞こえる声。

ピシピシと乾いた音と共に絵の具のように混じった空間が割れていく。

そこから出てきたのは封じたはずのヴィルフレイ。

首をゴキゴキを鳴らしながら、余裕の笑みを浮かべていた。

「決めたぜクソガキ、お前が俺の次のペットだ」