軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

門番をぶちのめします

「うっ……咽せ返るようなような邪悪の気配……こんな結界を作り出す魔族がいようとは……!」

ジリエルが周囲を見渡しながら呟いている。

周りに広がっているのはだだっ広い庭園、咲いている草花も俺のよく知る普通のものばかりだ。

そしてすぐ側には見上げる程の巨大な塔。

「……というか、ここって学園にそっくりだな」

「この手の結界は現実空間に溶け込んで作り出されたものですから。天界が空と雲で作られていたようなものです」

なるほど、そう言われてみれば納得である。

作り出された空間は現実の風景が参照されるということか。

「でも天界よりはかなり小さいよな」

以前訪れた天界はかなり歩き回っても果てが見えなかったが、この空間は学園周辺くらいの広さなようだ。

「それはそうですロイド様、如何に強力な魔族の作り上げた結界と言えど、天界の主神たちが作り給うた天界とは比較になりませんよ」

「そういうもんか」

ともあれこの程度の広さなら、俺の気配察知でも全体像を感知出来そうだ。

早速空間内に魔力を薄く広く伸ばしていく。

「……いた」

この気配、間違いなくグリモだ。

どうやらここからはあまり離れてはいないようである。

とにかくまずはグリモと接触して詳しい話を聞かないと――

「っ!?」

不意に、俺の気配察知に何かが触れた。

異常なまでの魔力、なるほどこれが件の魔族か。

そいつもまた俺の気配察知に気づいたようで、真っ直ぐこちらに突っ込んでくる。

「き、来ます――!」

ジリエルが声を上げるのと同時、凄まじい風圧を叩きつけながら黒い影が庭園に突っ込んできた。

舞い散る花びらの中、影がゆっくりと身体を起こす。

――漆黒の燕尾服、白い手袋はまるで執事を思わせる。が、その身体の頭は二つ。しかもそれらは両方とも犬であった。

「これは驚きましたなケロ=ス。ここに無断で侵入してくる者など何百年ぶりでしょうか」

「全くですなベル=ス。しかも人間。ここ何百年かの間に少しは進歩したのでしょうかな?」

ケロ=ス、ベル=ス、互いをそう呼び合いながらのんびりした口調で語り合う双頭の犬人間。

それを見たジリエルはごくりと息を呑む。

「双頭の番犬、ケロベルス……!」

「知っているのか? ジリエル」

「はい、魔界に古くから存在する大貴族の家に代々使える執事の名です。私も噂でしか聞いたことはありませんでしたが……」

大層な冠を並べるジリエルだが、俺はそれよりもあの頭が気になっていた。

「頭が二つって、一体どうなっているんだろうな」

見た感じ別人格っぽくあるが、二人同時に魔術を使えたりもするのだろうか。

だとすると二重詠唱がデフォ、とか?

二重詠唱魔術というのは再現が難しく、詠唱失敗による被害も大きい為、実はそこまで研究が進んでいない。

俺が使っていたのも殆ど既存の組み合わせだったし、何百年もずっとそうして生きてたケロベルスならもっとすごいことが出来るに違いない。……ふむ、面白そうだな。

「……あの少年、一体何がおかしいのでしょう? ケロ=ス」

「我々魔族を目にした人間が正気を保てるはずがありますまい。恐怖で気が触れてしまったのでしょうな。ベロ=ス」

「おお、それは可哀想だ。安心しなさい人間よ、我々は下賤の連中のように人間をいたぶって喜ぶ趣味はありませんからな」

「うむうむ、我々は仕事をしに来ただけだ。――すなわち」

そう呟いた瞬間、ケロベルスの姿が消える。そして――

「番犬として侵入者を排除するのみ」

俺のすぐ後ろ、二人の声が同時に聞こえた。

次いで聞こえる衝撃音。振り向くとケロベルスの腕が俺の常時展開している結界を数枚破壊していた。

「……ほう、人間如きの結界が存外硬いですな。ケロ=ス」

「裏面まで入ってくる程ですからな。これくらいは当然でしょう。ベル=ス」

おお、結構速いな。消える直前、身体強化っぽい呪文が僅かに聞こえた。

かなりの高速二重詠唱、系統的にはグリモが使っていた古代魔術と同じものだが、それよりはかなり洗練されたもののようだ。魔族は魔界でも上位の存在、それだけに伝わる血統魔術のようなものもあるのかもな。

効果も俺が普段使っているものより遥かに上……いいね。他の魔術も見てみたいところだ。

まずは防御魔術を……と言いたいところだが、魔族相手に魔術は効果が薄い。

最上位魔術くらいは素の状態でも余裕で受けていたからな。……そうだ、アレを試してみるか。

というわけで掌に魔力を練り込んでいく。

それを見た瞬間ケロベルスの顔色が変わる。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

呪文束による圧縮詠唱、高密度の術式が俺の掌に集めた魔力を糧にして炎が生み出されていく。

炎は渦を巻き、あっという間に巨大な炎球となって煌々と辺りを照らす。

それは次第に凝縮、形を変えて、四足獣の姿となる。

「火系統大規模上位魔術『紅虎迫』」

ごおう! とまるで虎の咆哮の如く唸りを上げ放たれた炎がケロベルスへと迫る。

回避を試みるケロベルスだが無駄だ。『紅虎迫』により放たれた炎は自動で相手を追跡する。

「ぬ――っ!?」

縦横無尽に動き回るケロベルスを炎虎はその爪と牙を以て捉え、喰らいついた。

瞬間、大爆発を引き起こす。

「うーん、やっぱり大規模魔術は派手過ぎるな。」

俺自身はもちろん結界で守られているが、その高温により周囲の草花は塵と化し、空気が乾いて呼吸のたびに喉が熱い。

目立ち過ぎてこんな場所じゃないと碌に試せるものじゃないぞ。

「だ、大規模魔術を一人で……あれは儀式や祭壇なくして発動できないはずでは!?」

「あぁ、ディガーディアなしでは無理だ。本来ならな」

俺の作り上げたゴーレム『ディガーディア』は魔術的祭壇としての機能を備えており、それに乗ることで大規模魔術を一人でも扱えるわけだが、もちろんそれには搭乗し自身の魔力線を接続する必要があった。

しかし現在、軍事魔術による効率化で魔力線を長く伸ばせるようになっており、離れた所にあるディガーディアとも接続出来るようになっている。

故にいつでもどこでも祭壇の使用が可能となり、こうして大規模魔術も扱える。

「ぐ、ぬぬぬ……」

呻き声と共に晴れた黒煙の中からケロベルスが姿を現す。

苛立ちに目を見開き、歯噛みをしながら、ボロボロになった手袋を脱ぎ捨てた。

「うおおおおっ! 高位の魔力体である上位魔族に魔術でダメージを与えるとは! 流石は、流石はロイド様です!」

「いや、見た目ほどのダメージはなさそうだ」

身体の表面が所々煤けているが、本体の魔力体はまだピンピンしている。

この空間を破壊しないよう大分威力を抑えて撃ったし、魔力障壁でガードされたからな。

多分威力は一割以下、とはいえ大規模魔術をあそこまで軽減するとは中々いい魔力障壁だ。もっと観察したかったのだが……ま、機会は幾らでもあるか。

改めて戦闘態勢を取ろうとした、その時である。

「んだぁこの妙な空間はよ。どうも結界のようだが……変な感じだぜ」

突如、背後から声が聞こえてきた。

「これは次元の壁です。全く不勉強ですね愚弟は。それにしても一体どうしてこのような場所に……?」

ガゼルとノアだ。そういえば次元の壁に穴を開けたのはいいけど、あのまま放置してたんだっけ。

見つけて入ってきてしまったのか。

「お、そこにいるのはロイドじゃねーか! しかも戦っているのは魔族か!?」

「恐らく次元の壁を生成した魔族、何処かの封印から出てきたのか! 我々もロイド君に助太刀しますよ!」

息ぴったりに駆け出してくるガゼルとノア。

「馬鹿な! 人間が魔族相手に何が出来る! 二人ともロイド様に任せて逃げるのだ!」

「いや待てジリエル」

二人を止めようとするジリエルを俺は止める。

「何か考えがあるのだろう。しばらく様子を見よう」

「む、むぅ……ロイド様がそう仰るのであれば……」

不服そうなジリエルだが、二人の魔力には奇妙な、しかしとても力強い感覚を覚える。

あれはもしや、俺が見たい見たいと思っていた始祖の術式ではあるまいか。わくわく。

「行くぞクソ兄貴!」

「合わせろよ愚弟!」

二人は掛け声と共に、ケロベルスに立ち向かうのだった。