軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

学園への道のりは遠く厳しく

そして出立の準備は整った。時間にして三十分ほどだろうか。流石シルファ早い。

「よしよし、皆準備が出来たようやな」

城門前の広場に集合した俺たちを前に、ビルギットは満足げに頷く。

「ですがビルギット姉上、馬車などないようですが……?」

アルベルトが辺りを見渡しながら問う。

「アホぅ、学園まではめちゃ遠いんやで。馬車なんかで行ったら何日かかると思うとるのん。まーちょっと待っときや。そろそろ来るはず……お、来た来た! おーい!」

ビルギットが手を振る先、土煙を上げながら向かってくるのは二頭の巨大狼だった。

「はーい! お待たせしましたー!」

その背中に乗っているのは、第六王女アリーゼである。

俺の姉で、動物が好きすぎるあまり心を通わせることが出来るのだ。

「リル、シロ、止まって頂戴」

「クルゥ……」

アリーゼの言葉でレッサーフェンリルのリルが足を止める。

もう片方、俺の従魔であるシロが俺へと突っ込んできた。

「オンッ!」

「おーシロ、お前また大きくなってないか?」

モフモフの巨大毛玉のような狼、ベアウルフのシロが嬉しそうに俺の顔を舐めてくる。

最近会うたびに大きくなっている気がするぞ。

「というか……リルも大きくなってない?」

レンがリルを見上げながら呟く。

確かに、リルの身体は以前よりも大きくなっているように見える。

「リルとシロはとっても仲良しで、よくじゃれあって遊んでいるのよ。そのたびに少しずつ大きくなっていって気づけばこんなになっちゃったわ。うふふ、これも愛の形の一つね」

そう言ってのほほんと笑うアリーゼ。

「互いに訓練し合うことで強く大きくなったのでしょうな」

「魔獣の成長は周囲の環境に左右されますからね。良きライバル、更にロイド様の魔力を浴び続けたからこそでしょう」

グリモとジリエルが感心したように呟いていると、ビルギットが前に出てくる。

「おー、よう来たなアリーゼ。待っとったで」

「……なるほど、リルとシロに運んで貰おうというわけですか。確かこの二頭なら我々を素早く運べるでしょう」

納得したように頷くアルベルト。

シロたちの足は半端じゃなく速いからな。大きくなったしこの人数も運べるだろう。

「せや。折角魔獣を飼っとるんや。こんな時こそ働いて貰わなアカンやろ。ほれほれ、何を見惚れとるんや。はよ乗らんかい」

「わかりました。お世話になるよ。リル、シロ」

「クゥ」

アルベルトがリルを撫でながら、その背中に乗る。

「頼むぞシロ」

「オンッ!」

俺たちもそれに続き、シロの毛の中に潜り込むのだった。

「わぁ! はやいはやーい!」

高速で流れていく外の景色を眺めながらレンは歓声を上げる。

シロの毛の中で微風結界を展開し、俺たちはその中でくつろいでいた。

「はしゃぎ過ぎですよレン、はしたない」

「はーい」

シルファに注意され、レンはちょこんと座る。

以前はレンにもっと厳しかったが、最近はしっかりしてきたこともあり外では若干緩めだ。

「しかしもうゴルーゲン峡谷とは。かなりの速さでございますね」

「あぁ、この調子なら本当に半日あれば学園まで着きそうだな」

「えーと……ごる……?」

首を傾げるレンを見て、シルファはため息を吐きながら地図を取り出す。

「ゴルーゲン峡谷です。ほらここ。サルームの東に谷が広がっているでしょう」

「わ、ホントだ! 広っ!」

地図を見て驚くレン。ゴルーゲン峡谷は百キロ以上続いていると言われる大峡谷で、旅の難所百選にも数えられている程だ。

「しかもここには 翼竜(ワイバーン) が出る為、橋を架けられません。故に慣れた高ランクの冒険者を傭い、ごく一部の起伏が緩いルートを通り抜けるしかない。そんな険しい道なのですよ。……こほん、もちろん私どもがいる限り、ロイド様には指一本触れさせませんが」

「オンッ!」

シルファの言葉に呼応するようにシロが吠える。

ワイバーンと言えば魔物の中でも最強である竜の一種だ。

その鱗は強靭で、あらゆる武器を弾き魔力すら効かないといわれている……どれくらい硬いのだろう。試してみたいなぁ。

「いやいやいやいや、ロイド様の魔力の前ではワイバーンの鱗なんて紙同然、ゴブリンの皮膚と大差ないですぜ」

「その通りです。そこらの凡百魔術師とご自身を比較するのはおやめ下さい。世界が危ないですので」

グリモとジリエルがツッコミを入れてくるが、流石に大袈裟というものである。

いくらなんでもワイバーンとゴブリンが同じってことはないだろう。

そんなことを言ってると、シルファが不意に立ち上がる。

「噂をすれば、ですよ」

結界から外を覗くと、シロの前方に無数の翼竜が群れを成して襲ってくるのが見えた。

おおっ、これはまた丁度いいところに。これだけ数がいれば、ちょっとくらい俺が実験台にしても気づかれはしないだろう。

そう思い魔術を紡ごうとしたのだが……

「ロイド様、外に出て迎撃致します。結界を解除して頂いてもよろしいですか?」

「う、うん……」

シルファに邪魔されてしまった。残念無念。

渋々パチンと指を鳴らして結界の一部を解除すると、シルファが外へ飛び出した。

「結界を展開しつつその一部のみを解除するとは……余程の魔術理解がなければ不可能なこと。流石はロイド様でございます」

シルファが何やらブツブツ言いながら、シロの毛の中に腕を突っ込んだ。

そしてゴソゴソ弄っていたかと思うとおもむろに腕を引き抜く。

――その手に握られていたのは鉄塊を思わせるような巨大な黒剣。

シルファはそれを軽々振り回しながら、肩に背負う。

「大剣はあまり得意ではありませんが…… 下級とはいえ相手は竜種、並の剣では刃が通らないでしょうからね」

剣を背負ったままのシルファから殺気が漲り始める。

背負ったのではなく、あれは既に構えなのだ。

「あ、あれはディアン様の工房にあったやつ!」

「えぇ、出立前に頂いた物です。竜を狩るなら必要だろうと」

俺も見たことがある。以前ゴーレム用の大魔剣を製作した際の試作品だ。

あんなデカい剣を誰が使うのかと思っていたが、まさかシルファが使うとは。

「いきますよ『竜殺し』」

そう言ってシルファは剣に括り付けていた鎖を外す。

抜き身となった『竜殺し』、その刀身が鈍い光を放つ。

手にした剣を全身を捻るように剣を振う。

その剣速にて咆哮のような轟音と共に斬撃が空気を切り裂いて、飛ぶ。

まず先頭のワイバーンが真っ二つに切って落とされた。

その後方にいたワイバーンも両断され、吹き飛ばされ、次々と堕ちていく。

「ラングリス流大剣術、竜墜断」

ワイバーンの群れを一刀の元に切り墜としながら、シルファは呟く。

うーむ、飛ぶ斬撃を生み出すには凄まじい剣速が必要で、その難易度はとても高いのだ。

それをあんな巨大な剣で軽々撃つとは…… やはりすごいなシルファは。

「ふっ、シルファたんの剣に恐れをなしたワイバーン共が逃げていくようですな」

「馬鹿野郎、まだ何匹かは向かってきてるぞ!」

先刻の攻撃でもまだ戦意を失わなかったワイバーンが数匹、こちらなら突っ込んでくる。

よーし、今度こそ俺が……と思い魔術を紡ごうとした時である。

「ガ……ァ……!?」

呻き声を上げながらワイバーンが地面に落ちた。

白目を剥いて口から泡を吐いている。

俺の隣ではレンが目を細め、魔力を紡ぎ外部へと放出していた。

「おおおっ! あれは『毒鱗の翅』! 周囲に展開した鱗粉を吸った者は瞬く間に失神、昏倒するレンたんの必殺技ですよ!」

ジリエルが興奮気味に声を上げている。

バタバタと落ちていくワイバーンを見ながら、俺は肩を落とす。むぅ、また獲物を取られてしまったか。

「……なんかその、ゴメン」

「いいよ、それより腕を上げたなレン――」

「きゃあああああっ!」

レンを適当に誉めていると、アリーゼの悲鳴が聞こえた。

見ればアルベルトたちの乗るリルに、ワイバーンが群がっているではないか。

「た、大変! アルベルト様たちが乗ってるリルが襲われているよ!」

「くっ……ここからだとレンの毒や私の剣では巻き込んでしまいますね……かくなる上は飛び移ってでも……」

「危ない! シルファさんっ! こんな速度で走っているのに無茶だよ!」

よし、二人は手を出せないようだ。

今こそワイバーンの鱗の耐久力を試す時。

くれぐれもバレないように、こっそり、軽ーく……魔術を発動しようとしたその時である。

「きゃんっ、もう……おイタが過ぎますよ。貴方たち。うふふっ」

間延びしたアリーゼの声が聞こえてきた。

よくよく見ればワイバーンの目はアリーゼに釘付けになっており、甘えるような鳴き声を上げながらまとわりついている。

「……懐いてるね」

「……懐いていますね」

その様子を見て、レンとシルファは呆然と眺めている。

そういえばアリーゼは動物に好かれやすいのだった。

とはいえ襲ってきたワイバーンを速攻寝返らせてしまう程とは……頼もし過ぎるな。

しかし何が旅の難所百選だ。全く、それならそれらしくして欲しいものである。