軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ

と、そんな感じで色々終わって落ち着いた頃。

俺はとある場所に足を踏み入れていた。

サルームから遥か北、大暴走の発生地点と言われながらもあまりに遠すぎる為、調査を断念されたその場所である。

「うー、ぞくぞくするような冷気を感じやすな」

「えぇ、まるで地獄の階段を降りていくような感覚です」

そこにはダンジョンがあった。

狭く、しかしとてつもなく深いダンジョンの階段を俺は降りていく。

「それにしても前に来た時はこんなのなかったけどなぁ」

「以前にもここを訪れたことがあるんですかい?」

「うん、五年くらい前だったかな。その時は何もないだだっ広い平原だったから、問題ないと思ったんだけどなぁ」

「またロイド様が何かやらかしたのですか……」

グリモとジリエルがドン引きしている。

いやいや、まだ俺のせいと決まったわけじゃないだろう。

……その可能性が高いのは否定しないけどさ。

「五歳って……んなちっちぇ頃から無茶苦茶してよぉ。子供なら子供らしく人形遊びでもしといてくだせぇ」

「まぁ前回のホムンクルス騒ぎもある意味人形遊びといえなくはありませんでしたが……おっと、最下層に着いたようですよ」

そこにはダンジョンのボスの住処を示す大扉があった。

「しかし魔物が全くいやせんでしたな」

「あの大暴走で全部だったのでしょう。ということはこのダンジョンを潰してしまわねば、またあれが起こるということですね。……それにしても何という巨大な扉でしょうか」

扉は見上げるほどに大きい。

ボスの強さは扉の頑強さに現れるとカタリナから聞いたことがある。

三メートルを超える扉には絶対入ってはいけないとか言っていたか。

この扉はゆうに五メートルはあるな。

「ま、入るわけだけど」

ここまで来て引き返すなんて選択肢があるはずがない。

シルファとアルベルトが長時間席を外す日なんてそうそうないからな。

というわけで俺は扉を開けて中に入る。

ずずん、と扉の締まる音が響く中、仄暗い広間の最奥にいる何かが動く。

骨を重ねて作られた不気味な椅子、そこに座っているのはローブを纏った人骨だった。

「こいつは……スケルトンですかね?」

「ただの、なはずはないでしょう。しかしこの凄まじいまでの魔力、どこかで憶えが……」

首を傾げる二人だが、俺には思い切り心当たりがあった。

「あちゃー」

それを見た俺はぺちんと額を叩く。

ボロボロのローブ、千切れて体をなしてないシャツ、擦り切れたブーツ、それらは俺が生前身につけていたものだ。

そう、この人骨は俺の前世での死体が白骨化した姿なのである。

――五年前、死霊魔術を覚えた俺は早速死体を操ろうとして……思い留まった。

いくらなんでも死者の眠りを妨げるような真似は良くないのではないかと。

でも試したい。しかし倫理的には……何度も葛藤した末、自分の死体なら構わないだろうという結論に至ったのだ。

さっそく自分の墓を見つけて掘り返し、白骨化していた俺の死体に死霊魔術をかけた。

本来は死体に残っているはずの魂は既に消失……というか俺の身体に移行しているので、魂を魔術で模造して埋め込んだら無事動き出したのである。

いやぁ、骨とはいえ自分の死体が動いているのを見るのは何とも言えない気持ちだったが、折角の機会なので色々試した。

死霊魔術には操っている死体を強化する魔術も多数あり、片っ端からかけていったのである。

術式を付与して骨自体を強化したり、崩れても自動で再生するようになる闇の衣を纏わせたり、前世での悲願、あらゆる魔術を覚えさせたり……すると次第に勝手に動き出すようになり、気づけば俺の言うことを無視して暴走し始めたのだ。

これはいかんと思った俺は、骨を結界で封じ込めて誰もいない場所――すなわちここまで運んで巨大な穴を掘って埋め、置き去りにしたというわけである。

だがそんな俺の死体がダンジョンを作り、サルームを魔物で襲おうとするとはな。

――いや、狙ったのは俺か。

死霊魔術により蘇った死者は生者に強い執着を持ち、それは自らに近い存在ほど強い。

転生後の自分自身である今の俺を狙うのも道理。となればこのまま放置も出来ないな。

「ア、ァァァ……」

呻き声を上げながら近づいてくる 俺の骨(スケルトン) 。

「な、なんつー禍々しい魔力……目に見える程の密度ですぜ!?」

「信じられない……邪神に匹敵する魔力量ですよ!? こんなものがダンジョンボスとして存在しているとは……!」

俺の骨(スケルトン) が腕を振るうと、巨大な火球がずらりと並ぶ。

「『炎烈火球』、上位魔術をあれだけ展開するとは……」

「ァァァァァァァ!」

ごおう! と轟音と共に放たれた火球の嵐を魔力障壁で防ぎ切る。

うん、中々の手応えだ。

才能もなくまともな魔術も使えなかったかつての俺がよくここまで使えるようになったものである。しみじみ。

このまま消すのは簡単だけど、少し惜しいな。

だがこのまま放置するわけにも……うーん。

しばし考えて、頷く。

「よし、決めたぞ」

俺は 俺の骨(スケルトン) に背を向けると、閉じた大扉に向けて手をかざし魔力を集中させていく。

「ま、まさかあの扉を破るつもりなのですか!? あの大扉は半端な頑強さではありませんよ! 如何にロイド様といえど……」

集中した魔力を凝縮させ、一点に集めていく。

「へっ、何も分かってねぇな。ロイド様の魔力は常識で測れるような次元をとうに超えてやがるんだよ!」

血流に刻んだ術式が唸りを上げ、更なる魔力を生み出していく。

魔力は俺の手で渦巻き、逆巻き、乱れ巻き、そうして一つの小さな魔力球となった。

燃え盛るように赤く染まった魔力球を指で弾く。

「――『火球』」

それを大扉に向けて放つ。

俺の掌から放たれた炎が大扉に触れた瞬間、じゅっと焼けるような音がして融解した。

扉を突き破ると次は壁に命中し、どんどん融解させていく。

「なななな、なんだこりゃあ!? たかが『火球』であのクソデケェ大扉が一秒すら耐えずに崩壊しただとぉ!? そもそもボス扉自体、破壊できるもんじゃねぇってのに……常識で測れる次元、その更に上の次元まで超えてやがる……!」

「は、はは、ははははは……もう笑うしかありませんね。神界に住まう我が主ですらここまでの力は持ちえないでしょう。流石と言う言葉すら生ぬるい」

二人が半笑いでブツブツ言っている。

ちょっとびっくりしているようだ。

今回の戦い、本気で魔術を使う機会がなかったからな。

折角なので思い切りやってしまったが、自作血統魔術に加え軍事魔術による効率化で総合的に恐ろしい火力になっているようだ。

俺の放った『火球』は大扉の向こうにある壁に大穴を開け、その遥か遥か先……見えなくなるくらい遠くまで貫いている。

うーん、やり過ぎたかな? まぁ大量の魔力を込めたところで結局はただの『火球』だし、適当なところで止まっているだろう。

「ァァァァ、ァァァ……」

その間も 俺の骨(スケルトン) は俺に攻撃を続けている。

ここにいる限り攻撃され続けるか。

俺は攻撃を防ぎながら扉があった場所から外に出た。

すると 俺の骨(スケルトン) は攻撃を止め、俺を見送るように足を止めた。

「ボスは部屋から動けないという縛りを受けているが故にあれだけの戦闘力を誇っていますからね。まぁロイド様の敵ではありませんでしたが……」

「しかしロイド、奴を倒されないのですかい?」

「ん? あぁ、少し思うところがあってね」

俺は 俺の骨(スケルトン) を一瞥し、ダンジョンの外へと出る。

そして入り口を厳重に結界で覆った。

「……ふぅ、これでまた魔物が溢れ、大暴走を引き起こすことはないだろう」

あれだけの横穴を掘れば魔物もそう溢れないだろうし、結界で蓋もしたから簡単には出てこれまい。

「なるほど、このダンジョンを丸ごとロイド様のものにしようってことですな」

「その通り」

また時間が経てば魔物も復活するだろうし、結構強い魔物が沢山いたから色んな実験に使えるだろう。

それを潰してしまうのは惜しいよな。

「これだけ規格外のダンジョン、世界に幾つもありはしないでしょう。それをロイド様お一人の物にするとは……流石と言うかなんというか」

「しかもただの魔術の実験場なんだぜ。笑えねーよ」

呆れた様子のグリモとジリエルを従え、俺はかつての自分を一瞥する。

「それじゃあな」

別れの言葉と共に俺はその場を飛び去る。

いやー、いい感じの実験場が手に入ってよかったよかった。