軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

シュナイゼルの思惑

「キキィーーー! キィーーー!」

俺の放った『火球』の範囲内にボスがいたらしく、残ったオニザルたちは散り散りに逃げ始める。

「おおっ! 魔物どもが逃げていくぞ!」

門を登り、崖を駆け、這う這うの体でなりふり構わず。

そうとなったら早いもので、門の内側にいた魔物たちはあっという間にいなくなってしまった。

「あの群れの中に新たなボス候補が全部いたんでしょうぜ」

「所詮は魔物、頭を潰せば脆いものです」

そういえばさっきのオニザルや、ユキウサギのようなボス格の魔物を倒した時は周りの魔物たちがかなり浮き足立っていたよな。

戦場にいて群れを仕切っているボス格の魔物、そいつらを倒せばこの大暴走も崩れるのではないだろうか。

「試す価値はある、か……『索敵』」

探知系統魔術『索敵』は魔力による波紋を周囲に投げかけ、魔力の反応を探し出す。

意識を集中させると……見つけた。魔物の大群に囲まれるように数十の大きな反応が脳裏に浮かぶ。

「ま、まさかこの戦場全てに『索敵』をかけたってんですかい!?」

「しかもこんな大量の魔物がいる中で、ボスの反応だけを見分けられたと!?」

グリモとジリエルが驚いているが、俺もまたここまで出来るとは思わなかった。

本来の『索敵』は俺が使っても射程数百メートル、それにあまりに拾う反応も荒く精度は低い。

だが今は数キロは余裕だし、細かな反応も鮮明に感じ取れる。

軍事魔術による術式効率化のおかげだな。

「場所はわかった。あとは『虚空』」

そしてそのポイントを狙って発動させるのは、空間系統魔術『虚空』。

別に倒せれば何でもいいのだが、これだけ人が見ている中で出所の分かる攻撃魔術はマズい。

その点『虚空』はその場に直接発生させられるし、空間を削り取り範囲内を消滅させるので確実に仕留められるというメリットがある。

「魔力消費がべらぼうに多い『虚空』を数十個、同時に発動させただとぉ!?」

「無茶苦茶ですね……しかもロイド様はまだまだ余裕の表情をしてらっしゃる……」

以前なら『虚空』十個も出すとかなり疲れたが、血統魔術を刻み出力を上げているので疲労は殆どない。

もう倍くらいなら問題なく展開出来そうだな。

「さて、どうなったかなっと」

戦場を見渡してみると、目標の魔物たちはちゃんと倒せたようで至る所で魔物たちが騒ぎを起こしている。

よしよし、このまま混乱が広がれば大暴走も収まるはずだ。

だが待てど暮らせど魔物たちの混乱は広がっていく様子はなく、むしろ落ち着いて門への攻撃を再開しているようだ。

「魔物の数が多過ぎて、奴らの恐怖心が麻痺してるんですぜ!」

「然り、群集心理が働いているのです。頭を潰しても大暴走は止まりません!」

俺の目論見は外れ、依然として魔物たちは押し寄せてきていた。

戦っている兵たちはボロボロ。こちらはすでに満身創痍である。

マズいな。このままだと門を突破されてしまう。

最悪俺が特大の攻撃魔術でぶっ飛ばせば何とかなるが、その場合は巻き添えで大きな被害を出しそうだし、それは避けたいぞ。

「……なんか変なニオイがしやせんかい?」

グリモが呟く。ジリエルもくんくんと鼻を鳴らしていた。

「えぇ、何かが焼けるようなニオイが微かに漂ってきます。魔物の流れもどこか妙だ」

言われてみれば確かにだ。それに魔物たちが減っている気がする。

一体何が起こっているのだろうか。

俺たちが首を傾げていると、いつの間にかシュナイゼルが隣にいた。

「何とか間に合ったようだな」

「もしや今の現状、シュナイゼル兄さんの策ですか? 一体どんな手を……」

「魔物の数は膨大だ。しかし奴らは大飯喰らい。それ故、己の肉体を支えるものがなければ崩れ落ちるのみ」

シュナイゼルの視線の先を見ると、遠くの森からは煙が上がっていた。

そこだけではない。目に見える木々や草むらに至るまで、炎が燃えている。

あれが先刻のニオイの正体か。

「魔物どもの食料となり得る森を全て焼き払った。食べるものがなくば戦えないのは道理」

「……なるほど! シュナイゼル兄さん兵がどうも少ないと思っていたけど、森を焼かせていたのですね」

大暴走において魔物たちが通った後は草一本残らない。

森の獣を、木々を、仲間の死体すら喰らい尽くして進む。

だが俺たちが魔物の死体を焼き、シュナイゼルが辺りの森を燃やしたことで魔物たちは餌を失ってしまったのだ。

そうして腹をすかせた魔物たちは他所へ食べ物を求め、こうして散り散りに逃げているというわけか。

何だ、わざわざ俺がボス格の魔物たちを倒さずともどうにかなっていたんだな。

「しかし策が発動出来たのは魔物どもが浮足立ったからだ。あの一瞬がなければあのまま押し切られていた可能性は高いだろう。それにボス格の魔物どもに単騎で突っ込んで来られたら、兵たちに犠牲が増えていただろう。全く、上手くいったのはそのおかげだったとしか言いようがあるまい。何者の仕業だろうか……いや、まさかな」

シュナイゼルは何やらブツブツ言いながら俺をじっと見てくるが……まぁ気のせいか。

ともあれ敵は崩れた。あとは仕上げのみ。

兵たちがシュナイゼルの号令を待つ中、ひと際大きな声が響く。

「何をしている! まだ戦いは終わってないぞ! 今から掃討戦を開始する。この地から魔物どもを一匹も残すな!」

声の主はアルベルトだった。それに呼応するように兵たちが剣を掲げる。

「うおおおおおおおお!」

アルベルトの檄を受けた兵たちは、先刻までの疲弊した顔はどこへやらといった具合に意気揚々と魔物の群れに突撃していく。

それを見下ろしながら、シュナイゼルが安堵したように息を吐く。

ようやく自分の仕事が終わった、という顔だった。

「やれやれ、ここまでがお主の計算通りだったかの?」

背後からの声に振り向くと、そこにはクルーゼが立っていた。

一仕事終えて戻ったのだろうか。身体は傷だらけで顔には疲労の色が浮かんでいる。

クルーゼはゴキゴキと肩を鳴らしながら、シュナイゼルに並び立ち戦場を見下ろす。

「まぁ、な」

「くくっ、弟思いの兄じゃのー。うりうり」

ぶっきらぼうに答えるシュナイゼルの脇腹を、クルーゼがニヤニヤしながら肘で突いている。

一体どういうことなのだろう。

「クルーゼ姉さん、それってどういうことですか?」

「うむ、シュナイゼルは此度の戦の仕上げをアルベルトに務めさせようとしとるんじゃよ。ほれ、こやつは口下手の上に無表情であろう? 兵たちから不気味がられることが多くてのう。将としてはまだしも、王となるには強面過ぎる。その点アルベルトは口も上手いし、愛嬌もあるからの。アルベルトを次期王座にと思っておるからこそ、今のうちに兵たちの心を集めさせておるんじゃよ」

言われてみればシュナイゼルは多くの人たちに怖がられているように見えるかもしれない。

逆に人当たりのいいアルベルトは多くの人に好かれているだろう。

「喋りすぎだぞクルーゼ」

「おおっと、これって内密の話じゃったかの?」

「……まぁ別に隠しているわけでないし構わんがな」

慌てて口を噤むクルーゼ見て、シュナイゼルはため息を吐いた。

「クルーゼの言う通り俺には王よりも将として国を守る方が性に合っている。次の王位はアルベルトに任せるつもりだ。故に今からこうして根回しをしているのだ」

シュナイゼルはそう言うと、どこか照れ臭そうに目線を逸らした。

それを見たクルーゼは俺の耳元で囁く。

「あんなこと言っとるが、シュナイゼルが戦場に立つ理由はおぬしら弟妹たちが不自由なく生きられるよう為なんじゃよ。二十年近く前……まだアルベルトが小さな頃はこの大陸もきな臭くてのう。わらわたちでこの国の平和を守り抜こうと誓ったものじゃよ」

そういえば前世でのサルームはちょこちょこ戦争があったっけ。二人の獅子奮迅とも言える戦いぶりは前世での俺の耳にもよく届いていた。

そうか、二人が頑張ってくれたお陰でこうして俺や他の兄姉たちが好きなことに打ち込めているんだな。

「……ありがとうございます。シュナイゼル兄さん。クルーゼ姉さん」

「よせよせ、恩に着せるつもりで言ったわけではないぞ」

「うむ、兄が弟たちの為に動くかは当然のこと。……それに、我らも存外好きなことをやっているのだ」

シュナイゼルはそう言って口元を僅かに緩める。

それはシュナイゼルが俺に初めて見せた笑みだった。

「……だが今回の戦、まだまだ甘かったな」

「うむ、もっと被害を少なくすることも出来たじゃろう」

「これも全てロイドという戦力を見誤ったせいだな。十分高く評価したつもりだったが、まだまだ足りなかったらしい。俺の副官辺りに加えていれば……ふっ、俺もまだまだ見る目がないな」

「おいおい、わらわの方が上手く使うぞ? ロイドを我が隊に加えていれば、一軍でこの大暴走を蹴散らせたわ」

シュナイゼルとクルーゼは何やら言い合いながら俺を見てくる。

一体どうしたのかよくわからないが……ともあれ無事に終わってよかったといったところか。

こうしてサルーム王国を襲った 大暴走(スタンピード) 事件は幕を閉じた。

懸命に戦った兵たちには等しく恩賞が授けられ、それを率いた将たちもまた地位を上げたのである。

それから数日、俺は玉座の間に呼び出されていた。

シュナイゼルとクルーゼは戦後の処理をアルベルトらに任せ、すぐ前線へと戻って行った。

どうやら大暴走の間、何度も前線から手紙が送られてきていたらしい。

シュナイゼルに至ってはこちらの対応をしながらも、遠く離れた場所から指示を出していたとか。

うーむ、どんな頭の構造をしているのだろう。

「また帰ってくる。その時までにこれを熟読しておけ」

シュナイゼルから渡されたのは、マルスと二人で書いたという兵法書だ。

しかも通常用いられる戦術に加えて魔術師の観点から書かれており、アルベルトに見せたところ「これはロイドのために書かれたただ一つの書物だ。すごいことだよこれは!」と興奮した様子だった。

「ほほう、良い物をくれてやったのうシュナイゼル。ではわらわからはこれを授けるとしよう」

クルーゼから貰ったのは、裏ラングリス流指南書と書かれた書物だった。

「これはマルクオス騎士団長とわらわで作った愛の結しょ……うおほん! ラングリス流の! ……その中でも危険度や難易度が著しく高いことから裏技としたもののみを記した裏本じゃ。表を知り、裏を知り、そして真に至る……物事とはそういうものじゃ。今のおぬしならこれを渡しても平気じゃろうて」

途中で妙は言葉が聞こえた気がするが気のせいだろうか。

なお正直剣術には全く興味はないので、欲しがっていたシルファにあげた。

シルファはしばらくその本を読み耽っていたので平和だったが、技を覚えてからは俺との剣術ごっこに熱が入ったのは言うまでもない。

……そこまで想定すべきだったな。

まぁシルファは喜んでたし、よかったとしておくべきだろうか。

「それにしてもクルーゼ様はすごいあるな! いい手合わせになったよ」

クルーゼとの約束の手合わせを終え、満足そうに笑うタオ。

「そちらこそいい腕前じゃったぞタオとやら。うちの兵として欲しいくらいじゃ。ははは」

ちなみにラングリス流は素手もいけるらしく、タオと激しい戦いを繰り広げ皆を驚かせていた。

「誘いは嬉しいけれど、やめておくある。アタシは生涯武術家あるよ」

真っ直ぐな言葉にクルーゼはふむと息を漏らす。

以前は修行より男、って感じだったが……タオも変わったものである。

「……そうか。そうじゃの。ではまた会おうぞ」

「あ、ちょっと待つある!」

慌ててクルーゼに駆け寄るタオ。耳元で何かを囁き始めた。

「ところであの仮面の人、かなりのイケメンあるな。アタシに紹介して欲しいある」

「……そうか? シュナイゼルはかなりの強面じゃぞ。おぬし、変わっとるのう」

「んふふ、最近ストライクゾーンも広がったある♪」

……いや、あんまり変わってないかもしれない。

まぁシュナイゼルの中身は確かにとても格好いいのだけれども。

「それじゃあロイド様、また何かあったら遠慮なく呼んでくれよな」

「あぁ、助かったよガリレア。みんなもありがとう」

そしてガリレアたちはマルスとビルス、山賊たちを連れて帰って行った。

領地に魔物が散っている今、人手はあればあるほど良いからな。

しばらくは魔物退治をしなければならないし、マルスたちの戦力は助けになるだろう。

「ロイドさん、また絶対、ぜーったいに冒険者ギルドに来て下さいね!」

受付嬢カタリナは何度も念を押しながら帰っていった。

そうまでして俺に冒険者をやらせたいのだろうか。

正直な話、全く興味がないんだけどな。

まぁ、貸しも出来たし面白そうな依頼もあるかもしれない。

気が向いたら足を運んでみるかな。

そしてサイアスは修行の旅に出たらしい。

あの時、俺が放った血統魔術のせいでサイアスは多大な期待を寄せられてしまったのだが、それに応えられずに信用を失ってしまったとか。

ちょっとかわいそうな事をしたかもしれないなと思い声をかけると「私は必ず戻ってくる。それまで勝負はお預けだ」と返ってきた。

いつの間に勝負をしていたか疑問だが、そんなに落ち込んでないようである。

きっとすさまじい修行をして、帰ってきたら驚くほどの魔術を身に着けているかもしれない。

俺が知らない未知の魔術とか。覚えて戻ってきたらいいなぁ。うーん楽しみである。