軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

山側を支援します。後編

「魔物相手に我が魔術の真髄を見せるのは不本意ではあるが、出し惜しみをしている場合でもあるまい。さぁ兎狩りといこうか」

おおっ、ついにサイアスがやる気になったようである。

あの手袋は自身の魔力を封じる魔道具だな。制約を加えることで特定の魔術の底上げを行っているのだろう。

それを外したということは、己にとって特別な魔術を使うという意思表示に他ならない。

即ち、ついにサイアスの血統魔術が見られるのだ。

「そんなに珍しいもんですかい? 俺からすりゃあロイド様の存在の方がよほど珍しいですがね」

「何言ってんだグリモ! 血統魔術は魔術師の家が代々積み重ねてきた言わば芸術なんだよ! レビナント家のような高名なものは特にだ。あぁ楽しみだなぁ」

そんな会話をしていると、ユキウサギが身体を屈めてぴょんと跳んだ。

空中に氷を生み出し足場を作り、ぴょんぴょんと。

数度飛び跳ねた後、ユキウサギは俺たちの目の前に着地した。

「クゥー、キルキルキルキル……」

可愛らしい姿ではあるが、その身体は大木と同等の高さはあるだろうか。相当デカいぞ。

「さ、寒い……!」

「手が悴んできた……」

しかもユキウサギの纏う冷気により、周囲の兵たちにダメージを与えている。

俺が結界を張ろうとすると、その前に辺りがほんのり暖かくなってきた。

サイアスの纏う炎が冷気を中和しているのだ。

「ふっ、私の後ろに下がっていたまえ」

「うんうん、是非ともそうさせてもらうよ」

「何故嬉しそうにしているのかはわからんが……ふん、まぁいい。やるとするか」

サイアスが術式を展開し始める。

よし、こっちも観察開始だ。目に魔力を集めてじっと見る。

サイアスが展開した術式は魔力を帯び、高速で渦巻きながら炎を形作っていく。

ただの炎ではない。

極彩色に燃え盛る炎の中には吹き荒ぶ氷嵐が、鳴り響く豪雷が見える。

それだけではない。他にも様々な現象が織り重なってあの極彩の炎を生み出しているのだ。

「ほう、中々綺麗な花火ですな。しかしただそれだけだ」

「それに溜めが長すぎて実践的とは程遠い。ロイド様が気にするほどのものとは思いませんが」

グリモとジリエルはそう評するが、俺はその炎から目を離せずにいた。

あの炎、どこかで見たことがある気がするのだが……そんなことを考えているうちに、サイアスは渦巻く炎を纏めて束ね、圧縮していく。

「喰らうがいい、極色彩光炎!」

放たれた極彩色の炎が、放射を描きユキウサギに迫る。

それを見て、俺はようやく思い出した。

――あれは前世での俺を焼いた炎だ。

当時は魔術から術式を読み取るなんて出来なかったから理解できなかったが、今こうして発動しているのを見るとわかる。間違いなくあの時の炎である。

ということはサイアスがあの時の……うーん、俺は人の顔を覚えるのは苦手だからな。十年以上前のことなどよく覚えていない。

……ま、どうでもいいか。そんなことより血統魔術だ。

実際に見てわかったが、あれは恐らく自らの血に術式を刻むことで複雑な術式を使えるようにしているのだ。

なるほど人間の身体はほとんどが水、皮膚やその他部位に術式を刻むのはよくあるが、血液に刻んだ方がより多くの術式を刻めるのは道理。

だがそれなら特定の一つの魔術ではなく、もっと汎用性に富んだものにした方がいいと思うんだけどな。

魔力の効率化や貯蔵、圧縮などの術式はとても長いが、血液量から考えて十分可能なはず。

よし、俺もやってみるか。

「キルキルキルキルーーーッ!」

俺が術式を書き込んで渡る間にも戦いは続いている。

ユキウサギは迫り来る炎を対するべく、冷気を集めて吐き出してきた。

炎と氷がぶつかり、押し合っている。

「ぐぅぅっ、我が血統魔術が魔物風情と互角だと……っ!?」

「キル……ゥゥ!」

んー、苦戦しているな。

見たところサイアスはまだあの血統魔術を使いこなせていないようだ。

仕方ない、ここは俺が手助けしてやるか。丁度術式も刻んだところだし。

「……極色彩光炎」

ぼそっと呟くと共に、サイアスの後ろからそれを放つ。

色とりどりの炎が俺の指先一点に集まり、爆ぜた。

ごおう! と光が吹き荒れてユキウサギが消し飛ぶ。

放射状に放たれた光はそれだけで終わらず、向こう岸の森共々魔物の群れを焼き払った。

その場の全員があんぐりと口を開きつつ、固まっている。

「い、一体何が起きたんですかい……?」

「極色彩光炎を使ったんだよ。本来のね」

術式を見てわかったが、極色彩光炎は要するに一人多重合成魔術なのだ。

炎の中に他の現象が起こるのは単に出力が足りないからで、等しく同じ出力で発動すれば合成魔術として成立するというわけである。

恐らく長い年月を経て使い手の質が落ちていった結果、

……ま、思った以上の威力だったわけだが。

結構手加減したつもりだったが、血に刻んだ術式のせいでやりすぎてしまったかもしれない。

「うおおおおっ! 凄まじい威力です! 流石はサイアス様!」

「あれがレビナント家の血統魔術……まことに大したものです! これならどれだけ魔物が来ようがものの数ではありませんな! サイアス殿!」

「……は、はは……」

当のサイアスは困惑しきっているが、ともあれ何とか誤魔化せたようだ。多分、きっと。

「……今の、ロイドがやったでしょ?」

「こっそりやってもバレバレよ。やりすぎあるね」

「あの甘ったれた貴族にこんな真似が出来るとも思えねェしな」

「は、はは……」

一部にはバレているようだが……まぁ他の人たちは気づいてなさそうだし、よしとするか。

「そ、それじゃあシュナイゼル兄さんが呼んでるから、俺はこれで……ビルス、後は頼んだよ」

「おう、任せときな」

俺はボロが出ないうちにその場を離れるのだった。