軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

山賊を仲間に加えました

――残心、長い呼吸を終えた後タオがこちらを振り向く。

「ふー、危ないとこだったね。ロイド」

「助かったよタオ。まさかこんなところで出会うとはね」

「はははー、驚いたのはアタシもある。でも間に合ってよかったよ」

からからと笑うタオ。

こうして見ると以前より気の総量がかなり増えているのがわかる。

「相当修行を積んだみたいだね」

「……ま、手痛い敗北を喫したある。少しはやる気も出さないとね」

照れ臭そうに言うタオだが、少しなんてもんじゃなかったぞ。

あの身のこなし、気の総量、以前とは桁外れだ。

「今さっきの一撃、魔剣の核を見抜いていたの?」

「さぁ? 核なんて知らないよ。でもアタシの心の眼が拳を導いたある」

そう言ってタオは片目を閉じて拳を握る。

心眼、そういえば異国にはそんな技術があると聞いたことがある。

心の眼で敵を見ることで、目に見えないものまで見えるとか……眉唾だと思っていたが、あんなものを見せられたら信じるしかないな。

「ぬはーっ! タオたんの新コス! ハァ! ハァ!」

興奮するジリエルにぴしゃりと手打ちして黙らせる。

そういえばいつもと衣装が少し違うな。基本は元の赤い武闘着だが、ちょっとずつデザインが違うな。

白いマフラーと腰に付けた瓢箪が特徴的だ。

「しかしロイド、こんなところで何してるあるか? 兵士や王女サマもいるみたいだけど」

「実は……」

俺はタオに一部始終を話した。

魔物の大暴走により国が危機だということ。

それを防ぐ戦いに、俺もまた軍を率い向かっていること。

軍師として山賊の頭を仲間に加えにきたこと。

「……そして今に至る、というわけさ」

「ふむふむ、それは何とも一大事あるな」

俺の言葉にタオは笑顔でどんと胸を叩いて応える。

「そういうことならアタシも一緒に行くよ。修行の成果を見せるいい機会ね!」

「ありがとうタオ、とても助かるよ。……おっと、グリモ、ジリエルもありがとな」

先刻、二人が庇おうとしてくれたことに礼を言う。

魔力も尽きかけていたからな。しかもマルスは魔剣持ち、あのまま攻撃を喰らったら危なかったかもしれない。それを二人が身を挺して守ろうとしてくれたのだ。

「い、いやなんつーかその……くそっ、魔人である俺が思わず飛び出した、なんて言えるかよ……」

「ふっ、こういう時は素直にお言葉を頂いておけば良いのだ。身に余る光栄ですロイド様」

俺の言葉にグリモは顔を赤らめ、ブツブツ言っている。何だか複雑そうだ。

まぁいいか、そんなことより……俺はマルスへと視線を向ける。

「単刀直入に言おう。今サルームは国難に瀕している。軍師として俺の力になって欲しい」

マルスは倒れ伏したまま視線を動かさず、答える。

「……なるほど、私を軍師として雇いたい、ですか」

しばし考えた後、マルスは首を横に振った。

「残念ですがお断りです。私はもう人を殺しなんて懲り懲りなんですよ。こうして気ままに生きているのが性に合っている」

「はっ、山賊が何を言ってるね!」

「我々は自ら人を襲ったことはありませんよ。今回は防衛の為に仕方なく、です。戦いなんて基本的に手間がかかるだけですからね」

そういえばガリレアが彼らは山賊だが無暗に人を襲わない、とか言っていたっけ。

だから俺の誘いにも乗れないというわけか。そいつは困るな。

どうしたものかと考えていると、俺の背後から人が出てくる。

「あなたは……マルスさん、ですか?」

イーシャだ。マルスは慌てたように頭を下げた。

「こ、これは教皇様! 何故このような場所に……?」

「大暴走を止める為です。……話を聞いた時にもしやとは思いましたが、やはりそうだったのですね」

どうやら知り合いらしい。一体どういうことだろう。話についていけないぞ。

「そうだ! 思い出しましたよロイド様! マルスは北の帝国にいた軍師だ。戦争に辟易し、平和なサルームへ亡命してきたんです」

突然ジリエルが声を上げる。

「帝国軍人にしては珍しく信心深い男だったから憶えていたんですよ。味方の被害を抑えるよう戦うには敵を効率よく殺し続けなければいけない……そうして手柄を立てていったマルスですが、戦の絶えない帝国では戦いは終わるどころか激化し続けるばかり。それに嫌気が差して亡命してきたのですよ」

元帝国軍師が亡命か。それほどの人物なら簡単には逃がせないだろう。重要な機密も持っているだろうしな。

そういうことなら冒険者ギルドに手配書が回っていたのも頷ける。

「この辺りの山は教団の所有地だったのですが、山賊が住み着いて誰も立ち入れなかったのです。しかしマルスさんが来た山賊たちをまとめ上げてくれたのですよ」

「えぇ、私はその足で教皇に山へ住まわせて頂けるようお願いしたのです。周りの人間に被害を出さないことを条件にね」

マルスの言葉に頷くイーシャ。なるほど、そういう繋がりだったのか。

最初は排除しようとした軍がそれ以上手を出さなかったのは、教皇であるイーシャが許可を出したからなのだろう。

「私からもお願いしますマルスさん。どうかロイド君の力になって頂けませんでしょうか?」

両手を胸の前で握り締め、目を伏せるイーシャだが、マルスはやはり首を横に振る。

「お世話になっている教皇の頼みであれば是非とも聞いて差し上げたい所ですが……」

「何故です? ロイド君は無辜の民が犠牲にならぬよう戦っているのです。それはあなたの思想と同じなのではありませんか!?」

「……確かに私は命の奪い合いは嫌いだ。自己満足かもしれないが、無為に命を奪ったことがないのが私の最低限の矜持です。しかしこの少年は私を得る為だけに山を襲い、部下たちの命を奪った。あまりに身勝手な行為ではありませんか。そんな彼に協力しろと?」

マルスが睨みつけると、その迫力にイーシャは口籠った。

確かに、自衛の力は必要だ。それがなければ敵に襲われた時になすすべなく殺されてしまう。前世での俺のように。

「とはいえ、教皇様がそこまで仰るのであれば私としても無碍には出来ますまい。どうでしょう? ロイド様は 兵棋(ヒョウギ) をご存じですか?」

「あぁ、知っているけど……」

「それはよかった。実は私もそれなりに嗜んでいましてね。もし私を打ち倒すことが出来たならこのマルス=ビルギット、ロイド様に忠を誓うと約束いたします――というのでどうでしょう?」

そう言ってにやりと笑うマルス。どうやら相当自信があるようだ。

断っても話は進まないだろうし、ここは話に乗ってみるのも悪くないかもしれない。

俺もそれなりにはやる方だし、最悪神聖魔術で『浄化』すればいい。

「でも盤がないけど」

「必要ありません。ここを使いますので」

マルスはトントンと指で頭を叩くのだった。

「では行きますよ。……七7兵」

「三2騎」「八1魔」「二6弓」「四5王」「七4兵」「三2魔」……

うっ、くそ。こいつめちゃくちゃ強いぞ。シュナイゼルに匹敵する腕前である。

しかも盤上は頭の中――つまり駒の配置を全て覚えている必要があり、ついていくだけで精一杯だ。

その上相手にはまだまだ余裕が感じられる。

「どうしました? これで終わりですか? 八5将」

「ま、まだまだ! 四2兵」

「八4弓。……ふむ、立体的な攻防を行う兵棋を、しかも目隠しでついてくるとは……これでも国内十指に入る腕前なのですがね。しかし妙だ。基本的には相手の邪魔に終始する非常に嫌らしい打ち筋なのだが、時に非合理な判断をしてまで捨て駒を打たない。これさえなければ私も本気を出さざるを得ないのだが……何か思惑があってのこと、か?」

マルスが何やらブツブツ言っているが、こっちはそれどころではない。

目隠しだと自分と敵の持つ駒の管理まで気が回らないから、捨て駒を打つのは危険だ。

そうせぬよう、頭をフル回転させながらついていく。

どれくらい経っただろうか、馬の蹄が地面を叩く音が聞こえてきた。

「ロイド様! ご無事でしたか!?」

「シルファ! ……ちょ、少し待ってくれ」

いきなり出てこられたら頭の中がごちゃごちゃになる。

えーと確かあそこがあーなって、ここがこーなって……

「……これは、どういうことです?」

マルスが驚いたような声を上げる。

戻ってきたシルファ山賊たちをガリレアの糸で縛り連れてきていた。

「ロイド様、ご命令通り一人も殺さず制圧してまいりました」

「馬鹿な! 要塞化した山に練兵を重ねた者たち……それを殺さずに制圧しただと!?」

「あー……マジだぜ。兄貴」

黒髪の山賊らしい格好をした男がマルスに言う。

「こいつら俺たちを殺さずに捕獲しやがった。信じられねェのは俺様も同じだ。全くふざけた野郎だぜ」

「……ふ、ははっ! ふははははっ!」

男の言葉を聞いたマルスが大笑いを始めた。

いきなりどうしたのだろうか。

「いやぁ参った。なるほどなるほど、あなたの打ち筋、そういう意図だったのですね」

なんだなんだ。俺が戸惑っていると、マルスは俺に跪いてきた。

「感服いたしました。ロイド様」

「え? なんだって?」

「私の負けだと言ったのですよ。このマルス、砕骨粉身、あなた様に仕えることを誓います」

マルスの言葉に、その場の者たちはわああああああ! と歓声を上げた。

「やるわねロイド、あんたがこんなに兵棋が強かったなんて知らなかったわ」

「すごいわロイド! 全然わかんなかったけど勝ったのね!」

「状況は全くわかりませんが……流石ロイド様でございます」

いや、勝ってはいない。むしろ負ける寸前だった。

一体どんな心境の変化だろうか。

「先の一局、ロイド様は徹底して捨て駒を作らなかった。これは『決して自分は人を使い捨てる人間ではない』という私へのメッセージ。かつて帝国軍人として捨て駒戦略を多用し勝利を重ね、しかし自身も駒のように捨てられた私の過去を知ってのことでしょう。それを裏付ける為に 山賊(われら) の命を奪わず制圧を行った。……ふっ、最初から手のひらで踊らされていたというわけですか。全く以って恐ろしい方だ……」

マルスが何やらブツブツ言っているが、どうしたのだろう。

ま、ともあれ彼らの協力を得られてよかったといったところか。