軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

これが修行の成果ある

「タオたんキターーーーーー!!!!」

突如、ジリエルが奇声を上げたので口を塞ぐ。

「ふがふが……す、すみません。興奮してしまいまして……」

「ったく何を盛ってやがるクソ天使」

騒がしい二人とは裏腹に、マルスとタオは静かに睨み合っている。

「タオ=ユイファ……なるほど、その名、その衣装、あなたは異国の民ですか。悪いが女子供とて手心を加えはしませんよ。命が惜しくばそこを退きなさい」

「冗談、手加減なんかされたら修行の成果を見せられないよ。遠慮せず全力で来るよろし」

手招きをするタオにため息を返すと、マルスは腰の剣を抜いた。

「――では。こちらもこれ以上問答をしている時間はありませんし、速攻で終わらせて貰います」

マルスの言葉と共に、剣が眩い光を放ち始める。

あれは魔剣。しかもただのではない。

「『守鱗の魔剣』……か」

魔剣の中でも守りに特化したもので、魔力の込められた剣箔が分離し主を守る鱗と化すのだ。

その性能は防御に特化しており、とにかく折れない。

特に鱗部分は非常に硬く、集まって防具化することで更に硬度を増す。

「ほう、博識ですね。流石はあの第七王子、ロイド様だ」

「俺を知ってるのか?」

「えぇ、有名ですよあなた。世間の評価はそれほどでもありませんが、国の要人たちは皆、あなたに一目置いている。私も次期王座はあなただと思っていましたが……まさか自覚がなかったのですか?」

自覚も何も地味な第七王子で通っていると思っているのだが。

俺がきょとんと目を丸くしていると、グリモとジリエルが無言で俺を見つめてくる。

生暖かい視線である。なんだその目、何が言いたい。

「まぁいいでしょう。ともあれこの隊をまとめている君を捕えてしまえばこの戦いも終わる。その為にはまず――あなたを倒す」

タオと対峙するマルス、手にした守鱗の魔剣が更に輝きを増し――閃光が辺りを包んだ。

光が収まりそこにいたのは、目元以外全てを覆う全身鎧を纏ったマルスの姿。

む、全身鎧と化する程の質量を持つとは、かなりいい魔剣だな。しかもあのシリーズは――

「ふっ、気づいたようですね。そう、これは魔術を弾く魔鏡の守鱗。それを鎧として纏っているのですよ。 魔術師(キミ) の天敵たるものだ。タオとやら、援護を期待してたなら無駄でしたね」

鎧部分が消滅し、細身となった鎧の魔剣をタオへと向ける。

それにしても魔鏡の守鱗か。……一度触ってみたかったんだよな。どんな仕組みで魔術を弾くのだろう。気になるぞ。

「ロイド、ここはアタシに任せておくね」

俺がうずうずしているのに気づいたのか、タオがぴしゃりと言う。背を向けているからこちらは見えないはずなのによくわかったな。

うーん、確かに魔鏡の守鱗は気になるけど、タオの修業の成果も見たいもんな。仕方ない、ここは諦めて譲るとするか。あの魔剣は後で回収して試せばいいや。

「ふ、余裕ですね。もしや素手で私とやり合うつもりですか? 残念ながら鎧を纏った私にもはや付け入る隙はない」

「そうあるか。……なら試してみるよ!」

タオが地を蹴り、マルスへと肉薄する。

凄まじい速度だ。両脚に気を纏い、それを爆発させるように放出しているようである。

先刻の跳躍力の正体はこれか。

「はああああっ!」

高速回転しながらの回し蹴りがマルスの側頭部に炸裂する。

その勢いのまま空中で方向転換し、かかと落としを繰り出す。

そこから更に打突、掌底、からの前蹴り。

ざざざ、と土煙を上げながらマルスが吹っ飛ぶ。

「おおおっ! スゲェ連撃だぜ! あの小娘、以前とは比べものにならねぇ速さだ!」

「それに以前より遥かに気の操作技術が熟達している……流石タオたん! ハァハァ」

打撃の際、タオの背部で火花が散っているのが見える。

気を瞬間的に爆発させることで推進力を得ているから、あの速度での攻撃を可能としているのだろう。

気にはあんな使い方もあるのか。勉強になるな。

しかしタオは構えを解かない。マルスはまだ倒れていない。

「……ふむ、大した動きだ。とても反応できなかったよ」

マルスはゴキゴキと肩を鳴らしながら、ゆっくりと身体を起こす。

その声からはまるでダメージを感じさせない余裕があった。

「だがこの鎧を貫くには至らない。あなたが力尽きるで殴らせてもいいのですが、生憎こちらも時間もなくてね。斬り伏せさせてもらいますよ!」

咆哮と共に斬りかかるマルス。

繰り出される斬撃をタオは紙一重で躱していく。

見てるこっちがヒヤヒヤするようだ。避けるたび、はらりはらりとタオの髪の毛が宙を舞う。

タオの額にはじわりと汗が滲んでいた。

「あっ、あっあっ、このままではタオたんの玉のお肌が切り裂かれてしまいます! あぁもう見ていられない……!」

「あの男、相当強ぇですぜ。しかし何だってこんな奴が何故山賊なんかやってんだ?」

それは俺も疑問に思っていた。これ程の腕、知略があれば国も放っておかないだろうに。

そんなことを言ってる間にも、マルスの連撃は続く。

「やべぇぜ。更に余裕がなくなっていやがる。もはや刃と身体の隙間は数ミリにも満たない程度だ」

「ああー、も、もうダメだぁーおしまいだぁーっ!」

しかし、そうはならない。

現にマルスはかなり焦っているようで、剣は空を切り続けている。

何故当たらないのだ、と顔に書いているようだ。

「……なるほど、ギリギリだからこそ躱せているのか」

攻撃を大きく動いて回避すると、その分次の動作が遅れる。

故に達人同士の戦いでは出来るだけギリギリで回避するのが勝負を分けることもある、とシルファが言っていた。

視覚だけに頼らず、聴覚、触覚、経験……その他諸々の感覚に全神経を傾けて動く必要があるとか。

「確かにさっきから全く攻撃を受けてねぇ。あの男もだいぶ焦ってるみたいですぜ」

「……言われてみれば確かにそうです。しかしならば何故反撃しないのでしょうか?」

「気を溜めているんだ。あの鎧を打ち破れるほどの気を」

生半可な攻撃では鎧を纏ったマルスにダメージを与えられないのは実証済み。

故にタオは反撃をせず回避に専念、気を溜めているのだ。

「だがよぉ、幾ら気を溜めてもそれで守鱗の魔剣を貫くのは難しいんじゃねぇのか?」

「えぇ……守鱗の魔剣が変形した鎧は当然その刀身と同じ硬さを誇る。とてもではないが殴って破壊できるものではありません。タオたんハラハラ……」

グリモとジリエルの言う通りだ。そもそも魔剣自体が非常に丈夫で素手で折れるようなものではない。防御に特化した守鱗なら尚のこと。

だがタオが狙っているのが魔剣の核なのだとしたら話は別だ。

魔剣にはその力を制御する核が存在し、それを破壊されれば魔剣はたちまちただの剣と化す。

もちろんそれは巧みに隠されており、下手をすると所有者ですら知らないこともあるのだ。それでも今のタオなら何とかしてしまうかもしれない――

「いくあるよっ!」

裂帛の気合いと共に振り下ろされる斬撃をくるりと半回転して躱した後、タオの拳が唸る。

真っ直ぐ、迷いなく、まるで狙う個所は初めから決まっていたかのように。

凄まじい量に練り上げられた気の塊が螺旋を描きながら、マルスの胴に叩き込まれた。

「百華拳奥義――火々 気功竜掌(カカキコウリュウショウ) 」

ずん! と、衝撃音と共に空気が震える。

一瞬の静寂はぴし、と乾いた音で破られた。

鎧の胸甲部から生まれた小さなヒビは、徐々に広がり、全身隅々にまで伸びていく。

そして一本の深く、大きなヒビ割れが鎧を縦に裂いた。

「ば、かな……」

丸裸にされたマルスの身体がぐらりと揺れ、そのまま地面に倒れ伏した。