軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

山賊たちと戦います。中編

シルファが加わったことで、今まで停滞していた前線が見てわかる程に進んでいる。

うーん、流石シルファだな。頼りになる。

『ロイド様、連中の仕掛けていた罠を抜けました。この先にある川を渡れば山賊のアジトでございます』

そんなことを考えていると、シルファからシロ越しの念話が届く。

『うん、流石はシルファだ。しかし敵はまず間違いなくその川で仕掛けてくるだろう。注意した方がいい』

『理解しております。というか……』

しばし沈黙の後、シルファはやや重い口調で続ける。

『既にいますね。相当な数……恐らく全軍でしょう』

『勝負をかけてきたみたいだな。シルファ、くれぐれも気をつけて』

『有難きお言葉。では戦って参ります』

シルファからの念話が切断される。

どうやら今日の大一番が始まるようだな。

川を挟み合ってシルファ率いるイド隊、ガリレア隊とビルス率いる山賊たちが睨み合っていた。

ガリレアが川べりに立つと、木からへし折った枝を川へと放る。

すると木枝はあっという間に流され見えなくなってしまった。

「かなり流れが早いな。橋も落とされちまったしよ」

ガリレアが憎々しげに舌打ちをする。

その視線の先には焼け落ちた橋が見えた。

「ガリレアの糸を向こう岸に掛けて、渡れないかな?」

「その前に矢でやられるだろうよ」

川向こうでは山賊たちが弓矢を構えている。

「おい腰抜けども! いつまでそこで突っ立ってるつもりだよ!」

「おかえりはあちらだぜェ!? ギャハハ!」

山賊たちがヤジを飛ばすのを睨みながら、ガリレアはイドに問う。

「イド、結界を使って何とかならねぇかよ?」

「厳しいだろうね。あれだけの数……しかも結界封じまであるようだ。他にも魔術師がいればともかく、僕だけでは君たちが渡らせるまで結界は保たないだろう。全魔術師の名誉の為に言っておくが、これが普通だよ。ロイドがおかしいだけだからね」

「確かにロイド様は規格外の更に外って感じだがな……そうか難しいか」

ガリレアがため息を吐くのと同時に、川上から偵察に行っていたレンが帰ってくる。

「ダメだ。渡れそうなところはないよ。一箇所だけ、浅くなってる所はあったけど……」

「そこに敵がいるのですね?」

シルファの言葉にレンは頷く。

「窪地になってて、弓を持ってる山賊が沢山いたよ。渡っている最中に集中攻撃を受けると思う。ここよりも更に渡河しにくそう」

「連中も甘くはないということでしょうか」

「あとは川下を見に行ってたバビロンか……」

期待薄だけどな、と付け加えるガリレア。

しばらくするとバビロンが帰ってきた。

「どうでしたか?」

「あぁ、渡れそうな場所を見つけたよ。距離も短いし見張りもいないのでもしやと思ったが、流れがとんでもなく早い上に向こう岸が崖になっている。とても無理だ。参ったねこりゃ。ククク」

「うーん、そっちもダメかぁ。どうしようシルファさん。早くしないと明日までには終わらないよ」

「……」

シルファはしばし考え込んだ後、ゆっくり頷いた。

「そうですね。あまり時間はないですし、ここは少し無理も致しましょうか。ですがその前に……皆様、少しこちらへ」

「?」

全員、首を傾げながらもシルファの傍に集まる。

魔力兵を壁にして言葉を続ける。

「では、作戦を話します――」

川向こうにて、ビルス率いる山賊たちはずっと待機していた。

あまりの退屈さに気が抜け始めた時である。部下の一人が声を上げた。

「おおっ!? ようやく動き出しましたぜ!」

魔力兵たちが川を渡ろうと前進を始めたのを見て、ビルスは命令を下す。

「おいテメェら、撃ち放題だぞ。矢の練習だと思って射まくりやがれ!」

「うおおおーーーっす!」

部下たちは手にした弓を構え、魔力兵たちに矢を射始める。

出鱈目に降り注ぐ矢の雨が魔力兵たちの腕を、脚を射抜き、その動きを止めていく。

痛覚の無い魔力兵だが関節部を破壊されれば動くことは出来なくなり、そうなった魔力兵たちは川を流されていく。

「それにしても妙な兵たちだ。まるで意志などないかのようなあの動き…虫のようだぜ気味が悪い。だが力任せで突破出来る程この布陣は甘くはねェぞ。……いや、気づいてねェはずがない。何か企んでやがるのか……?」

顎に手を当て、考え込むビルス。

「大変だぜお頭! 向こうからも攻めてきやがった!」

「ほォ、同時攻撃ってわけか」

二箇所同時であれば、確かにある程度攻撃は散漫になる。

しかしそれは自分たちを甘く見過ぎだとビルスは考える。

この山賊団の強みは弓の多さとその熟練度にある。

木々の隙間を縫うように敵を屠ってきた山賊たちの弓は、川という圧倒的な壁を手にし魔力兵たちを一方的に倒していく。

「怯まな! どんどん進め!」

指示しているのは魔術師の少年、イドだった。

ビルスの確認している唯一の魔術師、あの少年しか『飛翔』を使えない。

仮に他にいたとしても、魔術師一人程度なら返り討ちにするのみだ。

「攻め手を緩めるんじゃないよ! ガンガン行きな!」

ビルスがもう片方に目をやると、タリアが魔力兵をけしかけている。

時折小さな針で自分の指を刺すたびに、矢があらぬ方へと飛んでいく。

ダメージをリンクさせるタリアの能力で、自傷のたびに敵兵の手を狂わせているのだ。

加えてイドの魔術による補佐。それでも向こう岸には多くの弓兵が配置されており、魔力兵も殆ど進めていない。

「あちらは陽動か……しかしこれだけで攻め落とせると本気で思ってやがるのか?」

ともあれ全力で撃退するのみだ。

ビルスの指示の下、部下たちは矢を射続ける。

いつまでも続くかと思われた射撃に部下たちの集中力は切れ始めていた。

それを正す為ビルスが声を荒らげようとした、その時である。

「たたた、大変だお頭ァ!」

部下の一人が慌てた様子で本陣に飛び込んできた。

「うるせェなボケ。一体何事だ?」

「敵が……敵が川を渡って来やがった!」

「!」

ビルスの目が大きく見開かれる。

「川下か……! しかしあそこは泳いで渡れるようなもんじゃねェ。魔術師のガキもこっちにいるぜ」

「それが連中……妙な技を……」

それだけ言って、部下の男は気を失う。

周りにいた者たちも苦悶の表情を浮かべ地面に膝をついていく。

「お、お頭……身体が、動かねェ……!」

「助け……お頭ァ……!」

周りにいた部下たちがバタバタと倒れていくのを見て、ビルスは舌打ちをする。

泡を吹きながら白目を剥く部下たち。

僅かに風下、何らかの毒を撒いているのは明らかだった。

「テメェら、毒だ! すぐに口元を濡れた布で覆え!」

ビルスはすぐに口元を覆い隠すと、部下たちにも同様の指示を出す。

部下たちが慌てて口元を覆おうとしたが、その前に――

「『動くな!』」

空気を震わせるような声が辺りに響く。

その場にいた全員の動きが、僅かに止まった。

と、ほぼ同時にビルスは暗闇を走る無数の白い糸に気づく。

糸は部下たちの身体に纏わり付くと、瞬く間に手足を縛り上げていた。

なんとか躱したビルスの背後に、白い影が舞う。

シルファだ。手にした剣の腹部分が月光を反射し闇夜に閃く。

「くそがァ!」

応対すべく腰の剣を抜こうとしたビルスだが……その手はあるはずの剣の柄を握れず空を切る。

剣を探すビルスは、馬の腹に隠れている男を見つけた。

その両手足は人体とは思えない関節の曲がり方をしており、男の手にはビルスの剣が握られている。

その隙を白い影シルファが見逃すはずもなく、ビルスを馬上から蹴り落とした。

「チィ!」

即座に身体を起こそうとするビルスだが、それは叶わない。

首筋には切っ先が突き付けられており、薄皮一枚のところで止まっていた。

「命まで奪うつもりはありません。無駄な抵抗はおやめなさい」

「……」

しばし沈黙の後、ビルスはため息を吐き両手を上げた。

「……参った。公算だぜ。俺様の負けだ」

「ご理解いただけて幸いです」

ビルスから剣を離すシルファ。

しかしいつでも斬撃を繰り出せるよう、シルファは剣の柄に指をかけている。ビルスもそれは理解しており、それ以上動こうとはしない。

「川向こうの奴らで俺たちを引きつけて、俺たちの目を引き付けたってわけかい。やられたぜ。しかしあの急流をどうやって渡った?」

「我が主への忠誠があれば、あの程度の急流、どうということはありません」

シルファは目を閉じ、そう答える。

実際はガリレアの糸を紡いで向こう岸へと渡し、身体能力に優れた元暗殺者ギルドを率いて少数での渡河を敢行した。

レンの毒があれば敵の大多数を無効化とはいえ、危険な賭けではあったが何とか上手くいった、とシルファは胸を撫で下ろしていた。

「ともあれ、我々の勝ちです。全員の武装を解除し、我が主への元へ来て頂います。構いませんね」

有無を言わせぬ低い声に、追いついていたレンは震えた。

シルファがきつめの『お仕置き』をする時の声だった。

だがビルスは可笑しそうにクックッと笑う。

「悪いが、そいつは出来ねェな」

「……ほう、死にたいと?」

「ってより無理なんだ。俺が指揮してるこいつらだけなら、もう武装は解除してるけどな」

ビルスの言葉を聞いたシルファは、何かに気づいたように目を見開く。

「まさか……」

「あー、俺がこの山の全てを仕切ってるわけじゃねー。夜王はもう一人いるのさ。……夜王マルス、俺の兄貴分だ。そしてそいつは今、あんたの主の喉元にいるだろうぜ」

そう言ってビルスは、ニヤリと笑った。