軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

自分だけの部隊を作ろう

連れられて来たのは、アルベルト私兵隊の兵舎だった。

普段は数十人の兵たちしかいないが、今は三百人ほどに増えている。

恐らく他の任務に就いている者たちも集めたのだろうな。

「おお、壮観だ。これだけの人数がアルベルト兄さんの下で戦うんですね」

「まさか、いくら魔剣を持っているとはいえ、これだけの兵じゃ大した働きは出来ないよ。だが僕の見立てでは、最終的には二万くらいまで増える予定だ」

「そんなに!? あ、そうか。民たちから募るんですね」

戦争や溢れた魔物の討伐に、志願した農民、平民たちが部隊に加わることは多々ある。

命をかけているだけあってかなりの給金が払われるので、とても美味しいのだ。

俺も前世では何度か参加したことがあるからな。

だがアルベルトは首を横に振った。

「それも悪くはないが、やはり寄せ集めの兵では士気が低いし、質が著しく落ちるのでね。魔物相手では荷が重かろう。今回は別の手でいく。……まぁ見ているといい」

「はぁ……」

アルベルトはパチンとウインクをすると、兵たちの前に立った。

「皆の者、よく集まってくれた。嬉しく思う」

アルベルトの言葉に兵たちは不安そうな顔を見せている。

彼らはそれなりに戦い慣れしているが、これほどの規模の戦いは初めてだからだろう。

俺も前世で初めて戦争行った時はかなり不安だったものだ。

……結局物欲が勝って、それ以降も研究費欲しさにちょくちょく参加していたけど。

アルベルトはそんな兵たちを見渡すと苦笑を浮かべた。

「おいおい、そんな不安そうな顔をするんじゃない。これはチャンスなんだよ?」

アルベルトは一息吐いた後、言葉を続ける。

「君たちは家督の継げない貴族の三男、四男たちばかりだ。食うに困ったのを僕が引き受けた。しかし僕もただ可哀想だからというだけでそうしたわけではない。君たちは生まれながらに全てを手にしていた長男や、そのおこぼれを貰えた次男とは違う。自らの手で生きる術を身につけなければならなかった者たちだ。精神的な強さがある! 今回の大暴走は今までになかった国難だ。手柄を得た者には望みのものが与えられるであろう! それこそ君たちの実家の兄たちが得た物とは比べ物にならない報酬がね」

兵たちは気づけば顔を上げていた。

暗かった顔は明るくなり、目にも光を取り戻している。

アルベルトはもう一度兵たちを見渡した後、満足げに頷いた。

「うん、いい返事だ。そうとも、君たちにはシュナイゼル兄上の隊ですら満足に配備されてない魔剣がある。それにこんな事もあろうかと街の各所を回らせて、君たちの顔を広げておいた。声をかければ優秀な人材や金が集まってくるだろう。さぁ皆、あとは手柄を立てるだけだ!」

わあああああああ! と歓声が上がる。

先刻までの不安そうな顔はどこへやら、兵たちの士気は最高潮になっていた。

「へぇ、劣等感を焚きつけ、その後に褒美を見せるってか。中々上手いですな」

「えぇ、常に燻っていた者たちだ。武器もあり、見返せる材料があるとなれば、彼らもやる気を出すでしょう」

グリモとジリエルがアルベルトの手際に感心している。

アルベルトはこういうところ上手いんだよな。兵たちはすっかりやる気だ。

「うむ、それでは士気も十分に上がったところで僕の副官たちを紹介しよう。まずは皆も知っているだろう。第七王子であるロイド=ディ=サルームだ!」

……パチパチパチ、とまばらに拍手が送られ、俺は手を振って答えた。

さっきまでの盛り上がりが嘘のような盛り下がりっぷりである。

まぁ俺はまだ子供だからな。手柄も他の人に取らせて目立たないようにしていたから、兵たちもさぞ不安になるだろう。

「どいつもこいつもわかってねぇぜ。ロイド様に付いていきゃあ、それだけで大手柄間違いなしなのによぉ」

「えぇ、愚かな人間たちですね。我が主であるロイド様の力もわからぬとは」

グリモとジリエルがブツブツ言ってるが、誰だって子供の下でなんか働きたくはないだろう。

アルベルトもその辺りわかっているのか、苦笑している。なら何故俺に副官をやらせるのだろうか。

「……えー、そしてもう一人、サイアス、前に出てきてくれ」

「ハッ」

兵たちの先頭にいた男が、アルベルトの前に進み出る。

金色の長い髪、そして鋭い目つきの男だった。

サイアスがアルベルトの横に立ち一礼すると、大きな拍手が巻き起こる。

俺の時とは打って変わり、すごい盛り上がりだ。

「すごい人気だなぁ」

「サイアス=ロー=レビナント。サルームでも十指に入る大貴族、レビナント家の三男です。国立魔術学園を主席で卒業、更に軍学校へ進んで戦術を学んだ優秀な人物で兵たちの信頼も厚く、魔術師としてはアルベルト様に次ぐ実力を持つと言われておりますが……まぁロイド様の入っていない実力議論になんの意味がありませんね」

傍にいたシルファが、憤慨した様子で言う。

へー、魔術学園っていうと俺が前世で通っていた学校じゃないか。懐かしいな。

サイアスの年齢は三十前後ってところか。

前世の俺が生きていれば、あのくらいだろうか。

もしかしたら同期だったかもしれないな。とはいえ学園は家族ばかりで、庶民だった俺は友人なんかいなかったから知り合いとかではないだろうが。

感慨に耽っていると、サイアスが俺を見ているのに気づく。

「やぁ君がロイド君だね。噂は聞いているよ。僅か十歳にして、アルベルト様の懐刀と言われるほどの魔術師だとか」

「いやー、ははは……買いかぶりだと思いますけど……」

いつそんな噂が流れたのだろうか。

地味にやってるつもりなのだが。

「ともあれ、共に副官として国難を退ける為に力を合わせようじゃないか」

サイアスが握手を求めてきたので、それに応じる。

と、サイアスが右手に魔力を込めてきた。

おっ、懐かしいな。これは魔力合わせだ。

出来るだけ早く、正確に互いの魔力を等量にするという手遊びである。

なるほど、これで親睦を深めようというわけだな。……よっ。

俺が即座に魔力量を合わせると、サイアスは少し驚いた顔をした。

すぐに調整し直し、俺もまた即座に合わせる。

よっ、ほっ、たっ。……うーん、なんで低い量ばかりに設定するのだろうか。魔力量が低すぎてやりにくいぞ。

何度か繰り返したところで、ようやくサイアスは手を離した。

やれやれ、ようやく終わりか。ともあれこれで大分親睦も深まっただろう。

そう思って俺が笑いかけると、サイアスは何やら難しい顔をしている。

「……どうしたサイアス?」

「はっ、あぁいえ! 申し訳ありまそん。呆けておりました。すまないロイド君、許してくれたまえ」

サイアスはすぐに笑顔になると、俺から手を離した。

一体どうしたのだろうか。

「……少し試してやろうかと思ったが、驚いたな。子供と侮っていたが、どれほどの魔力を持つかと試してみたが、私と同程度近いとは思わなかった。流石はアルベルト様の懐刀と言ったところか。しかし私もまだまだ本気ではなかったし、どれだけ魔力を持っていようと所詮は子供。戦争ではより多くの要素が勝敗を分けるということを教えてあげよう。ふふふ」

サイアスが何やらブツブツ言っているが、恐らく副官としてのプレッシャーを感じているのだろう。

これだけの兵を預かるんだ。俺の采配一つで実際に人が死ぬ。そう考えると俺まで少し緊張してきた。

「副官である二人には彼らを率いて兵を集めて欲しい。出来れば五千は集めてくれると助かる。僕に期待に応えてくれよ。……では解散!」

アルベルトの命令で兵たちは解散する。

それを見送りながら、俺は色々と考えていた。

五千もの兵を集めるのか……彼らはアルベルトの言った通り人脈を駆使して傭兵を雇い入れるのだろうが、それでも人の命を預かるのには変わりない。

うーん、俺自身が好き放題するのはいいが、人を巻き込むのはあまり趣味じゃないんだよな。

兵が死ぬと隊長はその家族に謝りに行くとか言ってたし、出来るだけ責任を取らずに済む何かいいアイデアは……

「――そうだ、アレを使えば……!」

大量の兵を集め、しかも殺さずに、大人数での戦いも楽しめる。

そうと決まれば早速準備に取り掛かるとするか。