軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

錬金術師の行末は

「おー、すごい建物だなぁ」

サルーム王国敷地内にある大広場、かつてそこにあったゼロフのラボは改築され、以前とは比べものにならないほど大きく立派になっていた。

見上げる程の高さとなった白塗りの建物は城と比べても遜色ないほどで、中には様々な実験器具に加えてゴーレムもすっぽり入れられる地下格納庫もある。

もちろん研究の為に潤沢な資金も回されているという大盤振る舞いだ。

「ゼロフ兄君の新たなラボですね。ゴーレム大会で優勝した実績が認められたんでしたか」

「うん、父上もかなり評価しているらしいよ」

以前はゼロフの研究にもそこまで資金を回されておらず、大規模な研究ができないといつもぼやいていたそうだが、今回の功績で設備と資金を色々とやりやすくなったらしい。

ディガーディアの時は建造資金はほぼアルベルトの資産から出ており、足が出た部分は俺やディアンが手伝ってようやく完成した程だからな。

「とてもよろこんでおられましたね」

「おっと、噂をすれば兄貴殿の登場ですぜ」

ラボからのしのしと出てくるゼロフ。

その姿は以前とすっかり様変わりしており、痩せこけた顔はふっくらと、目の下のクマもなくなりとても健康的になっていた。

こちらに歩いてくるゼロフに声をかける。

「こんにちはゼロフ兄さん。立派なラボが建ちましたね」

「あぁ、お前のおかげだよ。ありがとうロイド」

「いえいえ、皆が頑張ったからですよ。俺の力なんてちっぽけなものです」

「吾輩はそうは思わんが……ふむ、お前がそう言うならそういう事にしておくか」

ゼロフはどこか嬉しそうに口元に笑みを浮かべている。

……どうも依然と印象が違うな。やはり体形のせいだろうか。

「それにしてもゼロフ兄さん。随分こう、恰幅がよくなりましたね?」

「む、まぁな……仕方があるまい。あいつらが際限なく食事に誘ってくるのだからな」

ゼロフが視線をやった先、ラボの横で数人の男女が立食パーティをしている。

彼らは大会にいた錬金術師ばかりで、その中の一人、ひときわ目立つ格好をした男――ルゴールがウインクをしてきた。

タルタロスにゴーレムを破壊された彼らは、その修繕の為にこのサラーム王国に押しかけてきたのである。

場所は近いし設備はあるし……というのもあるが、本音はゼロフと話がしたかったのだろうな。

何せ大会優勝者なのだ。聞きたいことは山ほどあるだろう。毎日のようにパーティを開き、ゼロフから色々な話を聞きだしていた。

それだけでは飽き足らず、何故か俺まで色々聞かれたものである。

もちろん一方的なものではなく、他国のゴーレムについても教えてもらっていた。

そんな毎日を送った結果、ゼロフもこのように丸々太ってしまったというわけだ。

「いよーぅゼロフ、こっち来てウチのソーセージ食ってみないか? 美味いぞー!」

「すぐ行くよ。……全く仕方ない奴らさ。ではなロイド。また後で」

「はい」

仕方ないなどと言いつつも、ゼロフの表情は以前と異なりとても柔らかくなっていた。

「しかし変わりやしたねぇ、あの根暗の兄殿があんな明るい顔を見せるとはよ」

「えぇ、以前はあぁいった輪には、けして入ろうとしませんでしたのに」

二人の言う通り、人嫌いだったゼロフだが今では新たな友人たちと楽しげに談笑している。

あの大会で最初は声援にも応えられなかったゼロフだが、試合が進むにつれ少しは応じられるようになり、タルタロスが襲ってきた際は街の人を守る為に戦いに赴く程だった。

元々人との絡み方に慣れていなかっただけらしいし、それさえ治れば趣味嗜好の合う相手と仲良くもなるのも問題はないといったところか。

「おい見ろよ天使。兄貴殿、女に話しかけられてよぉ。ひひひ、嬉しそうにしてるぜ」

「趣味が悪いぞ魔人。……だが確かに、いい顔をしていますね」

下卑た笑いを浮かべるグリモをジリエルが嗜める。

ともあれゼロフが他国の錬金術師たちと仲良くなって情報交換が進めば、今度はもっとすごいゴーレムが造れるかもしれない。是非期待したいところだな。うんうん。

「変わったと言えばよぅロイド様、あの坊主はどんな感じですかい?」

「相変わらず、元気に働いているよ」

あの後、イドは自分の未熟さを知り、初心に返ってもう一度やり直したいと言ってきた。

ならばとばかりに俺はイドをロードストへ連れていき、ギタンら生体研究チームに協力させているのだ。

生体ゴーレムを作った知識をもってすれば、彼らの身体を元に戻すのも可能かもしれないからな。

真面目な性格しているからな。ギタンたちとは結構話が合うようだ。

「確かに、あの後すぐに大量の建築型ゴーレムを派遣して、破壊した街も数日で元通りにしやがりましたからねぇ」

「恐らく戦闘前には準備していたのでしょう。あれだけ暴れつつも後のことを考えていたとは恐れ入る」

そのうえ驚いたことに件の騒ぎでの死者はゼロ。

怪我したのは逃げようとして転んだり、我先にと押し合って倒れたりした者たちばかりだった。

「相当念入りに準備していたようですね。ロイド様と相対するならその程度当然でしょうが」

「へへ、だがいい子ちゃん過ぎますな。どっかで殻を破らねぇと、そのままじゃあロイド様には一生勝てないでしょうぜ」

「――かもね」

不意に、俺の背後で声がした。

振り向くとそこにいたのは白衣を纏い丸メガネをかけた少年――イド。

「げぇっ!? い、イド!?」

「ロードストにあるはず……にも関わらず何故ここに!?というか今のは空間転移、ですか……?」

驚く二人を見て、イドは可笑しそうに笑う。

「ロイドに教えてもらったんですよ。今更独力でロイドを越えるのは難しい。ならばもう素直に聞いたほうが早いと思ってね」

それを聞いたグリモとジリエルが信じられないといった顔をする。

「なんと……よろしいんですかいロイド様?先日まで反目していた奴ですぜ?」

「空間転移はロイド様の魔術の中でも虎の子の一つ、言うまでもなく悪用し放題です。そんなものを易々と教えてよいのでしょうか?」

「あぁ、特に問題はないよ」

自分とパスの繋がっている場所にしか行けないし、イドが執着しているのは俺だけだろうからな。

真面目な奴だし悪用もしないだろう。

それに万が一何かが起こった場合には、俺が防げばいいだけである。

……というのは建前で、空間転移を教えておけば俺が必要なものをいつでもイドに持って来させることが出来るからだ。

わざわざ俺から赴く必要もないし、研究に専念できるというものである。

「くはっ!問題ねーと来たか。いつ何処で襲われようと『問題ない』かよ。大した自信だぜ全くよ」

「空間転移を教えたのはイドへの警告でもあるのでしょうね。自分以外に手を出すな、という事でしょう」

二人が何やらブツブツ言っている。

それを見てイドはくすくすと微笑を浮かべた。

「もちろん、それらの思惑は僕も理解しています。ですがそんなちっぽけな拘りよりも、自身の成長の方が重要だ。利用出来るものは利用させてもらいますよ。……ロイド、まだまだ僕と君の力の差は天と地ほどあるだろう。だがいつか必ず君と並び立ってみせる。その時は……いや、何でもないよ。それじゃあね」

イドは言いかけた言葉を噤んで俺に背を向けると、ゼロフたちの元へ行き、錬金術についての話を始めた。

すっかり溶け込んで楽しそうにしている。

「……あいつ、少し変わりやしたね」

「えぇ、ロイド様のみならず兄君からも技術を取り入れようとしているようです。利用出来るものは何でも利用する、というのは本気のようですね。次に挑んでくる時は相応の力をつけているでしょう」

「あれだけロイド様に食い下がりやがったんだ。次はロイド様でも危ないかもしれやせんぜ」

二人がゴクリと息を飲む。

確かに二人の言う通り。

あれだけのゴーレムを造ったイドが更なる研鑽を積めば、次は俺でも勝てるかどうかはわからない。

負ける、という可能性も十分にあるだろう。

だからこそ、楽しみだ。

次はどんなことをしてくるのだろう?

錬金術のみに頼らず魔術は当然応用してくるとして、空間転移も組み込んできて欲しいところだ。

俺や他の者たちから得た知識を総動員し、とんでもないことをしてくるに違いない。

だとしたら教え甲斐もあるってものだ。

まったくもって今から楽しみで仕方ない。

「笑ってやがる、か……へっ、心配するだけ無駄だった。何でもこいって顔してやがるぜ」

「ロイド様にとっては強敵の登場はむしろ望むべきところなのでしょうね。我々とは器が違いすぎる。流石はロイド様です」

二人が何やらブツブツ言っているのを聞きながら、俺はその場を後にするのだった。