軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

謎の少年が現れました

「おーい! ちょっと待つあるよーっ!」

歩いているとタオがこちらに駆けてきた。

「ふぅ、やっと追いついたね」

「どうかしたの? タオ」

「薬も売り終わったし、一緒に見て回ろうかと思ってね。ここには何度も来てるから道案内には自信あるよ」

ぱちんとウインクをするタオ。

そういう事なら断る理由はないだろう。

「わかったよ。一緒に見て回ろう」

「やたっ! ありがとね!」

嬉しそうにぴょんと跳び上がるタオ。

「さ、端からぐるっと回っていくよ。今の時間はこっちが空いてるね。ほらほら早く!」

道案内を買って出たタオに付き従い、俺たちは人混みの中を見て回る。

飲み食いする場所以外にも、無限に水の湧き出るという触れ込みの石や、触るだけで運気が上がるといった怪しいものもちらほら見られた。

「なんつーか、インチキくさいモンもかなりありやすなぁ。発展途上って感じでガチャガチャしてるぜ」

「うん、俺はそういうの嫌いじゃないけどね」

試行錯誤こそが進化の道のりだ。

本には到底載せられないような怪しい実験も多数あり、試行錯誤が見て取れる。

これはこれで面白いものだな。

「完成品ばかりを求めていては視野が狭まり本質を見落とす……流石ロイド様、わかっておられる」

「ケッ、おべっか使いやがってよぉ。……おっロイド様、上を見てくだせぇ。何か飛んでやすぜ」

グリモに言われて見上げると、小型の飛行物体が見える。

「むむ、なんだか変わった鳥ですなぁ」

「あれは鳥じゃない。ゴーレムだ」

高速で回転するプロペラを回し、その揚力で飛行するゴーレムが編隊を組んで飛んでいる。

一体何だろうと考えていると、ゴーレムの腹がぱかっと開いてそこから何かが落ちてきた。

「何が落ちてくるよ」

「あれは……種、でしょうか」

「皆、よく見てるといいよ」

タオの声と同時に空中にばらまかれた種から芽が生えた。

それは瞬く間に蕾となり、大輪の花を咲かせると、空を覆うようにゆっくりと落ちてくる。

「わぁー! すごくきれい!」

「なんと……ばらまかれた種があっという間に花開くとは……何とも興味深いものですね」

「あれは花吹雪ね。練金大祭の目玉の一つよ。んー、とても綺麗ある」

レンたちが空に舞う花に見惚れている。

恐らく十分に肥料を吸わせた種子に成長薬を与え、花開く寸前でばらまいたんだろう。

上手くタイミングが取れず、種のまま落ちてきて地面で花咲くものもある。

それでもほとんどは空中で咲いている。あのタイミングを見計らうのはかなりの経験が必要なはずだ。

「いやぁ、職人芸だなぁ……ん」

感心していると、俺はふと物陰からの視線を感じた。

この大衆の中、明らかに俺のみに向けられた視線。

振り返るとそこには小さな人影があった。

――子供だ。背丈は俺と同じくらいだろうか。

フードの下には仮面を被り、口元には薄い笑みを浮かべている。

「なんだ……?」

俺が少年に目を向けた瞬間である。

魔力の波が辺りを包み、視界が白に包まれる。

これは空間系統魔術『虚天蓋』、通常とは違う異空間に対象を閉じ込める魔術だ。

物理衝撃では決して破れず、こちらとは別次元であるため魔術による解除も容易ではない。

「くそが! 閉じ込められやしたぜ!」

「この結界、何という硬度……身動きが取れません……!」

二人が解除を試みるが、結界はびくともしていない。

難度の高い空間系統魔術、それをこれ程の出力で発現させるとは……この少年、かなりの使い手である。

俺が感心していると、少年はゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

「――久しぶりですね。ロイド」

俺の名前を知っている、だと?

ここ最近までずっと城の中にいた俺に、城外の知り合いは少ない。

そのうえここは 自国(サルーム) でもないし、会ったことがあるならばこれほどの魔術師を覚えていないはずがない。

にもかかわらず全く心当たりがないとは……一体何者だろうか。

「君は何者だ?」

「……はぁ、もしやと思いましたが、やはり憶えてませんか」

俺の問いに少年は残念そうにため息を返す。

口ぶりから言って昔に会った相手のようだが、ますますもって記憶にない。

「まぁロイドは興味のない事はすぐに忘れる人ですからね。憶えてないかも、とは思っていましたよ」

くすくすと笑う少年の言葉に、俺は確かにと頷く。

「こいつ、ロイド様のことを随分よくわかってるじゃねぇっすか」

「うむ、いわゆる復讐というやつではないでしょうか? ロイド様が幼き頃、無自覚に倒してしまったのでは?」

復讐ねぇ。だがそんなことをされる憶えもないんだがなぁ。

俺が小さい頃は魔術の研究ばかりで外に出ることはほとんどなかったし、人に向けて魔術を使う機会なんかほとんどなかったはずである。

首を傾げる俺を見て、少年はただ笑みを浮かべるのみだ。

「まぁいいですよ。そのうち思い出していただければ。 今日の所はただ挨拶に来ただけですからね」

「おいおい、人をこんな所へ閉じ込めておいてただで済むと思ってんのかぁ!? 許せねぇよなぁ? ねっ、ロイド様?」

突然、グリモが俺の手から抜け出して本来の黒羊の姿となり、少年に絡み始めた。

「喧嘩を売ってきたからには、それなりの落とし前をつけてもらわなきゃ困るってもんだぜ。……ねっ、ロイド様?」

グリモにやたら念押しされるが、俺としては別に構わないんだけどな。

どうでといいが凄んだ後、いちいち俺に伺いを立ててると小物感が半端ないぞ。

「ロイド様さえよけりゃあよ、自分がこの坊主にちと痛い目を見せてやりやすぜ? へへへ」

どうやらこの少年相手に戦いたかったようだ。

ふむ、俺としてもこの少年の力は気になるしな。

向こうが仕掛けてきた喧嘩だ。

グリモが望むなら戦わせてもいいかもしれない。

「好きにするといいよ」

「へいっ! ありがとうございやす! ……くくく、覚悟はいいか? クソガキ、この俺様が直々にぶっ飛ばしてやるぜ!」

バキバキと拳を鳴らしながら少年を見下ろすグリモ。

だが少年は恐れる風でもなく、ただ呆れたようにため息を吐く。

「……これは驚いた。魔人をその身に宿しているのですか。何をされるかわかったものでもないというのに……全くあなたという人は、自身の身体にすら頓着が薄いようですね」

「何をごちゃごちゃ言ってやがる! こっちを見やがれ! テメェは今からボコボコにされるんだぜッ!」

グリモは両手を交差させ、漆黒の魔力を集めていく。

大量の魔力がはち切れんばかりに凝縮され、少年目掛け放たれる。

「喰らいやがれ! 黒閃螺旋砲っ!」

黒き魔力の閃光は、螺旋を描きながら少年へ直撃した。

どおおおおおん! と爆音を響かせ衝撃波がここまで届く。

「はっはー! どうだクソガキ参ったかよ!? さっさとこの結界を解除しやがれってんだ」

勝ち誇るグリモだが、結界はぴくりとも揺らがない。

もうもうと上がる黒煙を払って出てきた少年は、全くの無傷だった。

「ふぅ、びっくりした。いきなり攻撃してくるんだもの」

顔色一つ変えない少年を見て、グリモは顔を歪める。

「ば、ばかな……俺様の黒閃螺旋砲を喰らって無傷だと……? くそっ、無意識のうちに加減でもしたっつーのか!? なら今度こそ全力で……!」

再度、グリモは魔力波を放つが、それは少年の遥か手前で爆発してしまった。

「魔力障壁……! しかもかなり分厚い! ちぃっ! おいクソ天使、手伝いやがれ!」

「ふむ、仕方がありません。愚かな魔人のことなど全く以ってどうでも良いですが、ロイド様に仇なす者を放ってはおけませんからね」

そう言って今度はジリエルが俺の手から抜け出て翼を広げる。

「グダグダ言ってねぇで同時にやるぞ! 合わせやがれクソ天使!」

「私に指図をするのはやめろ。合わせたいなら貴様が合わせなさいバカ魔人!」

「じゃあ好きにしやがれ!」

「そうさせて貰いましょうか!」

言い争いながらグリモとジリエルが二人同時に魔力波を放つ。

黒と白、二色の魔力波が螺旋を描き少年へと向かっていく。

なんやなんやと言いながら息ぴったりの一撃。

だが少年は眉一つ動かさず、魔力障壁にて軽々と防いでしまった。

「ば、バカな……今のは間違いなく俺様の全力だぞ!?」

「私の全魔力を乗せた一撃をものともしないとは……ありえません!」

驚愕の顔を浮かべるグリモとジリエルだが、少年は困惑しているようだ。

「……困ったな。戦いに来たわけじゃないんだけど……」

「てやんでぇ! だったら何しにきやがったんだ!?」

グリモの問いに、少年は微笑を返す。

「さっきから言ってるじゃないですか。ロイド、僕はあなたを見に来ただけですよ」

仮面の下のその視線は、まっすぐ俺を見据えていた。

「俺を見にきた、か。だったは正面から話しかければいいんじゃないか? いきなり結界に閉じ込めるとは随分不躾だと思うけど」

「お供の者たちに邪魔されたくなかったですから。それにさっきみたいにいきなり攻撃されて、街に被害を出されても困りますからね。それにあなたがその気になれば、こんな結界いつでも破壊できるのでは?」

まぁ、実際その通りだけどな。

ただ俺も興味があったので、こうして言葉を交わしていたのである。

……もしかしてこいつの目的は俺に自身を知らしめること、か?

俺の考えを肯定するように、少年は口元に指を当て、くすりと笑う。

「どうやら僕の目的も達したようですし。ここらでお暇させてもらいましょう」

「待て、お前の名を聞いてないぞ」

俺の言葉に足を止め、少年は振り向く。

「――イド。今はそう名乗っています。では」

イドと名乗った少年が腕を振るうと、白い世界が崩壊していく。

気づけば俺は雑踏の中、シルファたちの傍らに降り立っていた。

「ロイド様っ!? 一体どこにおられたのですかっ!?」

「心配したあるよ!」

「あぁ、ごめんごめん」

うわの空で返事をしながら、俺はイドの気配を探るが近くには見当たらない。

あの一瞬で姿を消したか。

しかも魔力の痕跡を一筋も残さず、ね。

中々手練れのようだな。……なんだかわからないけど、面白くなってきたじゃないか。