軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

祭りを見て回ります

「まずは喉を潤そう。あそこに入ってみるか」

最初に入ったのはパラソルを立てただけのカフェだ。

立て看板にはケミカルカフェと書かれており、そこで飲み物をいくつか注文する。

「お待たせしました。アルケミックドリンクΩ、γ、Θ、お一つずつお持ちしました」

「ありがとうございます」

シルファが店員に礼を言い、早速ドリンクを俺たちの前に並べる。

アルケミックドリンクとやらは青、黒、緑と鮮やかな色をしていた。

「こちらの錠剤を入れれば味と色が変化いたします。ぜひお試し下さい」

店員はドリンクと共に小指ほどの錠剤を置く。

レンがそれを手に取り、意識を集中させていく。

「……果実を乾燥させ粉末にしたもの、かな? 食べても害のないものだと思うよ」

レンは自身の能力で俺の口に入る物を分析してくれているのだ。

毒味ならぬ毒見といったところか。と言っても毒が入っていたことなど一度もないけど。

「じゃあ早速試してみよう」

俺はそれを一摘みして、ドリンクの中に入れてみた。

するとシュワー、と音を立ててドリンクの色が青から黄色に変わっていく。

「何ともすごい色ですね」

「ごくごく……ぷはっ、これはバナナ味だな」

濃厚な甘みが口一杯に広がっていく。

「こちらはキウイの風味が致しますね」

「こっちはぶどう味だよ。錠剤を一粒入れただけなのに不思議だねぇ」

不思議がっていると、店員が嬉しそうに笑う。

「ふふっ面白いでしょう? 錬金術は難解な学問と思われがちなのですが、こんなことも出来るんですよ。敷居が高いと思われがちですが、普通の人たちにも受け入れて貰いたいという思いから開かれているのが、このアルケミフェスなんです。他にも色々な催しがありますから、是非見て回ってくださいね」

「はい! ありがとうございました!」

レンがペコリと頭を下げる。

なるほど、こうした祭りを開いて興味を持って貰えれば、錬金術師を志す者も出てくるだろう。

裾野が広がればより高みを目指す者も増え、盛り上がるというものである。

カフェを出て歩いていると、今度は禿頭の男が呼び込みをしていた。

「らっしゃいらっしゃい! 世にも奇妙なお湯を注ぐだけで出来る料理だよーっ! おっとそこの利発そうな坊ちゃん、腹が減ってるんじゃないかい? 美人のお姉さんもどう?」

「そういえば少し腹が減ったかも」

「じゃあ決まりだ! そこに座って待っててくんな!」

「……なんだか強引な人だね」

レンが呆れた顔で呟く。

まぁ腹も減ってたし、湯を注ぐだけで出来る料理というのも気にはなる。

促されるままテーブルに付くと、男は乾燥した四角い塊が入った器を持ってきた。

「はいよ、お待ちどう! こいつはインスタントヌードルって言ってな、麺を特殊な製法で乾燥させたものだ。湯を注いで三分待てば完成するってなもんよ。まぁ見てなよ?」

男が湯を注ぐと、いい匂いが漂い始めた。

中の塊がほぐれていき、麺の形に戻っていく。

「おおー、すごいねロイド! 面白ーい!」

「うん、味はどうだろう」

早速ずずっとすすってみる……が、まずい。

シルファもレンも眉をひそめている。

「……あんまり美味しいものじゃないね」

「食べられないことはありませんが……」

味がしなちし、無駄にボリュームがある。

三日も立たずに飽きてしまいそうだな。

「だが保存食としては使い道がありそうだ」

俺の言葉に男は目を輝かせる。

「おっ、坊ちゃん中々目が高いねぇ。実はこれは保存食を想定してるのさ。スポンサーがつかねぇかなって思ってよ。アルケミフェスは新しい商品の開発発表会でもあるのさ」

言われてみれば、いかにもといった格好をした者たちが出店を熱心に物色している。

誰でも使える錬金術ならではといったところか。侮れないな。

感心しながらもその店を後にする。

「味の変わるタブレットにインスタントヌードルですか。場所も取らず、長期間の保存に耐える。上手く使えば兵站に革命を起こせそうですね」

「あー、確かに! さっきのがあれば食べ物で困る事はなさそうだもんねぇ。味を変化させたりできるから飽きにくそう」

「それに、研究で引き篭もっているのにも使えそうだな」

研究に夢中になってる時は食事に時間をかまけている暇などないし、サッと作れて腹を満たせられるのは楽でいい。

「ロイドが何考えてるか、何となくわかる気がする……」

「ロイド様、このような食事はあくまで非常的なもの。見たところ栄養分が豊富とは思えません。常食されれば身体に毒でございますよ」

「わ、わかってるよ」

何故俺の考えがわかったのだろうか。恐ろしい。

ともあれ、色々な用途に使えそうなものがあって見てて飽きないな。さてお次は……ん?

「いらしゃい! いらしゃい! 万病、怪我、体調不良によく効く丹薬よ! さーいらしゃいあるよ!」

どこかで聞いたような声に視線を向けると、そこにいたのはタオだ。

異国の拳法家で俺とも何度か共闘した冒険者の少女……なのだが、何故こんなところに?

「ん、ロイドじゃない。奇遇ね」

「やぁ、そちらこそ」

俺も返事をしつつタオの元へと歩み寄る。

「何故ここにいるんだ?」

「アタシの祖国でも錬金術的なものやってるね。錬丹術と言って、身体の働きを強める丹薬を作る技術よ。じーちゃんが作った丹薬を売りに来たある。この小さいのがじーちゃんね」

「ふがふが、ばあさんや。飯はまだかのー」

「んもー、おじいちゃん。今食べたばっかりあるよ。あとアタシはおばあちゃん違うある」

「そーじゃったかのうー」

小柄な老人の後頭部をタオがぺちぺちと叩く。

「あはは、ちょっとボケてるけど丹薬自体はよく効くよ。これホント」

「むぅ……ちょっと見てもいいですか?」

「構わんよー。はてお嬢ちゃんはワシの孫じゃったかのー?」

「孫はこっちある!」

タオと老人のやり取りに苦笑しつつ、レンが丹薬を一つ手に取る。

「……この薬、すごいよロイド。見た事ない配合で作られてる!」

「ふふーん、お目が高いね。錬丹術は『気』の作用を再現した薬ある。身体の内側からとっても良く効くあるよ」

嬉しそうに胸を張るタオ。

ふーん、色々と効能があるようだな。

レンの勉強に使えるかもしれないな。

「じゃあ貰えるだけ貰えるかな?」

俺の言葉にタオは目を丸くした。

「ここにあるだけ買ってくれるってコト?」

「迷惑でなければ」

「いいよいいよ、どうせ異国の怪しい薬なんて誰も買ってくれないしね。ほらじーちゃん、お礼を言うあるよ!」

「おうおう、入れ歯を取ってくれてありがとのう……」

いや、入れ歯は全く関係ないのだが。

プルプル震えながら俺の手を取る老人。

その瞬間、老人の細く閉じていた目がくわっと見開いた。

先刻までの様子が嘘のような機敏さで立ち上がる。

「じーちゃん!? いきなりどうしたある!?」

戸惑うタオを意にも介さず、老人は俺の手を固く握りしめている。

「ぬうううっ!? 何という『気』の奔流……体内を巡る『気』の唸りはまるで大河を彷彿とさせるようじゃ! これほどの才の持ち主にはいまだかつて出会ったことがないわい! 素晴らしい! まさに才能の塊じゃ!」

「え、えーと……?」

いきなりどうしたのだろう。

さっきまでとはまるで別人だ。

もしかして俺を他のだれかと勘違いしているのかな。

「し、信じられないある。半年前からボケてたじーちゃんがこんなにシャキッとするなんて……ロイドの『気』に当てられた? すごい子だとは思ってたけれどもしやアタシが思う以上だったあるか?」

タオもまたブツブツ言いながら、何か確かめるように俺の手を触っている。

「ロイド様の底知れぬ潜在能力に触れただけで気付くとは、この老人、相当な使い手のようですね」

「やっぱりロイドはすごいや」

シルファとレンもまた感心している。

「ううむ、見れば見る程素晴らしい……! のう少年、我が百華拳を継がぬか!? 今ならタオを嫁にやってもよいぞ!」

「じじいーっ!」

すぱーん! とタオの平手打ちが老人の後頭部を捉える。

タオは顔を紅潮させていた。

「何アホなこと言ってるあるかっ! ボケじじいっ!」

「なにぃ!? ボケとらんわ! さっきは寝とっただけじゃい!」

「だったら一生寝てるあるっ!」

怒号と共にタオが拳を繰り出し、それを老人は躱して反撃。

今度は老人の放った回し蹴りを軽く跳んで回避し、跳び蹴りを放つタオ。

達人二人の攻防を俺たちは呆然としながら眺めていた。

「大体お前のようなお転婆を貰ってくれる相手などそうそうおらぬぞ! 今のうちから目星をつけて何が悪いか!」

「余計なお世話ある! 自分の結婚相手くらい自分で見つけるね!」

二人とも、悪口をたたき合いながらもどこか楽しそうだ。

やり取りはどんどん激しくなっていき、観客が集まり始めた。

さっきまで誰もいなかったのにな。

今度から薬売りをする時は客寄せとして組手でもすればいいんじゃないだろうか。