軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第55話 ミレーユ

「人材の発掘、か」

州都アルカンテス。

薄暗い路地裏でファムはベンから報告を受けていた。

「どうしましょうか?」

「オレは自分の部下として働ける才能があるかないかは、ある程度見極めることが出来るが、戦で使える人材かどうかは分からない」

「ではやめておきますか?」

「いや、無能を紹介しても罰則はないんだろ? それで有能を紹介したら報酬を貰える。中々悪くない話ではあるな。駄目元で何人か紹介してみてもいいだろう」

「分かりました。では人材の発掘も引き受けるという事で」

「ああ、ほかの団員にも連絡しておけ」

「了解しました」

ベンは団員たちに連絡に行った。

ファムはベンから話を聞いた後、自分の仕事場へと戻っていく。

彼はこの都市でも、酒場で働き情報収集をしていた。

ケントランという名の酒場である。

格好もトレンプスで働いている時とほぼ同じで、素朴で可愛い少女の格好である。

酒に酔った人間の口というのは軽い。さらに少女の見た目だと、相手がこれを言っても理解できないだろうと油断して口の軽さが倍増する。

ファムが働いている酒場には、アルカンテス城で働いている重臣が来たりはしない。来るのは城の門番であったり、城で働いている給仕たちだ。

門番や給仕たちは、アルカンテス城で働く重臣の話をすることがある。

どんな人かとか、何をしている人だとか、よくどこに行っているだとか、何が好みで何が嫌いだとか。

それらの情報をなるべく多く集めて、最終的に重臣に取り入り城へと潜入するのが狙いである。

とはいえこの方法では、そう簡単に潜入できない。

現在、城で働いている給仕たちというのは、平民から募集した者たちではない。城で給仕として働く一族が複数あり、代々城でその職を継いでいく。

よほど気に入られればあり得ないというわけではないが、そう簡単ではない。

ただシャドーは全員が同じ方法で情報を集めているわけではない。

それぞれ自分にあった方法で情報を集めている。

今回は自分以外の団員が、有用な情報を集めてくるだろうとファムは思っていた。

「ただいま戻りましたー」

ファムは酒場ケントランに戻りそう言った。声色、表情は先ほどベンと喋っていたときは全くの別人だった。

「リンちゃん。さっきの男は何なんだ?」

ケントランの店主、ラーツが質問をした。リンというのは、ファムがアルカンテスで名乗ると決めた名前である。

ベンの事は兄であると説明した。シスコンで顔を見たくて仕方がなくなってきたと、適当に理由を説明した。

ラーツは疑いはせず納得した。

現在の時刻は昼。客は来ていない。ケントランはトレンプスとは違い、昼に客が来ることが少ない。この時間帯はファムは酒場の掃除をしていた。

すると、

「やってるかい?」

少しハスキーな女の声と共に店の扉が開いた。

珍しく昼に客が来たようだ。

「いらっしゃ…………な、お前!」

その客を見てラーツは驚愕する。

背が非常に高い女である。男であっても大きいと言われるくらいの身長だ。

顔は整っている。間違いなく美人ではあるが、それよりも眼光の力強さが印象に残る。

服装はボロボロのいかにも金のない旅人という感じであるが、金色のネックレスを身に着けており、かなり異様である。

見た目から只者ではなさそうだという雰囲気を放っていた。

「ミレーユ。お前帰ってきたのか……」

「二年ぶりだっけか。相変わらずしけた顔してんなお前は」

「悪口を言いに来たんなら今すぐ帰れ」

「冗談だ。いい男ではねーが、興味深い顔をしてる。昨日見た魚に似てんな」

「マジで追い出すぞてめー」

「これも冗談。いつもの作ってくれ」

「なんだいつものって」

「忘れちまったのか? メサーラとパンとそれから酒だろ」

メサーラとはトマトなどの野菜と鶏肉をじっくり煮込んで作るスープである。

「昔過ぎて忘れちまってたよ。そういやてめーはメサーラばっかり食ってたな」

「ここのは昔お袋に食わされたメサーラっぽくてな。特別うまかねーんだが、何となく食べたくなるんだ」

「どうしててめーはそこで美味いから食べてるって言えねーのかね」

ラーツが料理を作り始める。

ファムはミレーユと呼ばれた女が気になっていた。

明らかに只者ではないと一目見て思ったからだ。せめてどんな人間かと聞いておきたかった。

「あの彼女は?」

「ああ? ミレーユっていう、昔ここに入り浸っていた 質(たち) の悪い飲んだくれだよ」

それだけ聞くとただのダメ人間である。

只者ではないと思ったのは、勘違いであったのかとファムは考えを改めようとする。

「そのかわいこちゃんは誰?」

ミレーユがファムに関して質問をした。

「ああ? リンちゃんっていう新しく働き始めた子だよ。可愛いだろ?」

「ふーん……」

ミレーユはファムを見つめる。

その目に見られて何だか自分の正体が見透かされる感じがして、若干寒気を感じた。

「まあいいか」

ミレーユは意図不明の呟きをした。

ファムは、この女はやはり只者ではない、注意するべきであると、本能的に思った。