軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第35話 緊急事態

数週間、私は模擬戦を行ったり、兵士たちの中から、密偵に向いていそうなものを選抜していた。

模擬戦は、正直上手くいかなかった。

戦の勉強はある程度したのだが、実際に兵を率いるのにはそこまで役に立たないことも多い。

私の場合、兵を率いるのには乗り越えなければいけない壁がある。それは怯まないようになることである。

模擬戦とはいえ、戦う気満々で突撃してくる兵士たちを見ると、どうしても怯んでしまう。

そうなると冷静に兵に指示を送ることなど、とてもじゃないができない。

模擬戦で怯んでいては、実戦時などとてもじゃないができない。正直先が思いやられる。

それと情報収集をする者の選抜だが、これには私の鑑定がそこまで役に立たないので、難航した。

適性に『情報収集』という項目は存在しないし、どのステータスが高ければ向いているのかも分からない。

武勇と知略が高いものが得意なような気がするので、なるべくその二つが高いものから選んだ。

選んですぐに行かせることは不可能なので、今はリーツに訓練をさせている。彼は傭兵時代、密偵のようなこともしていたので、ある程度その手の知識があるようだ。

そして四月五日。

「よし、もうそろそろ私も活動再開していいだろう」

「まだ安静にしていてください!」

「むうぅ」

父の容体がだいぶ回復してきた。

それでも安静にしておかないと、再発してしまう恐れがあるので、安静にするように言っているのだが、元々じっとしているタイプではないため、今にも活動したくて仕方ないようだ。

今のところは何とか止める事が出来ているが、いずれ我慢の限界が来ないか心配である。

父を大人しく部屋に寝かしたあと、私は自分の部屋に戻る。

昨日模擬戦を行い、体がだいぶ疲れている。今日は休むと決めていたので、ゆっくりと自室のベッドで休憩をしておこう。

その部屋に戻る途中。

「アルス様!」

リーツが慌てた様子で声をかけてきた。

「何だ。今日は休むと決めた日なのだが」

「分かっておりますが、至急お耳に入れなければならない情報がございます」

「何だ」

「サイツ州がカナレ領に軍勢を向かわせているらしいのです」

「な、何?」

私は動揺する。

サイツ州は、ミーシアン州の西隣にある州である。カナレ領はそのサイツ州との州境にある。

兄と弟の争いに目を向けすぎていて、それ以外の敵を忘れてしまっていた。

総督が死んで州内に統一感がなくなっている今、ほかの州からすれば侵攻するには絶好のチャンスではないか。

「敵はクメール領を目指して侵攻してきているらしいです。到着するのは四日後かと。至急出陣するようにと、カナレ郡長から書状が届きました」

クメールは丁度州境の辺りにある領地で、私の住むランベルク領はカナレ郡内ではサイツ州と一番遠い場所に位置する。

それでもほかの領地が侵略されていけば、いずれランベルクも侵略される。仮に命令されていなかったとしても、出陣はしなければならない。

父は容体がだいぶ回復してきたとはいえ、戦に出すのはまずいだろう。

つまり思いがけず、初陣に出る日がやってきたというわけか。まだ模擬戦でも怯えているような状況で、初陣を行う羽目になってしまった。

そう考えると、緊張感が高まり、私の心臓の鼓動速度が急激に高まり始めた。

何とかその緊張をリーツに悟られまいと、表情を変えないように努めた。

「分かった。出陣しよう。兵は私が率いる」

「……はい」

リーツは返事に少し間を開けた。

今の私では力不足だと思っているが、この状況では反対も出来ない。そんな複雑な心境でいるのだろう。

その後、兵に出陣の準備をさせるため練兵場に向かう。

途中リーツから敵の戦力を聞いたが、書状に具体的な数は書いていなかったそうだ。大軍が来ていた場合はひとたまりも無いだろうが、サイツ州もサイツ州で完全に州内がまとまっているわけではないので、そこまで大軍は来ないと予想している。

仮に大軍が来た場合は勝てないだろうから、援軍を要請することになるだろう。来るかは分からないが。

練兵場に到着。

これから戦だと告げて、準備を始めさせた。

練兵場にいなかった兵たちも、呼んでこさせて兵たちを全員集合させる。

シャーロットは休みの日でさっきまで寝ていたのか、半分寝ている状態になっていた。

完全に集まったら、私は兵たちの前に立った。出陣前に士気を上げるため、何か言ったほうがいいだろう。

兵たちの前に立つと、これから初陣に行くということが現実として感じてきて、緊張感が増してきた。

一度深呼吸をして、緊張を抑える。

そして私は、大声で兵たちに話を始めた。

「これからカナレ郡を守るための戦に行く! 私は……」

「待て!!」

そこまで言った時、私の言葉は空気を震わすような大声に遮られた。

父の声だ。

私は驚いて声の聞こえた方に視線を向ける。

父が凄まじい威圧感を放ちながら、こちらに近づいてきて、

「アルス、お前にはまだ早い」

そう言った。