作品タイトル不明
第337話 体調不良?
とある日。
「やあ坊や」
カナレ城を歩いていると、ミレーユとでくわした。
「何でここにいるんだ?」
「アタシがいちゃいけないのかい?」
「いけないな。お前はクアット郡の領地運営を任せているはずだぞ」
「クアットは最近安定してきたから、大丈夫なのさ」
飄々とした態度でミレーユは言った。つまりはクアットにいる人たちに、領地運営を押し付けてきたということだろ。
「……大体なんのために来たんだ」
「カナレでうまい酒場が最近できたって聞いて、来たのさ」
「今すぐクアット郡に戻れ」
何か大事なようでもあるのかと思ったら、大したようじゃなかった。
「それにしても坊やまた背高くなった?」
「む……? まあ、多少は伸びたかも知れないが、前に会ってからそんなに経ってないだろ」
サイツでの戦が終わった後、ミレーユはクアットに、私はカナレに帰ったので、それ以降は会っていないが、それでも数週間である。
「そんな短い期間で、ちょっと伸びてるってことは、成長期なんだねぇ。坊やって今何歳だっけ?」
「十六歳だ」
実は数ヶ月前に十六歳になっていた。戦の最中だったので、祝ったりは出来なかったが。
「そりゃ伸びるよ〜。まあ、でもまだまだアタシよりは小さいけどね」
ミレーユはかなり身長が高い。
伸びたと言っても、まだまだ見上げないと会話できないくらい、身長差がある。
「いっぱい食べてもっと大きくなるんだよ」
ミレーユは揶揄うような口調でそう言いながら、私の頭を撫でてきた。
完全に子供扱いしている。昔からずっと坊やと呼んできているし、そろそろやめてもらいたいところだが。
十六歳はこの世界では一応成人ではある。
「それじゃ、酒を飲みに行くかね」
「おい待て」
ミレーユを追いかけようとする。
「アルス様!」
城の使用人に声をかけられた。
切羽詰まっている様子だ。
「なんだ?」
「リシア様が……ご体調を崩されたようで……」
「何? リシアが?」
「は、はい……苦しそうにされていて。本人は医者は良いと言っていましたが……」
「ば、馬鹿を言うな。今すぐ医者を呼べ。私もすぐに行く」
体調が悪いのに医者がいらないなど、絶対だめだ。
この世界は高度な医療がない。体調が悪いのなら、早めに治療をしないと、手遅れになってしまう可能性もある。
「何か大変そうだね。アタシも行くよ。こう見えても、多少は知識はあるからね」
酒を飲もうとしていたミレーユも、少し心配そうな表情でそう言った。
常識のない女だと思っていたが、流石にこの状況だとふざけたりはしないようだ。
「とにかく君は医者を呼んできてくれ。私とミレーユはすぐにリシアの元に向かう」
「は、はい」
「今リシアはどこにいるんだ?」
「寝室にいます」
「分かった」
その後、使用人は医者を呼びに行くため、急いだ。
医者は城の中に住んでいるのだが、民間人の診療も行っているので、いないこともある。
もし、外出していたら診てもらえるまで、少し時間がかかってしまうだろう。
「じゃあ、私たちも行くか」
「そうだね」
私はミレーユと一緒に、寝室へと向かった。
寝室の扉を開けて中に入った。
リシアはベッドで、苦しそうに横になっていた。
「ア……アルス……ごめんなさい。ちょっと今、気分が悪くて」
「謝らないでくれ。医者は呼んである」
「そんな……医者を呼ぶほどじゃありませんわ……」
リシアはそういうが、明らかに強がっている。どう見ても体調はかなり悪そうだ。
「どんな症状何だい?」
ミレーユが近くに腰かけて尋ねた。
「とにかく吐き気が強いですわ……あと、全身が怠くて力が入りにくくなってます……でも、熱とか咳は出てないですし、そんなひどい病気では何と思います」
「ふーむ」
ミレーユは何かを考えるように、あごに出を当てる。
「最近生理きてる?」
「!?」
ミレーユがとんでもない質問をした。
こ、こんな時に何を聞いているんだ。「……そ、そういえば……しばらく来ていないような」
そう呟いた後、リシアはハッとしたような表情を浮かべる。
「ま……まさか」
「多分、病気じゃなくておめでただね」
ミレーユの言葉の意味が最初は分からず、少しだけ考える。
今までの会話の流れ。
吐き気、生理、おめでた……
それから察するに……
ま、まさか……
に、妊娠したのか!?
「やあ、結婚してそれなりに立つから、そろそろだと思ったけど。坊やとリシアも遂に、親になるのか」
ミレーユは呑気にそう言うが、私は動揺で何も言えなかった。
こ、子供? ほ、本当に?
わ、私とリシアの? た、確かにやることはやったし、出来てもおかしくない。というか、出来ないと不自然。
男だろうか、女だろうか? 名前は何にしようか? いや、じゃなくて……
「ほ、本当に妊娠したのか? 勘違いじゃなく?」
一旦冷静に考えて私はそう言った。
この世界には検査薬みたいなものはない。あくまでミレーユの予想にすぎない。リシアのお腹もまだ膨れていないし、勘違いの可能性もある。
正直、子供が出来ていたら喜ばしいのだが、ぬか喜びはできない。
ただの病気という可能性もある。
「うーん、アタシは専門家じゃないから、確実にそうだとは断言できないけど、可能性は高いと思うよ。経験あるし」
「え!?」
経験ある? 妊娠したことあるのか?
い、いや、でも、そうか。ミレーユは三十を超えた女である。誰かと結婚し、子供を産んだ経験くらいあってもおかしくはない。
「ん? ああ、アタシは妊娠した経験なんてないよ。昔の友達が妊娠して、産んだ経験があるから、それで見てたってだけさ。リシアと似たような状態だったからね」
「そ、そうなのか」
ややこしい言い方を。
「アタシは未婚のピチピチだね。あーあ、誰か貰ってくれないかなぁ」
この女は、大酒飲みでさらに好みが少年と来たものだ。中々結婚はできないだろう。
「とにかく医者の正式な検査を受ける必要がありそうだな」
「そうだね」
「リシア、もうすぐ医者が来るからな」
「は、はい……」
リシアは緊張した様子で返答した。
気分も悪そうだが、それ以上に自分が妊娠したかもしれないという、緊張が大きいようだった。
妊娠はもちろん初めての経験だろう。
緊張するのも無理はない。私も緊張している。というかそわそわしている。
しばらくして医者が来る。
早速リシアについて症状を診察した。
風邪などの病気ではなく、妊娠である可能性が高いと言われた。
ただその医者も、妊娠は専門外で、ベテランの産婆さんがいるので、その人に見てもらったほうがいいと言ったので、産婆も呼んできた。
その後、産婆が来て、いろいろと検査をすることに。
裸になったりするようなので、一旦、部屋を追い出された。
それからしばらくして、中に入っていいと言われる。
「妊娠しておりますよ。今後はお体にお気をつけて生活なさってください。何かあったらまた呼んでくださいね」
と産婆に言われた。
ぬか喜びには終わらなかったようである。
リシアが私の子供を妊娠した。
その日の夜。
私はベッドの横でリシアをずっと見ていた。
「何かしてほしいことはあるか?」
「大丈夫です……ちょっとだけ体調は落ち着きましたから」
「そ、そうなのか?」
「はい。まあ、波があるので、時間帯によっては、また苦しくなると思います」
妊娠しているから仕方ないとはいえ、ずっとしばらく体調が不安定になってしまうのか。今のところ元気そのものなので、私は申し訳ない気持ちになる。
「そんな顔しないでください。アルスまで苦しんで動けなくなったら、大変じゃないですか。わたくしが動けない間、いろいろ頼みましたわ」
「あ、ああそうだな」
リシアも不安だろうに、逆に発破をかけられてしまった。
もっとしっかりしないとな。
リシアは来賓の対応、市民の声に対する対応など、様々な仕事をしてくれていた。
しばらく働けなくなる、リシアの分まで私が頑張らなければいけない。
「……子供が出来て……嬉しい……はずですのに……何だか不安も大きいんです。ちゃんと産めるかと考えてしまいます」
リシアが震えながらそう言った。
珍しい姿だった。それもそうだろう。初めての妊娠で不安にならないものなどいない。
この世界は、高度な医療技術もない。出産は文字通り命懸けになってくる。
「リシア……そばに居るからな」
私はそう言いながらリシアの頭を撫でた。
「はい……」
リシアはされるがまま、撫でられ続けた。その後、ぐっすりと寝た。
リシアの負担と不安を減らすため、出来ることは何でもやろう。
私はそう心に誓った。