軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第28話 解決

「良い方法とは何でしょうか?」

この手の面倒な話の解決方法を、十歳のリシアが思いつくことができるのだろうか?

こういう喧嘩を仲裁したりするのも、政治が関わっているだろう。普通の大人の政治を遥かに上回っている彼女なら、思いついてもおかしくはない。

「今回の件に関しては、トラブルが起きないようにする対策を怠った、両者が同じぐらい悪いということになりますわ。なので、アルス様がどちらとも悪いと言って、止めるのが筋だと思うのですが、それでは争いを完全に止めることが出来たとは、言い切れません。しこりを残す結果になるので、再び争いが起こる可能性もありますし、もしかしたら、ローベント家自体に不信感を持たれる可能性もありますわ」

この考えは私と同じである。

「今回は両者ともが損をせずに済む、都合のいい方法は多分ありませんわ。だからここまで、揉めていらっしゃるのだと思います。なので、アルス様がまず、両者がどちらとも悪いと言った上で、両者の損をなるべく軽減させる方法を提示すると、しこりも少なくなると思います」

損を少なくする方法を提示するか。

なるほど、一理あるな。両者とも、恐らく自分たちに非があるのは知ってはいるだろうが、それでも熱くなる原因は、損害が大きいからなのだろう。

仕入れ業者は貰える金が前金だけだと、大きな損害が出るだろうし、家具職人達は、前金を取られるだけでなく、商売の大きなチャンスを逃した事で損害を被っている。

暖房器具にはほかにも材料があるだろうし、設計図などもタダで手に入れたものではないはずだ。そう考えると、このまま作れなければ大損である。せめて前金だけは取り戻そうとするのは、分からない話ではない。

「わたくしの考えた方法は、仕入れ業者に音の魔法石を、炎の魔法石と物々交換させます」

「物々交換か……そういえば、音の魔法石は別にゴミではないんだし、前金を返して、音の魔法石は別に売ればそれほど損害は出ない気がしますが、なぜやらないのでしょうか?」

「うーん、そうですね……わたくしには分かりませんが、何か事情があるかもしれませんね」

事情か……。

私はしばらく考えてみる。

あ、そうか。

仕入れ業者は恐らく、相場よりかなり高い値段で、音の魔法石を仕入れたんだ。

家具職人たちは炎の魔法石を買ってもらうつもりで、買取価格を提示しただろう。

そして、炎の魔法石は音の魔法石よりも高値なはずだ。音の魔法石の用途は分からないが、少なくとも暖房器具の材料として使える炎の魔法石より、この寒い時期に値段が高騰しているとは思えない。

家具職人たちが炎の魔法石を買ってもらうつもりで提示した値段は、仕入れ業者は音の魔法石の買取価格だと勘違いする。

つまり家具職人達は相場を遥かに超えた値段で、音の魔法石を買い取ろうとしていると、仕入れ業者は思ったわけだ。

炎の魔法石と音の魔法石の相場の違い、音の魔法石の流通量にもよるが、相場より高めの値段で、音の魔法石をかき集めていたとしても不思議ではない。

そうすると、音の魔法石を相場通りの値段で販売したら、大きく損をしてしまうのだろう。

「物々交換をして集めることのできる炎の魔法石の数は、当初家具職人達に依頼されていた数を下回ると思われます。当然それをそのままの価格で売ると、仕入れ業者の損が大きくなります。なので、1kg当たりの買取価格を少し値上げして、家具職人達に買い取らせれば、仕入れ業者の損は少なくなります」

「なるほど……」

それだと家具職人達の損が大きくなる気がするが、まあ、暖房器具の値段を上げれば、損も低くはなるか。

暖房器具が出来たら、少し高めの値段で購入すると私が約束してみるのもいいだろう。一応屋敷に暖炉はあるが、新しい暖房器具を試してみるのも良いからな。

「えーと、出来るのはこれくらいですかね。仲裁出来るかどうかは、彼ら次第ですわ」

仲裁の方法は決定した。

私は喧嘩している両者を止めて、決めた通りに両者が悪いといい、損を減らすための提案をした。

提案は最初は素直には飲まれなかったが、何とか説得した。

最終的には、完全に納得いったというわけではないものの、少なくとも両者の拳を下させるのには成功した。もう同じような諍いを起こすことはないだろう。

話し合いに時間がかかり、日が暮れ始めて来た。屋敷に帰る時間になっていたので、私たちは帰路についていた。

デートは実質出来ておらず、はっきり言って失敗した。リシアに気にしているようすが見えないのは、救いではあるが。

私はリシアが見事に問題を解決する案を出したのを見て、やはり彼女がただの十歳ではないと思い知った。それと同時にリシアの人に好かれる言動は、全て計算でやっている可能性が高いとも思った。

これだけ知恵があり、他人の感情を読めるので、そのくらい出来てもおかしくないかもしれない。

私と同じく転生者か何かじゃないかと、疑ってしまうくらいだ。

「あの、難しいお顔をして、どうかなさいましたか?」

「あ、いや、デートするはずがあんなことになってしまいまして、大変申し訳ないと思っていたのです」

「いえいえ、アルス様の凛々しいところを見られて、わたくしとても感激いたしました」

「凛々しいところとは? 彼らを鎮めるための案はリシア様が出されたものですし、私は特に何も……」

「案は確かにわたくしが出しましたが、実際に彼らを納得させたのはアルス様です。領民に信頼されていなければ、中々納得させることなど出来ませんよ。アルス様が日頃から、領民の皆様に慕われているのが分かりました」

相変わらず人を褒めるのが上手な子である。

しかし、今回の件でリシアに借りを作ってしまったな。

今は借りを返せと言ってくる気配はないが、野心の高いリシアに借りを作りすぎては、そのうち好き放題操られるという事態になるかもしれない。

ここで借りを返すのは無理だとしても、どこかでリシアの本心を少しでも知っておきたい。そうじゃないと彼女と結婚なんてとてもじゃないが出来ない。

そう思いながら、私はリシアと並んで屋敷に帰る。

途中の会話の流れで、リシアの本心を聞き出すチャンスが巡って来た。

「アルス様はどんな子がお好きなのですか? わたくし参考にいたしたいのですが」

こんな質問をされた。

「そうですね。あまり隠し事のなさらない方が好きです。遠慮せず本音を言い合えるような方と一緒にいれば、毎日気を遣わずに済んで楽しいと思うのです」

これで話してくるとは思わないが、とりあえず相手が動揺するのかどうか見てみたいと思って、そう返答してみた。別に嘘というわけでもなく、そういう関係の妻がいたら楽しいだろうな、と前世から思っていたのは事実だ。

リシアは、

「なるほど、参考にします」

と答えて来た。

若干返答までに間があった気がする。

ただ動揺しているかどうかは分からない。

リシアの本心を知るのはそう簡単にはいかなそうだな。

私たちは屋敷へと帰った。