軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第267話 ボロッツ来訪

サイツ軍の総指揮官である、ボロッツ・ヘイガントが来訪した。

正直、予想外だった。

一度、書状を送ってから来ると思っていたが、こちらが面談しても良いという姿勢を見せたことで、早めに会おうと思って来たのだろうか。

サイツに対して進軍を止めろと条件を出している。その条件を受け入れたかは不明である。

受け入れたことが確認できなくてもカナレまで来た以上、追い払うことは出来ない。面談するしかないだろう。

もしかすると、こちらの行動を見透かしての来訪だったのかもしれない。

ただ、私としては早く来てくれた方がありがたかった。

時間が経てば体調がもっともっと悪化していくかもしれない。

今の私は正直立ち上がるのがやっと、というくらい体調は悪化している。

意識はしっかりしていた。

面談がうまくいくかどうかは、自分の精神力にかかっている。実際に面談するまで、正直どうなるかは分からないが、もうちょっと時間がかかっていれば、他人と話しているような状態ではなくなっていたかもしれない。

そうなると面談どころではないので、早く来てくれたのはありがたい限りである。

「アルス様、ボロッツ・ヘイガント殿が参られました」

家臣からそう報告を受けた。

「ご足労いただき、誠にありがとうございます。カナレ郡長のアルス・ローベントです」

応接室。

私はボロッツを迎えていた。

彼の両隣には護衛をしている家臣が二人。

三人で来たのだろうか。

早く移動するなら、大勢での移動は難しいとは言え、それでも三人はちょっと不用心ではある。

まあ、カナレ側にボロッツを暗殺しようという意図は一切ないが。

ちなみに、私ももちろん護衛はつけている。ここで暗殺をするなど、無謀なことはしないとは思うが、それでも用心するに越したことはない。サイツは決して味方とは言えない相手である。

リーツ、ザット、ブラッハム、ベンなど、腕に覚えのある者を護衛に選んだ。

リーツがボロッツを見るや否や、物凄く怖い表情をしていた。

流石に怖い表情をしたのは一瞬だけで、すぐに笑顔に変わったが、逆に怖い。

私もボロッツに対して怒りは感じるが、ここは我慢だ。

「初めまして、ボロッツ・ヘイガントと申します。よろしくお願いします」

ボロッツは深々と頭を下げて、挨拶をしてきた。

優しそうな顔の印象の男だった。

見た目だけでいうと、暗殺者を雇ったり、戦を起こしたりしそうには見えない。

リーツの話では、ボロッツの部下が暗殺者を探していたので、彼が指示を出していたという可能性が高い。独断で私を殺すため暗殺者を雇ったという可能性は、流石に低いだろうし。

あくまで証言を聞いただけなので、確固たる証拠は用意できない。暗殺を糾弾したりは出来ない。と言っても、元からするつもりもないが。

私はボロッツを鑑定してみた。

ボロッツ・ヘイガント ♂ 36歳

統率 85/91

武勇 71/77

知略 75/80

政治 92/95

野心 20

歩兵 A

騎兵 A

弓兵 C

魔法兵 C

築城 C

兵器 C

水軍 C

空軍 C

計略 B

総指揮官を務めているだけあって、有能な人物のようだ。

とステータスを見て思ったが、彼の放った暗殺者が、鑑定結果を偽装していたことを思い出した。

鑑定結果の偽装の方法をボロッツも知っているのかもしれない。

名前に関しては、誤魔化す必要はないので、そのままなのだろうが、ステータスに関しては鵜呑みにしない方が良さそうである。

「お元気そうで何よりです。体調を崩されたとお聞きしたので、心配しておりました」

「お気遣い感謝いたします。ご覧の通り、今は健康そのものです」

精一杯演技をして、私はそう言った。

正直、健康からは程遠い状態であるが、何とか元気な風を装うくらいは出来る。

このままボロが出ずに済ませられればいいのだが。

前世ではサラリーマンとして、体調が悪くても出勤する羽目になっていた。

空元気を出すのは、得意な方である。

「此度は出兵の件でカナレ側を不安にさせてしまい、誠に申し訳ないと思っております。カナレを攻める意図はなく、野盗退治のために出兵したのだと、固く誓います」

ボロッツは頭を深々と下げてそう謝罪をしてきた。

嘘偽りになく、本音で言っているようにしか見えない。大した演技力だなと思う。まあ、今回は言っている内容が内容だけに、信じることは流石に出来ないが。

「頭をお上げください。今後は野盗退治をする際は、前もって通告してください。それと……兵について進軍を停止していますでしょうか?」

「はい、そちらに関しては指示はいたしました。一刻も早く野盗を退治したいところではございますが、このような状況になっては致し方ありませんしね」

兵の進軍について、停止したとボロッツは断言した。嘘をついているようにはやはり見えないが……でも、信用することはやっぱり出来ない。

「ご対応ありがとうございます」

とりあえず聞きたいことは聞けたな。

正直、体がきついし、早く終わりにしたいのだが。

体調が良くないのに、良いように振る舞うのは、想像以上に、体力精神ともに消耗してしまう。

「今後もお互い平和に過ごしていきましょう」

「もちろんです」

ボロッツが笑顔でそう言ってきたので、私も笑顔で返答した。

暗殺しようとした癖に、どの口でそんなこと言ってるんだと思ったが、当然口には出さない。

「しかし、カナレ郡長が10代前半であるという情報は、半分冗談だと思っていたのですが、本当のことでしたね。何やら人材を見抜く力に長けているとか」

世間話を振ってきた。早く終わりにしたいが、焦って終わりにしたら、怪しまれかねない。

一応、対応しなければ。

「いえいえ、私自身は能力のない人間ですから。いつも家臣たちに助けられてばかりで」

「ご謙遜を。有能な人材を見抜けるなど、領地経営をしている者なら、誰だって欲しい力ですよ。しかし、ローベント殿のそのお力、まるで古に伝わる、鑑定眼の持ち主のようですな」

「鑑定眼……?」

私の鑑定スキルのことを言っているのだろうか?

古に伝わると言ったが……まさか、過去にも鑑定スキルを持っていた者がいたのか?

正直、自分の力に関しては、まだ知らないことが多い。

色々、書物を読んでもみたが、手がかりになるような情報を得ることは出来なかった。

「はい、かつてサマフォース大陸には、三つの眼を持つ者がいたそうです。戦術眼、予知眼……そして鑑定眼の三つです。まだサマフォース帝国が出来る前の話ですが、戦で大きく活躍したと聞きます」

ボロッツはそう語った。

嘘か本当か判断しかねるが、サイツ州の軍を任されているほどの人物なので、知識量は多いだろう。私の知らない事も多く知っている可能性は高い。

「初めて聞く話ですね。でも、私はそんな大それた力は持っていませんよ。他人より人を見る眼はあると思いますが、これだけ優秀な人材に恵まれたのは、運の良さもあるとも思います」

素直に自分にそんな力があるとは言わなかった。

ボロッツは私の暗殺を企んだくらいなので、はっきり言って敵である。情報はなるべく流すべきではないだろう。

まあ、ボロッツは私に鑑定の力があると分かった上で言ってるんだろうけど。

「これはまたご謙遜を。ローベント殿のお力が、古より伝わる鑑定眼かどうかは分かりませんが、それに匹敵するくらいのお力であると思いますよ。私も欲しいくらいです。しかし、強い力には落とし穴もございます」

「落とし穴?」

「はい、噂に聞くところ、自身の鑑定結果を誤魔化す何らかの方法が存在するようでして……良からぬものが悪用せぬとは限りませんから」

ボロッツはそう言った。

どの口でそんなこと言うんだと、流石にムカついた。

お前のせいで今こんなに苦しい思いをしてるんだぞ。

「どの口がそんなことを……」

後ろから恨みがこもったつぶやきが聞こえて来たので、私はチラッと見てみる。

リーツがかなりの殺気を発していた。

笑顔のままだが、付き合いもいい加減長いし分かる。あれはブチ切れている。

今にも飛びかかって殺しに行きそうな感じだ。流石にそんなことはしないだろうが……

自分よりキレている人がいたので、ちょっとだけ冷静さを取り戻す。

やはりボロッツも鑑定結果を誤魔化す方法を知っている可能性が高そうだ。

しかもこの口ぶり、脅しているのか?

今後も人材発掘をする際には、ナターシャのような者を送り込んでくると、宣言しているように私は聞こえた。

鑑定結果が信用できないとなれば、正直使いづらい能力である。

暗殺者を潜り込ませたり、もしくは無能な者を有能に装わせて、家臣にさせたりと出来るからな。

時間で鑑定結果が切れていたので、何度も鑑定すれば、いつか本当のステータスが分かるとは思うが……それでも今まで通り気軽に人材発見は出来なくなる。

改めて面倒な事態になっと思う。

魔法兵とかもっと集めたかったのにな。

ボロッツから今後取引をして聞き出すか……それともナターシャを捕まえるかして、鑑定結果を偽装する方法を聞き出せれば対処法も分かるかもしれないが……

「ご忠告ありがとうございます。確かに自分の力を過信しすぎるのは良くありませんね。その良からぬ者に、痛い目に遭わされることも時にありますから」

皮肉をこめてそう言った。

「アルス・ローベント殿、あなたにもう一つお願いがあるのですが、お聞きいただけますか?」

お願い?

この男からの願いなど、聞く余地は正直ないのだが。

というか、早く会談を終わらせてほしい。流石に体がきつい。ダルいし、熱も出てきた感覚がある。ちょっと気持ち悪いし。

ただ、ここで急に切り上げるのもちょっと不自然だ。聞くだけ聞くか。

「お願いとは何でしょうか?」

「以前もお誘いしたと思いますが、ローベント殿さえ良ければ、ミーシアン州とは手を切り、サイツ総督閣下に仕えてみませんか? 以前までとは状況も色々と変わりましたし、そちらの方がローベント殿にも、色々とメリットがあると思います」

いきなりの勧誘だった。

暗殺など企てておいて、何を言うんだと思った。

向こうもダメもとで誘ってきてるんだろうけど。

「前にもお答えしましたが、私はクラン様に忠誠を誓っております。サイツ州にお仕えすることはできません」

「今、ミーシアンはサマフォース帝国から独立などと言う、サマフォース帝国に弓を引く行動をとっており、サイツ総督閣下もご立腹です。到底容認など出来ません。隣接している州への侵略を意図しての独立宣言だと判断されれば、事前にそれを阻止するという決断を下されるかもしれません。もし戦になれば、ミーシアンは外交上不利になります。独立宣言を容認する州など、どこにもないでしょうから。見限るなら早めが良いと思いますよ」

ボロッツはそう語った。先ほど平和を維持しようと言ったにも関わらず、今度は戦になる可能性があると言ってきている。

彼の言葉にも一理はある。

クランの独立宣言については不可解な事も多い。現状では、ミーシアンが包囲されて攻め落とされる可能性は低いとはいえ、状況が変わればそうも言えなくなる。

ミーシアンが攻め落とされれば、ローベント家の立場がどうなるかは分からない。処刑される可能性だってもちろんある。

クランには色々優遇して貰っているので、なるべく彼に仕えておきたいが、それでもローベント家の無事が保証されるなら、裏切りも選択肢の一つには入ってくる。

サイツに乗り換える理由はいくつかあるが、やはり信用できない相手に仕えることは出来ないし、ここは当然断るべきだろう。

「すみませんが、何度来られても私の心は変わりません。今後もクラン様に仕え続けていくつもりです」

「そうですか。流石にすぐには判断しかねますよね。サイツはいつでも歓迎するということだけは言っておきます。こちらとしても、前回は戦でローベント殿には手痛い目に遭わされました。味方になってくれるならこれほど心強いことはありません」

ボロッツは苦笑いを浮かべながらそう言った。

「それでは今日はお時間をいただきありがとうございます。そろそろ失礼させていただきます。出兵の件に関しては改めて謝罪いたします。申し訳ありませんでした」

「いえいえ、こちらこそわざわざご足労いただきありがとうございました」

こうしてボロッツとの面談は終了した。